健康経営は、将来に向けた投資。メリットと実践ポイントを詳しく解説

健康経営は、将来に向けた投資。メリットと実践ポイントを詳しく解説

企業経営において、経営資源である従業員等の健康維持・増進への投資は不可欠です。健康維持・増進を個人の自己責任にするのではなく、企業が率先して支援する必要があります。

今回は、従業員等の健康管理を経営的な視点で考える健康経営の概要やメリット、戦略的に実践するポイント、企業事例まで詳しく解説します。

■合わせてよく読まれている資料
健康経営最高峰銘柄企業が実践している健康施策」も合わせてダウンロードいただけます。

健康経営とは

健康経営とは
健康経営とは、従業員の健康管理に着目した経営手法のことです。

健康経営のメリットなどに触れる前に、まず健康経営とは何か、なぜ注目されているかなどを整理します。

健康経営の定義

健康経営の定義は、経済産業省の「健康経営の推進」にて ”従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること” と示されています。

健康管理を従業員それぞれに委ねるだけではなく、企業も経営課題として従業員等への健康投資を行い、生産性の向上や従業員のモチベーションアップや株価上昇、働きやすい労働環境の実現を目指します。

健康経営が注目されている背景

健康経営が注目されている背景のひとつに、日本の人口動態があります。日本は今後も少子高齢化が加速して、いわゆる生産年齢人口(15-64歳の人口)が減少していきます。

人的労働力の確保のためには、少しでも長く健康で働いてもらわなければならない(雇用延長等)状況です。

もうひとつの背景として、従業員を取り巻く環境があります。依然として日本の労働時間は、世界の諸外国よりも長いという結果が出ており、長時間労働の常態化は健康を阻害することもわかっています。

長時間労働の原因は何なのか?日本人の労働実態と問題点

肩こりや腰痛、頭痛などが慢性化して生産性が落ちるプレゼンティーイズム(Presenteeism)* だけでなく、心臓疾患など重大な病気を引き起こして死亡する事例も残念ながらあるのが現状です。
* プレゼンティーイズム(Presenteeism)とは、何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し、業務遂行能力や生産性が低下している状態(疾病就業)

長時間労働の常態化は身体に悪影響を及ぼすだけでなく、精神面にも大きな影響を与えます。慢性的な疲労やプレッシャー、ストレスによって心のバランスを崩し、休職や退職をせざるを得なくなり、最悪の場合自殺を選択してしまうケースもあります。

企業が行うべきメンタルヘルス対策。ストレスチェックの実施で働きやすい労働環境を

従業員の健康が損なわれるということは、企業の人的資本を失うアブセンティーイズム(Absenteeism)* につながります。
* アブセンティーイズム(Absenteeism)とは、病欠・病気休業の状態

さらに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大、テレワークが増え長期化していることも、従業員の健康を管理する重要性を高める要因の一つになりました。

そこで注目されているのが健康経営です。従業員が置かれている状況を踏まえて、従業員個人だけに健康管理を任せるのではなく、企業が積極的に従業員等の健康維持・増進に投資をして生産性向上を目指す流れが強くなっています。

健康経営普及に向けた政府の取り組み

政府は「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みのひとつとして、健康経営に取り組んでいる企業の見える化に取り組んでいます。健康経営に取り組むことが社会的な評価につながる環境を整備して、健康経営の浸透を進めるのが狙いです。

具体的な取り組みとして、健康経営銘柄と健康経営優良法人の認定を行っています。健康経営銘柄は従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を選定・公表しています。

一方、健康経営優良法人の認定では、特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業等の法人を顕彰して、幅広い企業から健康経営に取り組む優良な企業を見える化しています。

弊社も健康経営優良法人に認定されていますが、取り組んだ施策に関してもまとめておりますので、詳しく知りたい方は資料をダウンロードして詳細をご確認ください。

■お役立ち資料
「健康経営優良法人認定背景から戦略までを大公開〜当社が認定の取得に向けて実施した10個の施策〜」

健康経営によって従業員の健康に投資する理由

健康経営によって従業員の健康に投資する理由
健康維持・増進は、個人が気をつけるものと捉えがちです。確かに個人の健康意識も重要ですが、個人だけでは完璧に健康を維持・増進できるとは限りません。

