従業員に対する福利厚生には、かかる費用が課税対象になるものと、非課税対象になるものが存在しています。福利厚生費といえば、全額非課税になると考えてしまう総務人事担当者も多いのですが、そうとは限りません。今回は、福利厚生費が非課税対象になる条件と課税対象になるケースについて解説いたします。
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福利厚生費が課税対象って本当?

福利厚生費には、課税対象になるものと非課税対象になるものがあります。まずは、法定福利費と法定外福利費について解説します。
法定福利費と法定外福利費
実際に福利厚生費が課税されるかどうかを判断する上でのポイントになるのが、法定福利厚生(法定福利費)か法定外福利厚生(法定外福利費)かという点です。
福利厚生は大きく法定福利厚生と法定外福利厚生の2種類に分けられ、かかる費用も法定福利費と法定外福利費の2種類に分けられます。
法定福利厚生は労働基準法のような法律によって定められている福利厚生制度です。
労災保険、雇用保険、健康保険のような、特定の条件下であれば企業は必ず加入しなければならない強制加入の社会保険費用や労働保険費用等が法定福利厚生にかかる費用、すなわち法定福利費になります。
法定福利費は原則非課税扱いです。
一方、法定外福利費とは法で定められていない、企業が独自に実施する福利厚生にかかる費用を指します。通常、この法定外福利費のことを福利厚生費と呼んでいます。
例えば、英会話スクールやスポーツクラブなどに全従業員が通えるようにして、その費用の全部または一部を企業が負担した場合には、法定外福利費(以下、福利厚生費)として認められ、非課税対象になります。
ただし、一部の従業員だけしか利用できない場合には、福利厚生費ではなく一部の従業員に対する給与として扱われます。福利厚生費は、全従業員が平等に適用対象にならなければ、課税対象となってしまいます。
福利厚生費が非課税対象になる条件
福利厚生費が非課税対象になるには、以下の要件を満たす必要があります。この要件を満たすことが、非課税対象となる条件です。
- 前提として、福利厚生の目的に沿う内容であること
- 従業員全員を対象としている平等な福利厚生にかかった費用であること
- 福利厚生として常識の範囲内の内容、及び妥当な金額であること
- 税務規定の範囲内の支出である場合(規定のある法定外福利厚生の場合)
福利厚生は、従業員やその家族の生活や健康の安定や向上、よりよい労働環境を提供することが目的となります。その目的に沿う内容であることが、非課税対象になる大前提です。
福利厚生制度によっては明確な限度額が定められているものもあるので確認が必要です。
福利厚生費で課税対象になるケース

