壱岐市の「SDGs未来都市」の取り組みとは?リモートワークやシェアハウスなど最先端の働き方
2018年6月、「SDGs(エスディージーズ)未来都市」および「自治体SDGsモデル事業」に長崎県の壱岐市が選ばれました。壱岐市はいま、最新のテクノロジーを駆使して国や民間企業と様々な取り組みを実施していることで注目を集めています。そんな壱岐市の具体的な取り組みや今後の展望について、壱岐市の官民連携地域創生組織である「(一社)壱岐みらい創りサイト」事務局長の篠原一生氏にお話を伺ってきました。
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壱岐市が取り組む「SDGs(エスディージーズ)」とは?
SDGsとは、2015年9月の国連サミットで採択された「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」のことです。 このSDGsには、2030年を期限としていくつかの具体的な目標と取り組みが定められており、これは先進国や発展途上国など関係なく、世界中の国々が対象となる活動目標で、政府に限らず企業や自治体が連携し地域住民も一丸となって、事業に取り組むことが求められるものになります。 日本でもSDGsの目標に取り組むため、安倍総理大臣の指示により特定の地域を「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」として選定しました。 「SDGs未来都市」とは、自治体のSDGs推進のための取り組みや達成に向けた事業を実施する地域のことで、茨城県つくば市、山口県宇部市、三重県志摩市などの計29地域が選ばれています。 「自治体SDGsモデル事業」とは、「SDGs未来都市」の中でも先導的な取り組みを行なっている10事業を行う地域のことで、北海道のニセコ町や神奈川県の鎌倉市、福岡県の北九州市など計10地域の中に、長崎県の壱岐市も選ばれました。
壱岐市がSDGsに選ばれた背景
なぜ長崎の小島である人口わずか2.8万人の壱岐市がSDGsモデル事業の10エリアの一つに選ばれたのでしょうか。その背景の一つとして、壱岐市で2015年から富士ゼロックスと取り組んでいる「壱岐なみらい創りプロジェクト」というものがあります。 その一環として特に力を入れていたのが、地域の若者や高齢者など年齢や性別など関係なく集まり、地域の課題や新しい企画をテーマに語り合う「みらい創り対話会」という取組みです。 これは富士ゼロックスが以前から研究しているMIT(マサチューセッツ工科大学)の最新のコミュニケーション理論をフルに活用した地域コミュニティ活性化のための取り組みです。 この取り組みにより、地域の若者がリーダーとなり様々な地域活性化プロジェクトが実行され、それらの取り組みについて他県から多くの企業や自治体が視察に訪れるほどにまでなり、SDGs未来都市として選出されるに至りました。
壱岐市の具体的な取り組み
それではここからは、壱岐市で取り組む「みらい創り対話会」をはじめとした具体的な取り組みについてご紹介していきます。
「みらい創り対話会」
みらい創り対話会では、4回の対話会を1シーズンとして、合計2シーズンの対話会を開催しています。 第1シーズンの前半では、人脈形成の場として顔合わせをすることが目標です。後半では、壱岐でやりたいことや仲間を見つけるためのテーマの特定を話し合います。 第2シーズンの前半では、主体的に仲間と一緒に取り組めるテーマを探し、具体的に掘り下げていきます。後半では、掘り下げたテーマに対して普及・定着できるように全員で推し進めるのです。 平成27年度・28年度の「みらい創り対話会」では、こうした流れに沿って9つのテーマが生まれ、普及するために様々な企画が実施されています。 テーマの一つである「壱岐の空き家で民宿」では、
- 空き家情報の収集や活用アイデア募集のFacebook立ち上げ
- 遊休施設活用による交流スペース作りの実施
などが行われています。
「壱岐テレワークセンター」
壱岐テレワークセンターは、みらい創り対話会から生まれた「空き家を多様な人々が集まる場所にする」というアイデアから生まれた施設です。 テレワークとは、時間や場所にとらわれず柔軟に働く勤務形態のことを言います。最近でいうと、在宅ワークやリモートワークのことが当てはまります。 「壱岐テレワークセンター」は、企業の研修やサテライトオフィスとして利用できる施設として、国特別史跡である「原の辻遺跡」内にある倉庫をリニューアルして作られました。 この施設は、3分の2をテレワークセンターに、残りの3分の1を市民が自由に使えるコミュニティスペースとして整備しています。 施設の概要は以下の通りです。 [table id=41 /] このようにビジネスシーンやコミュニケーションスペースとして、幅広い活用の場所が整備されています。 島外の企業やビジネスマン向けには、
