多くの企業に導入されていた退職金制度が、大きな転換期を迎えています。廃止や代替えとなる制度を含め、各社では退職金制度の見直しが進められています。現在、企業にとって、従業員に退職金を支給するための資金確保の手段は複数あります。時代の流れに沿った制度の見直しや整備は、従業員ニーズに応えるためにも必要です。今回は、退職金制度について詳しく説明します。

福利厚生における退職金制度の位置づけとは?

企業の制度には多種多様なものがありますが、その中でも退職金制度の認知度は高いです。少なくとも、名前は誰もが知っていると思われます。しかし、その退職金制度がどのようなものかを明確に認識している人は少ないかもしれません。また、退職金制度は福利厚生の一種なのかどうかも曖昧な人もいるでしょう。ここで、福利厚生において退職金制度がどのような位置づけにあるのかを確認します。

福利厚生における退職金制度の位置づけとは?

退職金は福利厚生に入る

退職金制度については、法律上の規程や規制はありません。企業の意向や経営状況に合わせて自由に策定することができます。

退職金制度があることは、従業員にとっての大きなメリットになります。退職金があることで、将来の経済的な心配が軽減され安心して働くことができるでしょう。このため、退職金制度は法定外の福利厚生のひとつと考えることができます。経理上でも、退職金は給与以外の報酬となるため福利厚生費として分類されます。

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退職金制度の特徴

とはいえ、退職金制度は他の法定外の福利厚生制度とはかなり特徴が異なってきます。

例えば、リフレッシュ休暇に対する支援金、スキルアップ支援金などの手当は、単発的なものが多く、その時々で発生します。制定すれば実施しなければなりませんが、制度の見直しで廃止にすれば、それまでのものです。

これら法定外の福利厚生制度は、企業の意向や経営状況によって自由に決めることができます。もちろん、あったほうが従業員には喜ばれますし、採用時にも有利にはなりますが、見直しによって制度が廃止になったとしても、さほど大きな影響はありません。

しかし、退職金はそうはいきません。退職金制度を制定し実施したならば、退職時や将来的な債務として残っていくものだということです。このことから、退職金制度を他の福利厚生制度とは別の位置づけにしている企業もあります。

変化する退職金制度

退職金制度といっても、いくつかの種類があります。以前は、退職時に一括で支払われる退職一時金制度が主流となっていましたが、企業負担の大きい制度でした。

その負担を軽減したり、未払いや倒産リスクを回避したりすることができる制度が登場しています。新しいタイプの企業年金制度も生まれています。それら制度の導入によって、結果的に従来の退職金の代わりとしている企業が増えています。

退職金制度があるとないとで変わる企業の印象

最近は、福利厚生の充実度が求職者の企業選びの判断基準のひとつとなっています。求人情報の福利厚生・待遇欄に「退職金制度あり」となしとでは、企業の印象が大きく変わります。従業員の退職金を企業が独自に内部留保で蓄えていくことは、ある程度経営が安定していなければなりません。そのため、退職金制度のある企業は「安定している」という印象を与えるでしょう。少なくとも求職者にはそう映る確率が高いです。

現在は、内部留保型(将来的な債務)という形の退職金ではない制度も浸透してきています。退職金制度ありと打ち出さない企業も増え、退職金制度がないことが一概に悪い印象を与えるとは言えません。もし、他の面に大差がなく、退職金制度がある企業とない企業で迷った場合は、「安定印象」の理由から退職金制度がある企業のほうが選択されやすいでしょう。

退職金制度があるとないとで変わる企業の印象

退職金制度は導入した方がいい?

従業員が退職するときに一時金を支払う退職一時金制度は減少傾向にあるようです。

企業がすべての支払い責任を負う退職金は、企業にとって軽視できる負担ではありません。しかし、従業員満足度の向上、人材確保への貢献を考えると決してデメリットばかりとは言えないようです。

近年は人材の流動が激しくなり、勤続年数も短くなっています。そのことを考えると、退職金制度の必要性そのものが問われる時代になっています。自社の特徴なども鑑みながら、退職金制度の導入が有効策かどうかの検討が何よりも大切です。

退職金制度という名前とせずとも、従業員の将来の資産形成に貢献することは可能です。現在は、企業負担やリスクをできるだけ少なくできる確定拠出型の企業年金制度もあります。福利厚生の充実度が注目される昨今、時代に合った導入方法を検討してみてください。

