産業医がストレスチェックで果たす役割とは?実施手順からメリットまでを紹介
従業員がストレスに関する質問に答えることで、自身のストレス状態を把握するための取り組みのことを、ストレスチェックといいます。
このストレスチェックは50人以上の従業員がいる企業では義務化されています。
そして、ストレスチェックの実施にあたって重要な役割を担っているのが産業医です。
この記事では、ストレスチェックと産業医がどのように関係しているかを解説します。
目次[非表示]
- 1.産業医が担う役割の例
- 1.1.健康診断の結果を踏まえた助言
- 1.2.健康相談
- 1.3.職場巡視
- 1.4.衛生委員会への所属
- 2.ストレスチェックと関係が深い産業医の役割
- 2.1.高ストレス者への面談
- 2.2.ストレスチェックの実施
- 2.3.職場環境改善の提言
- 3.ストレスチェックの実施手順
- 3.1.実施前の準備
- 3.2.ストレスチェックの実施
- 3.3.ストレスチェック結果の評価
- 3.4.結果の通知
- 3.5.面接指導
- 3.6.集団分析の実施
- 4.産業医がストレスチェックに深く関わるメリット
- 5.ストレスチェックで産業医が行う面接指導の留意点
- 5.1.従業員のプライバシーを守る
- 5.2.面接指導を適切に運用する
- 6.産業医の協力を得てストレスチェックをより有意義に行おう
産業医が担う役割の例
産業医は従業員の健康管理と職場環境の改善において重要な役割を担っています。
ここでは、産業医が実際にどのような役割を果たしているのか、その具体例を紹介します。
健康診断の結果を踏まえた助言
産業医は、健康診断の結果から従業員の健康状態を確認し、評価します。
従業員がどれほど健康であるのか、また職場で働く上で注意すべき点があるかどうか、産業医は慎重に判断する役割があります。
健康診断の結果から、もし健康に関する問題が見つかった場合には、産業医は詳細な検査を受けるようにアドバイスをすることもあります。
また、産業医は、企業が実施する健康診断の準備や計画の初期段階から関与することもあります。
健康診断がより従業員の健康維持に寄与する取り組みになるよう、サポートするのが目的です。
健康相談
健康相談とは、従業員の健康に関する相談を受け付けている場のことです。
産業医は産業保健の専門家として従業員からの相談を受け付けます。
産業医による健康相談は、従業員の心身の健康を維持することを目的として実施されます。
専門知識を持った産業医は適切な指導やアドバイスを通して、従業員の心身の回復を支援し、健康的な働き方や生活ができるようになることを目指します。
健康相談は健康診断やストレスチェックの実施結果に関係なく従業員が利用できる仕組みです。
健康についての不安や疑問を抱え、相談したいことがある場合には、産業医への健康相談を申し込むことができます。
職場巡視
職場巡視とは、職場の衛生状態に問題がないかを確認するための活動です。
産業医の立場から労働環境における安全衛生上の課題を特定し、事故や病気の発生を防止することを目的に行われます。
産業医が職場巡視を行うと、業務内容や取り組み、職場の雰囲気を直接知ることができるため、職場や従業員への理解が深まります。
これにより、より適切な判断やサポートが提供できるようになります。
従業員にとっても、産業医を知る1つのきっかけとなり、産業医を活用しやすくなるというメリットがあります。
産業医による職場巡視は月に1回以上行うことが定められていますが、条件を満たせば2カ月に1回以上でも良いとされています。
衛生委員会への所属
衛生委員会は、企業の衛生に関連する課題について議論し、調査審議を経て解決策を話し合う重要な場です。
この委員会には、事業場内で安全衛生管理を担う産業医が参加しており、専門知識を活用して職場環境改善のための具体的な提案や実行可能な対策を示す役割を果たしています。
また、衛生委員会等でストレスチェックの結果を共有し、従業員の健康状況や課題を把握することが可能です。
産業医が提供する助言をもとに、事業者と連携して従業員の心身の健康を守る取り組みを推進します。
ストレスチェックと関係が深い産業医の役割
企業は従業員のメンタルヘルスを維持するために、ストレスチェックを行います。
ストレスチェックの際にも、産業医が重要な役割を果たしています。