- 壱岐拠点開設に伴うスタートアップ拠点
- リゾートテレワークのコワーキングオフィス
- 企業研修や会議
などの利用方法があります。 また、壱岐市内のテレワーカー向けには、
- 在宅ワーカーのクラウドソーシング等による新たな仕事を創出する拠点
- 同様に起業者の事業拠点としてや、企業の教育研修や会議等
として利用されることが狙いです。 さらには、企業のオフィスワーカーと島内テレワーカーの交流なども行われており、情報交換や新たな人脈形成の場としても活用されています。 そして、テレワークセンター利用者向けに、短期滞在型の宿泊施設(木造平屋のシェアハウス)を設置。6畳の個室が8戸あり、天井の高い開放的な土間空間が共有スペースになります。
2020年に向けた産業のハイテク化
壱岐市SDGsモデル事業の中には、「industry4.0(IoTやAIを用いることによる製造業の革新)」を駆使し、2030年にスマート6次産業化モデルを構築する計画があります。 この計画は2018年~2020年にかけて、1次産業から3次産業までの事業に、生産から販売までの各工程で新たな技術を組み込むことを実現します。 壱岐市の産業全体で、先進技術を駆使した効率化によるスマート農業を体現することで、「カッコいい」農家のイメージを構築し、新たな担い手を獲得していく予定です。 その実現に向けて、1次産業である「スマート農業」の実現や、それに関連する3次産業までの工程を多角的に見つめて、新たな提案や改善で事業を発展させていくことが重要になります。
壱岐市がこれから実現したいこと
壱岐市は今後、日本のSDGsモデル事業として、
- 経済
- 社会
- 環境
の3つの側面から事業革新を実施し、事業の活性化を図っていきます。それでは、三側面からの構想である10の取り組みを一つひとつご紹介していきます。
経済
経済分野では、産業においての効率化や活性化を促し経済を発展。スマート農業や市内自動輸送などの5つの取り組みを実施していく予定です。
1.スマート農業
AIやIoTを活用し農業の効率化とその担い手の育成を行います。農業も、今まで全く発展しなかった訳ではありません。現代社会を構築する上で、産業機械やIT技術はさまざまな分野で導入され発展してきました。 農業でいえば、くわなどの手作業で行なっていたものが、耕運機やトラクターといった機械へと移行し労力が軽減されています。また、収穫した作物の運搬もクルマやコンベアーに成り代わり、作業の自動化が進んでいます。しかし、まだまだ人間で判断しなければならない部分も多く、スマート農業ではその残りの部分を新たな技術で担うことが目的です。 今回のスマート農業の計画により、AIやIoTを活用した効率的でスタイリッシュな方法の実現を目指すことで、農業全体の活性化につながることでしょう。また、「半農半○○」や「自給自足生活」に憧れる若者が増加していることも、スマート農業の追い風に。現代社会に疲れている若者の、新たな働き口となることが期待されます。
2.市内自動輸送
収穫された農作物を拠点へ移動する工程を自動化する試みです。業務の効率化と次世代技術の最適な活用方法を模索します。 現在の自動運転技術には、さまざまな課題があり、実用化にこぎつけるには時間がかかることが予想されています。しかし、確実に現実のものとなりつつあります。政府は、ロボットやAIなどの最先端テクノロジーのプロジェクトを推進しており、「2020年には高速道路での自動走行」「3年以内にドローン配送を実現」などの明確な指標を打ち出しているのです。 これらの施策が現実のものとなれば、スマート農業においても革新的な技術を導入することが期待できます。
3.ものづくりの視える化
生産工程から収穫物のトレーザビリティ(物流経路の追跡可能性)まで、全ての一元管理業務の継承(担い手育成)と、安心・安全による販売付加価値の提供を行います。 例えば、生産から販売までを全て同じ人物が担当していることはほとんどないでしょう。生産は拠点で行い、輸送は別の営業所が担当し品物が到着するまでに、いくつかの経由が行われます。 その際に、各拠点での伝達を行なっていると、情報が不透明になるという懸念事項があります。また、情報が何人もの手に渡ることで、伝達ミスなどの問題や情報の2重確認などの無駄なコストがかかるでしょう。 それらを効率化し、安全で確実なものにするためは、情報の一元管理が必要不可欠です。さらに、一元管理による担い手の育成を強化し、リテラシーの高い人材獲得を目指します。
4.規格外品ECマーケット
Webサイトを活用して、直接販売体制を確立します。色や形などの問題で、市場に売り出すことができない規格外の生鮮品に付加価値を付けて販売する考えです。 味や品質には問題なくても、様々な理由で市場に流通することができない生鮮品は数多く存在します。それらの生鮮品を、廃棄ではなく付加価値を付けて販売することにより、廃棄ゼロを目指します。
