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障害者雇用と障害者雇用促進法。企業にとっての義務と課題

障害者雇用は、障害者の自立と社会参加の促進にとって事業主ができる社会貢献です。

また、障害者雇用は障害者雇用促進法が関わっています。この法律は、「障害者の能力を活かした就労支援の促進」を目的としています。この法律に触れながら、障害者雇用をどのように促進していくか、その際の課題などを紹介します。

目次[非表示]

  1. 1.障害者雇用の背景
    1. 1.1.ノーマライゼーションの理念と障害者雇用促進法
    2. 1.2.障害者雇用と働き方改革
  2. 2.障害者雇用促進法とは
    1. 2.1.障害者雇用率制度
    2. 2.2.障害者雇用納付金制度
    3. 2.3.その他障害者雇用に関する助成金
    4. 2.4.障害者雇用促進法の一部改正
  3. 3.障害者雇用の現状
    1. 3.1.日本企業の雇用障害者数
  4. 4.障害者雇用のメリット
    1. 4.1.メリット1.金銭面での支援がある
    2. 4.2.メリット2.業務内容の見直しが進む
    3. 4.3.メリット3.社内コミュニケーションが活発になる
    4. 4.4.メリット4.活動をアピールできる
  5. 5.障害者雇用の課題
    1. 5.1.課題1.障害者雇用に関する適切なノウハウがない
    2. 5.2.課題2.障害者雇用への社内理解が低い
    3. 5.3.課題3.短期離職のリスクを回避できない
    4. 5.4.課題4.職種によっては障害者雇用が難しい場面もある
  6. 6.障害者雇用を促進するためのポイント
  7. 7.まとめ

障害者雇用の背景

障害者雇用の背景 障害者の自立と社会参加のためには、教育機関と福祉・保健・医療・労働等の関係行政機関だけでなく、企業等も連携して支援体制を整備することが不可欠です。

障害者雇用は法律で義務づけられているからというだけでなく、事業主が社会的な役割を果たす上で重要な取り組みです。

障害者雇用を促進するためには、こうした障害者雇用の背景を知る必要があります。

ノーマライゼーションの理念と障害者雇用促進法

障害者雇用の根底には、ノーマライゼーションの理念があります。

ノーマライゼーションの理念とは、障害のある人もない人も、互いに支え合い、地域で生き生きと明るく豊かに暮らしていける社会を目指すことです。 すべての人間は、等しく社会に参画する権利があります。もちろん、障害の有無によって不当な差別があってはなりません。

障害がある人であっても希望や能力、適性を活かした職に就く権利があります。 とはいえ現実世界では、障害があることを理由に就職活動時に不利益を被ることもあります。

障害者雇用促進法は、この際に発生しがちな不平等をできるだけ解消して、障害者の雇用を促進することを目的としています。

障害者雇用と働き方改革

障害のない人が障害のある人と一緒に業務を行うと、今までは気付かなかった非効率的な箇所や、人為的ミスが起きやすい箇所、身体の危険を伴っている作業箇所などに、より注意を払うことが求められます。

それによってこれまでの業務フローが改善され、より効率的で安全な労働環境へと変わります。 また、多様な人材と一緒に働くということは、合理的な配慮が必要になります。

その配慮によって、誰もが適性を活かし、最大限活躍できる体制が整備されるようになります。 このように、働く人を起点として働く環境を変えていくことが、真の意味での働き方改革です。

障害者雇用促進法とは

障害者雇用促進法とは 障害者雇用促進法とは、障害者の雇用と在宅就労の促進について定めた法律です。障害者雇用促進法には、障害者の雇用に関する制度が大きく2つ存在します。

