
人事評価研修とは?主な目的や対象者、研修の効果を高めるポイント
人事評価は、従業員のモチベーションやキャリア形成に影響を与えるだけでなく、企業の成長を支える重要な仕組みです。しかし、評価者によって基準が曖昧だったり、フィードバックが不十分だったりすると、評価そのものへの信頼を損ない、不満や混乱を招く原因にもなりかねません。
実際に、厚生労働省「令和元年就業形態の多様化に関する総合実態調査」では、
「人事評価・処遇のあり方」への満足度は、正社員で16.2ポイント、正社員以外で16.5ポイントと低水準 と示されています。これは他の項目に比べて満足度が低く、評価・処遇への納得感や正当性に課題を感じる人が多い ことを示唆しています。(出典:厚生労働省『令和元年 就業形態の多様化調査 概況』)
納得感のある人事評価を行うために役立つのが「人事評価研修」です。この記事では、人事評価研修の基本的な概要をはじめ、目的や対象者、そして研修の効果を高めるための工夫について、分かりやすくご紹介します。
►人事評価の重要性については次の記事もご確認ください。「中小企業における人事評価制度の重要性とは?導入手順や注意点を解説」
目次[非表示]
- 1.人事評価研修とは
- 2.人事評価研修の目的
- 2.1.公平な評価を行うため
- 2.2.評価者の役割を理解するため
- 2.3.被評価者の納得感を高めるため
- 2.4.組織の成長を後押しするため
- 3.人事評価研修の主な対象者
- 3.1.管理職(マネージャー層)
- 3.2.人事担当者
- 3.3.経営層(経営者・役員)
- 3.4.人事評価制度の構築・運用担当者
- 3.5.被評価者(一般社員)
- 4.人事評価研修で学ぶ主な内容
- 4.1.目標設定の方法を学ぶ
- 4.2.評価基準と評価方法を理解する
- 4.3.フィードバックの技術を習得する
- 4.4.評価制度の意図を把握する
- 4.5.認知バイアスを排除する
- 5.人事評価研修の実施方法
- 5.1.対面形式で実施する
- 5.2.オンライン形式で実施する
- 6.人事評価研修を成功させるためのポイント
- 6.1.研修の目的を明確にする
- 6.2.実践的なスキル習得を促す
- 6.3.フィードバックの機会を設ける
- 6.4.評価基準の理解を統一する
- 6.5.継続的な学習を促進する
- 7.人事評価研修を活かして、実効性のある評価制度を目指そう
人事評価研修とは
人事評価研修(評価者研修・考課者研修とも呼ばれる)とは、主に社員を評価する立場にある管理職やリーダー層を対象に、公平かつ適切な評価を行うための知識とスキルを身につける研修プログラムです。
人事評価研修では、自社の人事評価制度の目的や考え方を正しく理解することから始まり、評価基準の活用方法、制度の運用に必要な実務スキル、さらには部下の成長を支援するフィードバックの技術などを学びます。
人事評価研修の目的
人事評価研修は、評価制度の仕組みを理解するだけでなく、評価者としての意識やスキルを高めることにも重点を置いています。ここでは、人事評価研修を実施する主な目的について紹介します。
公平な評価を行うため
研修の基本的な目的の一つは、評価者が個人的な主観や思い込みに左右されず、客観的な事実と明確な基準に基づいて評価を行えるようにすることです。具体的には、評価の根拠となる行動事実の把握方法や、評価項目の正しい解釈を学びます。こうした知識の習得によって、評価のばらつきが抑えられ、評価される側が納得しやすい判断が可能になります。
評価者の役割を理解するため
前述のとおり、人事評価は単なる成績付けではありません。社員の成長を支援し、組織の方向性と個人の行動をつなぐ重要なマネジメントの一部です。
研修では、評価が果たすべき役割やその影響力を深く理解し、評価者が責任ある姿勢で評価業務に取り組めるよう意識づけを行います。これにより、日々の評価行動がより建設的なものへと変わっていくでしょう。
被評価者の納得感を高めるため
評価結果に対する被評価者の納得感は、その後のモチベーションや仕事への姿勢に大きく影響します。不透明な評価や説明不足は、不満や不信感の増加につながりかねません。
研修では、評価プロセスの透明性を保つための工夫や、結果と根拠を丁寧に伝える方法、日頃から信頼関係を築くためのコミュニケーションスキルを学びます。
組織の成長を後押しするため
適切な評価と育成を意識したフィードバックは、社員の成長を促し、組織全体のパフォーマンス向上にも寄与します。評価者が育成視点を持ち、部下の強みや改善点に応じた関わりを実践することは、組織の持続的な発展にとって欠かせません。
人事評価研修の主な対象者
人事評価研修は、管理職を中心に人事担当者や経営層など、評価や制度運用に関わる幅広い層を対象としています。
