高齢化と少子化のダブルパンチにより、日本の生産年齢人口(15歳~64歳)は減少の一途をたどっています。この状態を放置すれば近い将来、日本の財政は破綻することが目に見えています。そこで政府は「一億総活躍社会」とのキャッチフレーズのもと、女性の職場進出、高齢者の活用、個人のニーズに合わせた働き方などを提案し、実行しようとしています。この政府の政策を「働き方改革」と呼んでいます。

働き方改革とは?

働き方改革とは

日本は高度成長期時代から今日まで働き方といえば、朝8時~9時頃に出勤して夜の5時~6時頃まで働くという労働を長く続けてきました。そして1日8時間労働が普通の働き方であり、また15歳(中学卒業)から60歳定年までと働く期間も判で押したように同じでした。

しかしながら、高齢化が進み少子化も相まって「生産年齢人口」は減少の一途をたどっています。ちなみに生産年齢人口は1995年にピークを記録し、その時は9,700万人でした。

この硬直化した労働の場をダイナミックに変革しようと、隠れた労働力(主婦や高齢者)を活用し、勤務開始時間や終了時間を柔軟に決められる仕組みを取り入れ、個人のライフスタイルに合わせた職場を提供することなど、多方面から働き方を変えようとする仕組みを取り入れない限り、この「日本の国難」ともいわれる状況には対応することができません。

要は働こうとする意欲のある人に、就業機会を拡大することで人手不足を解消し、国に税金(所得税)を納めてもらい、合わせて世帯単位の可処分所得を増やし、消費を刺激して、インフレ率2%を達成することで財政の好循環を実現することが最終目的と理解することができます。

働き方改革の背景

日本の人口構成が「ピラミッド型」、いわゆる若い人口が多くて高齢者人口が少ない発展途上国型(戦後間もない70年前の日本の人口構成もピラミッド型)であれば、生産年齢人口もそれに比例して多くいるので、十分な税収(所得税)を見込むことができます。

しかし、現代の日本は高齢化もさることながら出生率が低く、人口構成は「逆ピラミッド型」と呼ばれる型になってきました。すなわち高齢者が多く若者が少ないために生産年齢人口は減少の一途をたどっています。ちなみに2015年の生産年齢人口は7,592万人でした(総務省「国勢調査」より)。2060年には、この生産年齢人口が4,500万人くらいになると予測されています。

そのような環境下で税収を確保して財政を健全化して医療や福祉政策を実行するには、いまは働いていない人(高齢者や主婦や障害者)を活用し、また働く人のライフスタイルに合った職場を提供しながら生産性を向上していく以外に方策はありません。

生産性向上について詳しくは、こちらの「労働生産性を上げるには?国際比較からわかる日本の働き方の特徴」もあわせてご覧ください。

働き方改革の目的

働き方改革の目的は国の立場から見る場合と国民目線の場合とでは、少し違っているようです。しかし国も目標を達成するためには国民が気持ちよく働き、自己実現できる環境をつくることが重要になってきます。

少し具体的にいいますと、国の立場で見る働き方改革の目的は働く人を増やして税収(所得税)を増やし、日本の財政を健全化することといえます。65歳以上の人を戦力化すれば、国が支払う年金は減り、逆に国が受け取る税金が増えることになります。

逆に働く人から見ればワーク・ライフ・バランスの適正化、残業時間の減少、働きたい時間に働くという、自分が望む選択ができるようになり、自分らしく人生を送ることができるのです。

ワーク・ライフ・バランスについて詳しくは、こちらの「ワーク・ライフ・バランスの正しい取り組み方とメリット・問題点」もあわせてご覧ください。

そのためには現在は家庭の中で家事に専念している主婦や望む職場がなくて働いていない女性の採用、高齢者の再雇用、そして働き手のライフスタイルに合わせた多様な働き方を提供するということです。そのためには従来の労働環境を抜本的に改革する必要が生じます。

