
有給休暇の付与日数・取得ルールの基本と、制度改善に向けた実務対応策
今回は企業の経営者や総務・人事担当者向けに、「年次有給休暇」の基本的なルールを整理するとともに、有給取得率の向上などの課題に沿った内容を解説します。
現在の労働基準法では、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対し、使用者は最低でも年5日の取得を義務付けられています。
有給休暇を適切に管理・運用することは、社員のモチベーション向上やワークライフバランスの充実につながり、結果として企業の生産性や競争力強化にも直結します。
ぜひ、効果的な有給休暇の運用を実現してください。
♦働き方改革については下記記事もご参照ください:「働き方改革」に関する、働き方改革関連法が変える11のことや現状について
目次[非表示]
- 1.年次有給休暇とは
- 2.年次有給休暇の付与日数について
- 2.1.フルタイムの労働者
- 2.2.所定労働日数が少ない労働者(パートタイムなど)
- 2.3.企業独自の休暇制度
- 3.半日休暇・時間単位年次有給休暇について
- 4.年次有給休暇の時季変更権
- 4.1.時季変更権の適切な使い方
- 4.2.可能な限り労働者の希望を優先
- 4.3.年次有給休暇の計画的付与
- 5.有給休暇の運用ルール
- 5.1.有給休暇の有効期限とは
- 5.2.翌年に繰り越しできる日数について
- 5.3.有給休暇の最大保有日数は原則40日
- 5.4.消滅する有給休暇は買い取ってもらえる?
- 5.5.有給休暇は何日連続で取得できる?
- 6.年次有給休暇の取得率を上げるメリット
- 6.1.従業員のモチベーション向上や組織の生産性向上
- 6.2.企業イメージの向上
- 6.3.企業利益の向上
- 7.有給休暇の取得率が低くなる課題と対応策
- 7.1.組織風土が有給取得を妨げる
- 7.2.業務量の偏りが取得を難しくする
- 7.3.有給休暇の計画管理が不十分である
- 7.4.コミュニケーション不足が休暇取得を妨げている
- 8.年次有給休暇の注意点
- 9.まとめ
年次有給休暇とは
有給休暇の正式名称は、"年次有給休暇"であり、給料が支払われる形で取得できる休暇のことです。
この年次有給休暇は、一定の要件を満たした全ての労働者に付与され、労働基準法により定められており、雇用形態にかかわらず付与される点が大きな特徴です。
業種、業態にかかわらず、また、正社員、パートタイム労働者などの区分なく、一定の要件を満たした全ての労働者に対して、年次有給休暇を与えなければなりません。
引用元:リーフレットシリーズ労基法39条(PDF資料)|厚生労働省
また、2019年4月1日から施行された労働基準法の改正により、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年5日の年次有給休暇の確実な取得が使用者に義務付けられました。
有給休暇の取得が義務化された背景には、日本国内における休暇取得率の低さが根底にあります。
これらの問題を解決すべく、働き方改革関連法により有給休暇を必ず取得させる形に法改正が行われました。
♦参照:労働基準法(労働基準法 第39条 第7項) | e-Gov法令検索
♦こちらの記事も併せてお読みください。:ワーク・ライフ・バランス推進のメリットや必要性を解説
年次有給休暇の付与日数について
年次有給休暇が付与されるための要件を満たすと(具体的には、雇入れ日から6ヶ月間継続勤務し、かつ全労働日の8割以上出勤すること)、最初の年次有給休暇が10日間付与されます。
その後は1年経過ごとに、有給休暇の付与日数が最大20日間まで徐々に増えていきます。
ただし、実際に付与される年次有給休暇の日数は、労働者の週所定労働時間や出勤日数に応じて比例して決められています。
以下では、「フルタイム労働者」と「パートタイム労働者」のそれぞれの立場から、年次有給休暇の日数の違いを詳しく確認していきます。
フルタイムの労働者
フルタイムの労働者には、以下の条件を満たすことで年次有給休暇が段階的に付与されます。
年次有給休暇の付与日数(フルタイム) | |||||||
継続勤務年数 |
6ヶ月 |
1年6ヶ月 |