役割ごとに求められるスキルや研修内容が異なるため、それぞれに適した研修の準備が必要です。
管理職(マネージャー層)
人事評価を直接実施する立場にある管理職(マネージャー層)は、人事評価研修の中心的な対象者です。特に新しく管理職に就任したばかりの人は、評価のノウハウが足りていない場合が多いので、自社の人事評価制度の基本的な仕組みや評価項目・基準の理解、目標設定の支援方法、フィードバック面談の進め方などを学びます。
一方で、既に評価経験を積んだ管理職に対しては、部下の育成に繋がる高度な面談スキル、困難なケースへの対応方法など、実務に即したより実践的な内容が中心となります。
人事担当者
人事評価制度の設計・運用に関わる人事担当者は、制度全体の理解が不可欠です。研修では、評価制度の背景や目的、評価項目の設定方法、運用管理、社内周知の進め方などを体系的に学びます。
こうした知識は、評価者支援や社内問い合わせ対応にも役立ち、制度の円滑な運用を支えます。
経営層(経営者・役員)
企業のトップである経営層(経営者や役員)もまた、人事評価研修の対象者と言えます。人事評価制度を、経営戦略を実現するための中核的な仕組みと位置づけ、組織目標の達成や企業文化の醸成に効果的に結びつけるためには、経営層自身が制度の意図や目的を深く理解していることが不可欠です。
また、組織全体に公正な評価文化を浸透させるためのリーダーシップ発揮という観点からも、研修への参加が有益となります。
人事評価制度の構築・運用担当者
評価制度の設計・見直しを担う担当者は、現場の実態把握や評価者・被評価者の声を反映した改善が求められます。
研修では、最新の法改正や他社事例の研究、課題分析や改善案の検討など、実務に即したスキルを身につけ、制度を継続的に最適化する能力を高めます。
被評価者(一般社員)
最近では、評価を受ける社員にも評価制度の概要や評価基準、自己評価の方法を伝える研修やオリエンテーションが増えています。これは評価者と被評価者が共通の理解を持つことで、評価への納得感を高めるためです。
また、自己評価の重要性やフィードバックの受け止め方を学ぶことで、社員自身の成長意欲を引き出し、組織の育成サイクルの活性化につながります。
人事評価研修で学ぶ主な内容
人事評価研修では、評価制度の基本理解から具体的な評価スキルまで、幅広いテーマが扱われます。
研修の内容は企業の課題や目的に応じて調整されますが、代表的な学習項目は以下の通りです。
目標設定の方法を学ぶ
多くの企業で採用されている目標管理制度(MBO)では、社員の成長と組織目標の両立が重要です。
研修では、「SMARTの法則」に基づき、明確で測定しやすく、実現可能かつ期限を設けた目標の立て方や、売上などの「定量目標」と行動や姿勢などの「定性目標」をバランスよく設定する方法を学びます。
また、上司として部下の主体性を引き出し、納得感ある目標づくりを支援するスキルも身につけます。
評価基準と評価方法を理解する
人事評価は、業績を評価する「業績評価」、スキルや能力を測る「能力評価」、勤務態度や協調性をみる「情意評価」など複数の観点で成り立っています。
研修では、それぞれの評価軸の意味や活用法、また絶対評価や相対評価といった評価方法の違いと利点・課題を学びます。評価者がこうした内容を学べば、評価者間の解釈のずれを防ぎ、一貫した評価ができる基盤を築けるでしょう。
フィードバックの技術を習得する
評価結果を伝えるフィードバック面談は、人事評価プロセスの重要な局面です。
研修では、評価結果を客観的な事実に基づいて伝える方法や、部下の成長につながる具体的な改善点の伝え方、部下の話に耳を傾ける傾聴スキル、そしてポジティブな表現を用いて強みを伸ばすコミュニケーション技術を、ロールプレイングなどを通じて実践的に学びます。
評価制度の意図を把握する
自社の評価制度がどのような経営理念や事業戦略に基づいて設計されているのかを理解することは、評価者にとって欠かせません。
研修では、制度の目的や背景、評価項目の意味合いを改めて確認し、制度への納得感を深めます。こうした理解が、日々の評価の質を高める基盤となります。
認知バイアスを排除する
評価は人間が行う以上、無意識の偏見や先入観(認知バイアス)が入り込むリスクがあります。例えば、出身大学や性別に基づく偏見、あるいは目立った行動に引きずられる「ハロー効果」などは、無意識のうちに働いてしまう人も少なくありません。
研修では、代表的な認知バイアスの種類とその仕組みを学び、意識的にこれらの影響を減らす方法を習得します。これにより、より公正で精度の高い評価を目指せるでしょう。
人事評価研修の実施方法
人事評価研修は、対象者の人数や役職、勤務地、研修にかけられる時間や予算などを考慮して、適切な実施形式を選ぶことが大切です。
