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オフィス内作業の天敵「二酸化炭素(CO2)」

従業員が多くの時間を過ごすことになるオフィスの空気環境は万全ですか?仕事中に「頭がぼんやりして判断能力や集中力が下がり、作業効率が悪くなってきた」「めまいや吐き気、頭痛を訴える従業員が増えた」そんな現象があるとしたら、オフィスの空気環境が悪化しているかもしれません。
二酸化炭素(CO2)濃度と人間の意思決定の関係
実は、オフィスの空気環境を悪化させる原因として挙げられるのが、空気中の二酸化炭素(CO2)の濃度です。
2012年、アメリカのエネルギー省の研究機関であるローレンス・バークレー国立研究所のウィリアム・フィスク氏とニューヨーク州立大学のウシャ・サティシュ氏が行った研究結果で、室内の二酸化炭素(CO2)濃度が高くなると、人々の意思決定能力を著しく損なう可能性があると発表されています。
また、2017年にハーバード公衆衛生大学院の共同研究が発表されました。同研究は建築家、デザイナー、プログラマーら24人の被験者を対象に換気率、化学物質の濃度、二酸化炭素(CO2)濃度の異なる環境下で、認知機能の調査を行いました。
調査の結果、換気・CO2濃度・化学物質の濃度がよい環境下(論文では「グリーン環境」という)では一般的な環境下より被験者の認知機能が平均で61%向上し、換気の頻度を上げ、さらに向上した環境下(「グリーン+」という)では2倍の認知機能が示されました。
認知機能別の結果としては「危機対応能力についてはグリーン環境が97%、グリーン+は131%」「戦略立案能力は183%、288%」「情報活用能力は172%、299%」それぞれ向上する結果となりました。
今回の結果を受けて、Harvard Center for Health and the Global Environment のヘルシー・ビルディングズ・プログラムの責任者兼論文の筆頭著者の Joseph Allen 准教授は、
「我々は90%の時間を室内で過ごしており、ビルの状態による影響が最も大きいのは従業員なのに、室内環境の質や健康、生産性への影響はほとんどの場合、後付けでしか考慮されない。今回の調査結果は、例えわずかな室内環境の改善であっても、従業員の意思決定等に大きな影響を及ぼす可能性があることを示している」
と述べています。
この調査により、室内の換気量やCO2濃度などの空気の質は従業員の認知機能に大きく影響をすることが明らかになっています。
また、日本においても、厚生労働省が告知している建築物環境衛生管理基準では、空気調和設備* を設けている場合の空気環境の基準としてオフィス内の二酸化炭素の含有率は1,000ppm以下にする必要があるとしています。
* 空気調和設備とは、エア・フィルターや電気集じん等を用いて外から取り入れた空気等を浄化し、その温度、湿度及び流量を調節して供給(排出を含む)ことができる機器及び附属設備の総体を指します。
二酸化炭素(CO2)濃度の測定
これらの研究や厚生労働省が定める環境基準から分かるように、オフィス内のCO2濃度は、そこで働く人々の生産性や創造性に大きな影響を及ぼしていることが分かります。
そこでオフィスの空気環境を整えるためには、オフィスのCO2濃度の測定をする必要があります。ただし、人の密集時間や場所、業種・職種・業態によってもオフィス内の濃度は変化します。
そのため、CO2濃度の測定をするとしても、1ヶ所だけではなく、オフィス・会議室・休憩室などの場所ごとに換気状況・人流など時間帯別に複数箇所でCO2センサを取り付けモニタリングすることが理想です。
そしてCO2濃度が高い場所や時間帯があった場合は、定期的に換気* をすることが重要になります。
* 換気とは、空気を屋内に取り入れる「給気」と室内の空気を屋外に排出させる「排気」を合わせたものを指します。
では、オフィスのCO2濃度は、どの程度だと快適といえるのでしょうか。
一般的に、CO2濃度が
- 350ppmから450ppmであれば屋外と同等のレベル
- 700ppmを超えると影響が出はじめる
- 1,000ppmを超えると眠気を誘われる
- 2,500ppmを超えると頭痛・倦怠感・注意力散漫など健康に害を及ぼす
- 5,000ppmを超える頃にはおそらく作業場所としては適さない
といえるでしょう。
そのため、CO2センサを設置しモニタリングを行って最適なCO2濃度を保つことが重要になってきます。
職場のクラスターの原因と対策とは