健康経営によって、企業が従業員等への健康投資をする理由をおさえていきます。

従業員の健康管理は法律で義務づけられている

そもそも、使用者による労働者の健康管理は労働契約法や労働安全衛生法によって定められています。

労働契約法第5条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働をすることができるよう、必要な配慮をするものとする」と記されており、身体だけでなく精神の健康管理も義務付けられています。

労働安全衛生法においては、健全な労働環境を整えることを使用者の責務とし、健康診断やストレスチェックなどを義務付けています。

安全配慮義務とは?働きがいをもてる労働環境の整備でやるべきこと

従業員任せの健康管理はリスクが高い

健康管理の前提は自己責任ですが、従業員任せだけにすることはリスクが高いです。

健康意識には個人差があるのがひとつの理由です。また、健康面に配慮をした働き方に変えようとしても、企業側に柔軟な制度が整備されていない場合は個人の裁量で働き方を変えることはできません。

健康管理を従業員任せにしたまま放置してしまうと、疾病者や休職者、退職者が出はじめ、企業の生産性を低下させます。

従業員の健康状態の悪化により人材不足に陥った場合、新たな人材を獲得するコストがかかったり、残った人材の負担が増えたりするなど、悪循環になります。

健康経営に取り組まない企業のリスク

以上の理由から、企業も従業員の健康管理に関与する必要があります。まだ積極的に健康投資をしている企業は少ないのが現状ですが、すぐに取り組まなければ持続的な企業の成長は難しくなります。

以下のような特徴のある企業には、成長を阻害するリスクが潜んでいます。

  • 人材不足で従業員一人当たりの負担が大きい
  • 労働時間が長く、時間外労働や休日出勤が当たり前になっている
  • ストレスチェックの結果が悪く、ストレスを抱えている従業員が多い
  • 体調不良による遅刻や早退、欠勤が多い
  • 人を採用してもすぐに辞めてしまう、定着しない

このような特徴のある企業では、従業員の身体と心に負担がかかっており、生産性が低くなったり(プレゼンティーイズム)、心身の病気を患ってさらなる欠員が出る(アブセンティーイズム)可能性が非常に高いです。これは企業経営にとってリスクです。

従業員の健康が企業経営に大きな影響を与えると考え、健康経営の視点で従業員の身体と心の健康に配慮し、働きやすい労働環境をつくることが求められます。

健康経営 6つのメリット

健康経営 6つのメリット
企業が健康経営に舵を切ることによって、従業員等の健康維持・増進を支援できる従業員メリットはもちろん、企業にとってもメリットがあります。健康経営によって得られる6つのメリットをひとつずつ解説していきます。

メリット1.疾病者や休職者の減少

健康経営の直接的なメリットとして、人的労働力の確保があります。

心身の不調による疾病者や休職者を減らせるのが、最大のメリットです。人手不足を未然に防ぎ、欠員による負担増も予防できます。

メリット2.離職率低下

従業員等への健康投資の意識が低い企業では、働きやすい労働環境の改善にまで手が回らないことが多いです。心身の不調で休職している従業員へのサポートも不十分になりがちで、職場への復帰を望めずに離職してしまいます。

それだけではなく、そのような環境に嫌気がさして健康で優秀な人材までもが離職をしてしまうケースも少なくありません。健康経営の実践によって、休職者や疾病者が出にくい労働環境が整えられると、離職率を低下できます。

メリット3.従業員の活力やモチベーション、生産性の向上

従業員の心身が健康に保たれることによって、仕事に対する活力やモチベーション、生産性の向上を期待できます。

健康経営の実践によって、仕事と生活のバランスがとれる健全な労働環境が生まれます(ワーク・ライフ・バランスの実現)。心身ともに健康で生活も充実していれば前向きに仕事に取り組めるようになるので、生産性の向上も実現できるでしょう。

ワーク・ライフ・バランスとウェルビーイング。どのように働き方が変わる?