障害者雇用率制度障害者雇用納付金制度です。一つずつ説明します。 なお言葉の定義ですが、

  • 常用労働者=週30時間以上勤務者
  • 短時間労働者=週20時間以上30時間未満勤務者

としています。

障害者雇用率制度

労働者が一定数以上の規模の事業主は、労働者に占める障害者の割合を法定雇用率以上にする義務があります。

民間企業の法定雇用率は2.2%です。 障害者雇用率の算出にあたっては、下記のルールに則ります。

  • 常用労働者は1.0人カウント
  • 短時間労働者は0.5人カウント
  • 重度障害のある労働者はそれぞれ2倍の数値としてカウント
  • 算定対象となるのは身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳をもつ人に限定

例えば従業員数50人の民間企業が常用労働者の障害者1人と短時間労働者の障害者1人を雇用していた場合、

(常用労働者1+短時間労働者0.5)÷全従業員数50×100=3%

ですので、民間企業の法定雇用率2.2%をクリアしています。

なお、雇用義務を履行しない事業主に対しては、ハローワークが行政指導を行います。

参照:障害者雇用率制度|厚生労働省

障害者雇用納付金制度

障害者雇用には、職場環境の整備(バリアフリー化など)に費用がかかります。

障害者を雇用することが事業主にとって大きな経済的負担にならないように設けられた制度が、障害者雇用納付金制度です。

事業主間で発生する経済的負担の公平を図るために、一方からは納付金を徴収して、もう一方にはこの納付金をもとに調整金・報奨金を支給する制度です。

参照:障害者雇用納付金制度の概要|厚生労働省(PDF資料)

納付金

障害者雇用納付金は、

  • 常用労働者数が100人超
  • 障害者法定雇用率を達成していない

上記の2つの条件を満たした場合、未達成人数1人分に対して月額5万円の納付を義務づけています。

常用労働者数100人以上200人以下の事業主は月額4万円の納付です。 この納付金をもとに、法定雇用率を達成している事業主に対して以下の調整金・報奨金を支給します。

調整金

調整金は、

  • 常用労働者数が100人超
  • 障害者法定雇用率を達成している

上記の2つの条件を満たした場合、達成人数1人分に対して1人超過するごとに月額2.7万円の調整金が支給されます。

報奨金

報奨金は、

  • 常用労働者数が100人以下
  • 各月の雇用障害者数の年度間合計数が、目標値* である

* 目標値とは、障害者を4%または6人のいずれか多い人数を上回ること

上記の2つの条件を達成した場合、障害者雇用数が目標値を上回った人数1人に対して月額2.1万円を報奨金として支給されます。

特例給付金

週20時間未満の短時間であれば就労可能な障害者を雇用する事業主には、特別給付金が支給されます。

2020年4月の法改正により、新設されました。 特別給付金は、

  • 労働時間が週10~20時間未満となる障害者の雇用がある
  • 対象の労働者が1年を超えて雇用される見込みがある

上記の2つの条件を達成している場合、週10~20時間勤務の障害者1人につき、

  • 常用労働者数が100人超の事業主:月額7,000円(納付金申請義務あり)
  • 常用労働者数が100人以下の事業主:月額5,000円

が支給されます。

参照:特例給付金のご案内|独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構

その他障害者雇用に関する助成金

上記以外にも、障害者雇用に際してはさまざまな助成金を受けることができます。

詳細は下記記事をご参照ください。
障害者雇用をしたときに受けられる助成金制度とは?経営者必見!

障害者雇用促進法の一部改正

障害者の雇用をさらに促進するために、2020年4月1日に障害者雇用促進法が一部改正されました。民間企業に対する措置としては、2点変更追加されました。以下の2点です。

  • 特別給付金を支給する仕組みを創設
  • 中小企業向け、優良な事業主の認定制度の創設

どちらも障害者雇用を促進する民間企業の努力に報いるための改正です。

参照:改正障害者雇用促進法の概要|厚生労働省(PDF資料)

