出産手当金の支給条件とは?適用される期間、金額、手続き方法を解説
働く女性の出産に関わる手当はいくつかありますが、今回は「出産手当金」について解説します。 出産一時金との違い、対象となる社員の条件、この手当金を利用することで該当社員や企業にどのようなメリットがあるのかを確認しましょう。
給付期間や給付額、企業側が行うべき出産手当金にかかる準備や手続きについても触れていますので、参考にしてください。
目次[非表示]
- 1.出産手当金とは
- 1.1.制度の特徴
- 1.2.出産一時金とはどう違うのか
- 2.出産手当金のメリット
- 2.1.社員にとってのメリット
- 2.2.企業にとってのメリット
- 3.対象となる社員の条件
- 3.1.支給対象となる3つの要件
- 3.2.退職者でも適用される?
- 4.支給対象外となる社員の条件
- 4.1.国民健康保険に加入している
- 4.2.健康保険の被保険者ではなく、扶養家族である
- 4.3.健康保険の任意継続をしている
- 4.4.産休中に支給される給与が、出産手当金の日額以上
- 5.産休中に有給を使用するとどうなるの?
- 6.出産手当金が適用される期間・金額
- 7.出産手当金の手続き方法
- 7.1.申請までの流れ
- 8.制度の設置だけでは物足りない?総務・人事・経営者の悩み
- 8.1.子育てをしながら仕事をする方のための制度
- 8.2.仕事・子育て両立支援事業
出産手当金とは
出産手当金は、会社で加入する健康保険から支給される手当金です。
産休中の女性の出産や生活を支えることを目的として支給されます。 本人はもちろん、家族が安定した暮らしを送る点においても非常にメリットのある手当といえるでしょう。まずは出産手当金について、特徴や目的を細かく解説します。
制度の特徴
出産手当金を受け取るためには条件がありますが、勤務先で健康保険に加入している女性であれば、基本的に誰でも受け取ることが可能です。
労働基準法の第65条で、女性が妊娠した場合、産前6週間と産後8週間の休暇を得られる権利があることが定められています。
とはいえ、産休に入れば仕事に従事できず無給になってしまいます。手当が給付されることにより、お金の心配をせずに休養が取りやすくなります。
出産一時金とはどう違うのか
出産時の給付金は、出産手当だけではありません。目的は異なりますが「出産一時金」という制度があります。
出産手当金と混同されがちですが、別々の制度です。それぞれの違いについて確認しておきましょう。
制度の目的
出産一時金は、出産にかかる費用の負担を軽減させるための給付金です。
一方、出産手当金は、産休中の生活をサポートする目的であり、出産にかかる費用を支えるものではありません。制度の目的をしっかり理解して利用するようにしましょう。
申請先
出産一時金の申請先は、自治体の国民健康保険の窓口、勤務先の健康保険組合、協会けんぽ、共済組合などです。勤務先で加入する健康保険だけではなく、国民健康保険に加入している人でも受給できます。
一方で、出産手当金は、勤務先の健康保険に入っている人のみが受給できる給付金です。申請先は、勤務先の健康保険組合、協会けんぽ、共済組合などになります。
支給額
出産手当金と出産一時金は、支給額にも違いがあります。出産一時金は、赤ちゃん1人あたり一律42万円が支給されます。1回の出産に対して一括支給されるものです。 ※ただし、以下の場合は、40.8万円です。(令和3年12月31日以前の出産の場合は、40.4万円)
- 「産科医療保障制度」に未加入の医療機関・産科医で出産する場合
- 妊娠22週目未満での出産の場合
出産一時金は、一般的に医療機関へ支払われますが、直接支払制度を利用すると受給者本人が直接受け取ることも可能です。
