パート・アルバイトでも福利厚生が利用できる。不合理な待遇差の禁止

パート・アルバイトでも福利厚生が利用できる。不合理な待遇差の禁止

近年、非正規雇用の処遇改善に向けて、パートやアルバイトにも待遇差なく福利厚生を提供する企業が増加しています。その背景には雇用形態にかかわらない公平な待遇の確保、すなわち同一労働同一賃金の実現があります。そこで今回は、パートやアルバイトに対する福利厚生について紹介します。

同一労働同一賃金の実現。2020年から本格的に見直される不合理な待遇差

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パート・アルバイトでも福利厚生を利用できる

パート・アルバイトでも福利厚生を利用できる

これまでは、福利厚生を利用できるのは無期雇用フルタイム労働者(いわゆる正社員。以下「正社員」)という風潮がありました。

しかし近年の働き方の多様化によって、パート・アルバイトの割合が増え、正社員と同様の働き方をするパート・アルバイトも出てきました。そのような背景も踏まえて、パート・アルバイトの定義や正社員との違い、福利厚生に関わる法整備などを詳しく解説していきます。

パート・アルバイトは同じ「パートタイム労働者」

そもそも法的に、パートとアルバイトは同じ「パートタイム労働者」に分類されます。パートタイム労働者については、パートタイム労働法で以下のように定義されています。

1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者

引用:パートタイム労働者とは|厚生労働省

パートタイム労働法の中では、パートとアルバイトは明確に区別されておらず、労働時間によって通常のフルタイム労働者と区別されているだけで、パートとアルバイトは同義となります。

パート・アルバイトと正社員との違い

では、パート・アルバイトと正社員にはどのような違いがあるのでしょうか。

パートタイム労働者の定義にあるように、労働時間の違いがあります。正社員は所定時間内でフルタイム働く人、パート・アルバイトは正社員の所定労働時間より短く、比較的時間に融通をきかせて働く人と切り分けられるのが一般的です。

この労働時間の違いが正社員とパート・アルバイトの給与制度を分け(月給制か時給制か)、待遇差を生んできました(ボーナスの有無や福利厚生の利用など)。

労働時間の違いといった合理的な理由があれば待遇差は許容されますが、中には正社員と同じ労働時間のパート・アルバイトも存在します。その場合は、「何をもって正社員とパート・アルバイトとの待遇差をつけるか」を客観的かつ具体的に説明できなければ、不合理な待遇差になります。

時代背景

最近は、人材確保のために企業が正社員に限らず、様々な雇用形態での採用を進めています。その結果、正社員以外の労働者であるパートタイムとアルバイトの数は労働者全体の約3割を占めるようになりました。

2020年12月(速報)時点で、役員を除く雇用者5,626万人のうちパート(1,017万)とアルバイト(466万)の合計は1,483万人(26.4%)でした。この労働力は貴重です。

パート・アルバイトを取り巻く法整備

パート・アルバイトを取り巻く法整備は、改正パートタイム労働法と短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(いわゆる「パートタイム・有期雇用労働法」)の2つがあります。

改正パートタイム労働法では、正社員とパートタイム労働者(パート・アルバイト他)の不合理な待遇差の是正や差別的取り扱いの禁止を盛り込み、福利厚生についても福利厚生施設の利用や教育の機会に言及されています。

2020年4月に施行されたパートタイム・有期雇用労働法では、同一企業内において短時間・有期雇用労働者と正社員との間で、基本給や各種手当、福利厚生などのあらゆる待遇について不合理な待遇差を設けることが禁止されました。

これにより、パート・アルバイトも正社員と同様に、福利厚生を利用できるように状況が変化しています。

同一労働同一賃金の実現。2020年から本格的に見直される不合理な待遇差

パート・アルバイトでも利用できる法定福利厚生

福利厚生は、法定福利厚生と法定外福利厚生の2つに分けられます。法定福利厚生は法律で義務付けられている福利厚生で、健康保険や厚生年金などの社会保険のことを指し、要件を満たせばパート・アルバイトも対象になります。

一方、法定外福利厚生は住宅手当や通勤手当など企業が独自に設けている福利厚生で、正社員やその家族のみを対象とすることが多いです。パート・アルバイトも対象になる企業もありますが、法定外福利厚生は正社員とパート・アルバイトの待遇差が生まれやすい部分です。

