福利厚生のひとつ「ストックオプション」とは?仕組みやメリット、導入手順を徹底解説
ストックオプションとは、事前に定めた価格での自社株の購入と売却ができる権利を付与する制度です。優秀な人材の確保、業績向上などのメリットがあるため、注目を集めている福利厚生のひとつです。本記事ではストックオプションの仕組みやメリット・デメリットを解説します。
ストックオプションとは、事前に定めた価格での自社株の購入と売却ができる権利を付与する制度です。従業員のモチベーション向上や優秀な人材の確保、業績向上などのメリットを受けられることから、導入したい福利厚生としても注目されています。しかし、ストックオプションを有効的に活用するためには仕組みを正しく理解しなければなりません。本記事では、ストックオプションの意味や仕組み、メリット・デメリットを解説します。導入の流れも解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次[非表示]
- 1.ストックオプションとは
- 2.ストックオプションの仕組み
- 3.ストックオプションの種類
- 3.1.有償ストックオプションとは
- 3.2.無償ストックオプション
- 4.令和5年・6年に改正されたストックオプションの税制優遇措置とは
- 5.ストックオプションのメリット
- 5.1.従業員のモチベーションがアップする
- 5.2.従業員にとってリスクが少ない
- 5.3.優秀な人材の確保につながる
- 5.4.株式持分が回復できる
- 6.ストックオプションのデメリット
- 6.1.株価の下落で従業員のモチベーションが下がる
- 6.2.権利付与基準が不明確だと不満が生まれる
- 6.3.権利行使後に離職の恐れがある
- 6.4.既存株式の希薄が進むことがある
- 7.ストックオプションの導入に向いている企業
- 8.ストックオプション導入の流れと手続き
- 8.1.1.権利付与対象者・割当数などを決定する
- 8.2.2.株主総会決議で募集事項を決める
- 8.3.3.契約を締結する
- 8.4.4.新株予約権原簿を作成・登記申請・調書提出をおこなう
- 9.ストックオプション導入時の注意点
- 9.1.権利付与基準を明確に定める
- 9.2.株価が安い時期に発行しておく
- 9.3.発行数に上限を設定する
- 10.ストックオプションを正しく理解して導入を検討しよう
ストックオプションとは
ストックオプションとは、自社に勤務する役員や従業員が事前に定めた価格で一定期間内に一定数の自社株式を購入できる権利のことです。
役員・従業員は株価が高くなったときにストックオプションの権利を行使することで、株価上昇分の利益を得られます。
例として、「従業員は1株1,000円で購入できる」と定められていたケースで考えましょう。数年後に株価が2,000円に上がったとしても、「1株1,000円で購入できる」という約束があるため、従業員は2,000円ではなく1,000円で購入できます。また、株価が大きく上昇したことで従業員がストックオプションを利用(売却)すると、2,000円で購入した人より1,000円で購入した従業員のほうが大きな利益を得られることになります。
つまり、ストックオプションは自社株を安く買って高く売って大きな利益を得られる仕組みです。
ストックオプションと新株予約権の違い
ストックオプションと似た言葉に「新株予約権」があります。
新株予約権とは、一般投資家や企業が自社により事前に決められた価格で株式を取得できる権利のことです。株式の購入権利が付与される点はストックオプションと共通しており、ストックオプションは新株予約権の一種と言えます。
ストックオプションとの違いは、権利の付与対象です。ストックオプションは役員や従業員、社外の協力者を対象に付与します。一方、新株予約権はストックオプションの付与対象に加えて、一般投資家や企業も対象です。付与対象が限定されているか・いないかという点が異なっていることがわかります。
ストックオプションと従業員持株会の違い
「従業員持株会」もストックオプションと似た言葉のひとつです。
従業員持株会とは、従業員の定期的な自社株式の購入を支援する制度です。多くの企業では購入価格の給与控除、奨励金の支給などをおこない、株式を購入しやすくして財産形成を促進しています。
ストックオプションとの違いは、自社株の取得権利の対象者です。ストックオプションは権利を付与された人のみが取得できますが、従業員持株会の制度では自社内の人は誰でも申請して取得できます。
社内の人間が自社株を取得できることは共通していますが、取得権利者が異なることや制度の内容が異なることを覚えておきましょう。
ストックオプションの仕組み
ストックオプションの仕組みを簡単に説明すると、「自社株の利用権利を得た従業員が好きなタイミングで株を購入し権利を行使できる」ということです。
まず、企業と契約に同意した時点で従業員にはストックオプションの利用権が付与されます。
ここでのポイントは、すぐに権利の行使ができないことです。企業によって異なりますが、契約同意からある程度の時間が経ってから権利を行使できます。権利の行使に時間を要することで、株の利益を目的に入社して早期退職する人を防げます。
