資格手当は企業に何をもたらすか?企業が注目する自己啓発分野の福利厚生
生産年齢人口が減少し続けるなか、人材育成に投資をする企業が増えています。福利厚生の一環である資格手当は、従業員のスキルアップを支援する有効な人材育成施策です。
今回は、資格手当の概要と企業にとってのメリット・注意点を解説します。
目次[非表示]
- 1.資格手当とは?支給方法と主な資格・相場をチェック
- 1.1.資格手当とは
- 1.2.資格手当の支給方法
- 1.3.主な対象資格と手当の相場
- 2.資格手当を導入するメリットと注意点
- 2.1.企業にとっての主なメリット
- 2.2.事前に確認しておきたい注意点
- 3.人材育成に役立つ制度・サービスを活用する
- 3.1.キャリアアップを支援する制度
- 3.2.カフェテリアプランという選択肢もある
- 4.まとめ
資格手当とは?支給方法と主な資格・相場をチェック
少子高齢化に伴う生産年齢人口(15~64歳)減少に歯止めがきかない昨今、多くの企業は優秀な人材の不足に陥っています。 企業は限られた人手で生産性を最大化させるため、適切な施策を講じる必要性に迫られています。
実際、いち早く働き方改革に着手して労働環境を整えたり、福利厚生を充実させたりして、人材の確保・定着・質の向上に注力する企業も増えています。
福利厚生の充実には、いろいろなやり方があります。従業員のスキルアップを目的とした、企業による資格取得支援も福利厚生充実のひとつです。
具体的に資格取得支援とは、資格取得に伴い資格手当を支給することです。 この資格手当の支給は、人材育成に有効な施策の一つです。まずは資格手当の概要を確認しておきましょう。
資格手当とは
資格手当とは業務に活かせる資格を取得した従業員に対し、企業が任意で支給する現金手当の福利厚生です。法律に関係なく企業が独自に設けることができる法定外福利厚生の「自己啓発分野」にあたります。 少し古いデータですが、厚生労働省が2015年に実施した調査によると、資格手当の導入率は47.7%でした。半数近くの企業が従業員の自己啓発・スキルアップに投資をしています。
参照:平成27年就労条件総合調査結果の賃金概況|厚生労働省(PDF資料)
生産年齢人口が減少し続ける時代において、資格取得に対して手当を支給することは経営資源の強化をもたらします。 ヒトという資源が減少する中で生産性を上げていくためには、ヒトの質を上げる投資が不可欠です。資格手当はヒトの質を上げることにつながる投資ですので、これからの時代に有効な施策です。
資格手当の支給方法
資格手当の支給方法は、以下の2種類に大別されます。
支給額は資格の内容や難易度などによって異なります。資格取得に必要な教材費や受験料、更新料などを企業負担するかどうかも、企業によって判断が分かれるところです。
主な対象資格と手当の相場
手当の対象資格は企業が任意で決めることになりますが、対象となることが多い資格と手当相場を参考までに紹介します。
<国家資格>
- 宅地建物取引士:10,000円〜30,000円
- 社会保険労務士:30,000円〜50,000円
- 中小企業診断士:10,000円〜30,000円
- 建築士 :8,000円〜50,000円
- 電気工事士 :1,000円〜10,000円
- 危険物取扱者 :1,000円〜3,000円
- 管理栄養士 :5,000円〜30,000円
<公的資格・民間資格>
- 日商簿記(2級以上):3,000円〜20,000円
- TOEIC :3,000円〜20,000円
- 秘書検定 :500円〜10,000円
- インテリアコーディネーター:5,000円〜10,000円
資格手当を導入するメリットと注意点
従業員の資格取得を支援することは企業にとっていくつかのメリットがありますが、注意すべき点もあります。ひとつずつみていきましょう。
企業にとっての主なメリット
資格手当を支給することは、企業に何をもたらすのか?資格手当の導入は、主に3つのメリットがあります。
メリット1.個のスキルアップによる生産性の向上
企業の福利厚生として資格手当があれば、資格取得にチャレンジする従業員が増え、従業員個々の知識・能力の向上が期待できます。 業務の質向上につながる資格を手当の対象にすれば、従業員が自主的に学ぶことで個々のスキルが上がり、業務効率アップ・生産性の向上が見込めるでしょう。
メリット2.従業員のモチベーション向上
資格手当は従業員のモチベーション向上にもつながります。従業員のなかには「資格をとりたいけど自費だと気が引ける」「資格取得の価値を評価してもらえないかもしれない」といった懸念から資格取得を断念してしまう人もいます。 その点、企業が資格取得をバックアップしてくれれば、従業員の資格取得の意欲は高まります。企業が手当を出すことによって、従業員の学びのモチベーションを維持・向上させることができます。
メリット3.企業イメージの向上
資格手当を導入し、適切な資格を保有する従業員が増えれば、資格所有者が多い企業として企業イメージが高まる可能性があります。 例えば、住宅メーカーの営業職は資格がなくても業務を遂行できます。しかし、宅地建物取引士(宅建士)の資格を保有している営業担当者のほうが、お客様から信頼感・安心感を得やすい傾向があります。