オフィスの室内環境の改善は労働生産性の向上だけでなく、感染症対策にも有効です。
三密はクラスターを発生させやすい
感染症の集団感染対策には、いわゆる三密(密閉・密集・密接)の回避が有効とされています。
オフィス空間ではどうしても密閉・密接になりやすくなります。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染経路の多くは飛沫感染です。閉鎖した空間で、近距離で多くの人と会話するなどの環境では、咳やくしゃみなどの症状がなくても感染を拡大させるリスクがあるとされています。
WHO(World Health Organization)は、一般に、5分間の会話で1回の咳と同じくらいの飛沫(約3,000個)が飛ぶと報告しています。そのためオフィス内でのマスクの常時着用やパーティションの設置は有効な方法だとされています。
ただ、厚生労働省では単なる飛沫予防だけではなく、マイクロ飛沫感染(エアロゾル感染)の対策も必要だとされています。マイクロ飛沫(エアロゾル)とは、 空気中の小粒子や飛沫が浮遊している状態で、咳で約700個/回、くしゃみで約4万個/回発生されるといわれています。
マスクをしていても、医療用マスク(N95)以外のマスクでは少量のマイクロ飛沫は飛び出すという研究もあります。マイクロ飛沫は空中を浮遊するので、 直接飛沫を浴びなくても、 短距離では吸い込んでウイルスに感染することがあります。特に換気が悪い場所ではクラスター(感染者集団)が発生しやすいとされています。
空気の滞留がマイクロ飛沫感染を引き起こす一因に
実際に宮城県で起こった職場でのクラスターを電気通信大学の石垣陽特任准教授(情報工学)らのチームが研究しました。その結果、パーティションが空間を遮蔽して空気を滞留させてしまい、換気に悪影響を及ぼし、結果としてウイルス感染拡大の一因となった可能性があるという発表をしています。
直接の飛沫感染を予防するためのパーティションが、マイクロ飛沫感染を起こす可能性があるということです。
マイクロ飛沫感染を防止するためには区切られた箇所の換気状況を常時モニタリングし、CO2濃度が上がった場合にこまめに換気を心掛けることで防げる可能性があります。特に密閉空間でマスクをしない喫煙室や、会議室などでは注意が必要となります。
またマイクロ飛沫予防には、湿度も重要な要素です。厚生労働省では湿度40%以上を維持することを推奨しています。
オフィスの室内環境の整備に関しては、労働生産性の向上だけでなく、感染予防対策としても換気及び湿度の管理が重要になってくることがわかります。
二酸化炭素(CO2)センサの種類と選ぶポイント

厚生労働省の「職場における新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するために」によると、以下のことが推奨されています。
- 室内のCO2濃度を1,000ppm以下に保つ
- 測定器は、NDIRセンサが扱いやすい(NDIR=赤外光を使った測定方式)
- 定期的に校正(キャリブレーション)されたものを使用する(センサの数値が常に正しく表示されるものを使用する)
- 校正されていない測定器を使用する場合は、あらかじめ、屋外気で二酸化炭素濃度(415ppm~450ppm程度)に近いことを確認する(この数値が違う場合は正しく機能していない可能性がある)
- 測定器の位置は、ドア・窓・換気口から離れた場所で、人から少なくとも50cm離れたところにする
NDIR搭載のCO2センサの種類
NDIR(赤外光を使った測定方式)を搭載しているCO2センサは、大きく2つに分かれます。
モニタ付きCO2センサ