メリット4.企業価値の向上

「健康経営に取り組む企業の株価は、健康経営銘柄選定公表前も公表後も東証株価指数(TOPIX)を上回るパフォーマンスを示している」(大和証券 山田雪乃チーフESGストラテジスト)

2020年3月「健康経営銘柄2020」の採用35銘柄を指数化し、10年間の成長を分析した結果、健康経営が株式市場に好感されている(企業価値を上げている)ことがわかっています。

また、経済産業省は企業の「健康経営度」* を投資家向けに開示する取り組みをはじめます。
* 「健康経営度」は、企業の組織や制度のあり方、対策の効果などを数値化したもの

人的資本に対する投資(健康経営)はESG(環境・社会・企業統治)の「S(Social:社会)」の一部に位置づけられ、投資家の関心が高まっています。今後、さらに健康経営と企業価値は切り離せないものになっていきます。

メリット5.人材採用力が高まる

健康経営の実践により労働環境の改善、人材定着、生産性・業績の向上、企業価値向上が実現していれば、人材採用にも好影響を期待できます。

働き方や環境の変化によって、仕事だけでなく生活も重視する傾向が強まっています。従業員の健康に配慮をした経営をしている企業は多くの求職者の選択肢に入るはずです。

求職者は複数の求人募集から比較検討をするため、健康経営でおくれをとってしまうと、健康経営を実践している企業に人材が流れてしまうかもしれません。優秀な人材を確保するためにも、健康経営は重要です。

メリット6.企業が負担する医療費を軽減できる

従業員の健康に対する意識が低く疾病率が上がってしまうと、それだけ企業が負担する医療費も増えていきます。健康経営によって従業員等の健康維持・増進を実現できていれば、疾病率が下がり医療費の適正化につながります。

浮いた経費を健康投資に回すことで、より従業員にとって働きやすい労働環境を整えられます。

健康経営を戦略的に実践するポイント

健康経営を戦略的に実践するポイント
健康経営をやると宣言しただけでは何も変わりませんし、成果も出ません。健康経営は実践されて、はじめて価値があります。

健康経営を戦略的に実践するためのポイントは、以下5つに大別されます。

  1. 法令順守・リスクマネジメント
  2. 経営理念・方針
  3. 組織体制
  4. 制度・施策実行
  5. 評価・改善

以下、健康経営を戦略的に実践するためのポイントを解説します。

ポイント1.法令順守・リスクマネジメント

法令順守・リスクマネジメントは労務管理の基礎であり、健康経営実践の大前提です。労働安全衛生法などの労働安全衛生関係法令では、使用者として安全配慮義務を果たすためにとるべき措置が規定されています。

詳しくはこちらをあわせてご覧ください。

安全配慮義務とは?働きがいをもてる労働環境の整備でやるべきこと

ポイント2.経営理念・方針

経営トップが健康経営の意義や重要性を認識するとともに、その考え(理念)を社内外にしっかり示します。

現場の従業員が健康投資の必要性を感じていてボトムアップで提案をしたとしても、短い任期の中での短期的なビジョンしか持ち合わせていないような経営トップのもとでは健康経営の重要性を認識することができずに、実践はできません。

ポイント3.組織体制づくり

経営理念と方針(行動指針)だけで物事は前に進みません。健康経営を戦略的に実践するためには、実行力のある組織体制を構築する必要があります。

健康経営をリードするCEOやCHRO(最高人事責任者)、CHO(最高健康責任者)の管轄のもと、専門部門の設置が効果的です。既存の人事部などに専任者を置くのも有効です。

組織体制づくりができなければ、制度・施行の実行、評価・改善につながっていきません。健康経営実践の責任の所在を曖昧にさせないためにも、体制を整備することが重要です。

