育児短時間勤務中の給与・社会保険の扱いは?
育児短時間勤務の導入は、法的な企業義務です。しかし、実際に導入するとなると、「似たような制度との違いは?」「給与や社会保険料への影響はあるのか?」「他の制度との併用はできるのか?」など、疑問もあるでしょう。
今回は、育児と仕事を両立する従業員へ最適な制度を適用するために、育児短時間勤務について学んでいきましょう。
目次[非表示]
- 1.育児短時間勤務制度とは
- 2.育児短時間勤務制度を導入するメリット
- 2.1.企業側にとってのメリット
- 2.2.利用者にとってのメリット
- 3.育児短時間勤務の勤務形態の種類
- 3.1.【基本】原則6時間/日
- 3.2.【日ごと調整】日ごとに時間を変える
- 3.3.【勤務日数調整】勤務日数を減らす
- 4.育児短時間勤務の勤務時間と対象者の条件
- 4.1.勤務時間
- 4.2.子どもが何歳までとれる?
- 4.3.対象者の条件
- 5.育児短時間勤務の延長は認められる?
- 6.育児短時間勤務中の給与について
- 6.1.給料の扱い
- 6.2.育児短時間勤務による他の手当への影響
- 6.3.社会保険料は減額になる?
- 7.他の時短勤務制度との併用は可能?
- 7.1.介護短時間勤務との併用
- 7.2.フレックス制度との併用
- 8.育児短時間勤務の従業員への影響
- 8.1.育児短時間勤務における課題
- 9.育児短時間勤務を導入する際のポイント
- 9.1.育児短時間勤務制度の内容は就業規則に明記
- 9.2.評価や給与に関する事項の明記
- 9.3.申請手続きに関する問題
- 9.4.従業員との話し合いを徹底
育児短時間勤務制度とは
育児短時間勤務制度とは、育児・介護休業法23条で「3歳に満たない子を養育する労働者に関して、1日の所定労働時間を原則として6時間とする短時間勤務制度を設けなければならない」と定められている制度です。企業には育児短時間勤務制度を設け、育児中の従業員の短時間勤務を認めることが法律で義務付けられています。
混同されやすい他の制度との違い
育児中の従業員に対する制度には、育児休業や短時間正社員制度があります。いずれも混同しやすいので、従業員が各制度の違いを正しく理解できるよう社内周知を行っていきましょう。
法的な義務 |
内容 |
期限 |
|
育児短時間勤務制度 |
有 |
3歳に満たない子の養育のため労働時間を6時間とする |
子どもが3歳になるまで |
育児休業 |
有 |
育児のために一定期間休業する |
子どもが1歳になるまで |
短時間正社員制度 |
無 |
育児に関わらず、関わらず、勤務時間や勤務日数をフルタイムの正規従業員よりも短くする |
複数の条件がある |
育児休業と短時間正社員制度について詳しくみていきましょう。
育児休業(1歳に満たない子あり、休業)
育児休業は、出産後の従業員が一定期間、育児のために休業するものです。育児短時間勤務制度との違いは、6時間働くか、完全に働かないかです。
短時間正社員制度(様々な人材、時短で勤務)
短時間正社員制度は、育児に関わらず、育児や介護等と仕事を両立したい労働者、決まった日時だけ働きたい労働者、定年後も働き続けたい高齢者、キャリアアップをめざすパートタイム労働者等、様々な人材が対象となります。勤務時間や勤務日数をフルタイムの正規雇用の従業員よりも短くしながら活躍してもらうための制度です。
育児短時間勤務制度との違いは、制度の対象が育児に限らないことと、制度の導入は企業の任意であり、法的な義務ではないことです。 従業員の希望に沿って、育児短時間勤務制度、育児休業、短時間正社員制度を適用しましょう。
育児短時間勤務制度はどのくらい利用されている?
