個人事業主と福利厚生。個人事業主が福利厚生を導入できる条件と導入方法
個人事業主でも福利厚生を活用できることをご存知でしょうか。今回は、個人事業主が福利厚生を導入するための条件やメリット、福利厚生として利用できるサービスの種類や特徴を紹介します。 交際費と福利厚生費との違いや福利厚生費としての計上の可否など、経理処理についても説明していきます。
個人事業主にフィットした福利厚生の導入で、労働環境をよりよくしていきましょう。
目次[非表示]
- 1.個人事業主でも福利厚生を利用できる
- 2.単独経営、家族経営では福利厚生費の計上はできない
- 3.福利厚生の導入のメリット
- 3.1.従業員の健康的な生活の支援
- 3.2.従業員の意欲向上
- 4.福利厚生として利用できるサービスの種類
- 5.福利厚生費と交際費の違い
- 6.福利厚生費の計上について
- 6.1.勘定項目・仕訳
- 7.個人事業主にフィットした福利厚生の導入
- 7.1.中小企業退職金共済事業本部
- 7.2.福利厚生代行サービス企業
- 7.3.全国中小企業勤労者福祉サービスセンター
- 7.4.一般財団法人 あんしん財団
- 7.5.商工会議所
個人事業主でも福利厚生を利用できる
個人事業主でも、条件が満たされていれば、福利厚生を利用(福利厚生費の計上)することができます。 「個人」といっても、必ずしも事業主が1人で事業を営んでいることだけを指すわけではありません。個人事業主の経営方法は大きく分けて3つあります。以下の3つです。
- 株式会社等の法人を設立せずに、事業主1人のみで事業を営む(単独経営)
- 株式会社等の法人を設立せずに、事業主とその家族で事業を営む(家族経営)
- 株式会社等の法人を設立せずに、事業主と雇用した従業員の複数で事業を営む(複数経営)
前提として個人事業主が福利厚生を利用できる条件は、家族以外の従業員を雇っていることです(1人でも可)。事業主が事業や業務を1人で行っていたり(単独経営)、家族経営だったりする場合には、福利厚生の利用は認められないケースがほとんどです。
単独経営、家族経営では福利厚生費の計上はできない
単独経営と家族経営の場合の福利厚生について解説します。
単独経営の場合
基本的に福利厚生は、事業主が従業員に対して提供するものです。したがって、事業主が単独で事業を営んでいる場合は、いかなる費用も福利厚生費としての計上が認められていません。
厳密にいうと、福利厚生費についての法や税規定の区分が明確になっていない部分も多く、税理士によって常識的倫理に基づいて判断されているのが現状です。現状の一般的な判断としては、単独経営の個人事業主は法定外福利厚生の利用はできない(非課税扱いの福利厚生費での計上は不可)ということになります。
家族経営の場合
家族(事業主と生計をともにする配偶者や15歳以上の親族など)を従業員として雇用して事業を営んでいる場合も、いかなる費用も福利厚生費としての計上が認められていません。 福利厚生費として計上するには、「家族以外」の従業員の存在が必要となります。
事業主、事業主の家族、家族以外の従業員で事業を営んでいることもあるでしょう。その場合は家族以外の従業員を雇っているので、事業主の家族も従業員と同様の福利厚生を利用できます。つまり事業主は、それら福利厚生にかかった費用を福利厚生費として計上できるということです。
しかし、事業主のみ、もしくは事業主とその家族のみを対象とした経費については福利厚生費の計上はできません。
福利厚生の導入のメリット
福利厚生を導入することで、どのようなメリットがあるのかを確認します。
従業員の健康的な生活の支援
どんなに小さな職場だったとしても、従業員は業務に取り組み、利益を生み出すことに貢献してくれる存在です。事業主として、従業員が働きやすい労働環境づくりに取り組むことは大切なことです。 福利厚生を導入することで、給与とは別の形で支援することができ、従業員の健康や余暇を充実させることに貢献できるのです。
従業員だけでなく、その家族も利用できるならば、さらに信頼関係の構築や従業員満足度の向上に寄与するものと考えます。
従業員の意欲向上
福利厚生を整備することで、事業主の従業員に対する愛情や配慮が伝わります。従業員はより意欲的に仕事に取り組もうとするのではないでしょうか。
最近の福利厚生の制度には従業員の健康面に配慮したものも増えていますが、制度利用によって得られる健康や能力向上だけに留まりません。「制度がある」ということが従業員の精神的衛生面にも良い影響を与えていきます。
福利厚生として利用できるサービスの種類
福利厚生として利用できるものには以下のような種類があげられます。こちらにあげる項目はすべて従業員のためのものであり、従業員によって利活用されることを前提として確認してください。
- 飲食関連
朝食、昼食、残業夕食、夜食、お茶やコーヒー、お菓子などの提供(所定要件あり)
- 住宅関連
住宅手当、家賃補助、持ち家ローン補助、近隣居住手当などの支給
- 慶弔関係
従業員の親族に不幸があったときの弔事・香典、本人の結婚、出産、誕生日、病気見舞金、傷病見舞金などの支給
- 医療/健康
常備医薬品、健康診断(入社時、定期)、人間ドッグ、予防接種などの実施
- 文化・体育・レクリエーション
レクリエーション、サークル活動、社員旅行、運動会、飲み会、食事会などの実施・創業記念品などの贈答品(所定要件あり)