2年6ヶ月 |
3年6ヶ月 |
4年6ヶ月 |
5年6ヶ月 |
6年6ヶ月 |
付与日数 |
10日 |
11日 |
12日 |
14日 |
16日 |
18日 |
20日 |
入社から6ヶ月間継続勤務し、その期間中の出勤率が8割以上である場合、初めて有給休暇が10日間付与されます。
その後も、出勤率8割以上を維持すれば、勤務年数に応じて付与日数が増加していきます。
最終的に、継続勤務6年6ヶ月以降は、毎年一律20日間の年次有給休暇が付与されます。
所定労働日数が少ない労働者(パートタイムなど)
パートタイム労働者のように所定労働日数が少ない場合でも、年次有給休暇は付与されます。
ただし、付与日数は週の所定労働日数(または年間労働日数)に応じて比例して決まります。
年次有給休暇の付与日数は、大きく週1〜5日勤務の5段階に分かれており、継続勤務年数に応じて段階的に増加します。
週所定労働日数が5日(1年間の所定労働日数217日)
- 週の労働時間が30時間未満でも、週5日勤務であれば、フルタイムと同様に継続勤務6ヶ月で10日の有給休暇が付与されます。
- 以後もフルタイムと同様に、年数に応じて付与日数が増えていき、6年6ヶ月で20日に達します。
週所定労働日数が4日(1年間の所定労働日数169日~216日)
- 継続勤務6ヶ月で7日間の有給休暇が付与されます。
- 以後の付与日数:8日 → 9日 → 10日 → 12日 → 13日 → 15日
- 年次有給休暇が10日以上となった場合、年5日以上の取得義務が発生します。
週所定労働日数が3日(1年間の所定労働日数が121日~168日)
- 継続勤務6ヶ月で5日間の有給休暇が付与されます。
- 以後の付与日数:6日 → 6日 → 8日 → 9日 → 10日 → 11日
- 10日以上の年休が発生した場合、年5日取得義務の対象になります。
週所定労働日数が2日(1年間の所定労働日数が73日~120日)
- 継続勤務6ヶ月で3日間の有給休暇が付与されます。
- 以後の付与日数:4日 → 4日 → 5日 → 6日 → 6日 → 7日
週所定労働日数が1日(1年間の所定労働日数が48日~72日)
継続勤務6ヶ月で1日の有給休暇が付与されます。
以後の付与日数:2日 → 2日 → 2日 → 3日 → 3日 → 3日
補足ポイント
- パートタイム労働者の場合、年次有給休暇は「週の所定労働日数」に比例して付与される仕組みです。
- 労働日数が多くなるほど、有給休暇の付与日数も増えるため、雇用形態に関係なく正確な管理が必要です。
- 年5日以上の取得義務が発生するかどうかも、付与日数に応じて変わります。
年次有給休暇の付与日数について、より詳しい情報は厚生労働省の解説資料でご確認ください。
参考:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説|厚生労働省(PDF資料)
企業独自の休暇制度
企業によっては、法律で決められた年次有給休暇以外に、オリジナルの休暇制度を設ける場合もあります。
例えば、労働者の誕生日に付与するバースデー休暇や、ボランティア活動への参加を応援するボランティア休暇など、その種類は様々です。
これら企業独自の休暇制度は、独自性から企業の広報活動に役立つほか、働きやすい職場環境づくりに寄与します。
あわせて読みたい:特別休暇は福利厚生の一種!企業側のメリットと社内運用時の注意点
半日休暇・時間単位年次有給休暇について
年次有給休暇に関連する制度として、「半日休暇(半休)」と「時間単位年休」があります。
どちらも似た用語のため、混同されがちですが、制度の位置づけや導入方法に違いがあります。
以下の表で両者の概要を整理しつつ、それぞれのポイントを見ていきましょう。
半日休暇・時間単位年休 | |||
概要 |
法定規則 |
付与できる上限日数 |
|
半日休暇 |
半日単位で付与できる休暇制度 |
ない |
決められていない |
時間単位年休 |
時間単位で付与できる休暇制度 |
ある |
年5日の範囲内 |
半日休暇
半日休暇は、主に半日単位で付与できる休暇という意味合いで使用される休暇制度です。
年次有給休暇との違いは、法律で定められた休暇制度ではないという点で、対象となる労働者・付与日数などに法的規定や義務はありません。