権利を行使できるようになったら、従業員の多くは自社株の価格が自社により事前に決められた価格より高くなった時点で購入し、権利を行使(売却)します。事前に決めた価格が1,000円で、自社株の価格が2,000円に上昇していれば従業員は1,000円の利益を得られます。
つまり、ストックオプションの仕組みは従業員が与えられた自社株の利用権を使って購入・売却し、利益を得られるということです。
ストックオプションの利用権が付与された従業員は、必ずしも権利を行使しなければならないわけではありません。株価が下がったときには権利を放棄できるため、従業員に損失が出る恐れは少ないです。
ストックオプションの種類
ストックオプションには様々な種類があります。本章では、「有償ストックオプション」「無償ストックオプション」に分けてご紹介します。
有償ストックオプションとは
有償ストックオプションとは、役員や従業員が自社に投資することで利用権を得られるものです。では、有償ストックオプションの詳細と、信託型ストックオプション・株式報酬型ストックオプション(1円ストックオプション)について解説します。
有償ストックオプション
有償ストックオプションとは、自社に定められた価格を支払ってストックオプションの利用権を得られるものです。権利を付与するためには、従業員にお金を支払ってもらう必要があります。
従業員にとってお金を支払わなければならないことはデメリットですが、権利を行使したときに課税されないことがメリットです。株式を売却したときにのみ国が定めた最大20%の税金を支払うことになります。
信託型ストックオプション
信託型ストックオプションとは有償ストックオプションのひとつで、信託に預ける制度です。発行した全員分のストックオプションを信託に預け、満了まで保管・管理をおこなう仕組みです。
満了となると、保管期間での従業員の業績貢献度などをもとにポイントを決め、ポイント数に応じてストックオプションを割り当てます。
企業にとってストックオプションの割当先を発行後に決められることがメリットですが、導入や運用にコストがかかることがデメリットです。
株式報酬型ストックオプション(1円ストックオプション)
株式報酬型ストックオプションは1円ストックオプションとも呼ばれる株式を報酬として支給する制度です。行使できる1円に設定することが特徴です。
権利を行使したときには、行使時の株価と同程度の利益を得られます。デメリットとしては、権利を行使したとき・株式を売却したときの両方で課税されることでしょう。
しかし、課税が最大25%と負担額が少ないため、課税を抑えるために退職所得として譲渡する(退職金制度として活用する)企業が多いです。
無償ストックオプション
無償ストックオプションは通常型ストックオプションとも呼ばれるもので、企業が役員や従業員に無償で権利を付与する仕組みのものです。
無償ストックオプションのデメリットは給与などと同じように所得税・住民税の対象になることです。そのデメリットを抑えるため、税制適格ストックオプションや非適格ストックオプションを採用することが多いです。
本章では、税制適格ストックオプション・非適格ストックオプションの仕組みや違いを解説します。
税制適格ストックオプション
税制適格ストックオプションとは、一定の税制上の要件を満たしたストックオプションの権利を無償で付与するものです。
税制適格ストックオプションの特徴は、権利行使時に所得税や住民税が課税されないことです。株式の売却までは課税対象となりません。売却して利益を得るまでは課税されず繰り延べされます。
ただし、税制適格ストックオプションの導入には租税特別措置法第29条の2の要件を満たす必要があります。
参考:国税庁「第29条の2((特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等))関係」
税制非適格ストックオプション
税制非適格ストックオプションとは、税制適格ストックオプションの要件に満たしていないもののことです。
税制非適格ストックオプションの特徴は、権利行使時に給与所得などで課税され、株式売却時には所得税・住民税で課税されることです。最大55%の給与所得課税、約20%の所得税・住民税がかかるため、支給される金額が少なくなる可能性があります。
令和5年・6年に改正されたストックオプションの税制優遇措置とは
令和5年の税制改正により税制適格ストックオプションの権利行使期間、令和6年には権利行使価格の限度額が変更されました。
権利行使期間の変更点は以下の通りです。
改正前 |
改正後 |
付与決議日後2年から10年経過するまで |
付与決議日後2年から15年経過するまで |
権利行使期間延長の対象となるのは設立から5年未満の非上場会社です。
権利行使価格の限度額の変更点は以下の通りです。
改正前 |
改正後 |
|
設立から5年未満の株式会社 |
1,200万円 |
1,200万円 |
設立から5年以上20年未満の株式会社かつ、 非上場会社たは上場から5年未満の上場企業 |
2,400万円 |