ポイント4.制度・施策の実行

従業員の健康維持・増進に関する施策として、法令で義務付けられた健康診断の実施、メンタル対策などがあります。

法令順守の観点から義務化されている施策(措置)の実施は当然として、それ以外にも従業員の健康状態を把握し、生活習慣改善のモチベーションを向上させる取り組みはあります。

具体的には、以下のような取り組みです。

  • 社員食堂での栄養データの可視化
  • 禁煙プログラムの提供
  • 外部講師による健康教育の実施
  • 健康促進イベント実施(スポーツ大会やヨガ教室など)
  • ヘルスケア専用アプリの導入 など

この他にも従業員目線で導入する制度や施策は効果を上げられる可能性がありますが、やみくもに増やせばよいというわけではありません。

雇用形態(正規雇用・非正規雇用)の違いや就労環境(時短・在宅勤務・副業/兼業など)の違いを加味して、自社の課題や問題点の解決策になる施策を計画・実施します。

健康サポートアプリ

Relo健康サポートアプリ

健康経営の第一歩としておすすめなのは、健康状態の可視化に役立つアプリの導入です。スマートフォンアプリであれば、さほど費用をかけずに導入することができます。

リロクラブの「Relo健康サポートアプリ」なら、従業員の健康状態がデータ化され、従業員一人ひとりの健康リテラシーの向上にも効果的です。

ポイント5.取り組みを評価・改善する

従業員等への健康投資がどの程度従業員の健康維持・増進につながっているのか、企業経営上の効果はどの程度なのかを評価します。

現状の取り組みを評価するだけでなく、次に活かせる(改善できる)PDCA体制を構築・維持することが重要です。

健康経営を推進する企業事例

sekisui gruop

最後に、健康経営を推進する企業事例として、積水化学グループの事例を紹介します。

積水化学グループ

2020年3月、積水化学グループは「健康経営優良法人2020」において、ホワイト500を取得しました。積水化学グループはすべての従業員が、心身ともにそして社会的にも良好な状態であるウェルビーイング(Well-Being)を目指して健康経営を推進しています。

積水化学グループの具体的な取り組みや今後の展開について、詳しくはこちらをあわせてご覧ください。

積水化学グループの健康経営の取り組みとは?Well-beingとアプリ活用

健康経営は将来に向けた投資

健康経営は将来に向けた投資
健康経営と企業経営は、密接に関わってきます。従業員等への健康投資は、短期的な視点からするとコストと捉えられるかもしれません。しかし、付加価値をつくり出す主体である従業員の健康は、企業経営に大きな影響を与えます。

以前は企業の大半が、製品サービスを中心とした市場シェア・量的成長を追い求めるビジネス・デザインでした。しかし現代は、顧客と利益を中心とした収益性を追求するビジネス・デザインへの再構築(転換)に成功した企業が成長をしています。

今でも市場シェアを拡大するために利益幅を削る(値引き等)といった “収益性に直結しない市場シェアの追求” は存在します。こうしたやみくもな市場シェアの追求が一因にもなって、企業のパーパス(Purpose:存在意義)は薄れ、従業員は過剰なノルマに追われ、心身の健康を損なうようなウェルビーイングとはかけ離れた仕事をする人が増えてきました。

それが働き方改革や新型コロナウイルス感染症拡大による社会の変化もあり、健康経営の推進、従業員ウェルビーイングの向上、パーパスに立ちかえる企業が一段と増えています。

また、労働環境は投資家の関心が高まっているESG投資のS(Social:社会)の一部に位置づけられているため、従業員等への健康投資を推し進める企業が増えています。

いずれにしても、健康経営を一過性のブームにしてはいけません。従業員等への健康投資は企業が持続的に成長するための投資であり、視座を高めると国の将来に向けた投資であると考えて、継続する必要があります。

不確実性が高まる時代の中で、企業の制度・組織・文化など様々なことが変わり、見直された今がチャンスです。将来に向けた投資として、健康経営に取り組んでいきましょう。