
テレワーク廃止の背景とは?世界と日本の企業の現状、今後の働き方
新型コロナウイルス感染症の流行を機に、急速に普及したテレワークですが、コロナ禍が収束した後は、テレワークを廃止する企業も出てきました。
海外の大手IT企業では、出社義務化に踏み切る事例も見られます。
この記事では、世界と日本のテレワーク事情を踏まえ、なぜ今テレワークを廃止・縮小する動きが見られるのかを多角的に整理します。
そのうえで、これからの時代、企業がどのような働き方を選択すべきか考察していきます。
目次[非表示]
世界と日本で進む「テレワーク廃止・縮小」と継続の二極化
まずは、世界と日本におけるテレワークの導入状況を確認し、それぞれの特徴や動向を探ります。
世界のテレワークの現状
世界的にはコロナ禍をきっかけに、IT業界を中心にテレワークの普及が進みました。しかし、パンデミック後2023年以降の対応は国や企業によって分かれています。
特に欧米では、パンデミックによる行動制限の緩和後、出社方針へ回帰する企業が増加傾向にあります。
たとえば、Amazon AWSは週5日、Starbucks(コーポレート部門)は週4日のオフィス出社を義務付けています。(参考:news.com) 、(参考:BUSINESS INSIDER)
この背景には、生産性やイノベーション創出の最大化があり、一度は撤退したオフィスを再び構える動きをする企業もあります。
一方で、すべての企業が完全な出社回帰を選んでいるわけでもありません。
週の数日を在宅勤務とする「ハイブリッドワーク」のように、柔軟な働き方を続ける企業も多く存在します。
たとえば、MicrosoftやGoogleは、ハイブリッドワークを公表しています。(参考:COMPT)
まさに、「出社」と「柔軟な働き方」という2つの流れが同時に存在し、どの企業も自社に適切な働き方を模索しているのが現状です。
日本のテレワークの現状
日本でもコロナ禍がきっかけで、多くの企業がテレワークを導入しました。
そしてコロナ禍が落ち着きを見せると、出社回帰の動きが顕著になっています。
2023年5月の「5類」への変更以降、上図の様に、公益財団法人日本生産性本部の調査では、31.5%から2025年1月時点では、14.6%と16.9%減少しています。
特に顧客や取引先との対面関係を重んじる業種や、チームワークの一体感を重視する企業では、テレワークを廃止する方針を掲げる傾向が見られます。
一方で、優秀な人材の確保や従業員の通勤負担軽減を目的として、ハイブリッドワークを維持する企業も存在します。
たとえば、ぐるなびや富士通、NECなどが実施しています。(参考:TUNAG「ハイブリットワークとは」)
今後は、こうした柔軟な働き方をいかに効果的に運用するかが、企業の競争力に影響を与えるかもしれません。
企業がテレワークを「廃止・縮小」する主な4つの背景
従業員からの支持が厚い一方で、企業側がテレワークを廃止・縮小する背景には、生産性やコミュニケーションに関する課題など、いくつかの要因が挙げられます。
①生産性・イノベーション低下への懸念
オンラインでは何気ない雑談や偶発的なアイデアの交換が生まれにくく、イノベーションの機会が失われることを懸念する企業は多いです。
従業員同士が対面で顔を合わせると、意思決定のスピードが上がり、従業員同士がお互いの業務状況を把握しやすくなります。
こうした理由から、生産性向上を追求する経営陣が出社回帰を推進しています。
実際に、公益財団法人日本生産性本部が実施した調査に於いて、管理職が回答したテレワークによる『職場の仕事効率』について、以下の通りで半数以上が変化を感じていませんでした。
- 変化ない:50.7%
- 下がった:17.5%
- 上がった:31.8%
この結果から、職場の生産性が上がると感じている管理職が少ないく、この点がテレワーク廃止の背景の一つとなっていることが示唆されます。
②コミュニケーションの難しさ
オンライン会議やチャットでも業務連絡は可能ですが、言葉以外のニュアンスや相手の状況を汲み取るには、対面でのやりとりが有効です。
対面では、表情やジェスチャー、声のトーンといった非言語情報から相手の意図や感情をより正確に把握でき、認識のズレが生じにくいという利点があります。
例えば、新しいプロジェクトの立ち上げ場面では、「リアルタイムの反応を見ながら意見を出し合うことで新たなアイデアが生まれる」と考える企業も少なくありません。
また、テレワークによって生じたコミュニケーションの質の低下が、モチベーション維持を難しくさせるとも言われています。
