
役員に福利厚生は存在しない?迷いやすいポイントを解説
役員に対する福利厚生に迷われることはありませんか。今回は、役員をはじめ、役員兼従業員、個人事業主、家族が関わる家族経営など、企業運営で考えられるさまざまなパターンにおける福利厚生について確認します。
役員や事業主についての福利厚生費については、税法上の関わりも大きくなります。それゆえに福利厚生費は非常に厳しくチェックされるので、不正なく運用していくことが大切です。
目次[非表示]
- 1.役員にも福利厚生は適用される?
- 2.福利厚生の定義
- 2.1.法定福利厚生と法定外福利厚生
- 2.2.役員の福利厚生と税法
- 2.3.【例外】役員と従業員とで扱いが変わる福利厚生
- 3.役員兼従業員の場合は?
- 4.個人事業主の場合は?
- 5.家族経営の場合は?
役員にも福利厚生は適用される?
結論からすると、役員だけに適用される福利厚生は原則ありません。
福利厚生は、従業員の生活や仕事の充実や向上を目的とするものであり、役員は企業側(雇う側)の立場になるため、福利厚生を提供する側になります。その企業側に立つ役員だけを対象にした福利厚生はありません。
厳密にいうと、すべての従業員を対象にしており、社会通念上、妥当な金額の福利厚生を従業員と一緒に利用することはできます。ですので、役員だからといって福利厚生を利用できないわけではありません。あくまで役員「だけ」という限定されたものはない、ということです。
福利厚生の定義
では、福利厚生の定義を確認してみましょう。福利厚生の定義や目的から考えると役員だけの福利厚生が認められないことに納得がいきます。
法定福利厚生と法定外福利厚生
まず福利厚生には法定福利厚生と法定外福利厚生があります。この2つの特徴を確認します。
法定福利厚生
法定福利厚生は、法律で実施が義務付けられた福利厚生です。法定福利厚生は以下の6種類です。
- 健康保険料
- 介護保険料
- 厚生年金保険料
- 子ども・子育て拠出金
- 労災保険料
- 雇用保険料
法定福利厚生で発生する、企業負担額(納付額)については、法定福利費で処理します。これは法律で義務付けられているため、事業主、役員、従業員すべてが対象となります。
法定外福利厚生
法定外福利厚生は、法律上の規定のない、企業の任意で実施していく福利厚生です。企業独自に制定することも可能なため、その種類は多岐にわたります。 一般的に導入率の高い法定外福利厚生には、以下のようなものがあります。
- 通勤手当
- 出張手当
- 食事手当
- 親睦会
- 慶弔見舞金
- 健康診断、予防接種
- 社宅や住宅手当
- サークル活動、スポーツ施設利用補助
- 社員旅行
法定外福利厚生にかかる費用が、福利厚生費での計上となり非課税対象になります。しかし、自社で法定外福利厚生を実施し費用がかかったとしても、すべてについて福利厚生費での計上が認められるわけではありません。福利厚生費としての計上が認められるためには、3つの基本要件を満たしている必要があります。以下の3つです。
- 福利厚生の目的に沿っていること
- すべての従業員を対象として提供されていること
- 社会通念上、妥当な範囲(常識の範囲)の金額であること
この要件を満たすことで、福利厚生費として計上ができます。
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役員の福利厚生と税法
では、なぜ役員だけに適用される福利厚生はないのか。それは非課税対象の福利厚生費が、法人税、所得税、源泉徴収処理などの税額に関わっているからです。 福利厚生にかかる費用は、要件を満たしていれば課税対象から外れます。
もし、企業経営側の立場である役員だけに適用される福利厚生があると、法人税軽減目的の乱用の懸念が出てきます。 企業として税金の負担を減らすためには、福利厚生名目で福利厚生費を増やせばいいという考え方になってしまうのです。福利厚生費のチェックが厳しいのは、このためです。
【例外】役員と従業員とで扱いが変わる福利厚生
全従業員が利用でき、社会通念上、妥当な範囲内の金額の福利厚生は、役員も従業員同様に利用ができ、福利厚生費として計上できます。ただし、中には役職に応じて差をつけられるものや役員と従業員とで扱いが異なるものもあります。ここでは慶弔見舞金と社宅家賃を取り上げます。
慶弔見舞金
役員に対するものでも、慶弔見舞金は全額を福利厚生にすることは認められています。
- 本人やその家族の結婚や出産に対するお祝い金や贈答品
- 本人やその家族の葬式に対する香典や花輪
- 本人の疾病や傷病に対する見舞金・入院見舞い金
これら慶弔見舞金の額を勤続年数や職位、役職に応じて、企業内で基準を設定することも可能のようです。 ただし役員に対する慶弔見舞金の場合、他の従業員と著しく差があると福利厚生費として認められないことが多いです。役職に応じて基準を設定する場合でも、妥当な金額という点を考慮しておくことが大切です。
社宅
社宅家賃については、従業員と役員では福利厚生費として計上するための条件が異なっているので注意が必要です。
従業員の場合は、賃貸料相当額の50%を従業員が負担することで、企業負担額を福利厚生費として計上することができます。役員の場合は、賃貸料相当額の100%を役員が負担することで企業負担額を福利厚生費にできる、となっています。
少しわかりづらいですが、賃貸料相当額と実際に支払う家賃額は違います。実際に支払う家賃額と賃貸料相当額の差額を、企業が負担することになります。
役員の賃貸料相当額は、社宅の床面積により小規模な住宅とそれ以外の住宅とに分けられて計算します。詳しい計算方法は、国税庁のホームページをご覧ください。
社宅家賃についても、社会通念上、妥当と認められる範囲とすることが条件です。豪華すぎる住宅は社宅としては認められません。
役員兼従業員の場合は?
とくに中小企業などでは、役員と従業員としての業務を兼務する人も少なくないでしょう。福利厚生費の基本要件には、「2.すべての従業員を対象として提供されているもの」とあります。
これに照らせば、役員兼従業員も福利厚生を利用できるということになります。ただし、役員のみを対象とする福利厚生は絶対に認められないことは明らかです。
個人事業主の場合は?
続いて、個人事業主の場合の福利厚生はどうなるのでしょうか。 まず、前提として、個人事業主の中で自分だけで事業運営をしている単独経営の場合は、福利厚生費の適用は認められません。
個人事業主は従業員を雇用する側の立場だからです。 個人事業主でも、従業員がいる場合には、福利厚生費の適用は可能になります。自社で法定外の福利厚生制度を制定し、各制度の基準や要件を満たしていれば、役員も従業員同様に福利厚生を利用でき、問題なく福利厚生費の計上が認められます。法人税の節税対策にもなるでしょう。
家族経営の場合は?
最後に、家族経営の場合の福利厚生はどうなるのでしょうか。 事業主の家族が事業運営に常時携わっているケースでは、福利厚生費について気をつけておきたいところです。
見方によって、事業主の家族は従業員かもしれませんが、税法上では事業主と同一会計上にある存在となります。
したがって、家族以外の従業員がいない家族経営の場合、法定外福利厚生にかかる費用は福利厚生費としての計上が認められません。単独経営の個人事業主と同じ扱いになります。福利厚生を導入するには、家族以外の従業員が必要です。