一方、出産手当金の支給額は、出産する従業員の給与額と実際の出産日によって異なります。 出産手当金制度は、従業員にとって大きなメリットがある制度です。
プラスでより一層社員を支援する制度を設けると、従業員はもちろん、企業にとってもメリットが期待できるでしょう。
出産手当金のメリット
出産手当金を利用することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。支給を受ける社員側と企業側、それぞれのメリットを見ていきましょう。
社員にとってのメリット
育児休業中は労働をしないため、企業には給与の支払い義務がありません。企業独自の制度が設けられていない限り、ほとんどの人は収入が途絶えることになるでしょう。
育児休業を利用できることは、身体的な負担を考えるととても助かることですが、経済面では心配を抱える人も少なくありません。 出産手当金があることで経済面の心配は軽減され、安心して出産を迎えることができるでしょう。
また、出産手当金の支給期間は、健康保険料、年金保険料、雇用保険料なども免除されます。免除期間中も保障はそのまま受けることができますし、加入実績も継続されるため将来に影響することなく利用することができます。
企業にとってのメリット
出産手当金は、健康保険組合、協会けんぽの管轄になるため、企業側は社員の申請に協力する形になります。せっかくの制度を利用しそびれることのないよう、出産を控えた社員が申請するときのサポートはしっかり行っていきましょう。
該当社員だけでなく、企業側にもメリットがあります。出産手当金を受給するには、育児休業中であること(収入がないこと)が条件です。
同時に、会社で加入している健康保険などの支払いも免除になります。
そのため、この期間は、会社が一部負担している健康保険料や年金保険料なども発生しません。 出産手当金の支給は、会社の健康保険の加入者であることが条件です。
産休中に給与を支払わない社員が退職することなく安心して出産や育児ができること、そして、出産や育児からの職場復帰も考えやすくなることは、企業にとってもメリットだと考えます。
対象となる社員の条件
では、出産手当金の対象となる社員の条件を確認していきましょう。また、出産を機に退職するとき、産休に有給休暇を使うときなど、それぞれのケースについて受給資格はどう変化するのかを説明します。
支給対象となる3つの要件
出産手当金を受給するためには、3つの要件を満たさなければなりません。原則となる3つの要件は以下の通りです。
- 会社の健康保険の被保険者(本人加入)の会社員や公務員
- 妊娠4ヵ月(85日)以降の出産
- 出産のために休業している
それぞれの要件について解説します。
会社の健康保険の被保険者(本人加入)の会社員や公務員
出産手当金を受け取るためには、妊婦本人が会社員もしくは、団体職員や公務員で、勤務先の健康保険組合、協会けんぽ、共済組合などの被保険者として加入していなければなりません。正社員以外の、パートやアルバイトとして勤務する人も出産手当金の対象です。
妊娠4ヵ月(85日)以降の出産
健康保険では、妊娠4ヵ月(85日)以上を経過してからの出産や流産などを「出産」と定義しています。そのため、出産手当金も妊娠4ヵ月以降の出産が対象です。妊娠4ヵ月未満で流産した場合に休業しても、給付の対象にはなりません。
出産のために休業している
出産手当金は、原則として出産のために産前産後の休業をしている人に給付されます。そのため、無給であることが受給の要件です。産休中に給与を受け取った場合でも、出産手当金の日額より少なければ、差額を受け取れます。
退職者でも適用される?
