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高度プロフェッショナル制度とは?労働時間に縛られない柔軟な働き方

高度の専門知識を要する業務は、必ずしも労働時間=生産量ではありません。

こうした業務の場合、労働基準法に定められた労働時間で労働者を縛ることは合理的ではありません。 この考えにもとづいて、働き方改革関連法で高度プロフェッショナル制度が導入されました。

今回は、高度プロフェッショナル制度について、メリット・デメリットを交えて紹介していきます。

​​​​​​​こちらの記事もご参照ください。
「働き方改革」とは?働き方改革関連法が変える11のことや現状を解説

目次[非表示]

  1. 1.高度プロフェッショナル制度の基礎知識
    1. 1.1.高度プロフェッショナル制度とホワイトカラーエグゼンプション
    2. 1.2.高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の違い
  2. 2.高度プロフェッショナル制度の対象者と対象業務
    1. 2.1.高度プロフェッショナル制度の対象者
    2. 2.2.高度プロフェッショナル制度の対象業務
  3. 3.高度プロフェッショナル制度のメリット
    1. 3.1.メリット1.労働量の削減により、生産性向上が見込まれる
    2. 3.2.メリット2.労働時間の調整がしやすく、過労防止につながる
    3. 3.3.メリット3.ワーク・ライフ・バランスの実現により、離職防止につながる
  4. 4.高度プロフェッショナル制度のデメリット
    1. 4.1.デメリット1.成果が出ないと労働時間が増える可能性がある
    2. 4.2.デメリット2.労働時間の増加で体調を崩すことがある
  5. 5.高度プロフェッショナル制度における措置
    1. 5.1.選択的措置
    2. 5.2.健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置
  6. 6.まとめ

高度プロフェッショナル制度の基礎知識

高度プロフェッショナル制度の基礎知識 まずはじめに、高度プロフェッショナル制度がどういうものなのか、基本的な内容を確認します。

高度プロフェッショナル制度とホワイトカラーエグゼンプション

高度プロフェッショナル制度は、諸外国で採用されているホワイトカラーエグゼンプションを参考に作られた制度です。

ホワイトカラー(頭脳労働者)は、労働時間の長さと生産量が正比例するとは限りません。こうした労働者に対して、労働時間ではなく労働成果に対して報酬を支払うとした制度が、ホワイトカラーエグゼンプションです。

高度プロフェッショナル制度は、このホワイトカラーエグゼンプションの考え方がベースになっていますが、まったく同じではありません。

日本においては、ホワイトカラーエグゼンプションと高度プロフェッショナル制度が同一視されることも少なくありませんが、高度プロフェッショナル制度には様々な制限が付加されているため、厳密には異なります。

日本で本格的に労働成果に対して報酬を支払う制度の検討がはじまったのは、2005年に日本経済団体連合会から提言された「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」がきっかけです。

しかし、この提言は労働者への不利益が大きいという懸念があり、その懸念点を見直して採択したものが、2019年に働き方改革関連法で導入された高度プロフェッショナル制度です。

高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の違い

高度プロフェッショナル制度と似た労働制度に、裁量労働制があります。

裁量労働制とは、例えば労働時間を8時間とみなして、1日の実労働時間が6時間や10時間であっても「8時間労働したこと」にする働き方です。

これにより、早く業務が終わればその分プライベートな時間が増えるメリットがあります。労働時間に縛られない柔軟な働き方という点は、裁量労働制も高度プロフェッショナル制度も変わりません。

裁量労働制と高度プロフェッショナル制度の違いは大きく2つあります。

対象者と残業代・割増賃金の有無です。 裁量労働制は高度プロフェッショナル制度と比較して幅広い職種が対象となります。また、年収による要件もありません。

一方、高度プロフェッショナル制度の対象者は限定されており、年収要件もあります。 さらに裁量労働制の場合は、1日のみなし労働時間が8時間を超えて設定されていれば残業代が発生します。休日及び深夜の割増賃金も支払われます。

一方、高度プロフェッショナル制度は残業代、休日及び深夜の割増賃金に関する規定が適用されません。このような違いがあります。

高度プロフェッショナル制度の対象者と対象業務

高度プロフェッショナル制度の対象者と対象業務 まず大前提として、高度プロフェッショナル制度を導入する際は、対象となる事業場において労使委員会を設置し、委員の5分の4以上の多数により必要な事項を決議する必要があります。