福利厚生費に相当するものを支出する場合は、特定の条件を満たしていないと、給与とみなされることがあります。
給与扱いになると従業員の所得税・住民税の課税対象収入として処理されるので、注意が必要です。福利厚生費で課税対象になるものとは、以下のようなケースです。
課税ケース1. 通勤手当の過度な支給
従業員に支給する通勤手当については、一定額までは福利厚生費としての計上が可能です(非課税対象)。しかし、通勤手当を過度に支給していると通勤手当が課税対象になります。
具体的には、電車通勤で1ヶ月あたりの通勤手当が15万円を超えてしまう場合は課税されます。また、オフィスから2キロ以内の通勤距離で自動車や自転車で通勤している従業員に対して交通費を支給すると全額課税されます。
このことから、就業規則などで自宅から勤務先までの通勤距離が2キロ以下の場合には交通費を支給しないと定めている企業も多いです。
課税ケース2.従業員に費用を渡して健康診断を受けてもらう
従業員に健康診断の費用を支給して、従業員の手から病院に健康診断の費用を払う場合には課税対象になります。
金額に関しても、常識の範囲内とされています。あまりにも高額な健康診断費用になると福利厚生費として認められません。
一方、企業が直接病院に対して健康診断費用を支払う場合は、非課税対象です。
課税ケース3.社宅や寮の家賃(50%以上の企業負担)
社宅や寮を従業員に貸与する場合にも注意が必要です。賃貸料相当額を企業がどれだけ負担するかで明確に課税と非課税にわかれます。
社宅や寮の家賃を一定の計算式で計算して、その50%以上を従業員から徴収する場合には企業負担額を非課税対象にできます。企業負担が50%以上の場合は、企業負担額については給与とみなされ、課税対象になります。
課税ケース4.従業員の研修旅行や社員旅行の費用負担(要件を満たさない場合)
従業員の研修旅行や社員旅行を企画している場合にも注意が必要です。福利厚生費として計上するためには、以下の要件を満たさなければなりません。
- すべての従業員を対象としており、従業員の50%以上が参加していること
- 4泊5日以内の旅行であること
- 行かない(行けない)従業員に対して現金支給がないこと
の3つ要件を満たすことが非課税対象になる条件です。この3つ要件を満たしていない研修旅行や社員旅行の費用は、課税対象になります。
全従業員を対象にした研修旅行や社員旅行という行為が非課税の対象になっているのであって、一部の人しか参加できない旅行や旅行代金を現金で支給する場合は、賞与などとして扱われる可能性があります。
課税ケース5.従業員への食事支給・手当・補助(要件を満たさない場合)
従業員に対して食事を現物支給する食事支給は、以下の要件を満たせば福利厚生費として計上できます(非課税対象)。満たさない場合は、課税対象になります。
- 従業員が食事代金の半額以上を負担していること
- 企業側負担が、一人あたり月額3,500円(税抜)以下であること
- 残業や深夜勤務従業員に対する食事の現物支給
上記は社員食堂、仕出し弁当などで食事が現物で提供される場合です。食事手当として現金が支給される場合は、給与扱い=課税対象となります。
現金支給の食事手当とは別で、食事に限定をしたチケットを従業員に配布をする食事補助があります。このチケットによる食事補助も、上記の要件(従業員負担50%以上、1人あたり月額税抜き3,500円上限)を満たせば、非課税対象になります。
課税ケース6.社会通念上妥当と認められない額の飲食
社内で飲み会や食事会を行う場合、全従業員に参加の権利があり、かつ全従業員の50%以上が参加した場合は、福利厚生費として認められます(非課税対象)。
しかし、これらのイベントにおいて1人に対し5万円など、あまりに高額な支出が計上されている場合は、福利厚生費ではなく交際費として処理(課税対象)しなければいけないケースも存在します。
この金額については、社会通念上妥当かどうかが判断基準となります。一般的な支出であれば問題ありませんが、不安な場合は顧問税理士などと相談しておきましょう。
また、役職や職種などで参加が限定されている場合や社外の人を大勢呼ぶような会の費用については、課税対象になります。福利厚生費ではなく交際費として計上しなければなりません。
課税ケース7.その他現金・現物支給で従業員に還元した場合
そのほかにも、旅行券などの金券類の支給やスーツの現物支給などを行うと、給与扱いの支出となり課税対象になります。
制服の貸与や支給については原則非課税対象となりますが、一般的なスーツのように、制服としての機能が弱く、特定の企業の従業員であることが判別しにくいようなものを現物支給してしまうと、課税対象として扱われます。
もちろん、それらの購入にかかる費用を現金で支給した場合についても、課税対象です。
カフェテリアプランへの課税

福利厚生のカフェテリアプランについては、どのような判断がされているのでしょうか。
付与されるポイントが役職等で違う場合は課税対象
カフェテリアプランは同じ福利厚生を受けるのではなく、同額(ポイント)相当とみなせる福利厚生を受けるという考えとなります。福利厚生費として処理するためには、全従業員が平等に福利厚生を受けられなければなりません。
役職や勤続年数によって付与されるポイントに差があるような場合は、全従業員のカフェテリアプランが課税対象となります。平等な福利厚生の利用という原則から外れるからです。
また、ポイントを現金に換えることができるシステムが存在するカフェテリアプランは、課税対象となってしまうので注意してください。
換金性のあるものは課税対象
福利厚生費として処理するために必要なもう1つのことは、現金・金券類として支給しないことです。カフェテリアプランのポイントが換金可能になっていれば、給与所得として算出され、課税対象になります。
また、換金性のある金券類(商品券・乗車券・映画/遊園地/スポーツ観戦の入場券など)は課税対象となりますので、十分に注意してください。
カフェテリアプランでも非課税対象になる条件
カフェテリアプランは厳密にみていくと、課税扱いになるものと非課税扱いになるものが混在しています。課税・非課税の判断が難しいところですが、主に2点の要件を満たしていれば非課税対象になります。
- 従業員が平等に享受できる
- 現金、金券類ではない
この2点の要件を満たしていれば、原則非課税対象になります。
カフェテリアプランであっても、福利厚生にかかる費用が非課税対象になる条件と同じです。
福利厚生費ではないと判断された場合にかけられる課税率