働く環境整備の方策としては残業時間の削減、裁量労働制の拡大、在宅勤務の推進、IT化や育児休業制度の拡大、介護休暇の付与など、具体的な個別目標を掲げています。こうして働き手が増え、ライフスタイルに合った働き方が可能となれば、労働人口が増えて国がもくろむ税収(所得税)が増えます。

在宅勤務の推進について詳しくは、こちらの「テレワークの導入で生産性を向上させる│導入によるメリットと問題点は?」もあわせてご覧ください。

働き方改革における政府の施策

政府の主な政策は「労働時間法制の見直し」「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」を実現することです。

労働時間の是正

長時間労働の結果として、うつ状態になったり、その状態がさらに長期間続くと正しい判断力を失い、自殺という最悪の結果に至ることがあります。労使協定で残業時間の上限は決められてはいますが、労使の話し合いで同意が得られれば、例外規定として、さらなる長時間労働が容認されることもありました。今までは行政指導のみで、法律上は残業時間の上限がありませんでした。

働き方改革
2019年4月1日からは時間外労働の上限規制が導入され、時間外労働の上限は月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定する必要がでてきます(中小企業は、2020年4月1日から)。

正規・非正規間の賃金格差の解消

同じ仕事を同じ時間こなせば同じ給与を支給されるというのが理論的に正しいといえます。同一企業内において、正規従業員と非正規従業員の間に不合理な待遇差があること自体、異常な状態です。

しかしながら、日本の実情は非正規従業員の賃金は正規従業員の60%に過ぎないと言われています。全く同じ仕事で、同じ生産性を有するにもかかわらず賃金が大きく違うことは均等待遇規定に反します。

もちろん正規従業員は長時間労働や転勤などの条件を有していますので、全く同じ賃金では、逆に正規従業員から反発されるかもしれません。まずは欧米並みの賃金格差である「規従業員の80%」に引き上げる努力をすることが妥当でしょう。

しかし正規従業員と非正規従業員の賃金格差をなくせば、企業における総人件費が増えてコストアップになり、悪くすればその企業の競争力低下につながる恐れがあります。いまや国内だけでなくグローバルに競争しないと企業は生き残れませんので「同一労働同一賃金」を実施するには相当の覚悟が要ります。正規従業員と非正規従業員の間の不合理な待遇差を禁止した関連法は、2020年4月1日から施行されます(中小企業は、2021年4月1日から)。

同一労働同一賃金について詳しくは、こちらの「同一労働同一賃金が求められる背景と実現時に必要な企業の対策」もあわせてご覧ください。

総人件費アップが企業の競争力低下につながらないように、今から生産性向上やIT化などの手法で総コストが上がらない改善を同時に行う必要があるでしょう。そのためには綿密な実行計画のもとで、ある程度時間をかけて行わなければ成功しません。

ちなみに非正規従業員は従業員全体の37.3%にも達しています(総務省「労働力調査」2017年より)。この非正規従業員の賃金を上げると個人消費を刺激して、政府(日銀)が目標とするインフレ率2%にするための援護射撃にもなり、一石二鳥だと考えられます。

高齢者の就労促進

65歳以上で働く意欲のある高齢者は79.7%います(内閣府「高齢者の日常生活に関する意識調査」2014年)。年金の支給額だけでは満足できる生活を営めないという現実が働きたいと思う第一の理由でしょう。高齢者には高齢者に適した短時間労働の職場を提供することが大切です。

ハローワークでは年齢を制限してはいけないという建前はありますが、雇用する側から見れば、なるべく元気な若い人を採用したがります。応募時点では年齢制限は設けていなくても、いざ採用面接となれば若い人を優先して採用しているかもしれません。

高齢者で健康問題を抱えていない人は、若手よりも経験が豊富であり、職場によっては若者以上に力を発揮できるといえます。高齢者の職業マッチングが大切になってくるでしょう。今の65歳はまだまだ元気はつらつとしていますので生産年齢人口の減少をカバーしてくれるでしょう。