自社の状況や研修の目的に合った方法を選ぶことで、より効果的な研修が期待できます。
対面形式で実施する
講師と受講者が同じ場所に集まって行う対面形式の研修は、従来から多くの企業で採用されている方法です。特に、ロールプレイング(役割演技)やグループディスカッション、ケーススタディといった実践的な演習を多く取り入れたい場合に有効です。
受講者同士や講師との間で活発な質疑応答や意見交換がリアルタイムで行えるため、疑問点をその場で解消しやすく、学習内容への理解を深めやすい点が大きな魅力です。
また、他の受講者の意見や考えに触れることで、新たな気づきや学びを得る機会も生まれます。
オンライン形式で実施する
インターネットを利用して行うオンライン研修は、急速に普及しています。離れた場所にいる社員の研修や、多数の受講者に同時に研修を提供したい場合、会場準備や移動時間の削減にも効果的です。
オンライン研修には、「同期型(ライブ配信型)」と「非同期型(オンデマンド型)」があります。同期型は決まった日時にリアルタイムで参加し、講師や他の受講者と直接やりとりが可能です。
一方、非同期型は録画された動画を好きな時間に視聴できるため、受講者の都合に合わせた柔軟な受講が可能です。これらを組み合わせることで、さらに効果的な研修運営が期待できます。
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人事評価研修を成功させるためのポイント
人事評価研修の効果を十分に引き出し、単なる知識の習得に終わらせないためには、研修の設計段階から実施後のフォローアップまで、一貫していくつかのポイントを押さえる必要があります。以下に、主なポイントを紹介します。
►次の記事でも、研修の作成ステップと成功へ導くコツについて解説しておりますので併せてご確認ください。「社員研修プログラムとは|作成6ステップと成功へ導くコツ」
研修の目的を明確にする
まずは、「この研修で何を実現したいのか」「研修終了後に参加者にどのような状態になってほしいのか」といった目的を具体的に設定することが重要です。例えば、「評価者間の基準のばらつきを減らす」「フィードバックの質を高めて被評価者の納得感を向上させる」などです。
目的が曖昧な場合、研修内容がぼやけてしまい、参加者の意欲にも影響が出かねません。
実践的なスキル習得を促す
人事評価のスキルは座学だけでは身につきにくいため、ケーススタディやロールプレイングといった実践的な演習を多く取り入れるのが効果的です。参加者が主体的に考え、意見を交換しながらアウトプットすることで、知識の定着だけでなく応用力や判断力の向上につながります。
フィードバックの機会を設ける
研修中に講師やファシリテーター(進行役)から参加者に対して適切なフィードバックを行うことは、学びの深まりに役立ちます。特にロールプレイングでの強みや改善点を具体的に指摘することで、参加者が自身の課題を客観的に認識し、改善意識を高められます。可能ならば、グループだけでなく個別のフィードバックも用意するとより効果的です。
評価基準の理解を統一する
同じ制度を運用していても、評価者によって基準の解釈や判断が異なると、不公平感を招く原因になります。研修では、自社の評価項目や基準、期待される行動レベルを具体的に明文化し、評価者全員が共通の理解を持つことが重要です。
また、「キャリブレーション」と呼ばれる手法を取り入れ、評価者同士が具体的な評価事例をもとに意見交換を行い、評価の基準や判断のずれを解消することで、評価の一貫性を高めるのも効果的です。
継続的な学習を促進する
評価に関する知識やスキルは、一度の研修で完全に身につくものではありません。研修後も振り返りの機会や、評価者同士が集まる勉強会・情報交換会を設けることで、学びの定着やスキル向上を図ります。こうした継続的な取り組みが、組織全体の評価力の向上につながります。
►実施後は研修の効果を測定し、研修内容の改善を行うことも重要です。次の記事も併せてご覧ください。研修の効果測定はなぜ重要?目的別の手法と結果の活かし方
人事評価研修を活かして、実効性のある評価制度を目指そう
人事評価研修は、単に評価制度の知識やスキルを身につけるだけでなく、社員との建設的な対話を通じて信頼関係を築き、一人ひとりの成長を支えるための重要な取り組みです。組織全体の目標達成や持続的な成長にも寄与します。
研修を実施する際は、目的や対象者に合わせて内容を明確にし、座学だけでなく実践的な演習も取り入れましょう。また、一度きりで終わらせず継続的な学習機会を提供することが、制度の運用レベル向上には欠かせません。
自社の課題や目指すべき組織像をしっかり見据え、適切な人事評価研修を設計・実行して、より公正で納得感のある「生きた」評価制度の実現を目指しましょう。