これは、オンラインでは周囲の状況が見えにくく、孤立感や疎外感を抱きやすくなるためです。
さらに、気軽な相談やフィードバックの機会が減ることで、業務への貢献実感が薄れたり、課題を抱え込みやすくなったりすることも、モチベーション低下の一因となり得ます。
③労務・評価・コンプライアンス管理の難易度
テレワークのメリットである「自由な働き方」は、裏を返せば管理者が従業員の稼働状況を把握しにくいというデメリットにもなります。
そのため、勤務時間や業務内容を明確化する目的で、出社を基本とする企業も見受けられます。
さらに、テレワーク環境下では、こういった労務管理の不透明さが"さぼる"に繋がり、従業員、管理職ともにストレスになることもあります。
こうした労務管理の難しさから、テレワークを廃止することもあります。
対処法を含めて、次の記事も併せてご覧ください「テレワーク中の従業員がさぼる原因は?生産性向上につながる防止策」
④情報セキュリティとコスト
セキュリティ対策が不十分なPCやネットワーク環境でテレワークを行うと、情報漏洩のリスクが高まります。
また、テレワークを行う従業員によっては家族や同居人がいる環境で業務を行うこともあるため、そうした人に機密情報を見られてしまう可能性もあります。
独立行政法人情報処理推進機構の情報セキュリティ脅威に関する選考結果では、テレワークなどを狙った攻撃が4年連続でランクインました。
分散環境を狙う攻撃が定常化していることを危惧している専門家が多数いて、テレワークの情報セキュリティリスクが高いことが分かるかと思います。
こうしたセキュリティリスクへの対策を従業員ごとに行うのは大変なので、テレワークを廃止して職場で一括管理したいと考える企業も多いです。
従業員はなぜテレワークを支持するのか?
多くの従業員はテレワークを肯定的に捉えているため、テレワークを続けることを望んでいます。
求人サイトの調査でも、求職者のテレワークへの関心は依然として高く、経験者の大半がそのメリットを実感しています。
具体的には、Indeed上では、リモートワークに関する検索数が2025年3月時点で、コロナ禍前の2019年3月と比較して6年間で2.9倍に増加していると公開されています。
(参考:indeed「リモートワークに関する仕事検索動向を調査」)
では、なぜテレワークが従業員からの指示を集めているのか、1つずつ見ていきましょう。
通勤時間の削減とワークライフバランスの向上が実現できる
ワークライフバランスが向上する大きな要因は、通勤時間の削減です。
満員電車でのストレスから解放され、その時間を家族との交流や自己学習、趣味や休息などにあてられることは、心身のゆとりにつながります。
これにより、従業員はより充実した私生活を送れるようになります。
実際、エフアンドエムネット株式会社のテレワーク調査結果が、PRTIMESに掲載されていました。
テレワーク実施者300名への調査で「最大のメリットは通勤時間・移動時間の削減」が60%の回答で最多となっています。
加えて、72.3%がワークライフバランスが良くなったと回答しています。
(参考:PRTIMES「【2024年】テレワーク実施企業の現状調査|従業員の声から見えた課題とは」)
こうしたデータから、コロナ禍で一度経験した従業員は、多くの方々がこのメリットを感じ、テレワークを支持しています。
育児や介護との両立ができる
自宅で業務を行うことで、育児や介護と仕事を両立しやすくなる点も、従業員にとって大きなメリットです。
キャリアを諦めることなく家庭と両立できる環境は、従業員の定着率向上にも寄与します。
こちらは、株式会社ビースタイルホールディングスが出しているリリースで、主婦・主夫層746人調査で、より根拠が強くなっています。
こちらのアンケート結果では、「育児と仕事の両立は難しい」と感じている人であっても、58.1%が在宅勤務によって両立がしやすくなると回答しています。
(参考:PRTIMES「在宅勤務で“育児と仕事”は両立しやすくなると「思う」57.0%/法改正で在宅勤務の努力義務化「知らなかった」74.1%」)
業務に集中しやすく生産性向上が期待できる
オフィスでの突然の会話や割り込みが減ることで、自宅で自分のペースで集中して業務に取り組めるようになります。
静かな環境がかえって生産性を向上させたと感じる従業員は少なくありません。
こちらも、エフアンドエムネット株式会社のテレワーク調査結果で、多くの方がこちらの点を感じ指示していることがわかります。
「テレワークの方が効率的」と感じる従業員は46.0%で、「集中しやすい」が理由の1位(45.7%)となった。