取得に関するルールを設けて就業規則を改定すれば、どの企業でも導入が可能です。
午前半休や午後半休などを選べるようになれば、労働者が子どもの送迎や通院などの目的に合わせて、臨機応変に休暇を取得できます。
休暇取得の選択肢が増えれば、柔軟で働きやすい企業イメージにもつながります。
時間単位年休
時間単位年休は、労働基準法に基づいて定められた制度です。
これは、年次有給休暇のうち最大5日分までを「1時間単位」で取得できるようにするものです。
ただし、この制度を導入するためには、あらかじめ労使協定を締結しておく必要があります。
また、対象者の範囲や、取得可能な時間数などについては企業ごとに定める必要があります。
時間単位年休の使い方やメリット・デメリットは半日休暇と共通する部分もありますが、法的な裏付けや導入の要件が異なるため、扱いには注意が必要です。
とくに制度設計や導入を検討する際には、厚生労働省が提供しているリーフレットや解説資料を参考にするとよいでしょう。
参考:
年次有給休暇の時季変更権
年次有給休暇には「時季変更権」と呼ばれる制度があります。
これは労働基準法第39条に基づき、事業の正常な運営に支障が出る場合に限り、使用者が有給休暇の取得時期を変更できる権利です。
たとえば、特定の業務を遂行できるのがその労働者だけであり、当人が休むことで業務に大きな支障が出る場合や、同時期に多くの従業員が休暇を希望して職場が回らなくなるようなケースが該当します。
ただし、これらは一例に過ぎません。時季変更権の行使が正当かどうかは、個別の事情を踏まえて慎重に判断する必要があります。
参考:厚生労働省「年次有給休暇制度について」
時季変更権の適切な使い方
使用者が簡単に時季変更権を行使できるわけではありません。
「忙しいから」という理由だけで労働者の有給休暇取得日を変更させることは認められません。
まずは業務の調整や人員配置の工夫などを行い、それでも休暇取得によって事業運営が著しく困難になると認められる場合に限り、時季の変更を申し出ることができます。
可能な限り労働者の希望を優先
時季変更権があるとはいえ、労働者が指定した時季に休暇を取得できるよう最大限の配慮を行うことが原則です。
使用者が「有給休暇を認めるかどうかを判断する立場にある」と誤解しているケースも見られますが、これは誤りです。
やむを得ず時季変更権を行使する場合も、代替日を提案するなど、労働者への配慮が不可欠です。
年次有給休暇の計画的付与
年次有給休暇のうち最大5日分については、労使協定を締結することで、企業があらかじめ取得日を指定する「計画的付与制度」を導入することができます。
この制度では、事前に労働者の意見を聞いたうえで、使用者が休暇日を調整します。
現行法では、年間10日以上の年次有給休暇が付与される労働者には、年5日の休暇取得義務があります。
この義務を確実に果たす方法としても、計画的付与の導入は有効です。
計画的付与を導入することで、企業は業務調整がしやすくなり、労働者も前もって休暇日が決まることで安心して予定を立てられるなど、双方にメリットがあります。
有給休暇の運用ルール
有給休暇の有効期限や繰り越しなど、実務面の運用方法をまとめます。
年次有給休暇は法律で付与義務が定められている一方、有効期限や繰り越しルールなどの細かい取り扱いにも注意が必要です。
参考:東京労働局「しっかりマスター労働基準法」
有給休暇の有効期限とは
年次有給休暇には有効期限があります。
原則として、付与された日から2年が経過すると未消化分は失効します。
たとえば、基準日が4月1日の場合、その有給休暇は翌々年の3月31日までが有効期限です。
それ以降は、未使用分は消滅します。
また、前年から繰り越された有給休暇も古い順から消化されるため、従業員がどの有給をいつまでに使う必要があるかを把握しやすくする工夫が求められます。
企業としては、有効期限が近づいた有給休暇についてあらかじめ消滅予定日を通知し、取得を促すことが重要です。
突然のまとめ取りやトラブルを防ぐためにも、早めの周知と計画的な取得をサポートする取り組みが効果的です。
翌年に繰り越しできる日数について
年次有給休暇は、前年度に使いきれなかった分を翌年度に繰り越すことができます。
