通勤手当とは。課税・非課税ルールと今後の働き方を踏まえた上での見直し

通勤手当とは。課税・非課税ルールと今後の働き方を踏まえた上での見直し

通勤手当とは、従業員の通勤に対して支給する手当のことです。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により通勤のあり方が変わったことで、今までと違った対応も出てきています。本記事では、通勤手当の課税ルールや支給方法・計算方法、通勤手当の今後などを詳しく解説します。

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通勤手当とは

通勤手当とは

まずは、通勤手当の基本をおさえていきましょう。

通勤手当の定義

通勤手当とは、通勤にかかる費用を従業員に支給することを指します。通勤方法は、従業員によって電車やバス、自家用車など異なりますが、通勤方法に応じた手当が支払われます。

支給額は企業で定めたルールによって決められ、通勤にかかる費用全額、費用の一部など企業によってさまざまです。

労働基準法には通勤手当の規定はない

通勤手当は、どの企業にも設けられているわけではありません。そもそも通勤手当は通勤に伴う法定外福利厚生の手当で、労働基準法に通勤手当に関する規定はなく、通勤手当を設けるかどうかは企業に委ねられています。

通勤手当の有無だけでなく、支給額や支給方法なども企業に委ねられているので、企業によって対応が異なります。

通勤手当の課税・非課税ルール

通勤手当の課税・非課税ルール

通勤手当は、一定額までは非課税になります(課税所得から外れる)。しかし、通勤手当が課税対象になるケースもあります。

通勤手当の課税・非課税ルールを通勤手段別に解説します。

電車・バスなど公共交通機関で通勤する場合の非課税上限額

電車やバスなどの公共交通機関で通勤する従業員への通勤手当は、1ヶ月あたり15万円までが非課税です。15万円を超えた通勤手当については、所得税や復興特別所得税の対象(課税所得)となり、課税対象になります。

通勤手当に含まれるのは、1ヶ月あたりの合理的な運賃等の額です。合理的な運賃とは、最も経済的で合理的と認められる経路にかかった費用のことをさします。

経済的かつ合理的というだけでは曖昧になりやすいので、通勤にかかる費用の定義を就業規則の中で明確に定めることが重要です。

マイカーや自転車で通勤する場合の非課税上限額

マイカーや社用車といった自動車または自転車で通勤する従業員への通勤手当は、通勤距離に応じて非課税上限額が定められています。

通勤距離ごとの非課税上限額は以下の通りです。

  • 片道55km以上 :31,600円
  • 片道45km~55km:28,000円
  • 片道35km~45km:24,400円
  • 片道25km~35km:18,700円
  • 片道15km~25km:12,900円
  • 片道10km~15km:7,100円
  • 片道2km~10km :4,200円
  • 片道2km未満 :全額課税

マイカー・自転車と公共交通機関を併用する場合の非課税上限額

マイカーや自転車で駅やバス停に移動し、公共交通機関を利用する場合は、公共交通機関の利用額と自動車・自転車通勤にかかる費用を合計し、1ヶ月あたり15万円までが非課税対象です。

通勤手当の支給方法・計算方法

通勤手当の支給方法・計算方法

通勤手当の支給方法・計算方法は、企業それぞれに委ねられています。

就業規則への書き方や変更・廃止の手続きも含めて、通勤手当の支給方法・計算方法を解説します。

通勤手当の定め方

通勤手当は法の定めがないので、企業それぞれで独自にルールを定める必要があります。通勤手当のルールを定める上で、主に必要な項目は以下の通りです。

  • 支給対象者
  • 支給対象の交通手段
  • 支給金額の算出方法
  • 通勤手当の申請方法
  • 通勤手当の支給方法

通勤手当の支給方法・計算方法

通勤手当のルールを定める際、支給方法と計算方法を明確に規定する必要があります。支給方法としては、現金支給と定期券での現物支給が主な方法です。

計算方法は、通勤方法によって異なるので注意が必要です。自動車通勤の場合は、自宅から勤務地までの距離に応じて通勤手当を支給するのが基本ですが、距離を参考にするのか、ガソリン代を参考にするかは企業によって違いがあります。

電車・バス通勤の場合は、自宅から勤務地までの最適な経路を定め、運賃の合計を算出・支給するのが一般的です。

就業規則への通勤手当の書き方

通勤手当を規定する際は、就業規則に明確に記載する必要があります。支給対象者や支給対象、支給金額などを明確にし、例外が出ないようにすることが大切です。

また、通勤手当の上限金額を明確に記載しておきます。上限が設定されていないと、通勤にかかった費用をすべて支給することになり、企業の負担が大きくなる可能性があります。

就業規則の記載例は以下の通りです。

(通勤手当)

    • 第1条 通勤手当を支給する従業員を以下の通り定める

1 住居から勤務する場所までの距離は片道〇km以上とする
2 通勤手段は、電車、バス、自家用車のいずれかとする など

  • 第2条 通勤手当の支給限度額は月額〇万円とする
  • 第3条 通勤手当の支給方法は、現金で給与支払い時に支給する

通勤手当を変更・廃止するときの手続き

長引く新型コロナウイルス感染症の影響を受け、通勤手当の固定支給を廃止する企業が増えています。

一度規定した手当制度を変更・廃止することは従業員にとっては不利益になるため、従業員の同意を得る必要があります。

従業員の同意を得るためには、まず変更・廃止をする理由を明確にし、代替案を検討します。検討内容を従業員に説明し、同意を得ることができれば、変更・廃止が可能です。

その後、管轄の労働基準監督署に就業規則変更届、変更後の過半数代表者からの意見書、変更後の就業規則といった書類を提出して、手続きは完了となります。

通勤手当を支給する上で気をつけたい注意点

通勤手当を支給する上で気をつけたい注意点

通勤手当を支給する上で、いくつかの注意点があります。お金が関わってくるので、しっかり注意点をおさえる必要があります。

社会保険等の対象に含まれる

通勤手当は、社会保険料の算定基礎賃金(標準報酬月額)に含まれます。そのため、通勤手当の支給額によって、保険料の負担やその他保険の給付額に影響される点に注意が必要です。