従業員が出産にあたり職場を退職する場合は、会社の健康保険から抜けることになります。したがって、出産手当金の受給要件に照らすと、原則的には給付の対象者から外れます。ただ、退職した場合でも以下の3つの要件を全て満たしていれば、受給は可能となっています。
- 退職日からさかのぼり、継続して1年以上健康保険に加入している
- 退職日が出産手当金の支給期間内に入っている
- 退職日に勤務していない
これらの要件を踏まえると、退職の日まで1年以上勤務し続けた人で、退職日に産休を取った場合であれば、出産手当金が受け取れます。
支給対象外となる社員の条件
出産手当金は、勤務先の健康保険に加入している女性が、産前産後の産休を取った際に受給できるものです。ただし、支給対象外になるケースもあるため注意しましょう。続いては、出産手当金の子宮対象外となる社員の条件を解説します。
国民健康保険に加入している
自営業やフリーランスとして働く人が加入するのが、国民健康保険です。出産一時金は、国民健康保険の加入者でも受給できますが、出産手当金は対象外になります。
健康保険の被保険者ではなく、扶養家族である
出産手当金を受給するためには、出産する妊婦本人が健康保険の被保険者であることが条件です。被保険者が夫で、妊婦本人が扶養家族となっている場合は、出産手当金の申請はできません。
健康保険の任意継続をしている
健康保険には、任意継続という制度があります。任意継続とは、退職後も一定条件を満たした場合に限り、個人の意思によって勤務時代の健康保険に継続して加入できる制度です。ただし、任意継続の形で健康保険に加入している場合は、出産手当金の対象外になります。
産休中に支給される給与が、出産手当金の日額以上
出産手当金は、基本的に産休中に休職して、給与を受け取らない状態の人に支給されます。しかし、給与が発生しても出産手当金の日額以下であれば、差額の受給が可能です。ただし、日額以上の報酬が支払われている場合は、出産手当金の支給対象外になります。
産休中に有給を使用するとどうなるの?
有給休暇は、休みでも給与が支払われる状態です。出産手当金は、あくまでも無給の休業に支払われる給付金であり、有給休暇は対象になりません。ただし、支払われた給与が出産手当金の日額以下であれば、差額を受給できます。
また、企業によっては、有給以外でも産休中の給与が支払われるケースがあるようです。この場合も有給休暇と同じく、出産手当金の日額より少ない場合にのみ差額が受け取れます。
▼有給休暇に関する基礎情報については、次の記事をご参考にしてください。
出産手当金が適用される期間・金額
出産手当金は、適用される期間や金額が決まっています。正しく把握しておかなければ、いざ受給を受ける際に、想定した額より少なくなり、困ってしまう可能性もあるでしょう。続いては、出産手当金が適用される期間と支給額について確認していきます。
適用期間
出産手当金が適用される期間は、原則的に出産予定日の42日前から出産後56日目までの98日間です。出産予定日が遅れた場合は、その日数もプラスされます。また、多胎児の場合、産前は98日前から対象期間になります。申請から1~2ヵ月後に一括で支給されるようになっています。
支給金額
出産手当金の1日あたりの支給額は、以下の計算で算出されます。 支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額(※)を平均した額÷30日×(2/3) そして、1日あたりの支給額×98日が出産手当金の支給総額となります。
もし、出産が予定日より遅れた場合は、その日数分の「1日あたりの支給額」が加算されます。逆に、出産が早まった場合は、その日数分の「1日あたりの支給額」が差し引かれます。
なお、出産日は産前の日数にあてはまります。
【計算例】
標準報酬月額を平均した額=25万円
250,000÷30=日額の平均額8,333円(1円未満切り捨て)
8,333円×0.666=日額平均の3分の2なので約5,550円(10円未満切り捨て)
5,550円×98日=543,900円(支給総額)
出産が予定日より遅れた場合は、その日数分の「1日あたりの支給額」が加算されます。
(例)
5日間遅れた場合、
5,550円×5=27,750円
543,900円(98日分)+27,750円(5日分)=571,650円(支給総額)
なお、産後の56日間が変動することはありません。