3,600万円 |
権利行使期間の延長・権利行使価格の限度額の上昇により、税制適格ストックオプションを導入しやすくなったと言えます。また、将来性や成長性も確保できるため、スタートアップ企業やベンチャー企業は上場しやすくなるとも言えるでしょう。
ストックオプションのメリット
ストックオプションを導入するメリットは以下の4つです。
- 従業員のモチベーションがアップする
- 従業員にとってリスクが少ない
- 優秀な人材の確保につながる
- 株式持分が回復できる
順に解説します。
従業員のモチベーションがアップする
1つ目のメリットは従業員のモチベーションがアップすることです。
自社が成長し業績がアップすると、株価の上昇につながります。株価が上昇するほどストックオプションで得られる利益が増えるため、従業員の「自社を成長させたい」という気持ちがあらわれやすく、モチベーション高く仕事に取り組むことが期待できます。
従業員にとって自社の業績向上は実感がわかないものです。株価の上昇で自社が評価されて価値が上がったと目に見えることでも、仕事に対するモチベーションアップにつながるでしょう。
従業員にとってリスクが少ない
2つ目のメリットは従業員にとってリスクが少ないことです。
自己資金でおこなう投資は株価下落により損失が生まれます。しかし、ストックオプションは株価が下落しても権利を行使しなければ従業員に影響を与えません。
通常の投資と異なり損失が生まれづらいうえ、資産運用をおこなえることはメリットだと言えるでしょう。
優秀な人材の確保につながる
3つ目のメリットは優秀な人材の確保につながることです。
ストックオプションの導入により、将来インセンティブ(利益)を得られることを社外にアピールできます。特に「企業を成長させたい」と意欲的な人材に対するアピール材料となるため、優秀な人材を確保しやすくなります。
また、ストックオプションの権利行使前の退職は利益を得られないことになるため、入社した優秀な人材の流出も防げるでしょう。
株式持分が回復できる
4つ目のメリットは株式持分が回復できることです。
上場後に多くの株式を発行した場合、経営者の持株比率が低下し経営の自由度が下がってしまいます。例えば、持株比率が66.6%を超えていれば株主総会での特別決議を単独で可決できますが、持株比率が1%超だと議案提出権のみ与えられることになります。そのため、迅速な意思決定が難しくなると言えるでしょう。
経営者にストックオプションを付与すれば低価格で株式を購入できるため、持株比率を高められます。株式持分を回復し、リスクを回避できるのは大きなメリットでしょう。
ストックオプションのデメリット
ストックオプションにはメリットがある一方、以下4つのデメリットがあります。
- 株価の下落で従業員のモチベーションが下がる
- 権利付与基準が不明確だと不満が生まれる
- 権利行使後に離職の恐れがある
- 既存株式の希薄が進むことがある
順に解説します。
株価の下落で従業員のモチベーションが下がる
1つ目のデメリットは株価の下落で従業員のモチベーションが下がることです。
どのような企業でも業績が悪化して株価が下がる可能性があります。また、株価は常に変動するため、下落するリスクは避けられないとも言えるでしょう。
しかし、株価が下落すると、ストックオプションによる利益が目的で入社した役員や従業員の仕事に対するモチベーションが下がることがあります。モチベーションの低下は生産性や業績が下がることにもつながるため、デメリットだと言えます。
権利付与基準が不明確だと不満が生まれる
2つ目のデメリットは権利付与基準が不明確だと不満が生まれる可能性があることです。
一部の役員・従業員に権利を付与する場合、付与される基準が明確でないと「なぜ自分には付与されないのか」と不満を覚え、権利を付与されている従業員とそうでない従業員の関係が悪化する恐れがあります。スムーズなコミュニケーションが取れず、業務に支障がでることもあるでしょう。
待遇の格差だと感じられないように、勤続年数、自社への貢献度など権利付与基準を明確にしなければなりません。
権利行使後に離職の恐れがある
3つ目のデメリットは権利行使後に離職の恐れがあることです。
ストックオプション制度を大きくアピールして人材を確保した場合、ストックオプションを目的に入社する人が増える可能性があります。そのため、権利を行使して多くの利益を得た後に仕事へのモチベーションが低下し、離職する恐れが考えられます。
この事態を防ぐために、「権利付与から一定期間経過しないと行使できない」「権利付与から一定期間ごとに株式の割合が増える」など、ストックオプションの取得と行使を限定する条項の制定を検討しましょう。
既存株式の希薄が進むことがある
4つ目のデメリットは既存株式の希薄が進むことがあることです。
ストックオプションの権利付与の比率は自社で定められます。そのため、権利を付与しすぎると1株あたりの価値が低下したり、上場後の株価が下落したりする可能性があります。
既存株式の希薄化が進めば、株主が自社から離れる恐れもあるでしょう。