ここからは、産業医がストレスチェックの際にどのような役割を担っているかを解説します。
高ストレス者への面談
ストレスチェックの結果、一定の条件を満たしていると判断された従業員は「高ストレス者」と認定されます。
高ストレス者と認定された従業員に対しては面談を実施しますが、この面談を担当するのが産業医です。
高ストレス状態にある従業員は、心身の健康が脅かされるリスクが高く、早期の対応が必要です。
したがって、産業医の面談は従業員の健康を守る役割を果たしています。
具体的には、心理的カウンセリングや医療機関の紹介などを行います。
心理的カウンセリングは、従業員が抱えているストレス要因を明確にする助けとなり、彼らが問題を解決するためのサポートを提供します。
また、必要に応じて医療機関を紹介し、専門的な治療を受けるよう促すこともあります。
ストレスチェックの実施
産業医が主要メンバーの1人となってストレスチェックを実施することもあります。
産業医は医学的な知識に加え、労働衛生に関する専門知識も豊富です。
そのため、ストレスチェックの結果を正確に評価し、従業員への適切なアドバイスを行うことができます。
ストレスチェックは医師、保健師、精神保健福祉士などの資格を持つ人が主体になって行うことも可能ですが、労働環境や従業員の状況を熟知しているという観点で、産業医はストレスチェックの実施に適した存在と言えるでしょう。
職場環境改善の提言
産業医は、ストレスチェックの結果を活用して職場環境改善の提言を行う重要な役割を担っています。
ストレスチェックの結果は、職場内で従業員が抱えているストレス源を特定するための貴重な情報です。
この結果と産業医が持つ専門知識を駆使して具体的な改善策を提案します。
ストレスチェックの実施手順
ここまで、企業が行うストレスチェックに産業医が関わっていることを解説しました。
ここからは、実際にストレスチェックの実施手順を解説しつつ、産業医がどのような場面でどのように関わっているのかを説明します。
▼そもそもストレスチェックとは何か、そのメリット等について次の記事で解説していますので、併せてご一読ください。
実施前の準備
まず衛生委員会でストレスチェックの実施方法について詳しく話し合います。
具体的には、以下の項目について検討していきます。
- ストレスチェックをいつ実施するのか
- どのような質問を用意するか、
- 実施結果をどのように保管するか
これらの準備は、安全衛生法やストレスチェック制度の要件に従って進める必要があります。
衛生委員会には産業医も所属しているため、産業医がストレスチェックの準備段階から関与することが多いです。
また、事業者にはストレスチェックの結果を適切に管理し、必要に応じて労働基準監督署への報告を行う義務があります。
これにより、法令に基づいた適切な対応が確保され、職場環境の改善にもつながります。
さらに、ストレスチェックの準備においては、従業員のプライバシーを保護するための保管方法やデータ管理のプロセスについても検討することが重要です。
ストレスチェックの実施
従業員に調査票を配布して、ストレスチェックを実施します。
調査票は厚生労働省が提供している標準的なものを使用することが一般的ですが、企業が独自に用意した調査票を使用することもあります。
ストレスチェックは正社員だけでなく、派遣労働者やアルバイトなど、あらゆる雇用形態の従業員を対象とすることが重要です。
これにより、事業場全体のストレス状況を包括的に把握することが可能になります。
ストレスチェックの実施は法律で義務付けられていますが、従業員がチェックを受けるかどうかは任意です。
ただし、すべての従業員に対して定期的にストレスチェックを行うことが推奨されています。
また、ストレスチェックの実施にあたっては、社内だけでなく外部機関に委託することも選択肢の一つです。
外部機関を活用することで、従業員がより安心して参加できる環境を整えることが可能です。
ストレスチェックは実施者と実施事務従事者が協力して行いますが、この実施者に産業医が選ばれることもあります。
産業医が関与することで、チェック結果を基にした具体的な助言や改善策の提案が行いやすくなります。
リロクラブの「メンタルヘルスケアサービス」は、4つのメニューで構成されており、各社の課題やニーズにあわせたストレスチェックの実施が可能です。