退職金制度について詳しくは、こちらの「退職金制度を考える。退職金制度の種類と金額の相場」もあわせてご覧ください。

企業によって、退職金が支給される条件は異なる

退職金は法で決められた制度ではないため、企業によって支給条件やルールが異なります。ここでは一般的な支給条件の基準を確認します。

退職金の支給条件

退職金制度を制定している企業が採用している支給条件としては、次のような基準が考えられます。

退職意向者

自己都合なのか、会社都合なのかで受給資格や支給額が異なります。

最低勤続年数

退職金支給の対象となるための最低勤続年数が設定されていることが多いです。3年を最低年数にしている企業が多く、1年、2年、5年などの設定が一般的となっています。

勤続年数・学歴による支給額設定

勤続年数(5年区切り)や学歴(大卒・高卒)などによって、支給額を一律化しているところもあります。

基本給をもとに支給額算出

基本給をもとにして、基本給与額に勤続年数などを照らした既定値を乗算して算出しているところもあります。

在職中の貢献度を加味した算出

在職中の貢献度などを加味して退職金を算出しているところも増えています。在職中にポイント制度などを用いて基準額に加算する形式です。

退職金の捻出に利用できる制度

退職金制度の企業側の負担軽減やリスク回避をして、従来の退職金の代わりになることのできる制度があります。養老保険や中小企業退職金共済について詳しく説明します。

養老保険

養老保険には、満期が設定されています。養老保険は、法定外福利厚生の法人保険としても浸透している保険です。生命保険、医療保険、長期傷害保険などで退職金を積み立てていくものと考えるといいです。養老保険の場合、満期保険金と死亡時の保険金は同額です。

また、解約でも返戻金を退職金として活用できます。満期の受給者を企業とし、退職金とします。万が一の死亡時でも、従業員の家族を保険金受取人にしておきます。

保険料は企業負担ですが、税務上法人保険料は損金処理していけるのがメリットです。これにより、通常の退職金原資確保よりも現金を多く確保できる方法なのです。ただし、国税庁は節税効果を過度に強調した保険商品を問題視しております。解約時に戻ってくる保険料の割合を示す返戻率が50%を超える保険は、損金算入を制限する課税ルールの見直し案を発表しています。解約を前提に返戻率の大きな節税保険で節税運用をすることは、お勧めしません。

中小企業退職金共済

中小企業にとっては、自社で退職金制度を設けることは、大企業に比べて難しくなります。その救済のために、国は中小企業退職金共済法を定めています。

中小企業のための国の退職金制度で、中小企業が独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部(以下、中退共)と契約し、従業員の退職金を月々で積み立てていくシステムです。

加入資格は、業種によって異なります。

  • 製造業等 …3億円以下+300人以下
  • 卸売業 …1億円以下+100人以下
  • サービス業 …5千万円以下+100人以下
  • 小売業 …5千万円以下+50人以下

掛金月額は、5,000~30,000円まで、16種類の中から選択できます。このときの掛金は、企業の全額負担です。受給形式は、受給者本人の希望により一時金一括でも年金形式でも可能です。勤労者退職金共済機構から直接給付されます。

この中退共制度に加入している企業間であれば、転職しても通算が可能となっています。新規加入や増額に際し、国からの補助が受けられることもあります。

また、掛金は全額損金計上できるため、全額非課税となります。加入企業の特典として、勤労者退職金共済機構・中退共と提携している宿泊やレジャーなど各種割引サービスを福利厚生として活用することもできます。2019年5月時点で加入企業数は369,751所、加入従業員は3,485,914人です。

企業型の確定拠出年金

企業型の確定拠出年金(以下、企業型DC)は、企業が毎月掛金を積み立て(拠出し)、従業員が自らの年金資金の運用を行う制度です。掛金は企業負担ですが、退職金給付の債務負担から解放されるメリットがあります。また、企業が拠出した掛金は全額損金計上できるため、全額非課税となります。

企業型DCは原則60歳まで引き出すことはできません。定年退職を迎える60歳以降に、積み立てた年金資金を一時金(退職金)として受け取るか、年金形式で受け取ることができます。

退職金制度を上手に活用するポイント

退職金制度を見直す企業が増えています。従来の制度を廃止する企業も増えはじめている現状もあります。ここで、退職金制度を上手に活用するポイントをまとめます。

退職金制度を上手に活用するポイント

従業員に働きかける制度としての検討

現在の退職金制度は多様化しています。企業型DCのような従業員の認識を高められる制度を使って、退職金の資金を確保することも可能です。それらを加味して、退職金制度の制定・運用を検討することも必要と考えます。

就業規定に詳細を記載し、トラブル防止

退職金制度にはいろいろな種類が出てきているため、従業員がもつ退職金に関する一般的な知識や情報も一律ではなくなってきています。自社の退職金制度について、詳細なルールを策定し、就業規則に明確に記載しておくことが前提となります。

制度理解と体制の整備、情報のキャッチアップ

担当者は詳細までを理解し、適切な処理と従業員の質問や疑問にもスムーズに対応できるようにしておくことが必要です。企業によって、制度の内容や可能な範囲が異なりますし、法改正や新しいサービスが生まれる可能性もあります。従業員のニーズに合った退職金制度となるよう、担当者は新しい情報をキャッチしながら、時代に見合った、そして何よりも自社に見合った退職金制度を検討していくことが大切です。