出産や育児によって諦めかけていたキャリアの継続が期待される育児時短勤務制度ですが、どのくらいの人が利用しているのでしょうか。 厚生労働省が発表した「両立支援制度と利用状況」によれば、女性の利用率は29.2%、男性では0.5%と国の期待に反して利用が進んでいない状況が分かりました。
国が義務付けているにも関わらず、どうして利用が進まないのでしょうか。それには次のような理由が挙げられます。
<利用率が伸びない理由・原因>
- 「仕事に穴をあけてしまうのでは…」という周囲への罪悪感
- 「仕事がなかなか終わらない…」という労働環境
- 「給料が減ってしまう…」という経済的な不安感
このように、育児で仕事を休むことでブランクが出てしまい「職場復帰がしにくくなる…」という不安感が利用を止めてしまうケースが多いようです。
その結果、育児短時間勤務制度がお飾り的な制度になっている企業も少なくありません。しかし、それは制度を利用していない人が抱いているイメージにしか過ぎません。
利用者側にとっても、企業側にとっても利用することで得られるメリットはたくさんあります。ネガティブなイメージに囚われずに、具体的にどんな点に利便性があるのかについても目を向けてみましょう。
育児短時間勤務制度を導入するメリット
企業側にとってのメリット
社歴の長い経験豊富で優秀な女性従業員が育児のために辞めてしまうのは、企業にとっては大きな損失です。育児短時間勤務制度を導入すれば、仕事をしながら安心して育児ができる環境が整えられます。
「この企業でずっと働き続けたい!」という意欲も高まり、育児による不本意な離職を防げて、人材確保の維持ができます。また、育児短時間勤務を経てフルタイムに復帰した事例を作れば、今後の採用活動において、特に女性求人応募者へのアピールポイントにもなり、企業のイメージアップにもつながります。
利用者にとってのメリット
限られた時間の中で、仕事と育児を両立しなければならない利用者の一番のメリットは、時間的な余裕が生まれることです。
時間的な余裕ができれば、子どもともゆとりをもって接することができます。また、病気やケガで通院する必要がある場合にも、早めに仕事を切り上げて病院に連れて行くなど、あらかじめ時間の調整がしやすいメリットもあります。
育児短時間勤務の勤務形態の種類
育児短時間勤務をどのように利用していくかには、いくつかの種類(勤務時間の調整方法)が考えられます。従業員の状況に合わせて使うことのできる育児短時間勤務の種類を確認しましょう。
【基本】原則6時間/日
例えば、所定労働時間が週5日、8時間の従業員であれば、週5日間を通して、始業と終業の時間を調整し、6時間にすることが基本となります。
【日ごと調整】日ごとに時間を変える
日によって勤務時間を変えるという方法もあります。例えば、月、水、金は半日勤務、火、木はフルタイムという分け方もできます。
【勤務日数調整】勤務日数を減らす
1日の所定労働時間を変えない方法もあります。週あたりの勤務日数を少なくして合計労働時間を減らし、短時間勤務とすることも可能です。
育児短時間勤務の勤務時間と対象者の条件
では、あらためて法で定められた育児短時間勤務の条件を確認します。
勤務時間
勤務時間は、1日の所定労働時間が8時間の従業員に対して「5時間45分~6時間」が基本です。法的には、この勤務時間の長さが限度とされています。
子どもが何歳までとれる?
子どもが3歳の誕生日を迎える前日までが、法的な対象期間となります。
対象者の条件
3歳未満の子どもを養育していれば、男女どちらでも取得できるものです。実子、養子、里親から委託されているなど、同居して監護している子どもが対象です。また勤務形態の条件として、1日の所定労働時間が6時間以上の従業員が対象となり有期契約の従業員なども含まれます。
対象外となる従業員
法律上の育児短時間勤務の対象外となるのは、以下の従業員です。
- 日々雇用
- 育児休業中の従業員
- 雇用期間が1年に満たない従業員
- 週あたりの所定労働日数が2日以下の従業員
- 事実上適用が困難な業務に携わる従業員
注意点 代替措置の義務
育児短時間勤務の対象外の従業員でも、短時間勤務が必要な人がいます。法律では、これらの従業員が使えるような代替制度を設けることを義務付けています。
育児短時間勤務の延長は認められる?
育児短時間勤務は、従業員が請求すれば子どもが3歳になるまで適用する必要がありますが、それ以降の延長は、企業次第です。
育児短時間勤務制度の「3歳未満」という範囲を広げている企業もあります。 子どもが3歳になった時点で企業としての育児短時間勤務の義務はなくなりますが、従業員の育児は続きます。育児短時間勤務が終了した後に、従業員に対してどのようなサポートができるかは、各企業で制度を整えていく必要があるでしょう。
育児短時間勤務中の給与について
では、育児短時間勤務の際の給与はどうなるのかを確認していきましょう。
給料の扱い
育児短時間勤務で短くなる時間に対して、給与を支払うか否かは企業の任意となっています。つまり、短くした時間分は減給となっても違反ではありません。短時間勤務者に対し、フルタイムと同等の給与を支払うことが必ずしもよいとは限りません。周りの従業員との公平性が保てない懸念が出てくるからです。
短くした時間分を減給とすれば、周囲の従業員のモチベーションも保てますし、結果的に公平性が保たれることで、この制度利用者の制度利用のしやすさにもつながると考えられます。
育児短時間勤務による他の手当への影響
育児短時間勤務によって、他の手当の受給資格を満たせなくなるケースも出てくるかもしれません。となると、時短勤務者にとっては、給与減額(の可能性)とあわせて大きな痛手となります。
まず前提として、育児短時間勤務を活用することで従業員に不当な不利益が生じることは禁じられています。それを踏まえた上で、しっかりと説明をして労使での合意形成が必要です。
社会保険料は減額になる?