ストレスチェックに関する法令への対策も万全であり、ストレスチェックに関連する業務をシステム化できるので、企業の担当者の事務的な手間や心理的負担を軽減できます。
■ストレスチェックに関するサービスをお探しの方は、下記リンクをご参照ください。
ストレスチェック結果の評価
ストレスチェックの実施結果をもとに、従業員のストレスの程度を評価します。
この評価は、実施者からの専門的な助言や、職場の衛生委員会による詳細な調査・審議を経て判断されます。
その結果、ストレスの自覚症状が特に高く、かつストレス解消に向けた職場や周囲のサポートが不十分と判断される従業員は「高ストレス者」として選定します。
結果の通知
ストレスチェックを受けた従業員に対して、結果を通知します。
通知される内容には、セルフケアのアドバイスが含まれています。
また、通知の際には従業員が高ストレス者に該当するかどうかが伝えられます。
高ストレス者には、面接指導の対象に含まれるかどうかの判定結果も併せて通知されます。
面接指導
高ストレス者に対して面接指導を行うのは、産業医の重要な役割の一つです。
高ストレス状態にある従業員は、心身の健康リスクが増加し、生産性の低下や病気の発症につながる可能性が高いため、早期対応が必要です。
但し、面接指導を実施する際には、事前に従業員の同意を得ることが重要であり、これにより従業員本人が安心して面談に臨む環境を整えることができます。
面接指導では、まず従業員のストレス状況を詳細に把握します。
どのような業務や人間関係がストレスの原因となっているのかを明確にし、従業員が抱える問題を整理します。
そして、面談で得た情報を基に、ストレス軽減のための具体的な措置や健康管理法について適切な助言を行います。
たとえば、労働時間の調整、休憩の取り方、業務の進め方の改善策などを提案します。
また、必要に応じて、専門的なカウンセリングや医療機関での診察を勧め、従業員の健康を支える具体的な対応を行います。
こうしたフォローアップを通じて、従業員の心身の健康を守ると同時に、職場全体のメンタルヘルス向上にも寄与します。
集団分析の実施
面接指導はストレスを抱える個人に対して行いますが、集団分析は会社全体のストレス状況を把握するために行う取り組みです。
集団分析の結果を基に、従業員が抱える共通の課題や特定の部門が直面しているストレス要因を特定し、組織全体の問題点を明らかにします。
集団分析を行う理由の1つには、組織全体の課題を浮き彫りにし、具体的な対策を立てやすくすることがあります。
例えば、各部門のストレスレベルを比較して、特定の部門でストレスが高いことが分かれば、その部門における特有の課題を抽出し、ターゲットを絞った改善が可能です。
また、ストレスの状況が特に高い対象者がどのような背景を持つのか、過去のデータと比較することで、長期的な傾向を把握することもできます。
集団分析の結果は、プライバシーを保護しながら適切に保存される必要があります。
分析結果を職場改善のために関係者に提供する際は、個人が特定されない形で共有し、従業員が安心してストレスチェックに参加できる環境を整えることが重要です。
▼集団分析の手順の詳細などについて、次の記事も併せてご参考にしてください。
産業医がストレスチェックに深く関わるメリット
産業医がストレスチェックに関与することは、企業と従業員の双方にとって多くのメリットがあります。
メンタル不調が起きている従業員への適切な対応、衛生委員会での深い議論、そして医学的知見に基づく職場改善の3つの観点から、そのメリットを見ていきます。
メンタル不調が起きている従業員に適切な対応ができる
産業医がストレスチェックに深く関わることで、メンタル不調がある従業員に対して適切な対応が可能になります。
産業医は医師としての医学的な専門知識を持ち、従業員のメンタルヘルスを正確に評価・診断することができるためです。
例えば、ストレスチェックの結果から高ストレス者を特定し、産業医が面談を行うことで、早期の対策や適切な治療を開始することが可能になります。
必要に応じて、産業医が外部機関との連携を図り、専門的なカウンセリングの提供や医療機関での診察を手配することもあります。
また、ストレスチェックの運用において一部の作業を委託することで、より効率的な対応が実現します。
こうした外部の専門家や機関との協力を活用することで、従業員が抱えるメンタル不調に対する包括的な支援体制を構築できます。
