居酒屋/宮城県仙台市青葉区

仙台駅から徒歩数分、昭和の面影を残す商店街「仙台銀座」に、地元で長く愛される名店「味処 花夕」がある。2024年に創業40周年を迎えた老舗だ。店主・中鉢さんが毎朝市場で選ぶ旬の幸と、心のこもったもてなしが評判を呼び、常連や観光客で賑わう。仙台の味を支え続ける理由と店主の想いを伺った。

「海も山も新鮮な物が手に入る土地ですから、地の物をおいしく食べてもらえる店をと思って始めました」と語る中鉢さん。奥様と二人で店を構えたのは40年前。今は、4年前に亡くなった奥様の跡を継ぎ、娘さんが厨房を手伝う。毎朝、仙台市場で食材を自ら目利きし、季節の恵みを丁寧に調理する。「これからはガゼウニの季節。9月くらいまでは身入りがよくて最高ですよ」と話す笑顔に、旬を生かす喜びがにじむ。

味のある暖簾をくぐると、木の温もりに包まれた懐かしい空間が広がる。カウンター席では、店主との会話を楽しみながら杯を傾ける一人客や出張中のビジネスマンの姿も。奥の小上がりでは、友人同士の会食や接待にも使える落ち着いた雰囲気だ。昭和レトロな店内で交わされる笑い声や盃の音には、昔ながらの居酒屋の温もりが息づく。肩肘張らずに仙台の味と人情に浸れる――そんな安心感がここにはある。
花夕の料理には、素材を活かす店主の工夫が光る。特に常連が絶賛する「カツオのたたき」は一味違う。分厚い切り身の中心に切れ込みを入れ、客が自分で薬味を挟む趣向だ。「薬味は大根、にんにく、玉ねぎのすりおろしに大葉とネギ。すりおろすと辛みがまろやかになって甘みが引き立つんです」と中鉢さん。夏の訪れを告げる「ガゼウニ」も人気で、塩を少し振るだけで濃厚な甘みと磯の香りが広がる。そのほか「ホヤの酢の物」や「天然うなぎ」など、三陸と北上川の恵みを四季折々に堪能できる。
「帰りに『おいしかった』って言ってもらえるのが一番うれしいんです」。そう話す中鉢さんの穏やかな笑顔に、40年変わらぬ真心がにじむ。毎朝市場に立ち、厨房に立ち続ける誠実な姿勢が、一皿一皿に深みを与えてきた。旬への感謝と人への感謝――その想いが料理に宿り、客の心を温める。だからこそ、人々はまたこの暖簾をくぐるのだ。仙台で“人と味”に酔うなら、ぜひ訪れたい一軒である。