多くの企業では、全株式のうちストックオプションの割合は10%程度に抑えることが多いです。専門家に相談するなどして、割合は慎重に決定しましょう。
ストックオプションの導入に向いている企業
ストックオプションの導入に向いているのは、上場企業や上場を目指す企業です。
株式会社東京証券取引所によるとストックオプションの導入企業について、上場企業は29.3%が導入していると明らかになっています。約3社に1社が導入しているのは、ストックオプションにより優秀な人材の確保やモチベーションの向上などが期待できるからだと考えられます。そのため、採用面や生産性などに課題を抱える上場企業はストックオプションの導入に向いていると言えるでしょう。
また、ベンチャー企業(グロース市場)の79.7%がストックオプションを導入していることもわかっています。令和5年・6年に税制が改正されたことでベンチャー企業も制度を導入しやすくなっていることが理由でしょう。「企業価値をアップすることに意欲の高い優秀な人材を確保したい」「株主と利害を共有したい」「成果に対するインセンティブを明確化したい」などと考えるベンチャー企業はストックオプションの導入に向いています。
参考:株式会社東京証券取引所「コーポレート・ガバナンス白書」
ストックオプション導入の流れと手続き
ストックオプション導入の流れは以下の通りです。
- 権利付与対象者・割当数などを決定する
- 株主総会決議で募集事項を決める
- 契約を締結する
- 新株予約権原簿を作成・登記申請・調書提出をおこなう
必要な手続きも併せて解説します。
1.権利付与対象者・割当数などを決定する
はじめに、社内で権利付与対象者や発行するストックオプション数、割当数、その他条件などを決めておきます。
これらの要件は採用活動や従業員のモチベーションなど企業に大きな影響を与えるため、専門家や他社の事例なども参考にして決めることが大切です。
2.株主総会決議で募集事項を決める
次に、社内で検討した要件をもとに株主総会決議で募集事項を決めます。必要な内容は以下の通りです。
- 発行日・内容・数
- 無償・有償のどちらか
- 権利行使期間
- 権利行使価格
- 割当日
有償ストックオプションの場合は払込金額または算定方法も定めます。
定款や法律に則って、公開会社であれば原則取締役会、非公開会社であれば株主総会で決議しなければなりません。
3.契約を締結する
次に権利付与対象者と契約を締結します。
付与対象者や割当数が決定している場合は、総額引受方式を活用して手続きを省略することも可能です。
4.新株予約権原簿を作成・登記申請・調書提出をおこなう
次に、新株予約権原簿を作成します。権利を付与する人の氏名と住所、所有するストックオプションの数と内容を必ず記載しましょう。
ストックオプションの発行後は割当日から2週間以内に自社の登記簿の変更をおこないましょう。2週間以内におこなえないと制裁金の支払いが必要になる場合があるため、注意が必要です。
税制適格ストックオプションを導入する場合は、権利を付与する人の氏名などを記載した調書を所轄税務署に提出します。税制優遇措置を受けられるよう、必ず提出しましょう。
ストックオプション導入時の注意点
ストックオプション導入時には以下3つの点に注意しなければなりません。
- 権利付与基準を明確に定める
- 株価が安い時期に発行しておく
- 発行数に上限を設定する
順に解説します。
権利付与基準を明確に定める
1つ目に、権利付与基準を明確に定めておきましょう。
勤続年数、自社への貢献度など権利付与基準を明確にして客観的に見て納得できる条件を定めることが重要です。
従業員間で不満が生まれないように慎重に検討し、基準決定後は周知することを忘れないようにしましょう。
株価が安い時期に発行しておく
2つ目の注意点は株価が安い時期に発行しておくことです。
株価が安い時期に発行しておくことで、株価上昇時に権利を行使した従業員はより多くの利益を得られます。ストックオプションを有効的なものにして、制度導入のメリットを受けられるように株価が低価格なうちに発行するといいでしょう。
また、資金調達で増資を検討している場合には株式の発行は避けることが賢明です。増資前後には株価が大きく変動する傾向があります。従業員が期待する利益を得られず、制度導入のメリットも少なくなるため、増資前に発行するようにしましょう。
発行数に上限を設定する
3つ目の注意点は発行数に上限を設定しておくことです。
多くのストックオプションを発行すると、既存株式が希薄化する恐れがあります。そのため、一般的な発行数である全株式の10%程度に抑えることが重要です。
ストックオプションの発行数に上限は決められていません。社内で慎重に検討し、既存株式の希薄化が進まないようにしましょう。
ストックオプションを正しく理解して導入を検討しよう
ストックオプションの導入には、従業員のモチベーションアップや優秀な人材の確保、株式持分の回復などさまざまなメリットがあります。
しかし、ストックオプションの仕組みや種類などを正しく理解していないと上手く活用できないうえ、悪影響を及ぼす可能性があります。
本記事を参考にストックオプションを正しく理解し、導入を検討してみてください。