高齢者の就労促進について詳しくは、こちらの「継続雇用制度とは?勤務延長制度と再雇用制度の違いや導入時のポイント」もあわせてご覧ください。

働き方改革の反響

働き方改革
東京都は、いち早く働き方改革の支援策を発表していました。東京都は「働き方改革宣言企業」に対して補助金やサポート体制を整えて、積極的に支援する体制を作りました。

働き方改革としての「週休3日制度」「短時間正社員制度」など働き方を改革する仕組みを整えて、また休み方改革として「時間単位での有給休暇取得制度」「営業部門での繁閑年休制度」などを制度化し実際に運用している企業に、1企業当たり最高40万円の働き方改革助成金を支給していました(2018年で全エントリー終了)。

国会における議論(衆議院予算委員会など)を聞いていると、裁量労働制に関する質疑に時間をとっているように思います。働き方改革の目的と手段を取り違えると働き方改革は迷路に入り込みます。労働時間の見直しは目的ではなく手段であるということを肝に銘じておくことが重要です。

働き方改革は従来の古い労働慣行を捨てて、時代に合わせた新しいルールを構築して労働市場の門戸を広げ働きたい人は誰でも働けるようにして、生産性を向上させることです。働き方改革というと、しばしば長時間労働をなくすことを目的にした議論が交わされているように感じてなりません。仕事の量を変えずに労働時間を短くするための仕組みづくりや労働環境づくりといった本質的な議論をしていただきたいと思います。

世間の反応

働き方改革は日本に長らく定着していた働き方を打ち破ろうとする試みです。この改革をかなり冷めた目で見ている方もいるのではないでしょうか?

今までは仕事を時間で評価する(時間=給与)という考え方であり、この考えを打ち破らないと真の働き方改革にはならないという見方をする人もいます。

働き方改革は残業時間削減に限ったことではないのですが、本来長時間労働をなくすことは労働組合や野党が問題提起するべき問題にもかかわらず、国が旗を振って改革に取り組んでいる姿に違和感をもつ人もいるでしょう。

働き方改革は、どういった立場から見るかで、その評価が違って見えてくるように感じられます。正規従業員側から見れば、残業時間削減は収入減(残業代の減少)になり前向きには評価できないという人もいますが、非正規従業員側から見れば「同一労働同一賃金」が実行されれば収入が増える望ましい改革と映っていることでしょう。

経営者側から見える姿は、働き方改革を生産性の向上や優秀な従業員の離職防止のチャンスと捉えることもできますし、非正規従業員の給与を上げることによるコストアップを心配する人もいるでしょう。

経営者側の反応

企業の置かれている立場で反応は違っているように見えます。社内に問題を抱えている企業は働き方改革をチャンスと捉えて改革に熱心に取り組むでしょう。しかし順風満帆の企業経営者にはむしろ「やらされ感」をもっている人もいるようです。今の状況がうまくいっているのに、余計なおせっかいをしないでほしいと心の中で叫んでいるかもしれません。

経営が順調な企業は、今のままで波風を立てずに企業経営に励みたいと思っています。そこに働き方改革の実行計画をするようにと命じられても、むしろ迷惑な話であるというのが本音ではないでしょうか。

働き方改革による企業のメリット・デメリット

働き方改革により企業にはどのような影響があるのでしょうか?働き方改革関連法が施行されないとわからない側面もありますが、予測可能な範囲で考えてみましょう。メリットとデメリットの両面から評価してみたいと思います。

企業側のメリット

長時間労働がなくなり従業員にゆとりができることで、生産性が向上すると予測できます。長時間労働の環境下では、従業員は時間に追われるようになり、いいアイデアが生まれずに、また心身ともに疲れが蓄積して生産性が低下すると考えられるからです。

コストの面では、残業時間が削減されますので人件費の削減につながります。ただし何も改善を行わずに残業時間を削減すれば、業務の遅れや販売実績の低下、従業員による仕事の持ち帰りにつながりますので要注意です。