法的な上限日数は設けられておらず、前年度の未使用分はそのまま翌年にすべて繰り越されるのが基本です。
さらに、年10日以上の有給休暇が付与される労働者には、年5日間の取得義務が課されています。
この5日については、その年に新たに付与された日数に限らず、繰り越し分から取得しても構いません。
つまり、繰り越し分から5日を消化すれば、その年に新たに付与された日数をまるごと翌年に繰り越すことも可能です。
以下の図では、勤続7年以上の従業員に毎年20日付与されて最低限の日数しか使わないケースを例に、繰り越しと使用の流れを示しています。
繰り越しをうまく活用するには、企業側が残日数や取得状況を正確に管理し、従業員にわかりやすく伝えることが重要です。
有給休暇の最大保有日数は原則40日
年次有給休暇は、労働基準法により付与日から2年間が有効期限とされています。
このため、毎年20日ずつ有給休暇が付与される従業員の場合、最大で40日(=当年20日+前年からの繰越20日)を保有することが可能です。
この「40日」という数字は、法的な明記ではありませんが、実務上の保有上限として広く認識されています。
消滅する有給休暇は買い取ってもらえる?
年次有給休暇の目的は、労働者に適切な休息を与えることにあります。
そのため、労働基準法では有給休暇の買い取りを原則として禁止しています。
「余った分をお金で精算する」という対応は、法律の趣旨に反するとされているため、基本的には認められていません。
ただし、例外もあります。
退職・定年・契約満了などにより、有給休暇を取得する機会そのものがなくなる場合に限り、企業の判断で残っている有給を買い取ることが可能とされています。
企業としては、有給休暇の未消化を前提に買い取り制度を設けるのではなく、あくまで休暇を取得させることを基本とした管理と運用が求められます。
有給休暇は何日連続で取得できる?
労働基準法では、年次有給休暇の取得日数に上限は定められていません。
そのため、連続して何日間取得するかについても、法的には制限がありません。
ただし、実務上は職場の繁忙期や業務体制に応じて調整が必要になることがあります。
特に連続して長期間の休暇を希望する場合には、事業運営への影響が大きいと使用者が判断すれば、時季変更権(労働基準法第39条)を行使して、取得時期の変更を求められます。
そのため、長期休暇を希望する場合は、あらかじめ従業員と会社で相談し、業務に支障が出ない形でスケジュール調整を行うことが望ましいでしょう。
年次有給休暇の取得率を上げるメリット
年次有給休暇の取得率を上げる利点のひとつは、”ホワイト企業” として外部評価を受けやすくなることです。
従業員の年次有給休暇取得率が向上し、従業員にとって働きやすい労働環境を整備している企業として評価されると以下のようなメリットを享受しやすくなります。
- 従業員のモチベーション向上や組織の生産性向上
- 企業イメージの向上
- 企業利益の向上
従業員のモチベーション向上や組織の生産性向上
休暇取得率の高い企業や休暇が取得しやすい環境は、高い評価につながります。
ワーク・ライフ・バランスを重視して働ける企業であれば、従業員も高いモチベーションを維持しやすくなります。
ひいては、従業員の定着率向上や離職率の低下防止にもよい影響をもたらすほか、従業員が心身ともに健康的に働ける労働職場であれば、組織の生産性向上にも直結します。
企業イメージの向上
従業員にとって働きやすい企業は、ワーク・ライフ・バランスなどの面から ”ホワイト企業” という評価を受けやすくなります。
”ホワイト企業” のイメージが定着すれば、優秀な人材を確保しやすくなるほか、外部から投資を募りやすくなるメリットがあります。
そのため、企業によっては年次有給休暇の取得率の高さを外部にアピールすることも珍しくありません。
企業利益の向上
従業員の生産性向上や離職率の低下、企業イメージの向上といったメリットは、最終的に企業の売上・利益の向上にもつながります。
年次有給休暇の取得は、一見すると従業員側のメリットが目立ちますが、これらのメリットは巡り巡って企業の売上や利益にもつながってきます。
▼人的資本経営の推進にも有効であり、少しでも興味ある方は、次の動向資料もご参考ください