パート・アルバイトが福利厚生を利用できる要件

パート・アルバイトが福利厚生を利用できる要件

パート・アルバイトが各種福利厚生の利用対象となるための要件を確認します。

法定福利厚生の要件

パート・アルバイトが福利厚生を利用するためには、福利厚生の内容に応じて労働時間や雇用期間などの要件を満たす必要があります。

法律で定められている年次有給休暇は、6ヶ月以上雇用し、決められた期間の8割以上出勤していることが利用の条件です。

【総務人事担当者必読】年次有給休暇の付与日数とは?年次有給休暇の基本

介護や育児関連の休業・休暇制度も法律に定められている要件を満たせば、パート・アルバイトでも正社員と同等に利用する権利が発生します。

社会保険の加入についても、条件を満たした場合に加入できます。法定福利厚生である雇用保険、健康保険・厚生年金加入の要件は以下の通りです。

  • 雇用保険:1週間あたりの労働時間が20時間以上で、雇用される見込みが31日以上
  • 健康保険、厚生年金:1週の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が正規従業員の「4分の3以上」の場合

※労働日数と労働時間が「4分の3未満」の場合

    • 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
    • 賃金月額が88,000円以上であること
    • 勤務期間が1年以上見込まれること
    • 学生でないこと
    • 被保険者数が501人以上の企業であること(500人以下でも労使合意があれば可能)

以上、すべての要件に該当すること。

2017年4月から500人以下の企業で働く人も、労使で合意がなされれば、社会保険に加入することができるようになっています。

法定外福利厚生の要件

企業が独自に定めている法定外福利厚生は、利用対象範囲がさまざまです。法定外福利厚生の一例として、通勤手当は、企業で定めている通勤距離や交通手段などの要件を満たしている場合に適用されます。

他にも法定外の福利厚生制度や施設が整備されている場合は、企業によって利用対象の範囲が異なります。

合理的な理由があって正社員とパート・アルバイトとの間で利用や施設使用に差があるのであれば、待遇差の内容や理由を明確にしておき、そのことを説明しなければなりません。

同一労働同一賃金の観点からすれば、正社員と同様の働き方をするパート・アルバイトには、正社員と同等の法定外福利厚生の利用を認めなければなりません。

パート・アルバイトを含む非正規への福利厚生適用状況

パート・アルバイトを含む非正規への福利厚生適用状況

パート・アルバイトも含めた非正規雇用労働者への福利厚生適用の状況は、どうなっているのでしょうか。企業、自治体等の法人における福利厚生担当者83人へのアンケート結果(2020年11-12月)をもとに状況を確認します(旬刊 福利厚生No2310 ’20.12月下旬)。

福利厚生制度の見直し等を実施した法人は24.7%

福利厚生制度の見直し等を実施した法人は24.7%

出典:労務研究所 旬刊 福利厚生No2310 ‘20.12月下旬 福利厚生の課題と展望

旬刊 福利厚生が実施した先の調査によると、非正規雇用労働者への福利厚生適用について既存の福利厚生制度の見直し、または新たな制度の導入を実施している法人は24.7%でした。

現在検討している法人は14.8%で、前向きに動いている法人(実施中と検討中の合計)は39.5%です。一方で、実施する予定はないという法人が40.7%存在するのも事実です。

特に従業員規模別で意識・行動に違いがあります。従業員規模5,000人以上の法人は”実施をした”32.0%、”検討中”20.0%と半数が前向きに動いています。

一方、従業員規模999人以下の法人は”実施をした”11.8%、”検討中”11.8%、”実施する予定はない”58.8%と半数が見直さないという回答でした。

区分 実施した 現在検討している 実施する予定はない わからない
999人以下 11.8% 11.8% 58.8% 17.6%
1,000〜2,999人 25.0% 15.0% 45.0% 15.0%
3,000〜4,999人 27.8% 11.1% 38.9% 22.2%
5,000人以上 32.0% 20.0% 24.0% 24.0%
不明 0.0% 0.0% 100.0% 0.0%

出典:労務研究所 旬刊 福利厚生No2310 ‘20.12月下旬 福利厚生の課題と展望

非正規雇用労働者といっても、パート・アルバイトから契約社員のような有期雇用労働者、派遣労働者まで多様な雇用形態があります。一概に「見直したほうがよい」ともいえませんが、不合理な待遇差があれば見直すことが好ましいです。

