従業員の介護離職を防止するために企業が取るべき対策とは?

従業員の介護離職を防止するために企業が取るべき対策とは?

高齢化により要介護者の人口が増える日本では、介護離職者も増加傾向にあります。国も、要介護者を抱える労働者が、介護と仕事を両立できるよう支援制度を設けています。事業主も制度を理解し、介護との両立支援策を講じて、働きやすい環境を提供していく必要があるでしょう。介護離職の実態、介護支援に関する国の制度、事業主の介護離職防止のための取り組みをご紹介します。

介護離職の実態

介護離職の実態

現代の日本における労働者の介護離職の実態を調べてみました。介護離職が増加する背景も探ってみたいと思います。

年間の介護離職者数

総務省の平成24年「就業構造基本調査」の結果では、平成23年10月から平成24年9月の1年間に介護や看護を理由に離職した人は10万人を突破したことが公表されました。平成29年版高齢社会白書では、以下のような統計が出されています。

平成19年88,500人
平成20年81,900人
平成21年98,600人
平成22年84,200人
平成23年101,100人

特徴として、近年では毎年、約8~10万人前後の介護離職者がいることがわかります。男女別に見ると、女性の介護離職の割合が8割前後です。年齢では、50代や60代の介護離職者が多くなっています。

介護離職者が増加する背景

日本は今、高齢化社会を上回り超高齢化社会に突入しているとも言われ、その対応が大きな課題となっています。

働ける人の年齢も高くなる傾向にあり、それに伴って従業員の配偶者や親など家族の年齢も高くなっているのです。団塊の世代が70歳を超え始めていることで、要介護の家族を抱える「予備軍」の割合が今後も高まっていくことは確実と見られています。平均寿命が延びていることからも、実際に要介護者となる人が増えていくでしょう。

現状の高齢者の中でも、独居者や未婚者が増えています。介護施設やサービス業者が飽和状態で、受け入れるキャパシティが不足してきている点も理由のひとつとして考えられるのではないでしょうか。

少子化や核家族化の傾向はさらに強まり、ひと世代前と比較しても家族の人数が少なくなっています。家庭で誰かが要介護になったとき、家族1人あたりの介護負担は体力的にも精神的にも大きくなっているのです。これにより、仕事との両立が難しくなる人が増えるという見方もできるでしょう。

介護離職を防ぐための国の取り組み

介護離職を防ぐための国の取り組み

国は、介護離職ゼロを目指す取り組みの一環として、介護支援制度を設けています。家庭に要介護者がいても、仕事と介護を両立し働き続けられるよう支援することを目的としたものです。ここで国の政策の中でも、事業主対応が義務、もしくは努力義務と規定されている制度をご説明します。

制度利用対象者の拡大

要介護者の家族として認められる範囲は、事実婚を含む配偶者、養父母を含む父母、養子を含む子の他、同居、扶養していない祖父母、兄弟姉妹、孫にも拡大されています。また、正社員でなくとも、各制度に提示される一定の要件を満たしていれば制度を利用することが可能です。

介護休業制度

介護休業制度は、年間で93日間を限度とした介護のための休業を認めるとする制度です。この93日間は、最大3回まで分割しての取得できるようになっています。取得開始日より2週間前までの事前申請が必要です。原則事業主を経由した申請を行ない、一定の受給要件を満たしている労働者には国から「介護休業給付金」が支給されます。

なお、介護休業給付金の支給は制度を利用し、復職した後です。

介護休暇制度

介護休暇制度は、介護休業よりも単発的(1日や半日単位)に利用できる制度です。

要介護者1人につき、年間5日間の休暇をとることができ、通常の年次有給休暇とは別扱いでのカウントとなります。半日単位取得が可能なため、回数にすると、要介護者1人につき最大10回まで利用できることになります。たとえば、通院などの外出時の付き添いなどに利用でき、事後申請でも取得可能な休暇です。

勤務時間の短縮

勤務時間の短縮制度は、介護休業(93日間)とは別換算で利用できるようになっています。連続する3年間以上の期間で2回以上、介護のために労働時間を短縮して働くことを認める制度です。企業は下記のいずれかの制度で対応措置を講じる必要があります。

  • 所定労働時間を短縮する制度
  • フレックスタイム制
  • 始業・終業時刻の繰上げ、繰下げ
  • 労働者が利用する介護サービスの費用の助成その他これに準ずる制度

労働時間の制限に関する制度

国は、介護している労働者の労働時間を制限する制度も設けています。具体的には、所定労働時間、時間差出勤、深夜労働についての制度です。

所定労働時間を制限する制度

企業内の規定、もしくは労使間の協定で決定した時間以外の労働、いわゆる残業を免除する制度です。従業員は、1回につき、1ヵ月以上1年以内の期間について申請することができます。

時差出勤制度

1日の勤務時間の長さは変更せず、始業もしくは終業時刻を1時間以上ずらして働ける制度です。

深夜業務に関する制度

要介護の家族を抱える従業員は、希望すれば午後10時から午前5時までの業務を免除する制度です。従業員は、1回につき、1ヵ月以上6ヶ月以内の期間について申請することができます。

両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)

介護離職者を減らすことを目的とし、企業に対する助成金制度も設けられています。

両立支援等助成金には6種類のコースがあり、介護離職防止支援コースはその中のひとつです。従業員が介護休業、もしくは介護制度を利用している企業が受けられる助成金で、連続した3ヶ月間、または90日以上の利用が対象となります。

主な要件は次の通りです。

  • 仕事と介護両立についての実態把握のための社員アンケートの実施
  • 育児・介護休業法に基づいた各種制度の導入
  • 制度に関わる社員研修や周知での従業員支援を実施(介護事前措置)
  • 相談窓口の設置など介護に入った従業員のための支援策
  • 介護離職によるデメリット

    介護離職によるデメリット
    介護離職のデメリットについて、従業員側、企業側それぞれの視点で説明します。

    従業員側のデメリット

    仕事を辞めることで収入が少なくなる、もしくは無くなることで経済的な不安を抱える人が多いようです。さらに、介護が終わってからの再就職もブランクの長さや年齢などから難しいという現状があります。介護負担と社会接点が少なくなることが重なり、精神的に追い込まれやすいのも懸念点のひとつでしょう。

    企業側のデメリット

    企業側にとっては、せっかく活躍してくれていた人材が退社することはどんな理由であっても損失です。代わりの人材を探し、教育や研修も必要になり、新たなコストが発生します。雇用が安定しないことが一番のデメリットでしょう。

    介護離職者を出さないために企業が取り組むべき対策

    介護離職者を出さないために企業が取り組むべき対策

    介護離職者を出さないために企業はどんなことに取り組んでいけばいいのでしょうか。具体策として、企業が意識していきたい3つの取り組みをご紹介します。

    介護をオープンにできる職場環境

    職場に介護をしていることを隠さなくていい環境を整えることが大切です。相談できる体制や機会を提供すれば、従業員が独断で「辞めるしかない」という判断をすることを防げるでしょう。

    利用できる介護制度や措置の周知

    どんな制度があるのかを、全社員に詳しく周知しておくことが必要です。家族に要介護者がいる当事者になったときに、離職せずに両立していくという選択肢を後押しするでしょう。また、一緒に働く職場の人たちが制度を理解することは「制度を利用しやすい環境」につながります。

    介護制度利用のハードルを下げる

    一つひとつの制度を利用するための手続きの簡素化で、利用促進につなげることも一策です。法的に外せないもの以外は、社内で柔軟に設定されることをおすすめします。