有給休暇の取得率が低くなる課題と対応策
令和6年の厚生労働省の就労条件総合調査の結果によると、繰り越しを除いて付与した有給休暇の取得率は65.3%となり、昭和59年以降最も高くなっています。
働き方改革の意識が浸透してきていることが理由に挙げられますが、自社と比較して、取得率が低い場合はこの章の課題と解決策をご参考にしてください。
以下では、よくある4つの課題と、それに対する具体的な対応策を紹介します。
参考:厚生労働省「令和6年就労条件総合調査」
組織風土が有給取得を妨げる
有給休暇の取得率を上げるためには、まず職場全体に「休んでいい」という空気を根づかせる必要があります。
なぜなら、「休むと周囲に迷惑がかかる」「上司も休んでいないから取りづらい」といった組織風土そのものが、取得の心理的ハードルを高めているからです。
たとえば、管理職や経営層が有給を一切取らない職場では、部下も遠慮して休暇申請をためらいがちです。
逆に、上司が当たり前のように休みを取る職場では、自然と部下も取得しやすくなります。
さらに、有給取得を推進する方針や目標を「部署ごとの数値目標」として明文化し、達成状況を社内で共有すれば、組織全体にポジティブな圧力が働きます。
つまり、有給休暇の取得率を上げるには、経営層や管理職が率先して取得する姿勢を示し、職場全体で「休みやすさ」をつくることが出発点です。
業務量の偏りが取得を難しくする
有給休暇を取りづらい職場では、多くの場合、業務の偏りがその背景にあります。
特定の人に仕事が集中していると、「自分が休んだら回らない」と感じてしまい、休暇取得の機会を自ら手放すことになるからです。
このような問題を解消するには、まず業務の棚卸しを行い、担当タスクをチーム内で見える化し、均等に割り振る必要があります。
また、クロストレーニングやジョブローテーションを取り入れることで、誰かが休んでも他のメンバーが業務をカバーできる状態を整えることができます。
そうすることで、「休んでも大丈夫」という心理的な安心感が生まれ、取得へのハードルが下がります。
結論として、有給取得を妨げているのは「忙しさ」そのものではなく、「自分しかできない」状態が続くことです。
チームで業務を共有できる体制づくりが、休みやすさにつながります。
有給休暇の計画管理が不十分である
有給休暇がうまく取得されない職場の多くは、「いつまでに何日休めばいいか」が明確になっていません。
その結果、気づけば年度末に有給が余り、慌てて消化しようとして業務に混乱が生じるケースも少なくありません。
このような事態を防ぐには、「計画年休制度」の導入が効果的です。
年間の有給取得目標をあらかじめ決めてスケジュールに組み込むことで、事前に業務調整を行いやすくなります。
また、人事部門が定期的に残日数を通知し、取得を促す仕組みをつくることで、従業員の取得意識を高めることもできます。
要するに、有給休暇の取得を“結果任せ”にするのではなく、計画的に運用し、取得を当たり前の業務の一部にすることが重要です。
コミュニケーション不足が休暇取得を妨げている
有給休暇の取得率が低いもう一つの原因は、休暇を取ることに関するコミュニケーションが職場で不足していることです。
「自分が休むとチームに迷惑がかかるのでは」と感じても、それを相談できない環境では、結果的に休みづらくなります。
この問題を解決するには、まず業務引き継ぎをマニュアル化し、チーム内で共有できる仕組みを整えることが有効です。
さらに、日々の朝会・夕会や定期面談を活用して、小まめに予定を共有し合う文化をつくることで、自然と休暇のタイミングも話しやすくなります。
つまり、休暇が「個人の都合」ではなく「チームで調整するもの」として扱われるようになれば、有給取得はもっとスムーズになります。
年次有給休暇の注意点
年次有給休暇の制度は一見シンプルに見えますが、適用対象や条件、罰則に関しては細かなルールが定められています。
特に、育児・介護休業中の扱いや法令違反に関する罰則は、見落とされがちで注意が必要です。
以下では、実務担当者が押さえておくべきポイントを3つの観点から整理します。
育児・介護休業中の有給休暇の取り扱い
育児・介護休業期間は、労働基準法上「出勤したものとみなされる」と定められています。