障害者雇用の現状

障害者雇用の現状 それでは、日本における障害者雇用の状況はどのようになっているのでしょうか。

厚生労働省が公表している障害者雇用状況の集計結果をもとに確認します。

日本企業の雇用障害者数

民間企業における雇用されている障害者の数の推移

出典:厚生労働省 令和元年 障害者雇用状況の集計結果

現在、民間企業における障害者雇用の法定雇用率は2.2%と定められています。企業努力もあって、雇用障害者数と法定雇用率達成企業の割合は上昇傾向にあります。

2019年時点では、雇用障害者数は56万608.5人(前年比+25,839.0人増加)で過去最高でした。ちなみに、法定雇用率達成企業の割合は48.0%でした。 法定雇用率達成企業の割合の推移

出典:厚生労働省 令和元年 障害者雇用状況の集計結果

一方で、過去には中央省庁で障害者雇用を水増ししていたことが発覚するなど、算出結果と実態がどれほど合致しているか、また障害者雇用に対する考え方が浸透しているかについては、注視する必要があります。

障害者雇用のメリット

障害者雇用のメリット 障害者雇用には、事業主にとっていくつかのメリットがあります。主なメリットは4つです。

メリット1.金銭面での支援がある

先述したように、障害者雇用促進にはさまざまな金銭面での支援があります。社会的な役割を果たす事業主には、調整金や報奨金、助成金の支給があります。 経済的負担を軽減しながら障害者が働きやすい職場環境の整備ができれば、新たな雇用を生み出すことができます。

メリット2.業務内容の見直しが進む

先述したように、障害者を雇用することで業務のどのフローがつまずきやすいのかを可視化する効果があります。障害者雇用は、今までのあたりまえを見直すきっかけになります。 業務内容で実は不必要だったものがあるかどうかを洗い出すいい機会になります。結果として全体の効率化・最適化ができ、生産性を上げることにつながります。

メリット3.社内コミュニケーションが活発になる

障害者雇用によって可視化された業務課題をどのように解決していくかは、一部門だけでなく組織全体で解決していかなければなりません。 社内での活発な意見交換が必要となり、部署をまたいだ連携が強化され、結果として社内コミュニケーションの活性化が期待できます。

メリット4.活動をアピールできる

2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された持続可能な開発目標(SDGs)のひとつに「10:人や国の不平等をなくそう」があります。 障害者雇用は人の不平等をなくすことにつながりますので、SDGsの目標達成に向けた立派な取り組みです。社会の課題に取り組む企業としてアピールできます。

また、SDGsの取り組みは投資家から資金を調達する際に有利になります。世界の投資家が注目をしているESG投資は、環境(Environment)・社会問題(Social)・企業統治(Governance)に配慮している企業を重視して投資をします。 投資家が企業のESGを評価する上で、SDGsは一つの指標になります。そうしたことから、投資家から資金を調達したい場合にSDGsの取り組みは、資金調達に有利に働きます。

障害者雇用の課題

障害者雇用の課題 障害者雇用を促進していく上で、メリットだけでなく課題も出てきます。障害者の雇用で事業主が直面する代表的な課題を4点あげます。

課題1.障害者雇用に関する適切なノウハウがない

障害者雇用に際して必要な配慮は、身体障害者に対するバリアフリー化といった施設・設備の整備だけではありません。知的障害者や精神障害者に配慮した業務フローの可視化や注意すべき点の掲示、障害がある人とそうでない人のコミュニケーションのとり方など、さまざまな点に気を配ることが求められます。

事業主の中には、そうした「障害の特性への配慮」に対する知識がないことも少なくありません。 障害者雇用をしてみたけれど、どうすれば従業員全員がよりよい環境で働くことができるかがわからず、結果として雇用した障害者の離職を引き起こしてしまうというケースもあります。

課題2.障害者雇用への社内理解が低い

社内で障害者雇用への理解がない場合、障害者が既存の従業員とどのようにして打ち解けていけるのかという問題も生じます。従業員間でのコミュニケーションがうまくいかなければ、業務の効率も低下してしまい、双方が気持ちよく働くことは難しくなってしまいます。

特に受け入れる現場の従業員に人間の多様性を尊重するインクルージョン(inclusion、包括・包含)の考え方が浸透していないと、雇用した障害者が最大限活躍できません。