そのうえで、高度プロフェッショナル制度の対象となるのは、以下の要件を満たした労働者のみとなっています。

高度プロフェッショナル制度の対象者

対象労働者の要件は、以下の2つの要件を満たさなければなりません。

  • 職務内容が明確で、合意をしている
  • 年収1,075万円以上

まず、使用者は業務の内容・責任の程度・求められる成果について職務記述書(job description)で明らかにしたうえで、労働者の合意を得なければなりません。

職務内容に関しては一方的に追加・変更をしたり、働き方の裁量を失わせたりするような業務量や成果を求めてはいけません。「明確に」定めて労働者の合意を得ます。 さらに、年収が1,075万円以上* でなければなりません。

* 基準年間平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上

このいずれにも該当していなければ、高度プロフェッショナル制度の対象者にはなりません。

高度プロフェッショナルの対象労働者になると、出退勤の時間・休日の設定がほぼ自由になり(年104日以上、4週間を通じ4回以上の休日を設ける義務がある等の制限は存在します)、労働基準法の規定に縛られない自由で柔軟な働き方ができます。

労働者は、使用者と合意をした労働成果を提供することだけが求められます。

高度プロフェッショナル制度の対象業務

高度プロフェッショナル制度の対象業務は、

  • 高度の専門的知識、技術または経験を要する業務
  • 業務に従事した時間と成果との関連性が強くない業務

とされています。 具体的に対象となる業務は、現時点では

  • 金融商品の開発業務
  • 有価証券等の売買その他の取引業務
  • 市場動向等の分析、評価または投資に関する助言業務(アナリスト)
  • 顧客の事業のコンサルティング業務(コンサルタント)
  • 研究開発業務

に限定されています。

また、対象業務は働く時間帯の選択や時間配分に関する裁量が、対象労働者に認められている業務でなければなりません。

働く時間に関して具体的な指示を受けて行う業務(例えば出勤時間の指定や日々のスケジュールに関する指示など)は含まれません。 これらの対象業務範囲は、今後拡大されていく可能性があります。

参考:高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説|厚生労働省(PDF資料)

高度プロフェッショナル制度のメリット

高度プロフェッショナル制度のメリット 高度プロフェッショナル制度のメリットについて紹介します。主に3つのメリットがあります。

メリット1.労働量の削減により、生産性向上が見込まれる

従来の所定時間労働では、同じ作業で同じ成果をあげた労働者でも時間をかける方が、残業代が多く入り、結果的に賃金が高くなります。

ただし、労働生産性の観点からすると、かける時間(労働量:インプット)を少なくして生産量(アウトプット)を増やすことが生産性向上につながります。 同じ成果であれば時間をかけない労働者のほうが労働生産性が高いので、評価されて(賃金が高くなって)しかるべきです。

しかし、残業代が発生するシステムがそのような原理原則を阻害しています。

高度プロフェッショナル制度では残業代は出ませんが、より効率的に成果を出せば労働時間が短縮され、プライベートの時間を確保しやすくなります。

それにより、残業代目当ての無駄な残業はなくなり、モチベーションも上がり、労働生産性が高まることが見込めます。

メリット2.労働時間の調整がしやすく、過労防止につながる

職務と成果が明確に決められているので、成果の見込みがあれば早く帰宅することも可能になり、無理なく業務に取り組めます。

労働者の裁量で在宅勤務にすることもできます。通勤時間の短縮や労働時間の調整ができると、過労防止にもつながります。

メリット3.ワーク・ライフ・バランスの実現により、離職防止につながる

労働者の裁量で働く時間を調整できるため、プライベート時間を考慮したワーク時間の組み立てができます。

つまり、ワーク・ライフ・バランスの実現が可能です。

プライベート時間を介護や育児に回すこともできます。 正規のフルタイム雇用で働くには残業が多く、仕方なく短時間勤務や残業がない非正規雇用を選択する労働者もいます。そういった労働者がもし高度プロフェッショナル制度の対象者になれば、正規のフルタイム雇用で働き続けることができるかもしれません。

高度プロフェッショナル制度のデメリット

高度プロフェッショナル制度のデメリット 一方で、高度プロフェッショナル制度には、デメリットがあります。

一番大きな問題は、高度プロフェッショナル制度が長時間労働の助長につながる可能性があることです。

その問題点を踏まえて、デメリットを2つあげます。

デメリット1.成果が出ないと労働時間が増える可能性がある

従来の所定時間労働であれば、成果が出せても出せなくても、定時になれば退勤することができました。

残業についても、上司からの指示があって残業する場合は残業代を請求する権利があります。所定や法定の休みもとれます。

一方、高度プロフェッショナル制度では、どのような経緯があったとしても、求められた労働成果を出すことが求められます。裏を返せば、成果が出せない場合は休みなしで24時間働き続けなければならなくなるかもしれません。