一つ目は、モニタが付いていてすぐに使えるタイプのCO2センサです。
このタイプのセンサのメリットは、届いたらすぐ使える点にあります。また価格が比較的安価であり、購入しやすいものになります。飲食店などでよく目にするタイプです。オフィスにおいては、デスクに設置して個人で確認するぶんにはよい製品です。
通知機能付きのタイプもあり、設定濃度より上昇した場合は警告音やメールでお知らせしてくれるものもあります。
デメリットは、据え置きタイプですので設置場所は目に入る場所に置いておかないといざ1,000ppmを超えたとしても気が付かなかったり、通知設定をしていても誰が換気をするのか明確にしておかないと換気を促進することは難しいかもしれません。
またオフィスが広い場合には複数箇所設置しないといけない場合もあり、記録が残るタイプでないとモニタリングには使いづらい面もあります。
IoTタイプ

もう一つはセンサと画面が分かれているIoT対応の製品です。
センサのみを設置し、スマートフォンのアプリや専用サイト等のデバイスを使って数値を確認するタイプのものです。
メリットとしては、センサの設置位置を気にせず本来置くべき場所に設置しやすいことです。またセンサを複数購入し複数箇所を一括管理できる点もメリットです。
区切られた場所毎にセンサを置けるので、広いオフィスや会議室等複数箇所に設置したほうがよい環境には適しています。また複数店舗を運営している企業の本部やマネージャが職場の空気環境を一括管理することで、換気活動の責任の所在を明確にすることができ、換気を徹底していくためには最適だといえます。
デメリットとしては、Wi-Fi環境が必要となるためWi-Fi環境の準備が必要な点、モニタタイプに比べると高価になる点とセンサの近くにいてもすぐに現在のCO2濃度などが分からない点です。
CO2センサを選ぶポイント
オフィスが小さい、広くてもそれぞれで換気の管理ができる体制があるのであればモニタタイプの方がメリットは大きいかもしれません。ただ、管理状況に少しでも不安があるのであればIoTタイプで集中一括管理を行うほうがよいでしょう。
また、IoTタイプの場合は過去の状況も含め数値を把握できるので、モニタリングをしてオフィス環境を最適に保ち、感染予防だけでなく生産性向上にも役立てたい場合はIoTタイプのセンサがお勧めです。
CO2センサは精密機器に該当するものになるため、メーカーによってセンサの精度はバラバラです。特にNDIRのセンサは高価なため、価格が高くなりがちです。海外製は価格が安めですが、精度が求められるものですので、精度を求める場合は日本製がお勧めです。
現在は特に新型コロナウイルスの感染場所のひとつとして飲食店が挙げられているので、飲食店へのCO2センサの導入が進んでいます。また学校施設や学習塾、医療施設、美容院など長時間・不特定の人間が滞在することでクラスターが発生したと報道されたような業種・施設などに関しては導入が進んでいます。
一方長時間滞在が前提であっても職場のような特定の人間が利用する施設の場合は、あまり導入が進んでいないのが現状ではないでしょうか。
CO2センサの導入とお勧めのCO2センサ

CO2センサの導入を検討している場合は、まずは換気の管理方法を検討する必要があります。
例えば、モニタタイプはそれぞれ独立しているので、設置場所付近にいる人がモニタに表示されるCO2濃度を確認し ”要換気レベル” に気付き換気を促す必要があります。一方IoTタイプは管理者が一括管理できるので比較的管理をするのは容易になります。
お勧めのIoTタイプCO2センサ hazaview(ハザビュー)
このような機器を設置する目的は、換気のアラートが出た後にしっかり換気しCO2濃度を適切に守ることです。機器の設置が目的となると本末転倒になってしまうので要注意です。
実際に設置する場合は、設置場所の選定が必要となります。まずは、主に電源の場所と管理すべき空間を決定しましょう。
参考として、お勧めのIoTタイプのCO2センサを紹介します。全国700ヶ所以上で導入実績のあるcynaps(シナプス)のhazaview(ハザビュー)です。設置に関しては、下記のように4ステップで完了となります。

hazaview(ハザビュー)は、厚生労働省が推奨しているNDIRを採用した日本製のCO2センサです。複数台のセンサを一括管理でき、クラウド上に集めた換気データを各デバイスでリアルタイムに確認できます。
これからはCO2濃度をリアルタイムにモニタリングし、適切な換気で感染予防と生産性向上を図ることが企業として必須になってくるかもしれません。