(参考:PRTIMES「【2024年】テレワーク実施企業の現状調査|従業員の声から見えた課題とは」)
テレワーク廃止がもたらす企業のデメリット
テレワークの廃止は、コミュニケーション改善などのメリットが期待できる一方、新たな課題を生む可能性もあります。
ここでは、特に懸念されるデメリットを整理してみましょう。
従業員エンゲージメントの低下と人材流出
完全出社への切り替えによって通勤負担が増え、従業員が自由な働き方を失うことで士気が低下するリスクがあります。
柔軟な働き方を重視する優秀な人材が、より働きやすい環境を求めて転職を検討する可能性も高まり、結果として組織全体の競争力低下につながりかねません。
離職率の上昇と時短勤務者の増加
オフィスへの出社が必須になることで、これまでテレワークで仕事と両立してきた育児や介護を担う従業員が、働き続けること自体を困難に感じるようになります。
その結果、優秀な人材がキャリアの継続を諦めて離職を選ぶケースや、通勤負担の増大を理由に時短勤務へ切り替える従業員の増加が懸念されます。
これは企業にとって、単に貴重な人材を失うだけでなく、組織全体の総労働時間が減少するデメリットもあります。
BCP対策の後退
BCP対策とは、企業が自然災害や事故などの緊急事態に遭遇したときに、事業を継続したり早期復旧したりするための計画を立て、実行することです。
テレワークは災害やパンデミックといった不測の事態が発生した際にも事業を止めないための、有効なBCP(事業継続計画)の一環として機能していました。
フル出社に回帰することは、このBCP対策が後退し、非常時の事業継続力が低下するリスクを意味します。
オフィス維持コストの増大
テレワークを取り入れていた企業の中には、オフィススペースの縮小やフリーアドレス制の導入などにより、固定費を削減していた企業もあります。
フル出社へ転換すると、再び広い執務スペースや固定自席の確保が必要になり、オフィスにかかる賃料や設備投資が膨らむ懸念があります。
こうしたコスト増をどのように吸収するかは、企業にとって経営判断の大きな課題となるでしょう。
テレワーク廃止の前に検討すべきこと
テレワークを完全に廃止する決断は、企業にとって大きな影響を及ぼします。
従業員のモチベーションや生産性、さらには人材確保の面でも、予期せぬデメリットが生じる可能性があります。
性急な判断を下す前に、自社に合った働き方とは何かを検討し、柔軟な選択肢を模索することが重要です。
ハイブリッドワークの導入
完全にテレワークをやめるのではなく、出社と在宅を組み合わせる「ハイブリッドワーク」を導入することで、生産性と柔軟性の両立が期待できます。
例えば、「週2日はオフィスに出社して対面ミーティングを行い、残りは在宅勤務を許可する」といった形です。
こうした仕組みによって、コミュニケーション不足やセキュリティリスクといった課題に対応しつつ、従業員満足度の向上も実現しやすくなります。
生産性向上と従業員エンゲージメントの両立
働き方が多様化している現代、従業員のニーズや不満は表面化しにくくなっています。
生産性向上と従業員エンゲージメントを両立させるには、成果で評価する仕組みや、働き方の実態に合わせた柔軟な評価基準を設けることが効果的です。
そのためには、定期的なアンケート調査や面談を通じて従業員の声を積極的に収集し、勤務形態に対する満足度や課題を把握する体制が欠かせません。
アンケートを活用することで、個々の従業員が感じている細かな課題や改善要望を可視化し、制度設計や運用改善に反映させることが可能になります。
また、テレワークを円滑に進めるためには、適切なコミュニケーションツールや業務管理ツールへの投資も重要です。
1on1ミーティングやチーム全体での定例会議などの、定期的なオンラインでの対話の機会を設けることで、孤独感や不安感を軽減する配慮も求められます。
「テレワーク廃止」を決断する際は慎重に検討しよう
テレワーク廃止の動きには、生産性やコミュニケーションの向上を狙う企業側の思惑と、柔軟な働き方を重視する従業員側との間に明確な温度差が見受けられます。
一方的な制度変更は、エンゲージメントの低下や人材流出といった新たなリスクを生みかねません。
これからの企業には、従業員とのコミュニケーションを丁寧に行い、自社の事業内容や文化に根差した、双方にとって納得感のある働き方を継続して見直していく姿勢が求められます。
その第一歩として、まずは現場の従業員が感じている課題や意見を把握することから始めてみましょう。