「人的資本の情報開示」を徹底解説!企業に求められる開示内容とは?
モノ・カネのように、人材(ヒト)を資本として解釈する用語が「人的資本」です。昨今は、そんな人的資本の情報開示が各企業に求められています。
本記事では人的資本の基本的な概要をはじめ、人的資本の情報開示が求められている背景、具体的な開示内容についてまとめました。
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目次[非表示]
- 1.人的資本とは人の持つ能力を資本として捉えること
- 1.1.「人的資本」と「人的資源」の違い
- 2.人的資本の情報開示が求められる背景とは
- 2.1.米国証券取引委員会の人的資本開示義務化
- 2.2.人的資本の価値が向上している
- 2.3.ISO30414の公開
- 2.4.ステークホルダーの人的資本への関心が高まっている
- 2.5.サステナビリティやESGの重要度が高まっている
- 2.6.働き方・キャリアが多様化している
- 3.人的資本の情報開示における日本国内の動向
- 3.1.「人材版伊藤レポート」の公開
- 3.2.岸田内閣が「人への投資」の抜本強化を宣言
- 3.3.経済産業省の「非財務情報の開示指針研究会」開始
- 3.4.内閣官房「非財務情報可視化研究会」開始
- 3.5.2022年中に人的資本開示ルールが公表される予定
- 4.人的資本開示19項目とは
- 5.ISO30414の11領域と項目内容
- 6.人的資本の情報開示における注意点
- 6.1.自社で出すべき情報の精査と収集・可視化
- 6.2.情報を定量的に判断できるようにする
- 6.3.ストーリー性を持たせる
- 7.人的資本の情報開示を行う手順や流れ
- 8.従業員のエンゲージメントを高めることは必須
人的資本とは人の持つ能力を資本として捉えること
「人的資本」とは、人材(ヒト)が持つ能力を企業にとっての資本として捉える考え方のことです。個人が持つ能力や技術、資格の他、「ヒト」に関する様々な領域を指す用語でもあります。具体的には、企業が行う研修や採用、労働現場における安全の保証、多様性の維持といった内容が含まれます。
「人的資本」と「人的資源」の違い
人的資本という用語には、「ヒトが持つ技術や能力を磨くことで価値を創造する」という意味合いが込められています。
人的資本に対して発生する費用はコストではなく、「投資」として捉えられます。 対する「人的資源」という用語には、「ヒトはあくまで資源として消費するもの」という意味合いがあるのがポイント。よって、そこに発生した費用は「投資」ではなく「コスト」と考えられます。
近年では従来型の「人的資源」ではなく、ヒトも企業もより持続的な成長が望める「人的資本」の考え方が主流となりつつあります。
人的資本の情報開示が求められる背景とは
人的資本の情報開示が求められる背景には、どのような理由があるのでしょうか。主に考えられる6つの理由を、以下でご紹介します。
- 米国証券取引委員会の人的資本開示義務化
- 人的資本の価値が向上している
- ISO30414の公開
- ステークホルダーの人的資本への関心が高まっている
- サステナビリティやESGの重要度が高まっている
- 働き方キャリアが多様化している
米国証券取引委員会の人的資本開示義務化
2020年8月、米国証券取引委員会による要求事項「レギュレーションS-K」の中に、人的資本の情報開示を義務付ける項目が新しく追加されました。
具体的な開示内容は各企業に委ねられていますが、その一方で人材採用や育成、維持に関する内容の開示が大きく期待されています。 人的資本の情報開示を義務付けたことで、人的資本経営が主流になるかもしれません。
人的資本の価値が向上している
現在は技術革新が進み、ロボットやAIがヒトに代わって現場で働くことが珍しくなくなってきました。そのため、人的資本の価値を高め、イノベーションや新たな機会創出を狙う機運が高まっています。
今後、企業がさらに成長するためには、採用や人材育成・労働現場の整備などを経て人的資本の価値を高める必要があるのです。
ISO30414の公開
海外企業が人的資本の情報開示を行うようになった契機は、「ISO30414」の公開にあります。