もちろん、資格がなくても優秀な人は多くいますが、名刺に保有資格が記載されているほうが「適切な対応・アドバイスをしてもらえるだろう」と感じるのは自然なことでしょう。 また、採用活動においても資格手当はアピール材料になります。採用の福利厚生の項目に「資格手当あり」と明記すれば、「この企業ならスキルアップできそう」と求職者によいイメージをもってもらいやすくなります。
事前に確認しておきたい注意点
資格手当の導入はメリットだけではありません。3つの注意点も確認しておきましょう。
注意点1.人件費が増える
当然ですが、資格手当を導入すると人件費が増加します。資格手当を支給しているすべての従業員が、手当に見合う成果を出せば導入効果が得られます。しかし、人によっては資格を取得しただけで成果を出さないこともあります。 資格を取得することが目的となり、取得後に仕事に活かしきれなければ、企業としては手当を支給する意味がなくなってしまいます。
特に毎月の給与に手当を上乗せする資格給を導入検討する際は、費用対効果の観点を忘れないようにしてください。
注意点2.非正規雇用労働者にも資格手当は必要(同一労働同一賃金)
2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)から「パートタイム・有期雇用労働法」が施行され、無期雇用フルタイム労働者(いわゆる正社員)とパートタイム労働者や有期雇用労働者(いわゆる非正規雇用労働者)の不合理な待遇差は禁止されています。 不合理な待遇差の禁止が適用されるのは基本給や賞与だけではなく、通勤手当や資格手当などの各種手当も含まれます。
そのため、パートタイム労働者や契約社員のような非正規雇用労働者が対象資格を取得した場合でも、正社員と同等の資格手当を支給しなければなりません。
■参考記事;同一労働同一賃金の実現。2020年から本格的に見直される不合理な待遇差
注意点3.社内規定の整備が必要
資格手当を導入する際は、社内規定の見直しも必要です。規定が整備されていないと、業務に直接関係のない資格取得への対応や、資格を活かせない部署に異動した従業員などの待遇があいまいになってしまいます。 資格手当の目的や対象資格の種類、支給額・支給方法などを明確にして、規定に反映させましょう。
人材育成に役立つ制度・サービスを活用する
資格取得に限らず人材育成・キャリア形成に力を入れたい場合は、助成金制度や福利厚生サービスの導入もあわせて検討しましょう。
キャリアアップを支援する制度
中小企業を対象とした人材育成関連の助成金と自己啓発に取り組む従業員のための給付制度があります。キャリア形成促進助成金、キャリアアップ助成金と教育訓練給付制度です。
従業員の育成費用を助成するためのキャリア形成促進助成金、キャリアアップ助成金を利用すれば、訓練経費や職業訓練中の賃金について助成金が受けられます。
参考:人材開発支援助成金|厚生労働省
参考:キャリアアップ助成金|厚生労働省
また、教育訓練給付金を申請すれば、教育訓練受講に支払った費用の一部が支給されます*。自己啓発に取り組む従業員に案内してあげてください。 *厚生労働大臣の指定を受けた教育訓練に限る
カフェテリアプランという選択肢もある
従業員みずから、自分に必要な福利厚生のメニューを自発的に選択するカフェテリアプランを導入するのも一案です。
カフェテリアプランで採用する福利厚生メニューは、企業が独自に選びます。企業が従業員の人材育成に重点を置きたければ、自己啓発分野の補助を多く採用することができます。 また、特定の福利厚生メニューに対してポイント単価を優遇する優遇単価方式を採用することもできます。
自己啓発分野のメニューのポイント単価を優遇して、資格取得支援を充実させます。
■参考記事;カフェテリアプランとは?メリット・デメリットとおすすめの代行サービス
まとめ
生産年齢人口減少の時代にあって、資格取得に対して手当を支給することは経営資源の強化をもたらす。資格手当は、これからの時代に有効な投資。 資格手当の支給方法は、大きく2種類に分けられる。
- 資格手当(資格給)
- 合格報奨金(一時金)
主な対象資格と資格手当の相場は、以下。
<国家資格>
- 宅地建物取引士:10,000円〜30,000円
- 社会保険労務士:30,000円〜50,000円
- 中小企業診断士:10,000円〜30,000円
- 建築士 :8,000円〜50,000円
- 電気工事士 :1,000円〜10,000円
- 危険物取扱者 :1,000円〜3,000円
- 管理栄養士 :5,000円〜30,000円
<公的資格・民間資格>
- 日商簿記(2級以上):3,000円〜20,000円
- TOEIC :3,000円〜20,000円
- 秘書検定 :500円〜10,000円
- インテリアコーディネーター:5,000円〜10,000円
資格手当の導入メリットは、主に3つ。
- 個のスキルアップによる生産性の向上
- 従業員のモチベーション向上
- 企業イメージの向上
注意点は3つ。
- 人件費が増える(企業負担増)
- 非正規雇用労働者にも資格手当は必要(同一労働同一賃金)
- 社内規定の整備が必要
人材育成、自己啓発関連の助成金と給付制度。
- キャリア形成促進助成金
- キャリアアップ助成金
- 教育訓練給付制度
福利厚生制度の充実で、カフェテリアプランを導入するのも一案。 企業にとって人材は成長・競争力の源泉です。
優秀な人材の確保が難しくなってきている市場環境において、多くの企業は人材育成への投資を強化しはじめています。 限られた人材であっても生産性を向上させるため、自社に合った資格手当・福利厚生の形を考えましょう。