さらに、産業医は従業員に対して具体的かつ実効性のある助言を行うことで、職場環境の改善やストレス軽減に貢献します。
例えば、業務量の調整やコミュニケーションの改善を提案することで、従業員の心身の健康を守る取り組みをサポートします。
衛生委員会で深い議論が可能になる
産業医がストレスチェックに関与すると衛生委員会でより深い議論を行えるようになります。
ストレスチェックの結果は、従業員の精神的な健康状態を把握するための貴重な情報です。
産業医はこれらの結果を詳しく分析し、従業員が抱えるストレスの要因やその影響について理解を深めることができます。
この理解をもとに、具体的かつ実効的な対策を提案することができるのです。
例えば、産業医がストレスチェックのデータを活用して特定の部署の業務負担が過度であることを指摘し、それに対する改善提案ができます。
医学的知見をもとにした職場改善が可能になる
産業医がストレスチェックに関わることで、医学的知見をもとにした職場改善が可能となります。
その理由は、産業医が医学の専門知識を活用して、従業員の健康状態や事業場における職場環境の改善点を的確に指摘し、具体的な助言や措置を提案することができるからです。
具体的には、産業医がストレスチェックの結果を分析し、作業環境や勤務時間の改善を図る提案を行うなどのアプローチが考えられます。
また、衛生委員会や関連する会議での調査審議を通じて、ストレス要因を明らかにし、実行可能な対策を策定することが重要です。
例えば、埼玉県教育委員会では、ストレスチェックの集団分析結果を活用し、「職場環境改善事例集」を作成しています。
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/134797/r6jireisyu.pdf
この事例集には職場改善の好例が多く紹介されています。
その中で、蕨高等学校の事例では、集団分析の結果から「同僚の支援」が経年的に減少していることが判明しました。
この結果を受け、産業医が「同僚の支援を回復させることで、従業員のストレスが軽減される」との助言を行いました。
この助言を基に、一部の職員に負担が集中していた勤務時間外の電話対応について、留守番電話の導入を検討する取り組みが進められました。
このような取り組みにより、従業員のストレスが軽減され、働く環境をより快適にする対策が講じられました。
こうした事例は、通常の業務運営に支障をきたさない範囲で実施されるべきであり、従業員の健康向上だけでなく、組織全体の生産性向上にも寄与します。
ストレスチェックで産業医が行う面接指導の留意点
最後に、産業医が行う面接指導の際に気をつけるべきポイントについて解説します。
従業員のプライバシーを守る
面接指導では、従業員のプライバシーを厳重に保護することが求められます。
特にメンタルヘルスに関する情報は個人情報に該当し、細心の注意が必要です。
この情報が流出すると、個人のプライバシーが侵害されるだけでなく、従業員の信頼を損なう可能性もあります。
したがって、ストレスチェック実施時や面接指導時には、プライバシー保護を徹底することが重要です。
面接指導を適切に運用する
面接指導を実施する際の基本的なルールとして、従業員が安心して参加できる環境を整える必要があります。
また、面接を行う際の目的やプロセスを事前に従業員に説明し、理解を得ることも大切です。
こうしたルールを遵守することで、従業員の信頼を得ることができます。
面接指導が従業員にとって負担とならないようにするためには、面接の時間や場所に配慮することも必要です。
できるだけ業務に支障をきたさない時間帯を選ぶようにしましょう。
また、面接内容が過度に精神的な負担にならないよう、話しやすい雰囲気を作り出すことを心がけましょう。
産業医の協力を得てストレスチェックをより有意義に行おう
産業医の協力を得ることで、ストレスチェックはより効果的で有意義なものになります。
産業医は、従業員のメンタルヘルスの管理を支援し、職場環境の改善策を提案する重要な役割を担っています。
企業は産業医のサポートを積極的に取り入れ、定期的にストレスチェックを実施するように努めることが求められます。
こうした取り組みは、従業員の健康を守るだけでなく、職場全体のパフォーマンス向上にもつながります。
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