ISO30414とは、国際標準化機構(ISO)による国際的ガイドラインのこと。企業の離職率をはじめ、組織文化や人件費、ダイバーシティに関することなど、開示すべきとされる情報が全11項目記載されています。
ちなみに、ISO30414が発表された目的として、自社の人的資本の状況を数値化すること、企業の成長を継続的に促すことが挙げられます。
ステークホルダーの人的資本への関心が高まっている
ステークホルダーとは、企業の経営によって直接的・または間接的に影響を受ける利害関係者を指します。従業員をはじめ顧客や株主(投資家)、地域社会などが企業のステークホルダーにあたります。
こうしたステークホルダーが、人的資本をはじめとする企業の無形資産を評価する潮流になっているのです。
サステナビリティやESGの重要度が高まっている
近年は、サステナビリティの観点から社会貢献やフェアトレード、環境保護に取り組む企業が増えてきました。また、企業価値を測る新たな指標「ESG」に沿ってガバナンス強化や社会貢献に臨む企業もみられます。
ここで「ESG」とは、英語の環境・社会・ガバナンスの頭文字を合わせた言葉です。 社会や環境保護、企業統治などの観点を取り入れて企業の成長・経営を目指す必要があるという「ESG」の考え方に則って、人的資本の価値を向上させようという機運も高まっています。
働き方・キャリアが多様化している
企業に勤めながら副業や兼業に取り組んだり、出社するのではなく在宅勤務を実施したりと、働き方・キャリアの積み方は多様化しています。
人材育成及び人的資本の情報開示を行うことで、その人の価値が帰属する企業も価値を保てます。よって、多様な働き方にも柔軟に対応できる企業づくりにつながります。
人的資本の情報開示における日本国内の動向
人的資本の情報開示は、世界的な潮流となりつつあります。では、日本における人的資本の情報開示は、どのような動きをみせているのでしょうか。 人的資本の情報開示に関わる方なら押さえておきたい動向を5つご紹介します。
- 「人材版伊藤レポート」の公開
- 岸田内閣が「人への投資」の抜本強化を宣言
- 経済産業省の「非財務情報の開示指針研究会」開始
- 内閣官房「非財務情報可視化研究会」開始
- 2022年中に人的資本開示ルールが公表される予定
「人材版伊藤レポート」の公開
「人材版伊藤レポート」とは、2020年に公開された経済産業省によるレポート。
経済産業省が開催した「人的資本経営の実現に向けた検討会」で議論された内容を盛り込むとともに、人事戦略と経営戦略を連動させる取り組みや、社員のエンゲージメントを高めるための取り組みなどの指針が記載されています。
つまり「人材版伊藤レポート」が、人的資本の情報開示における、指針や基準になる大切な資料なのです。
岸田内閣が「人への投資」の抜本強化を宣言
岸田内閣は、「人への投資」の抜本強化を経済政策の一環として掲げています。人への投資に注力することで、企業の継続的な成長と価値向上、賃金アップなどの両立を図ろうという政策です。
投資家を含むステークホルダーは、人への投資がされているかを、企業価値を測る材料にするようになるでしょう。
出典元: 首相官邸ホームページ
経済産業省の「非財務情報の開示指針研究会」開始
2021年には、「非財務情報の開示指針研究会」も開始しています。同団体は「人的資本」「気候変動」の2大テーマを掲げたうえで、具体的な開示指標を議論・研究する団体です。研究結果によって、人的資本の重要性がより高まることが考えられます。
出典元: 経済産業省 非財務情報の開示指針研究会
内閣官房「非財務情報可視化研究会」開始
「非財務情報可視化研究会」とは、非財務情報の開示ルールの策定や指針を固めることを目的とした会議のこと。2022年2月から、内閣官房によって定期的に開催されています。非財務情報の開示指針研究会と同様に、今後の動向により情報開示の重要性が増すでしょう。
出典元: 経済産業省「非財務情報可視化研究会の開催について」
2022年中に人的資本開示ルールが公表される予定
2022年中には、上場企業向けに人的資本の情報開示ルールが公表される予定となっています。企業が投資家に対して公表するべき情報が全19項目にまとめられる予定です。