非正規雇用労働者も対象としている福利厚生制度

非正規雇用労働者も対象としている福利厚生制度

出典:労務研究所 旬刊 福利厚生No2310 ‘20.12月下旬 福利厚生の課題と展望

非正規雇用労働者も対象となる福利厚生制度で最も多かったのは、予防接種28.9%でした。この背景には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策があると考えられます。

職場の感染症対策に正規も非正規もありません。職場での集団感染を防ぐためには、そこで働くすべての人を対象にした対策をとらなければ意味はありません。

次に多かったのは各種弔慰金で24.1%、食事支援・健康増進・余暇支援がそれぞれ22.9%で続いています。健康や余暇は労働者のワーク・ライフ・バランスを考える上で重要な要素です。

労働生産性向上を実現するためには、正規・非正規関係なく労働者のワーク・ライフ・バランスの実現が不可欠です。

健康や余暇、さらには育児・介護や自己啓発といったワーク・ライフ・バランスの実現を支援する福利厚生制度は、今後さらに非正規雇用労働者にも利用の対象が広がるでしょう。

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パート・アルバイトに対して福利厚生を適用するメリット

パート・アルバイトに対して福利厚生を適用するメリット

パート・アルバイトに対しても福利厚生を適用すると、従業員へのメリットはもちろん、企業にとってもプラスの効果を期待できます。雇用形態に関わらず福利厚生の利用対象を拡大する主なメリットは2つです。

労働生産性の向上

パート・アルバイトにも福利厚生を適用することによって、すべての従業員を手厚くサポートできます。パート・アルバイトにとっては、正当な処遇を受けている分、仕事に前向きに安心して取り組めます。

正当な処遇がされていると納得感が生じ、意欲をもって働くことができ、労働生産性の向上が期待できます。

人的労働力の確保

今やパート・アルバイトの数は全労働者の約3割を占めています。非正規とはいえ、事業の持続的な成長にとっては欠かせない労働力です。

パート・アルバイトに対しても福利厚生を適用している企業は「従業員を大切にしている」といった企業の思いが従業員に伝わりやすく、人材の流出が少なくなります。

また、そのような企業の姿勢は外にも伝わり、新たな優秀な人材の流入が増える可能性があります。人的労働力の総数が減少していく時代でも、魅力的な企業には人が集まってきます。

同一労働同一賃金の考え方でパート・アルバイトにも同一の福利厚生利用

同一労働同一賃金の考え方でパート・アルバイトにも同一の福利厚生利用

今までの日本企業の人事制度は、どちらかというと世帯主である”男性”の”正規雇用”を前提に組み立てられていました。福利厚生の前提も世帯主である”男性”の”正規雇用”労働者でした。

しかし今や労働者の属性は、女性・非正規・高齢者・外国籍・副業(兼業)など多様化しています。多様化に対応できない制度のままでは労働生産性を落とします。

また、優秀な人材の獲得は日本国内に限られているわけではありません。優秀な人材は、全世界を対象にして獲得できる時代です。そうなると人事をグローバル化(グローバル基準の人事制度)していかなければグローバル競争に勝てません。

今後は優秀な人材が必要になってくるにもかかわらず、優秀な人材の獲得競争激化により人材獲得が困難になってきます。外国籍の人材だけでなく、日本の優秀な人材もどんどん外資の高待遇で働きがいのある企業に採られます。

世界的にみれば、同じポストで同じ職務内容であれば均等・均衡待遇であるのが当然です。

日本のように同じポストで同じ職務内容でありながら、正規か非正規か、長年その企業で働いているか新人か、によって待遇に大きな差が出るのは異常です。そのような異常な制度は、優秀な人材から敬遠されます。

日本では徐々にメンバーシップ型の雇用が崩壊して、労働者は1社への滅私奉公から解放されます。つまり、人材の流動化がさらに進みます。そのような時代の中で、正規か非正規かはあまり重要ではありません。

経営が考えることは、ゴールに向かって成果を出すために必要なポストに空きがあれば、適材を採用することです。そして、適材に対して適正に評価をして正当な処遇を与えるだけです。

そのように考えれば、そもそも正規・非正規の待遇差を考える必要はありません。そのようにシンプルに考えられる未来へ向けて、今から古い制度の見直しをしてはいかがでしょうか。