- 施設利用
社員食堂、社宅、保養所、スポーツ・レジャー施設利用、リラクゼーション施設などの利用
- 財産形成
財形貯蓄、持ち株制度、退職金関連など
- 自己啓発
資格取得、自己啓発、書籍購入、セミナー参加などの補助金支給
福利厚生費と交際費の違い
個人事業主の場合、福利厚生費と交際費との区別を認識しておくことが大切です。顧客や取引先に対する接待費などは福利厚生ではなく交際費扱いになります。とくに、飲食、レジャー、旅行、贈答などで混同されやすいようです。
基本的に福利厚生費として計上できるものは、従業員のためのものにしかあてはまらないという認識が必要です。また、福利厚生費として計上できるものは、従業員全員の参加や利用がある項目です。特定の人物に限られたものは、福利厚生費として認められません。現金支給の場合も、従業員本人、もしくはその家族が支給対象でなければなりません。
福利厚生費の計上について
では、福利厚生費の経理上の計上の仕方について確認していきましょう。福利厚生費は、非課税扱いになります。そのため、税務チェックの目も厳しくなってきますので、注意が必要です。
勘定項目・仕訳
先に福利厚生として利用できるサービス項目を多数紹介しました。それらの項目は、それぞれ個別の名称ではなく福利厚生費という勘定科目で処理します。
項目ごとに福利厚生費として計上するための限度や要件、条件が定められているので、その詳細を把握しておく必要があります。要件を満たさない場合は、他の勘定科目に振り分ける必要が出てくるので注意してください。 基本的に福利厚生として計上できる条件は、以下となります。
- 社会通念上、常識と考えられる範囲の額
- すべての従業員を対象としている
社会通念上、常識と考えられる範囲として明確に限度額などが示されている場合もあるので、確認が必要です。
仕訳としては、借方(向かって左)に福利厚生費を計上します。対する貸方(向かって右)には、現金で支給・支払いをした場合は、現金勘定で計上します。
個人事業主にフィットした福利厚生の導入
個人事業主の事業運営を支援するサービスの一環として、福利厚生サービスを提供する団体も増えてきています。
最後に中小企業退職金共済、福利厚生代行サービス企業をはじめとする、支援団体を紹介します。
中小企業退職金共済事業本部
個人事業主でも従業員を抱えている以上、その従業員の退職金についても、福利厚生の一環として考えていきたいところでしょう。しかし、個人事業主にとって退職金の支給は、たとえ少人数であっても大きな負担になるものです。 中小企業退職金共済事業本部が運営する中退共制度は、個人事業主を含む中小企業のための国の退職金制度です。中退共制度を活用することで、より少ない負担で従業員の退職金を準備できます。個人事業主の場合、ほぼ加入に必要な条件を満たせると考えます。 【加入資格】
業種 |
資本金・出資金 常用従業員数 |
製造業 |
3億円以下 または 300人以下 |
卸売業 |
1億円以下 または 100人以下 |
サービス業 |
5千万円以下 または 100人以下 |
小売業 |
5千万円以下 または 50人以下 |
個人企業や公益法人等の場合は、常用従業員数によります。
福利厚生代行サービス企業
福利厚生代行サービスは、企業規模を問わず契約することができ、福利厚生を充実することができます。宿泊、レジャー、ショッピングなどさまざまなサービスを、おトクに利用することができます。福利厚生の導入、充実の一策として契約をする企業が増えていますが、個人事業主でも契約することができます。
全国中小企業勤労者福祉サービスセンター
全国200ヶ所以上の地域に設置された中小企業勤労者福祉サービスセンターは、中小企業の事業運営を支援しています。各地域で支援内容は異なりますが、個人事業主の福利厚生に関する支援が受けられるところもあるようです。 自社で独自に実施するよりも少ない経費負担での福利厚生の導入が可能です。中小企業勤労者福祉サービスセンターに入会すると、従業員に対して幅広い福利厚生サービスを提供することができます。
参考:全国中小企業勤労者福祉サービスセンター 勤労者の福利厚生について|厚生労働省
一般財団法人 あんしん財団
中小企業や個人事業主を対象とする「あんしん財団」では、ケガの保障(事業総合傷害保険)、福利厚生サービス、災害防止サービスが提供されています。下記に該当しなければ加入できます。 次のいずれかに該当する場合は、加入できません。
- A.東京証券取引所1部上場または2部上場企業
- B.事業を営んでいることを客観的に証明できないとき
- C.法人の設立前の準備期間と解散後の清算期間
- D.個人事業主の開業前の準備期間と廃業後の清算期間
- E.外国に本社のある企業の日本支社
- F.社会通念上、事業として営まれていると評価できない事業
- G.反社会的勢力に該当・関係する事業所または個人
引用元:契約者資格について|あんしん財団
商工会議所
都道府県に設置されている商工会議所でも福利厚生代行サービスを提供しているところがあります。例えば、東京商工会議所では、CLUB CCIとして企業状況や形態に合わせて選べる3つの福利厚生プランが用意されています。商工会議所ごとに、サービス内容が異なっているようですが、東京商工会議所を例にとると、企業規模を問わず、個人事業主でも加入できます。