対象労働者が休みなく働き続けるかもしれないため、使用者は休日の確保をすることで対策をとらなければなりません。具体的には、対象労働者に年間104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を与えなければなりません。

デメリット2.労働時間の増加で体調を崩すことがある

高度プロフェッショナル制度の対象労働者は、体調管理も自己責任で行う必要があります。

成果が出せないと長時間労働を余儀なくされ、健康状態が悪くなっていても仕事を続けざるを得ず、結果として体調を崩してしまう危険性があります。 対象労働者が健康管理を怠るかもしれないため、使用者は対象労働者の健康管理時間を把握しなければなりません。具体的には、ICカードによる出退勤打刻や勤怠管理システムを使用した勤怠記録など、客観的な方法で健康管理時間を把握する措置をとります。

【一口メモ】健康管理時間とは

健康管理時間とは、対象労働者がオフィスにいた時間とオフィス以外の場所で働いていた時間の合計の時間です。

高度プロフェッショナル制度における措置

高度プロフェッショナル制度における措置 高度プロフェッショナル制度は、長時間労働を助長する危険があります。

そのため、長時間労働をできるかぎりなくし、対象労働者の健康状態を悪化させない措置があります。選択的措置と健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置です。

選択的措置

長時間労働を抑止するために、次の4つのいずれかに該当する措置を実施しなければなりません。

  • 勤務間インターバルの確保(11時間以上)と深夜業の回数制限(1ヶ月に4回以内)
  • 法定時間外労働について、1ヶ月に100時間以内または3ヶ月について240時間以内
  • 1年に1回以上の連続2週間の休日を与える
  • 臨時の健康診断

いずれの措置を選択するかは、対象労働者の意見を聞くことが望ましいです。

健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置

対象労働者の健康を害することがないように、健康管理時間の状況に応じて次の6つのうちいずれかを実施しなければなりません。

  • 選択的措置のいずれかの追加措置(すでに定めているもの以外)
  • 医師による面接指導
  • 代償休日または特別な休暇の付与
  • 心とからだの健康問題についての相談窓口の設置
  • 適切な部署への配置転換
  • 産業医等による助言指導または保健指導

把握した対象労働者の健康管理時間が長時間になっており、健康状態の悪化を招くようであれば、対象労働者への高度プロフェッショナル制度の適用を見直すことが望ましいです。

まとめ

高度プロフェッショナル制度とは?労働時間に縛られない柔軟な働き方 多様で柔軟な働き方を選択できるようにする働き方改革で、高度プロフェッショナル制度が導入された。 高度プロフェッショナル制度の対象労働者の要件は、2つ。

  • 職務内容が明確で、合意をしている
  • 年収1,075万円以上

高度プロフェッショナル制度の対象業務は、大分類で2つの業務。

  • 高度の専門的知識、技術または経験を要する業務
  • 業務に従事した時間と成果との関連性が強くない業務

具体的には、5つの業務。

  • 金融商品の開発業務
  • 有価証券等の売買その他の取引業務
  • 市場動向等の分析、評価または投資に関する助言業務(アナリスト)
  • 顧客の事業のコンサルティング業務(コンサルタント)
  • 研究開発業務

高度プロフェッショナル制度のメリットは主に3つ。

  • 労働量の削減により、生産性向上が見込まれる
  • 労働時間の調整がしやすく、過労防止につながる
  • ワーク・ライフ・バランスの実現により、離職防止につながる

高度プロフェッショナル制度のデメリットは2つ。

  • 成果が出ないと労働時間が増える可能性がある
  • 労働時間の増加で体調を崩すことがある

長時間労働を助長し、対象労働者の健康を害する恐れがある高度プロフェッショナル制度における措置は2つ。

  • 選択的措置
  • 健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置

高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者がいないという企業も少なくないはずです。しかし、要件の一つである明確な職務内容の提示(業務の内容・責任の程度・求められる成果について職務記述書で明らかにする)は、今の日本企業に足りない部分です。

今後、働き方が柔軟になり、テレワークや時間で評価をしない制度が広がっていくと重要になってくるのは仕事の成果を明確にすることです。仕事は成果で評価されるものです。 メンバーシップ型の雇用を主流とし、業務の内容と範囲その成果を明確にしてこなかった企業は、高度プロフェッショナル制度を他人事と考えず、人事制度を考え直すきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

RELO総務人事タイムズ編集部
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