福利厚生費は非課税のため課税率は0%ですが、もしも福利厚生費として妥当でないと判断された場合には、給与を支給したという扱いになるため、所得税を課税されることになります。
福利厚生費が給与扱いに変わると、源泉所得税漏れがあったと判断されます。この源泉所得税の納付漏れは、納付すべき税額に対して10%の不納付加算税を支払う義務が生じます。
具体的には、従業員10名に対して10万円の福利厚生費を計上しており、この全額が福利厚生費として不適当と判断された場合には、10人×10万円×5%(所得税)=5万円が課税されます。
さらにこの税額5万円に10%の不納付加算税が加算されて、計55,000円を納付する義務が発生します。
これらの追徴について、後日従業員から徴収すればよいとも考えられます。
しかし、退職してしまっている従業員がいる場合には徴収することが難しくなっているため、企業が全て支払いを行うケースが多いです。
また仮に徴収できたとしても、企業が用意した福利厚生を利用して聞いていない支出があとから発生することはおかしいと従業員から苦情が出る可能性も高いです。
企業としては大した額ではないかもしれませんが、個人にとっては非常に大きな額である可能性もあります。こうしたことから、実際のところは、企業でこれらの追徴額を全額支払う傾向にあります。
まとめ

福利厚生費は福利厚生の内容によって、課税・非課税が変わる。福利厚生費は大きく2種類に分けられる。
- 法定福利費(原則非課税)
- 法定外福利費(内容によって課税・非課税が変わる)
法定外福利費(福利厚生費)の非課税要件は4つ。
- 前提として、福利厚生の目的に沿う内容であること
- 従業員全員を対象としている平等な福利厚生にかかった費用であること
- 福利厚生として常識の範囲内の内容、及び妥当な金額であること
- 税務規定の範囲内の支出である場合(規定のある法定外福利厚生の場合)
法定外福利費(福利厚生費)で課税対象になるケース。
- 通勤手当の過度な支給
- 従業員に費用を渡して健康診断を受けてもらう
- 社宅や寮の家賃(50%以上の企業負担)
- 従業員の研修旅行や社員旅行の費用負担(要件を満たさない場合)
- 従業員への食事支給・手当・補助(要件を満たさない場合)
- 社会通念上妥当と認められない額の飲食
- その他現金・現物支給で従業員に還元した場合
カフェテリアプランが課税対象になるケース。
- 付与されるポイントが役職等で違う場合
- 換金性のあるものと交換、ポイントを換金した場合
福利厚生費ではないと判断された場合には、納付すべき税額に対して10%の不納付加算税を支払わなければならない。
福利厚生費として計上できれば、企業にとっては損金の扱い(非課税対象)となります。また従業員にとっては、福利厚生としてサービスを受けても給与扱いにならないため、所得税の負担増はありません。したがって、企業にとっても従業員にとっても節税になります。
福利厚生の充実で従業員やその家族の生活の安定と向上、労働環境の改善を図ることには費用がかかります。費用がかかるからといって福利厚生の充実を検討しないのではなく、非課税となる要件を満たすことで、負担を軽減(節税)しながら福利厚生を充実することは可能です。
従業員やその家族のことを第一に考えた上で、自社でできる範囲の法定外福利厚生を、負担を軽減できるのであれば軽減しながら充実させていくことが理想です。