
サーベイとは?種類やメリット・デメリット、実施のポイントと注意点
人事担当者にとって、従業員の声を拾い上げ、組織をより良くしていくことは欠かせない役割の一つです。
そこで注目されているのが「サーベイ」という手法です。
サーベイとは何か、どんな種類があるのか、そして効果的に活用するにはどうすればよいのか。
この記事では、企業におけるサーベイ活用の基本から実践のポイントまでを詳しく解説します。
目次[非表示]
- 1.サーベイとは?
- 1.1.サーベイの定義
- 1.2.サーベイの目的
- 1.3.サーベイとアンケートの違い
- 1.4.サーベイとリサーチの違い
- 2.企業で行われる主なサーベイ9選
- 2.1.従業員サーベイ(ES調査)
- 2.2.パルスサーベイ
- 2.3.エンゲージメントサーベイ
- 2.4.モラールサーベイ
- 2.5.組織サーベイ(組織診断)
- 2.6.アセスメントサーベイ(適性・スキル診断)
- 2.7.コンプライアンス意識調査
- 2.8.ストレスチェック(法定)
- 2.9.360度フィードバック
- 3.サーベイを行うメリット・デメリット
- 3.1. メリット1.課題の早期特定と優先順位づけ
- 3.2. メリット2.従業員エンゲージメントの向上
- 3.3. メリット3.施策の効果検証が可能になる
- 3.4. デメリット1.回答負担による反発を招く可能性がある
- 3.5.デメリット2.実施後にアクションがないと不満を生む
- 3.6.デメリット3.回答にバイアスがかかる可能性も
- 4.効果的なサーベイ運用の4つの視点
- 4.1.1.目的とKPIを明確に設定する
- 4.2.2.実施後は速やかにフィードバックし、改善アクションへ
- 4.3.3.専任体制を整え、四半期でPDCAを回す
- 4.4.4.経営層の巻き込みで組織全体の納得感を高める
- 5. サーベイを実施する際の注意点
- 5.1.従業員に事前説明を行い、理解を得る
- 5.2.従業員の負担を考慮して設計する
- 5.3.匿名性を確保する
- 5.4.適切な回答期間を設定する
- 6.サーベイを効果的に活用して組織力の向上につなげましょう
サーベイとは?
従業員エンゲージメントの低下や離職率の上昇が課題となる今、データドリブンで課題を特定できる「サーベイ」が注目されています。
人事にとっては重要な手法である一方、「アンケート」や「リサーチ」との違いが曖昧なまま活用されているケースも少なくありません。
はじめに、サーベイの定義・目的・他手法との違いを明確にし、実務に活かせる視点を整理します。
サーベイの定義
サーベイとは、「特定の対象から情報を収集・分析し、現状を可視化する調査手法」です。
単なる意見収集ではなく、課題仮説を検証し、具体的なアクションにつなげることを目的とします。
人事領域における代表的なサーベイは、以下の通りです。
サーベイの種類 |
概要 |
---|---|
従業員満足度(ES)調査 |
福利厚生や職場環境に対する満足度を把握 |
エンゲージメント調査 |
組織・仕事への貢献意欲や信頼度を可視化 |
パルスサーベイ |
月次・週次など高頻度で行う簡易調査 |
360度評価 |
上司・同僚・部下など多方面からの評価を収集 |
サーベイの目的
サーベイの主な目的は、組織課題の「見える化」と「施策の優先順位づけ」です。
さらに、実施によって次のような効果が期待できます:
- 早期警戒:離職兆候やメンタル不調のサインを早期に察知
- 施策評価:導入済み施策の効果やROIを定量的に把握
- 信頼構築:従業員の声を継続的に聞く姿勢が、エンゲージメント向上につながる
サーベイとアンケートの違い
サーベイとアンケートは形式こそ似ていますが、目的や設計思想に大きな違いがあります。
項目 |
アンケート |
サーベイ |