正社員とパート・アルバイトで待遇差をつけない

通勤手当は、正社員とパート・アルバイトで差をつけず、同様の取り扱いをする必要があります。

ただし、出勤日数に応じて通勤手当を設ける場合には、正社員とパート・アルバイトで差が出ることは合理的な理由があるので問題ありません。当然ですが非正規雇用という理由だけで、不合理な待遇差や差別的な取り扱いがあってはなりません。

パート・アルバイトでも福利厚生が利用できる。不合理な待遇差の禁止

不正受給の可能性がある

通勤手当は従業員の申請を元に支給しているため、申請内容を偽り不正受給が発生している可能性はゼロではありません。

住所を偽って通勤手当を多く申請する、規定外の経路で通勤し不正に申請するなど、不正に通勤手当を受給した事例があります。

支給基準を明確に定めることや申請内容を精査するなど、通勤手当の運用に注意しなければなりません。

通勤手当の今後

通勤手当の今後

これまでは出社を前提とする働き方が当たり前でした。オフィスに出社するための通勤手当は、過去の労働慣行の中では合理的な手当でした。

ただ、新型コロナウイルス感染症の拡大防止を機に、テレワークが普及するなど、出社を前提としない新しい働き方も増えています。

通勤が必ずしも当たり前でなくなった今、通勤手当はどのように取り扱うべきなのでしょうか。

各社の対応例

2020年から(早いところでは2019年末から)従来の働き方やオフィス、雇用制度などを見直す企業が増えています。各社の通勤手当に関する見直し例を紹介します。

万単位の従業員を抱える大企業

    • 富士通

働き方改革の富士通、定期代廃止にオフィス面積半減(日本経済新聞 2020年7月9日)

    • NTT

NTT 10月から在宅勤務手当 通勤費は実費支給(日本経済新聞 2020年8月11日)

    • 東京電力ホールディングス

東電、在宅勤務手当を支給 通勤費も実費精算(日本経済新聞 2021年2月19日)

大企業だから、なかなか制度を変えられないということはありません。

食品・飲料メーカー、自動車製造企業

    • カルビー

カルビー コロナを機にオフィス勤務者のモバイルワークを標準化(ニュースリリース 2020年6月25日)

    • キリンホールディングス

キリンHD、通勤手当を実費に シェアオフィスも拡充(日本経済新聞 2020年9月1日)

    • ホンダ

ホンダ、通勤手当廃止 在宅勤務手当を新設(日本経済新聞 2020年8月29日)

工場勤務の従業員(通勤が必須)をかかえる企業であっても、できるところから変えています。

通勤日数に合わせて実費精算する

完全にテレワークに切り替えているのではなく、必要に応じて通勤も取り入れるハイブリッド型企業が大多数です。そのような企業は、通勤日数に合わせて実費精算するのが合理的です。

先行事例でも、固定の通勤手当(定期代)を廃止したすべての企業が実費精算に切り替えています。

しかし企業側にとって実費精算は、通勤手当の固定支給運用よりも手続きが複雑になるので、運用体制をしっかり整備することが大切です。

通勤手当を廃止し、在宅勤務手当(制度)を整備する

テレワークの普及にともなって、固定のオフィスに通勤する機会が減っている従業員も増えています。通勤手当の固定支給廃止から実費精算への流れは、今後も続くでしょう。

ただし、通勤手当の固定支給を廃止して実費精算にするだけでなく、別の支援案が必要です。具体的には、在宅勤務制度(従業員がテレワークでも仕事の成果があげられる環境支援)を整備することが求められます。

在宅勤務では、光熱費や通信費がかかるので、在宅勤務手当(テレワーク手当)を支給するのが合理的です。しかし、課税所得から外れて非課税になる通勤手当と違って、在宅勤務手当は給与と同じ課税所得(すなわち課税対象)になります。

厳密には、在宅勤務に必要な費用(通信費、電気料金等)のうち合理的な計算によって算出された金額は、給与として課税されません。ただし、算式から業務使用部分を割り出して精算という手間がかかります。

新しい働き方に合致した手当を検討する

課税・非課税の枠にこだわってしまうと、本来の目的を見失った手当になってしまいます。非課税だから通勤手当を支給する、非課税だから在宅勤務手当は支給しないというのは違います。

手当(福利厚生)の本来の目的は、従業員の生活や労働にかかる経費に対して企業がそれを穴埋めする形で支給して、働きやすい環境(生活)を支援することです。

また手当は必要があれば新設され、必要がなくなれば廃止されるものです。時代が変われば手当の内容も変わります。時代とともに手当を見直すことは、むしろ自然なことです。

テレワークを定着させて、多様で柔軟な働き方の実現・(付加価値)生産性の向上を実現させたい国としても、今後、新しい働き方にフィットするように税制を見直す可能性はあります。

課税・非課税の枠を知っておくことはいいのですが、それにこだわらない “本当に従業員から必要とされる手当” を検討しなければ新しい働き方と手当(報酬含む)の間にギャップが生まれます。

このギャップが従業員のストレスや不平不満にならないように、このタイミングで通勤手当を含めた全手当を再確認してみてはいかがでしょうか。