課題3.短期離職のリスクを回避できない

障害がある人の中には、精神的に不安定で、衝動的に業務を放棄してしまう人もいます。また、社内でのコミュニケーションロスや労働環境の不備による働きづらさを理由に、短期で離職してしまうというリスクが、ほかの労働者に比べて高くなりやすいということがあります。

リスクを少しでも回避するためには、今までの働き方や環境を見直した上で障害者雇用をしなければなりません。障害のない人だけが働いていた今までの労働環境の延長線上で障害者の雇用を進めると、リスクはなくなりません。

課題4.職種によっては障害者雇用が難しい場面もある

危険を伴う作業や、高い専門性を有する業務などについては、どうしても障害者雇用が難しくなってしまいます。それはある程度仕方のないことです。障害者の能力や適性と合わないにもかかわらず、障害者を雇用することが目的となってしまっては、本来のノーマライゼーションの理念から外れます。 必ずしも障害者本人が希望している職に就けるわけではないという点も課題としてあります。

障害者雇用を促進するためのポイント

障害者雇用を促進するためのポイント 障害者雇用に際しては、自社における課題点をクリアしていくことが求められます。 特に社内での受け入れ態勢を整えることについては、従業員向けの研修や勉強会、ミーティングなどを含めて十分に検討するとよいでしょう。

障害者雇用への社内理解がないと、障害者雇用は定着しません。 はじめのうちは、企業の障害者雇用を支援している企業の助けを借りながら障害者雇用を促進していくのもよいでしょう。 また、業務を説明できるようにしておく必要があります。

なぜその業務をするのか、どのような手順で作業を行うのか等を明確に説明できなければなりません。 職務記述書(job description)が不明瞭であったり、作業がマニュアル化されておらず属人的になっている場合は、そもそも障害の特性への配慮をした雇用ができません。

障害がある人に、どのような業務範囲でどのような作業工程で仕事をしてもらうとその能力を活かせるのかを検討・配慮をするためには、まず自社の見えづらい業務を徹底して見える化・説明できるものにしなければ、障害者雇用でつまずきます。

まとめ

障害者雇用と障害者雇用促進法。企業にとっての義務と課題のまとめ 障害のある人もない人も、互いに支え合い、地域で生き生きと明るく豊かに暮らしていける社会を目指す上で、企業等の障害者雇用は不可欠。障害者雇用促進法では、事業主に対する措置として2つの制度がある。

  • 障害者雇用率制度

民間企業は、労働者に占める障害者の割合を法定雇用率2.2%以上にする義務がある

  • 障害者雇用納付金制度

-障害者の雇用に伴う事業主間の経済的負担の調整を図る制度 -雇用率未達成事業主は納付金をおさめ、雇用率達成事業主には調整金が支給される -2020年4月の法改正により、特例給付金が新設 -その他、各種助成金あり 2020年4月1日に障害者雇用促進法が一部改正。2点変更追加。

  • 特別給付金を支給する仕組みを創設
  • 中小企業向け、優良な事業主の認定制度の創設

障害者雇用のメリットは主に4つ。

  • 調整金や報奨金、助成金などの金銭面での支援がある
  • 既存の業務内容の見直しが進む
  • 社内コミュニケーションが活発になる
  • 活動をアピールできる

障害者雇用の課題は代表的なものが4つ。

  • 事業主に障害者雇用に関する適切なノウハウがない
  • 障害者雇用への社内理解が低い
  • 短期離職のリスクを回避できない
  • 職種によっては障害者雇用が難しい場面もある

障害者雇用を促進するためのポイントは2点。

  • 障害者雇用への社内理解の浸透
  • 業務の見える化、明文化

障害者雇用は既存の働き方を見直し、真の意味での働き方改革を進めるいい機会にもなり得ます。もちろん課題はありますが、多様な人材を受け入れながら事業を発展させていくことは、社会にも事業にも労働者にもよい影響を与えます。自社にフィットした障害者雇用を検討してみてください。


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