---|---|---|
目的 |
意見・感想の収集 |
組織課題の特定と施策立案 |
設計 |
シンプルな設問で実施 |
仮説ベースで統計的に設計 |
分析 |
単純集計が中心 |
クロス集計や回帰分析も活用 |
活用 |
レポート作成で終わることが多い |
アクションにつなげ、改善サイクルを回す |
サーベイとリサーチの違い
「リサーチ」は探索的・記述的・因果的など、幅広い調査活動を含む概念です。
一方「サーベイ」は、標本抽出 → 設問設計 → 回答収集 → 統計解析というプロセスに特化した、より実践的で戦略的な手法です。
現場のリアルな声を定量的に可視化し、課題を構造的に捉えて打ち手に落とし込める点が、サーベイの強みです。
企業で行われる主なサーベイ9選
もはや、離職率の抑制やエンゲージメント向上を“勘と経験”だけに頼る時代ではありません。
組織課題を可視化し、根拠のある意思決定を行うために、目的別に設計された各種サーベイが活用されています。
ここでは代表的な9つのサーベイを、「目的」「実施頻度」「主なアウトプット」の3軸で整理し、実践イメージとともに紹介します。
従業員サーベイ(ES調査)
- 目的:職場環境や業務に対する満足度を把握し、改善の起点とする
- 特徴:年1回程度の定期実施/設問数は多め/全社的に網羅
- 活用例:スコアの低い部門に対し、業務改善策や面談機会を優先的に導入
※初めてサーベイを導入する企業で最も多く使われる基本形です。
パルスサーベイ
- 目的:従業員のコンディションや空気感をリアルタイムに把握
- 特徴:1〜4週間ごとの高頻度/設問数は3〜5問程度/回答1分以内
- 活用例:変化の兆しが見える部署に対して、面談や配置転換の判断材料として使用
※変化の「早期キャッチ」ができるため、離職防止や現場支援に強い。
►パルスサーベイの詳細:「パルスサーベイとは?実施のメリット・デメリットや手順、注意点 」
エンゲージメントサーベイ
- 目的:「貢献意欲」「信頼」「共感」などの定量化
- 特徴:eNPSやEXスコアなどの指標を用いて継続的に追跡可能
- 活用例:スコアの低いチームに対し、マネジメント研修や評価制度の見直しを検討
※「働きがい」や「やる気」を可視化し、人材流出の兆候を捉える指標として有効です。
►エンゲージメントサーベイの詳細:「エンゲージメントサーベイとは?成果につながる設計・活用法まで徹底解説 」
モラールサーベイ
- 目的:一時的なモチベーションや士気の変化を把握
- 特徴:繁忙期やプロジェクトの節目など短期で実施/設問数は少なめ
- 活用例:一時的に士気が低下した部署に報奨や目標の見直しを行う
※一過性の課題を素早くキャッチし、フォロー施策を早期に打つ際に有効。
組織サーベイ(組織診断)
- 目的:組織全体の健康状態や構造的な課題を多面的に分析
- 特徴:ES調査・エンゲージメント・モラール・コンプライアンスを統合的にカバー
- 活用例:クロス集計を通じて部門間のギャップや構造課題を発見し、中長期の改善計画を策定
※経営レベルでの組織戦略に活用される、総合型サーベイです。
アセスメントサーベイ(適性・スキル診断)
- 目的:従業員の能力・適性を可視化し、人材配置や育成に活かす
- 特徴:スキルギャップ・職務適合性・成長可能性を数値化
- 活用例:適材適所の配置転換/強みを活かしたキャリア設計/次世代リーダーの発掘
※新卒・中途採用後の配属検討や、リスキル支援にも活用されます。
コンプライアンス意識調査
- 目的:法令遵守・ハラスメント・情報管理などに対する意識をチェック
- 特徴:リスク予防を目的に、匿名・定量で実施/年1回が一般的
- 活用例:スコアの低い部門に対し、研修や規定見直しの根拠として活用
※「問題が起きてから」ではなく、「兆候を見つけて先手を打つ」ための調査。
ストレスチェック(法定)