そのため、実際に出勤がない場合でも、出勤率の計算上では不利にならず、有給休暇の付与に必要な条件を満たす可能性があります。
有給休暇が発生する基本的な要件は、以下の2つです:
- 入社から6ヶ月以上継続して勤務していること
- その期間中の出勤率が8割以上であること
この要件は、正社員・パートタイム・契約社員など雇用形態に関係なく適用されます。
ただし、「どの従業員にいつ年休を付与すべきか」は実務で迷いやすいポイントの一つです。
たとえば、「復帰してから6ヶ月後に付与する」と誤認してしまうと、本来より遅れて年次有給休暇が発生することになります。
このような運用ミスを防ぐためにも、制度の正しい理解と運用ルールの社内共有が重要です。
参照:労基法第39条第8項
参考:日本労働組合総連合会
あわせてこちらの記事もご覧ください:育児・介護休業法とは?休業取得がしづらい背景と改善のための法改正
年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合の罰則
これに違反した場合、30万円以下の罰金刑が科されます。
違反対象となる労働者1人につき1罪として扱われます。
以下は、労働基準法第39条に違反した場合の主な罰則をまとめたものです。
労働基準法 第39条に違反した場合の罰則 | |
事例 |
罰則 |
年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合 |
30万円以下の罰金 |
所定の年次有給休暇を与えなかった場合 |
6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑 |
労働基準法の改正(2019年施行)により、年10日以上の年次有給休暇が付与された労働者には、年5日以上を確実に取得させることが使用者に義務付けられました(労基法第39条第7項)。
この義務に違反した場合、労働者1人につき30万円以下の罰金刑(労基法第120条)が科されます。
さらに、労働者ごとに1罪として取り扱われるため、複数人分の違反があれば、合算で多額の罰金となる可能性もあります。
企業としては、計画年休制度の導入や、取得状況の定期チェックなどを通じて、法令遵守を徹底することが重要です。
所定の年次有給休暇を与えなかった場合の罰則
労働者が取得を希望する時季に対し、正当な理由なく有給休暇を与えなかった場合や、年休自体を付与していなかった場合は、労働基準法に違反する行為となります。
この場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金(労基法第119条)が科され、違反対象者1人ごとに1罪として扱われます。
一見すると罰金額自体は大きくないように思えるかもしれませんが、違反が公に発覚した場合には、社会的信用の毀損に直結します。
仮に違反が公になれば、「有給休暇を与えない企業」としてのレッテルが貼られ、企業イメージの毀損や採用・取引への悪影響が避けられないでしょう。
とくに上場企業や知名度の高い企業では、不祥事として報道され、企業活動に深刻な支障をきたす事例もあります。
年次有給休暇に限らず、労働基準法に基づいた適正な運用を徹底することが、企業の信頼維持に直結します。
まとめ
今回は、年次有給休暇の基本情報や付与日数、半日休暇・時間有給との違いについて詳しく解説しました。
- 年次有給休暇に関する労働基準法は、柔軟な働き方を実現するために改定された
- 年次有給休暇は、勤務開始から6ヶ月以上・期間中8割出勤の労働者に付与される
- 使用者は年5日の有給休暇を確実に取得させなければならない(年10日以上の年次有給休暇が付与される全ての労働者が対象)
- 年次有給休暇の取得率は、企業イメージや労働者のモチベーションにも関わる
- 年次有給休暇は、継続勤務年数が増えるほど付与日数も増える
- 半日休暇とは、半日単位で付与できる休暇制度のこと
- 時間単位年休とは、時間単位で付与できる休暇制度のこと
- 企業によっては、福利厚生の一環で独自の休暇制度を導入している
- 労働基準法 第39条に違反した場合は、罰則がある
きっちりと有給休暇制度について、理解して運用して、法律を守った上で、従業員満足度を上げていきましょう!!!