ゆくゆくは、人的資本に関する情報の記載が義務付けられると考えられます。
人的資本開示19項目とは
人的資本開示19項目の内訳としては、「人材育成」「多様性」「健康・安全」「労働慣行」「エンゲージメント」「流動性」「コンプライアンス」の7つの観点からカテゴリ分けされています。
- 人材育成
- 多様性
- 健康・安全
- 労働慣行
- エンゲージメント
- 流動性
- コンプライアンス
人材育成
具体的な項目としては「リーダーシップ」「育成」「スキル/経験」が挙げられます。従業員の育成だけでなく、後継者の育成や研究者の確保、優秀な人材を中長期的に維持するためのシステム整備についての情報も含まれています。
多様性
「ダイバーシティ」「非差別」「育児休業」といった項目が挙げられます。性別や人種ごとの従業員比率、産休・育休の取得率などに関する項目です。同時に、多様なアイデンティティや背景を持つ従業員・顧客を柔軟に受け入れられる体制が整っているか否かも、開示する必要があります。
健康・安全
具体的には「精神的健康」「身体的健康」「安全」が挙げられ、従業員の欠勤率や、労働災害の発生率などを報告する項目です。これらの情報は、「従業員の心身の健康が十分に守られている企業か否か」といった点を外部が評価する指標となります。
労働慣行
こちらは「労働慣行」「児童労働/強制労働」「賃金の公正性」「福利厚生」「組合との関係」が挙げられます。給与総額の男女比や、福利厚生の種類などを報告する項目です。労働におけるコンプライアンス違反の有無や、給与の公平性が評価される開示項目だといえるでしょう。
エンゲージメント
「エンゲージメント」とは、「従業員の満足度」を意味する言葉です。企業で働く従業員が労働環境や待遇、働き方や仕事内容などに満足し、やりがいを持って働けているかを示す項目です。
流動性
「採用」「維持」「サクセッション」といった項目が挙げられます。適切に人材の確保や定着ができているか、採用にかかっているコスト、離職率などを報告します。
コンプライアンス
「コンプライアンス」とは、「法令遵守」を意味する言葉です。法律を守っているかどうかに留まらず、社会的な規範や倫理観に基づいた企業活動が出来ているかを示す項目です。
ISO30414の11領域と項目内容
国際的ガイドライン「ISO30414」が指標として掲げている11領域と、各領域に該当する項目の一部をご紹介します。下記の表で、領域名と項目内容をまとめました。
領域名 |
項目内容 |
1.倫理とコンプライアンス |
・クレーム数や内容 ・懲戒処分数や内容 ・倫理・コンプライアンス研修を受けた従業員割合 ・外部監査の指摘事項数・内容 |
2.コスト |
・人件費 ・採用コスト ・離職コスト ・総給与に対する特定職の報酬割合 |
3.多様性 |
・年齢 ・性別 ・障がいの有無 ・経営陣の多様性 |
4.リーダーシップ |
・管理する従業員数 ・上司に対する信頼度 |
5.組織文化・風土 |
・従業員エンゲージメント/組織コミットメント ・従業員満足度 ・定職率 |
6.組織の健康・安全・福祉 |
・労災によって損失した時間数 ・労働災害件数 ・死亡者数 ・健康・安全研修の実施・受講率 |
7.生産性 |
・EBIT(利息及び税金控除前利益) ・収益 ・従業員1人あたりの創出利益 |
8.採用・配置・異動・離職 |
・募集ポスト単位の書類通過者数 ・採用にかかる平均日数 ・離職率 |
9.スキル・能力 |
・人材育成 ・開発コスト ・研修時間数 |
10.後継者の育成計画 |
・内部継承率 ・後継者候補準備率 ・継承準備制度 |
11.労働力の可用性 |
・欠勤率 ・フルタイム換算時の社員数 |
ISO30414における11領域の中には、「従業員満足度」や「従業員エンゲージメント」といった項目が盛り込まれています。人的資本価値の向上や情報開示の観点においても、従業員満足度を高めるための努力は必須となるでしょう。
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人的資本の情報開示における注意点
