
マトリクス組織のメリットと問題点|組織構造の種類と失敗例
近年、多岐にわたる事業展開を行う企業(コングロマリット)が増え、注目を浴びているマトリクス組織。今後も増えていくと見込まれますが、どの企業でもうまくいく組織形態とは言い切れません。今回は、このマトリクス組織の特徴と他の組織形態との比較、メリットやデメリット、失敗事例などを紹介します。
目次[非表示]
- 1.マトリクス組織とは
- 1.1.ピラミッド組織との比較
- 2.マトリクス組織の誕生
- 3.「機能型組織」「プロジェクト型組織」との違い
- 3.1.機能型組織
- 3.2.プロジェクト型組織
- 3.3.マトリクス組織との違い
- 4.マトリクス組織の種類
- 5.マトリクス組織のメリット・デメリット
- 6.マトリクス組織の採用がおすすめの企業の条件
- 7.マトリクス組織構築の失敗事例
マトリクス組織とは
マトリクス組織とは、職能、事業、エリアなどの業務遂行要素の組み合わせによる組織形態のことです。
複数の事業展開や複数店舗での運営を行うとき、1人の従業員は単体ではなく複数の部門に所属し、事業を進める組織形態で、複数の目的を同時に追求することができます。
例えば、職能とエリアを組み合わせた場合、従業員はそれぞれの系列に属することになります。つまり、職能部門(例えば営業部門)とエリア部門(例えば東海エリア)に属し、それぞれの上司の指揮下で業務を遂行するのです。
言葉だけでは、やや複雑に思えるかもしれません。このあと、他の組織形態と比較しながら理解を深めていただければと思います。 昨今のビジネス環境において、マトリクス組織の有効性は高まっているようです。しかし、難易度の高い組織形態でもあり、すべての企業で理想的な成果が出ているわけではないことを認識しておくべきでしょう。
ピラミッド組織との比較
ピラミッド組織は、一系統で企業を運営する組織形態です。代表的なものは官公庁の構成で、一般的な企業もピラミッド組織が多いでしょう。 最高権限をもつ企業トップの下層にトップダウン式に事業、部門や部署に分かれ、底辺が従業員となります。図式化するとちょうどピラミッド型になる形態です。それぞれの従業員が属するのは、自分より上層・下層を含めて縦割りの一系統です。
多くの場合、事業遂行の意思決定や承認は、その系統のみで処理されます。 指示命令が上意下達である場合は機能しやすく、責任の所在や役割が非常に明確でわかりやすいのですが、マトリクス組織と比較すると伝達スピードが遅くなるというデメリットもあります。
マトリクス組織の誕生
マトリクス組織がビジネスに導入される基となったのは、NASAの「アポロ計画」です。 アポロ計画は、複数のプロジェクトで構成され、個々のプロジェクトにマネージャーが配置されていました。
ここまでは通常の一系統ですが、このマネージャーは、専門分野の職務部門に属しながら、他部門間をコーディネートしていきました。
一般的なプロジェクトは、完了後にチームは解散しますが、この複数系統組織=マトリクス組織での解散はありません。 この組織形態の有効性を認識したNASAは、航空宇宙産業界の企業にも推奨を始めたのです。
「機能型組織」「プロジェクト型組織」との違い
他の組織形態として「機能型組織」や「プロジェクト型組織」があります。マトリクス組織とはどのような違いがあるか確認しましょう。
機能型組織
機能型組織は、企業を機能で部門分けした形態です。 機能とは、例えば、生産、営業、人事、販売、情報システムなどを指し、多くの企業がこの形態を採用しています。
それぞれの部門にそれぞれ専門知識や技術をもつ従業員が配置されます。常に各部門が連携して、事業を動かします。
プロジェクトを部門横断で進める場合には、部門ごとに独立していることもあり、許可承認や情報共有に時間がかかり進行が遅くなりがちなことや、責任の所在が不明瞭になりやすい特徴があります。
プロジェクト型組織
プロジェクト組織は、何をするかで特別編成されるチームで事業運営を成り立たせる組織形態です。
そのプロジェクトごとに期限付きでチームが編成され、統率するマネージャーが置かれます。 プロジェクトが完了すればチームを解散する流れが繰り返されます。
専門性が高く、効率的に業務遂行と完了がしやすい一方で、社内に長期的なナレッジが蓄積されないデメリットが生じやすいです。
マトリクス組織との違い