社会保険料は給与額によって変動するので、給与総額が減れば総じて社会保険料も減額になり、「育児休業終了時報酬月額変更届」の提出で、保険料も安くなります。
ただ、給与の下がり幅に対して、社会保険の減額はそれほどでもないため、時短勤務者への金銭的な痛手はやはり大きいままでしょう。子どもの養育時期に対する特別措置として「養育期間標準報酬月額特例申出書」で対処できることを説明しましょう。
他の時短勤務制度との併用は可能?
働く時間を短くしたり調整したりする制度として、介護短時間制度やフレックス制度があります。これらの制度と育児短時間勤務制度の併用の可否を確認しましょう。
介護短時間勤務との併用
育児をする世代が、同時に要介護者を抱える確率は年々高くなり、この先も増えていくことが見込まれています。現状の法律では、育児と介護の時短制度の併用の可否については言及がありません。しかし、今後、検討されていくと考えています。
ただ、企業は法の制定を待っているわけにはいかないでしょう。この場合、並行は可能としても、業務や従業員の所得への影響は大きくなると考えます。従業員とよく話し合ってベストな策をみつけていく必要があります。
フレックス制度との併用
フレックス制度に関しても、育児短時間勤務との併用に関する法的規定はありません。ただし、育児休業法第24条第1項にて、始業時刻変更等の措置(=フレックス制度)も努力義務として提示されています。育児中の労働者の状況をみても、併用を認めるのが理想的と考えます。
育児短時間勤務の従業員への影響
育児中の従業員にとっては、育児短時間勤務があることで、仕事と育児のどちらも犠牲にせず両立ができます。男女のどちらにも権利があり、とくに女性にとってはキャリアを継続するための大きな鍵となる制度です。
育児短時間勤務がなければ、そもそも働き続けることが難しくなる従業員も出てくるはずです。育児短時間勤務制度は、企業の人材確保にも影響を与える重要な制度と捉えておく必要があるでしょう。
育児短時間勤務における課題
一方、育児短期時間勤務における課題もあります。厚生労働省の調査によると、時短勤務を導入している企業が抱える課題として、「制度利用者に対する仕事の配分が難しい」「制度利用者の周囲にいる従業員の負担が大きい」などの声がありました。
仕事を割り振る管理者は、制度利用者に対して差し障りのない責任範囲の小さな業務を割り当てる傾向にあるようです。しかしその傾向が強くなり過ぎて、責任のある仕事を依頼しない場合、かえって制度利用者の仕事へのモチベーションを下げてしまう結果にもなりかねません。
そのような状況を作らないためにも、依頼した仕事に対する「出すべき成果」の目標を設定し、その達成度を定性・定量的に評価する制度を取り入れることが大切です。事実、時短勤務を利用する従業員が多い企業ほど、勤務時間に応じた目標設定を行い、その達成度で評価しています。
育児短時間勤務を導入する際のポイント
最後に、育児短時間勤務の導入時のポイントをまとめます。各項目を念頭に置いて、スムーズに進めていきましょう。
育児短時間勤務制度の内容は就業規則に明記
法律上の規定を満たし、それ以上(それ以外)の条件やルールまでを明確に就業規則に記載します。
法律上、育児短時間勤務は「従業員の請求があるとき、企業は許可する義務がある」とされています。つまり、従業員からの申し出がなければ、実施実績がなくでも違反とはなりません。だからこそ、就業規則に明記の上、従業員への周知・説明も徹底しておく必要があります。
評価や給与に関する事項の明記
就業規則の育児短時間勤務制度として、勤務時間や条件だけでなく、評価や給与への影響も記載しましょう。この点が曖昧であればあるほど、苦情や問題、社内の不公平性が出てきます。人事業務をできる限り簡素化する上でも、詳細の規定策定と就業規則への記載をおすすめします。
申請手続きに関する問題
育児短時間勤務の必要性は、出産後、職場復帰をする従業員であればあらかじめ予測はできるでしょう。このため、育児短時間勤務の利用申請期限を数週間~1ヶ月前に設定することは可能と考えます。要件は、しっかり全従業員に伝えることが大切です。
従業員との話し合いを徹底
たとえ、就業規則どおりに処理をしたとしても不満をもたれることは多くなります。また、他の制度とどのように組み合わせるかで、勤務状況や給与が変わることが考えられます。 つまり育児短時間勤務制度は、工夫の余地がある制度なのです。ですから、人事には親身に一人ひとりの状況と向き合って、適切な説明と提案が求められます。