5.生産量の可視化による新規卸先企業の誘致
上記の「ものづくりの視える化」などにより、計画生産を確立。スムーズで効率的な生産体制を敷くと同時に、生産量の可視化を実現し需要を拡大する考えです。 そして、壱岐市に卸先企業である食品加工工場の誘致を図ります。新たな需要が増えることで、経済の活性化につながり壱岐市全体を盛り上げます。
社会
社会では主に、IoTに強い人材育成や対話会などをする国内の働きかけと共に、国内外へのPR活動を行うことを目的として活動していく予定です。
6.IoT人材教育プログラム
上記の1~4の事業を、トータルで運用できる人材の育成に力を入れます。主な対象者は、農業労働者および主婦層です。未経験からでも教育できるプログラムを作成し、高い技術をもつ人材を育てます。 具体的には、壱岐市のSDGs未来都市活動の情報プラットフォームとしてSDGs訴求サイトの立ち上げに携わることです。そのために、最新情報の確保とリピート率向上を目標に、市民にWebサイト運営のノウハウを教育し、サイト運営に関わってもらいます。 また、SDGsモデル事業であるスマート6次産業を実現するため、既存の農業に最新のテクノロジーを融合したシステムを応用するほか、水平展開し利用率向上を目指します。さらに、1次産業従事者を中心に技術伝承を行う予定です。
7.国内外PRおよび普及活動
モデル事業を国内外にPRおよび普及活動をするため、事業シナジーを作り関係性を強化します。国内の自治体との連携や、海外ベンチマーク先との連携を行い、幅広い普及活動を推し進めることが目的です。 具体的な活動として、市内では島外企業を壱岐での新しい働き方を築く教育型ツアー「福利厚生モニターツアー」に参加してもらい、次世代の働き方のスタイルを確立・拡散します。 また、市内・市外の活動として、
- アーティストによるプロジェクトソング
- SDGsモデル事業ビジョン映像
などでSDGs事業の認知を広げ、啓蒙につながるコンテンツ制作をします。これらの活動により、事業の共通認識を作るとともに情報発信力を高める考えです。 市外の活動においては、都内でSDGs啓蒙イベントを開催。また、海外の環境ナッジ視察を行い、成功事例から学習し壱岐市の環境ナッジ事業の取り組みに活かします。
8.壱岐なみらい創りプロジェクト
さまざまな事業を実施する上で欠かせないのが、住民の声です。地域一丸となって取り組むために、壱岐なみらい創りプロジェクトでは、「みらい創り対話会」を開催し、住民の声を反映します。 また、企業や自治体、住民のコミュニケーションの場となり、情報交換や新たなアイデアの発掘を促すことが狙いです。 壱岐なみらい創りプロジェクトの詳細は、上記の「壱岐市の具体的な取り組み」をご参照ください。
環境
環境では、地域の環境問題に地域住民や企業などと連携し積極的に取り組み、エネルギーの使い道について考えます。また、地球温暖化の対策なども実施する予定です。
9.環境ナッジ
ナッジとは、行動経済学の手法のひとつで、消費者にちょっとしたきっかけを与えることで、行動を促すことを言います。 つまり環境ナッジとは、地域住民や企業などに環境改善を考えるきっかけを与え、実際に行動を促すための活動と捉えておいて良いでしょう。 壱岐市の環境ナッジは、2018年12月頃から活動を行う予定。環境ナッジの試験導入は早くても来年の2月になる予定です。
壱岐市は、日本に求められるSDGs事業のモデルケースとなるべく活動する
壱岐市では、今回の「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」に選定されたことで、日本に求められるSDGsモデル事業を推進する考えです。 篠原一生氏のお話を通して、壱岐市の活動は地域や国を超えた幅広い事業展開をすることが伺えます。 地方創生を合言葉に、日本の各地域では様々な施策が実施されているようです。その中でも、壱岐市やその他のSDGsモデル事業として選定された地域は、各地域のモデルケースとなるべく地域一丸となって活動しているのです。 特に産業の分野では、最先端技術との融合を図るなど、日本の未来を見据えた事業展開に期待が高まります。産業以外でも、地域住民との対話会でのアイデアで、副業元年と言われている2018年以前から「壱岐テレワークセンター」の構想が出ているなど、学べることが沢山あります。 今後も、IT技術を活用した「スマート6次産業化モデル構築」や環境問題に取り組む「環境ナッジ」など、壱岐市の活躍から目が離せません。
※壱岐にご興味を持たれた方は「一般社団法人 壱岐みらい創りサイト」(http://iki-freewillstudio.jp/)にお気軽にご連絡ください。