- 目的:メンタルヘルス不調を早期に察知し、対策を講じる
- 特徴:労働安全衛生法により年1回実施が義務化/個人結果は非開示・集団分析中心
- 活用例:高ストレス部署の環境見直し(例:業務量調整・人間関係の改善)
※義務調査として実施されるが、職場改善に役立てることで実効性が高まります。
360度フィードバック
- 目的:上司・同僚・部下など多面的な視点でリーダーの行動を評価
- 特徴:匿名・複数視点の評価が基本/自己認識とのギャップも明らかに
- 活用例:マネージャー層の育成支援やコーチング設計の材料に
※“自分を知る”ためのツールとして、管理職や次世代リーダーの育成に有効です。
サーベイを行うメリット・デメリット
サーベイは、従業員の声を可視化し、組織課題を特定・改善につなげる有効な手段です。
一方で、設計や運用を誤ると「やって終わり」や「逆効果」に終わる可能性もあります。
ここでは、サーベイの導入を検討するうえで知っておきたい代表的なメリットとリスクを整理します。
メリット1.課題の早期特定と優先順位づけ
従業員満足度や業務負担などを定量的に把握することで、属人的な判断に頼らず課題を特定できます。
例:部門別の満足度スコアを可視化し、離職リスクが高い部署に優先して施策を打つなど、改善の方向性を数値に基づいて決められます。
メリット2.従業員エンゲージメントの向上
サーベイを通じて「声を拾い」「改善に反映する」流れをつくることで、従業員は「自分たちの声が組織を動かしている」と実感できます。
その結果、従業員推奨度スコア(eNPS)が改善した企業もあります。
このようなアクションループが信頼を生み、定着率やモチベーションの向上にもつながります。
メリット3.施策の効果検証が可能になる
サーベイを施策のBefore/Afterで実施することで、取り組みの成果を数値で確認できます。
たとえば、フレックス制度の導入前後でエンゲージメントスコアを比較すれば、制度のROI(費用対効果)を可視化できます。
このように、データに基づいてPDCAを回せる点も、サーベイならではの強みです。
デメリット1.回答負担による反発を招く可能性がある
サーベイは、従業員にとって業務の合間に回答する負担となる場合があります。
設問数が多すぎたり、回答の意義が伝わっていなかったりすると、反発を招き、回答率や回答の質が下がるリスクがあります。
行う目的を事前に説明し、協力を得る工夫が必要です。
デメリット2.実施後にアクションがないと不満を生む
サーベイを実施しても、結果を放置したり、改善活動につなげなかったりすると、従業員の不満を招きます。
「せっかく答えたのに何も変わらない」という失望感から、組織への信頼低下につながるおそれがあります。
サーベイ後は必ず具体的なアクションを行うことが重要です。
デメリット3.回答にバイアスがかかる可能性も
たとえば、上司が同席していた、本人特定が可能だった、設問が誘導的だった――
といったケースでは、サーベイの回答にバイアスが生じるおそれがあります。
そのため、設問設計では中立性を意識し、匿名性の確保や自由記述の導入も検討しましょう。
効果的なサーベイ運用の4つの視点
従業員サーベイを単なるアンケートで終わらせず、組織改善の起点とするためには、以下の4つの視点を押さえることが重要です。
- 目的とKPIの明確化
- 実施後のフィードバックと改善アクション
- 専任体制による継続運用
- 経営層の巻き込みと全社浸透
それぞれのステップで何を意識すべきか、順を追って解説します。
1.目的とKPIを明確に設定する
サーベイは「実施すること」自体が目的ではなく、組織課題を解決するための手段です。
そのため、まずは
SMART(Specific:具体的、Measurable:測定可能、Achievable:達成可能、Relevant:関連性、Time-bound:期限)