機能型組織もプロジェクト型組織も、それぞれにメリットとデメリットがあります。 マトリクス組織は、機能型組織とプロジェクト型組織の特徴をあわせもつ組織形態です。
マネージャーを軸に考えると、そのマネージャーはあるプロジェクトに属しつつ、いずれかの職能部門にも属します。これにより、スキルは同時に磨かれ、それがプロジェクトのアウトプットにも組織強化にも反映されるのです。
マトリクス組織の種類
マトリクス組織は、さらに3つの特性に分けられます。
バランス型
プロジェクトマネージャーをプロジェクトチーム内から選ぶ形態です。職能部門のマネージャーがプロジェクトマネージャーを兼任するケースもあります。プロジェクトチーム内で選出されたマネージャー(責任者)とは別に部門でのマネージャーも存在するため、複数の指示への混乱や対立が起きる可能性はあります。
ストロング型
プロジェクトマネジメント専門のマネージャーを配置する形態です。プロジェクト型組織寄りの運営が進められます。専門的なプロジェクトマネージャーを配置することで指示は明確になり、権限はプロジェクトマネージャーが握ります。
ウィーク型
プロジェクトマネージャーを配置しない形態です。プロジェクトメンバーそれぞれが自ら判断し行動するため、スピーディーで臨機応変な対応ができる一方で、業務内容があいまいになりやすく、進行速度も遅くなる懸念があります。
マトリクス組織のメリット・デメリット
マトリクス組織の特徴は、上記でも紹介したように、機能型組織とプロジェクト型組織の特徴を融合させていることです。これにより、それぞれのデメリットが低減されます。プロジェクト型組織の専門性と効率スピードを保ちつつ、解散がないため、ナレッジの蓄積、コミュニケーションの醸成も実現できます。 その一方で、系統が複数になることでの複雑性は否めません。摩擦や対立、混乱の可能性が高まる点はデメリットといえるでしょう。
マトリクス組織の採用がおすすめの企業の条件
マトリクス組織は、海外展開をしている企業に多く見られます。
経営基盤がないと、かさむリソースの確保が難しいかもしれません。 マトリックス組織の採用企業をみていくと、創業期から機能型組織基盤を熟成させ、複数事業の展開に際し、チャンスを最大限に活かすためにマトリクス組織を取り入れる傾向があるようです。
扱う製品レベルでも多様性をもつ企業は進める価値はあると考えられるでしょう。
その一方で、現状は国内市場で展開する小規模企業であっても、そのターゲット層の拡大を図る際には、マトリクス組織の採用も役立ちます。職能部門の存在意義を継続しながら、ターゲット層ごとのアプローチ(プロジェクト)に注力するのも一手かもしれません。
いずれにしても、高いマネジメント力と全社で強調できる風土が必要と考えます。
マトリクス組織構築の失敗事例
マトリクス組織の導入で、失敗も多く見受けられます。企業にプラスを生み出す可能性が高い一方で、多くの失敗リスクもはらんでいます。組織構築に失敗した3つの事例を紹介します。
組織内の対立
組織に対立が起こりやすくなることはマトリクス組織のデメリット要素の筆頭です。指示系統が複数になれば、必然的に生まれる状況です。また、高い業績を上げている企業ほど、部門の独立性や個性が強く、統合が難しい=対立が発生しやすい傾向がみられます。
このため、マネジメント層に協調性や対立や摩擦をうまくおさめる能力がないと失敗を招きます。マネジメント層で情報共有をして状況を把握したり、役割を明確にして対立を回避する必要があります。
リソースの配分ミス
企業運営において、どれだけ事業部門やプロジェクトが増えても、リソースの総量、総数は変わらないため配分が必要です。マトリクス組織では、この配分が複雑になります。
プロジェクトごとに営業や生産担当などを必要とします。予算面も例外ではないでしょう。
ひとつのプロジェクトを充実させれば他のプロジェクトに影響が及びます。それぞれの合意を得ることも必要になります。
リソースの取り合いが起きたり、一部従業員に業務が集中するなど、複雑性からくる失敗例もあるようです。 人材をはじめとするリソースの配分を巡って部門間の衝突や葛藤が起きないように、利害調整の最適化が必要です。
マトリクス組織は必然的に複雑になり、組織が混乱しやすくなります。このため、組織内の連携がうまくいかず、責任の所在が曖昧になることがあります。機能型組織とプロジェクト型組織の特徴をあわせて活かせなければ、マトリクス組織の採用は無駄にコストがかさむだけになってしまいます。