また、働き方改革に熱心な企業という社会的な評価を受けることで、優秀な従業員を雇用できる機会が増えます。最近の若者は給与面よりもむしろ自分のライフスタイルを実現しようとする意識が高いので、従業員を大切に考える働きやすい企業を選んで就職する傾向があります。

さらに短時間勤務の従業員を雇用できるので、人員配置の最適化が図れます。従業員を1人増やすほどではないが人手が足りていなくて、たとえば0.3人で十分と判断した場合。8時間×0.3=2.4時間、つまり約3時間働ける従業員を1人雇えば効率的に人手不足を解消することができます。

都心で働く従業員にとっては、満員電車通勤から解放され、生産性が向上するかもしれません。フレックス勤務や在宅勤務でラッシュ時の満員電車に乗らなくて済むようになります。満員電車通勤のストレスが溜まらないために労働意欲が増し、生産性が向上するかもしれません。満員電車は従業員にストレスを与えるワーストワンの要因です。

働き方改革

企業側のデメリット

従業員にしわ寄せがいくデメリット。業務改善を行わずに残業時間を削減すれば、やり残して完結していない仕事は誰かが処理しなければならず、その仕事は管理職が行うようになるでしょう。もしくは、従業員が仕事を持ち帰るようになるでしょう。働き方改革関連法案が施行されても、仕事の量は今までと変わりません。したがって残業時間を見直すためには、その前に業務改善をして管理職を含めた職場全体としての総労働時間を短縮しておく必要があります。

コストアップのデメリット。「同一労働同一賃金」を実現すれば、非正規従業員の人件費が増えるので、総人件費が増加し、企業のコストアップ要因になる可能性があります。したがってほかの手段で総コストを下げておく必要があります。

生産性が落ちる可能性があるデメリット。在宅勤務による業務の効率化が目標通りにならないという恐れがあります。職場は情報の共有化や従業員相互のコミュニケーションを行うことで業務がスムーズに実行される場合が多いため、在宅勤務では思った成果が出ないかもしれません。

働き方改革で起こりうる問題

最後に、想定される問題点を企業側と従業員側からの立場で見ていきます。従業員側から見ると働く場所や時間などの制約が少なくなり働きやすくなると思われますが、賃金面から見ると残業時間の削減で給与が減るのではないかという問題が見えてきます。

働き方改革

企業側から見た問題点

企業側から見ると働き方改革は企業のコストアップ要因をはらんでおり、「同一労働同一賃金」は、働く者の公平さから見て正しい理屈であり表立って反対はできないが内心では困った問題だと感じているのではないでしょうか。

また、企業の競争力が落ちるのではないかという問題もあります。特に営業部門や研究開発部門では成果を上げるために、時間がかかる側面もあります。

労働時間が制約されると繰り返し実験や確認実験など、どうしても時間をかけなければできない研究もあり、そのために研究開発が遅れたり、営業部門では顧客訪問頻度が減り、顧客のニーズが十分把握できず、また顧客とのコミュニケーションの機会が減り顧客満足度が低下するリスクがあります。

従業員から見た問題

人はもともと「競争に勝とう」という気持ちをもっている動物であり、その気持ちがあるからこそ、無理をしてでも時間を使い競争に勝ち抜きたいと考えています。労働時間の短縮は、業務に使える時間を制限して、競争に勝つための機会を奪うことになりかねません。

また、残業代を見込んで生活水準を決めている従業員にとっては、実質的な収入減少につながる恐れがあります。その結果として従業員の生活設計を狂わせることになり、最悪は転職になる危険をはらんでいます。

「同一労働同一賃金」は正規従業員から見れば待遇の改悪になる可能性をはらんでいます。正規従業員は転勤や労働時間の長さ、負う責任の重さなど非正規従業員に比べて、企業に対する貢献度が大きいため、非正規従業員と比べて「不利な労働条件」を抱えており、非正規従業員と賃金が同じになれば正規従業員のメリットが失われると考える人もいます。正規従業員のモチベーションが下がる恐れがあります。


/div>