※会社の健康保険に加入して12ヵ月に満たない場合 「支給開始日の以前の各月の標準報酬月額の平均額」と「健康保険の全加入者の標準報酬月額を平均した金額」を比較して、少ないほうの額が適用されます。
出産手当金の手続き方法
出産手当金は、申請をしなければ受け取ることができません。出産にあたり、産休、有給休暇や退職などにどのように対応しているかで、受給資格が得られなかったり、支給される金額が変わってきたりします。
また、出産手当の申請期限は、産休開始の翌日から2年以内です。正しく給付を受けるためには制度の内容をよく理解して、適切な準備をする必要があります。ここから、出産手当金の手続きや準備について説明します。
参考:健康保険 出産手当金 支給申請書 記入の手引き|全国健康保険協会(協会けんぽ)
申請までの流れ
出産手当金を受給するためには、手順を踏んで申請しなければなりません。
出産手当金の大まかな申請までの流れは、以下の2ステップです。それぞれの手順について詳しく解説します。
出産手当金の受給資格の確認
会社の健康保険の加入期間や産休取得予定などから、手当金の受給資格があるかどうかを確認します。
特に、産休が有給や退職に関わる社員からの相談を受けた場合は、制度の基準や条件をよく理解し、日程を組む必要が出てくるでしょう。
健康保険出産手当金支給申請書の用意
申請書は、社会保険事務所から発行されています。企業の総務部などの担当部署で準備しておくといいでしょう。企業に用意がない場合は、申請者本人で用意します。
参考:健康保険出産手当金支給申請書|全国健康保険協会(協会けんぽ)
【申請書の内容】
- 本人情報記入欄
- 医師・助産婦記入欄
- 事業主の証明
-
例外の場合の添付資料(ダウンロードはこちら)
保険加入期間が12ヶ月に満たない場合、および任意継続による出産手当金の申請の場合
【社員準備】記入項目
本人情報の記入と、医師、または助産婦が記入しなければならない欄があります。出産の際に入院する医療機関で記入してもらう必要があります。したがって、健康保険出産手当金支給申請書の提出は、出産後にすれば1回で済ませられます。つまり、産休中、もしくは復帰後の提出ということになるでしょう。
健康保険出産手当金支給申請書の提出
出産した社員から健康保険出産手当金支給申請書の提出があったら、健康保険組合、協会けんぽに書類を提出します。
出産手当金の支給
申請から、1~2ヵ月ほどで、指定口座に一括で振り込まれます。
制度の設置だけでは物足りない?総務・人事・経営者の悩み
以前に比べて近年は、女性が社会で活躍しやすい環境が整いつつあります。
しかし、優秀な人材が育児をきっかけに退職してしまうケースは少なくありません。育児休暇中の従業員と連絡が取れなくなったり、従業員からの相談に対して、満足に応えられなかったりということも考えられるでしょう。
こうした総務や人事、経営者の悩みを解決するためには、出産手当金に加えて、育児支援関連の制度を設置するのが効果的です。
子育てをしながら仕事をする方のための制度
まず、産前産後休業について見ていきましょう。いわゆる「産休」と呼ばれる制度で、労働基準法第65条で定められています。
出産を迎える従業員が、健やかに出産の準備を行い、産後の体力回復をするために設けられている制度です。雇用形態問わず、企業で働く全ての女性が得られます。
また、子育てをしながら働く上で欠かせないのが育児休業です。原則として、子どもが1歳になるまでの間、取得することができます。保育所に入所できない場合は、最長2歳まで延長可能です。
仕事・子育て両立支援事業
仕事と子育てを両立するためには、さまざまな制度を活用することが大切です。
その一つに、「企業主導型保育事業」があります。企業主導型保育事業とは、内閣府が平成28年度に開始した企業向けの助成制度です。 従業員の働き方に合わせた保育サービスを提供する際に活用できます。
例えば、自社が運営する保育施設の設置や、地域と共同で利用する保育施設に対して、助成を受けられます。 そのほか、企業主導型ベビーシッター利用者支援事業も活用できます。従業員がベビーシッターを利用した際に、利用料金をサポートしてくれる内閣府の取り組みです。
乳幼児から小学3年生までの子どもが対象です。 なお従業員が安心して出産や育児を行えるよう制度を整えたいと思っていても、新たな制度を設置するのには時間がかかります。また、制度運用のコスト面も気になるところでしょう。