に則った目的を設定し、それに対応する達成指標(KPI)も明確に定めましょう。
例:
- 目的:離職率を半年で3ポイント改善する
- KPI:eNPS +10ポイント、エンゲージメントスコアの部門間ギャップを30%縮小
2.実施後は速やかにフィードバックし、改善アクションへ
サーベイの実施後は、結果の共有 → アクションプランの提示 → 進捗管理までがワンセットです。
従業員の信頼を維持・高めるには、「答えて終わり」にしない運用が不可欠です。
運用例:
- 結果共有:実施から2週間以内に、Slackと全社会議などで報告
- アクション策定:上位3つの課題に対して、90日以内のアクションプランを提示
- 進捗報告:月1回の管理職ミーティングで進捗をレビュー
3.専任体制を整え、四半期でPDCAを回す
サーベイの定着と効果検証には、継続的に回す体制づくりが鍵となります。
単発の対応では意味がなく、データ分析〜改善施策〜再サーベイの四半期サイクル運用が理想です。
運用体制の例:
- 推進担当:人事アナリスト+部門リーダーの横断チーム
- 定着目安:回答率80%以上/部門別スコアの前年対比改善
- 運用支援:Power BIなどで自動ダッシュボード化+レポート配信
4.経営層の巻き込みで組織全体の納得感を高める
サーベイを「組織全体の取り組み」として認識してもらうには、経営層の理解と主体的な発信が不可欠です。
上層部が明確なメッセージを打ち出すことで、現場にも本気度が伝わり、取り組みへの姿勢に好影響を与えます。
巻き込み方の例:
-
初回報告:経営会議で15分間の説明を実施。
離職防止によるROI(例:コスト削減額1,200万円)も併せて提示 - メッセージ発信:代表からの動画メッセージをイントラや社内メールで配信
- 定期レビュー:半年に一度、経営層向けの改善進捗報告会を開催
サーベイを実施する際の注意点
サーベイを効果的に活用するには、設計や実施の段階でいくつかの落とし穴を避ける必要があります。
せっかく集めたデータを無駄にしないためにも、実施時の配慮や従業員との信頼関係づくりが重要です。
ここでは、サーベイを実施する際に気をつけたい主な注意点をご紹介します。
従業員に事前説明を行い、理解を得る
サーベイを実施する前に、従業員へ目的や意義を丁寧に説明しましょう。
十分な説明がないと、回答へのモチベーションが下がり、信頼できるデータが集まりにくくなります。
従業員に「自分ごと」として捉えてもらうためにも、事前の周知は欠かせません。
従業員の負担を考慮して設計する
サーベイは、設問数や実施頻度によって従業員に負担をかける可能性があります。
必要な情報に絞った設問設計や、業務の繁忙期を避けた実施スケジュールを心がけましょう。
回答しやすい環境を整えることで、協力的な態度を引き出せます。
匿名性を確保する
従業員が本音で回答できるよう、匿名で実施するのが基本です。
記名式では、「評価に影響するのでは」という不安から正直な回答が得られにくくなります。
匿名性を保証すると、より率直で有益な意見を集められます。
適切な回答期間を設定する
回答期間が短すぎると、従業員の負担が増え、適当な回答が増えるリスクがあります。
業務の状況を考慮し、余裕を持ったスケジュールを設定しましょう。
あわせて、回答の締め切りを周知し、適切なタイミングでリマインドを行うことも効果的です。
サーベイを効果的に活用して組織力の向上につなげましょう
この記事では、サーベイの意味やアンケートとの違い、企業で使われる主な種類、実施のメリットや注意点を紹介しました。
サーベイは、従業員の声をすくい上げ、組織をよりよくするための大切な手段です。
実施するだけで満足せず、目的を明確にし、結果を活かすことが成功のポイントです。組織づくりにサーベイを上手に役立てていきましょう