人的資本の情報開示において求められるものは、やみくもな情報開示ではありません。自社の価値向上や社内外へのアプローチという点を踏まえ、どのような情報を開示するかを考える必要があります。
自社で出すべき情報の精査と収集・可視化
ISO30414で設けられている11の領域と項目を参考にしつつ、ステークホルダーからのニーズも分析しましょう。どのような情報の開示が求められているかを分析したうえで、それに応えられるような情報開示を行うことが重要です。
情報を定量的に判断できるようにする
自社の現状や施策によって得られた成果などは、できるだけ数値化(定量化)しましょう。数値化することで、開示する人的資本情報により具体性を持たせることができます。くわえて、情報を数値化することで目標とのギャップも把握しやすくなります。
ストーリー性を持たせる
ステークホルダーは、漠然と人的資本に関する情報を欲しているわけではありません。人的資本価値を高めるための施策や戦略、それらを経て得られる結果を求めています。
したがって、情報をただまとめて開示するだけでは不十分です。「施策内容とその結果」「求められている水準に対しての現状のギャップ」などの情報を、道筋を立てて具体的に解説しなくてはなりません。
人的資本の情報開示を行う手順や流れ
人的資本の情報開示は、企業によって手順が異なります。「これから情報開示に向けて動く企業」と「すでに情報開示を行っている企業」の2ケースを例に、手順を解説いたします。
これから情報開示に向けて動く企業の場合
このケースでは、「データの計測環境を整備」「目標とKPIの設定」「現状と理想のギャップを埋める施策の実行」という手順で情報開示を行います。
データの計測環境を整備
データの計測環境が整備されていないと、自社内の人的資本の情報を正確に把握できません。エンゲージメントサーベイ(会社への定着率・愛着の調査)や、総務・人事向けのツールを導入して計測環境を整えていきましょう。
集めた情報だけを数値化するのではなく、前年度の情報と比較することも重要です。そこから改善度合いや施策の成果状況を分析し、さらなる改善を進めていけるように、計測環境を整備しましょう。
目標とKPIの設定
人的資本の情報がある程度整理できたら、目標を設定します。
理想とするビジョンをできるだけ明確に設定し、それに見合ったKPIも設定しましょう。 KPIとは、目標達成までの進捗を計測する指標のこと。
大きな目標達成をするために必要な中間目標と捉えると良いでしょう。適切なKPIを掲げることは、目標達成までズレなく進めることを意味します。
現状と理想のギャップを埋める施策の実行
調査によって得られたデータや設定した目標をもとに、現状と理想のギャップを可視化します。その後、ギャップを埋めるための施策を立案・実行していきましょう。目標に近づくための施策を行い、トライアンドエラーを繰り返すことで、説得力のある情報開示になります。
すでに情報開示を行っている企業の場合
すでに情報開示を行っている場合は、情報開示の要点や目的を改めて意識することが重要。そのうえで、ステークホルダーからのフィードバックを施策へ反映させ、PDCAを実行することが求められます。
ステークホルダーからのフィードバックを施策へ反映
人的資本の情報開示は、ステークホルダーの要望を汲み取り、対話する機会です。ステークホルダーから受けたフィードバックを積極的に取り入れて、施策内容をブラッシュアップしていきましょう。
必要に応じて新しい指標を掲げ、それに対する施策内容を積極的に公開することも重要です。 フィードバックを受ける・施策に盛り込む・実施する・結果を検証して再度フィードバックを受ける、といったPDCAサイクルを回していきましょう。
従業員のエンゲージメントを高めることは必須
近年の企業は、人的資源から人的資本の考え方へとシフトしてきています。人的資本の価値向上を目指し、人的資本の情報開示を健全に行うことの重要性は、今後ますます注目されるようになるでしょう。
また、従業員を人的資本と捉える以上、従業員の満足度やエンゲージメントを高める施策は企業にとって必須だといえます。まずは、福利厚生の充実から考えてみてはいかがでしょうか。
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