
時短勤務中でも残業は可能?制度や給与計算の仕組みを知ろう
仕事と家庭の両立を目指す中で、時短勤務を選択する労働者が増えています。
しかし、業務の都合や突発的な対応が必要な場合、残業せざるを得ない状況に直面することもあります。
時短勤務中の残業は可能なのか、またその場合の給与計算はどうなるのか、多くの人が疑問を抱えているのではないでしょうか。
この記事では時短勤務をしている人の残業に対する決まりや給与計算の考え方について解説します。
目次[非表示]
- 1.時短勤務中でも残業は可能なのか
- 2.時短勤務中の残業に関する制限とは
- 2.1.所定外労働時間における制限
- 2.2.法定時間外労働の適用制限
- 2.3.深夜残業の条件と制限
- 3.時短勤務における残業時間と賃金の計算方法
- 3.1.時短勤務者の給与計算方法
- 3.2.法定内残業と法定外残業の計算方法
- 3.3.深夜勤務・休日労働における割増賃金計算
- 3.4.みなし残業代(固定残業代)の注意点と対策
- 4.時短勤務時に留意すべきポイントとその対応策
- 4.1.離職リスクの発生
- 4.2.周囲への負担や不公平感の増加
- 4.3.生産性の低下
- 4.4.キャリアパスの停滞
- 4.5.コミュニケーション機会の減少
- 5.2025年育児・介護休業法改正が与える影響と企業の対応策
- 6.まとめと総括
時短勤務中でも残業は可能なのか
時短勤務中の残業については、会社の方針や労働者の状況によって判断が分かれます。
会社の就業規則や労使協定で許可されている場合、時短勤務者も残業ができます。
したがって業務の都合や突発的な対応が必要な場合、本人が合意すれば残業を指示することが可能です。
ただし、育児や介護を理由に時短勤務を選択している労働者に対しては家庭状況や健康状態に配慮する必要があります。
時短勤務中の残業に関する制限とは
時短勤務中の残業には、法律や企業の規定によってさまざまな制限が設けられています。
ここでは、所定外労働時間、法定時間外労働、深夜残業に関する制限について詳しく解説します。
所定外労働時間における制限
時短勤務者の所定外労働時間には、企業ごとに異なる制限が設けられています。
会社の所定労働時間を超えた勤務は、企業の就業規則により制限されることが多いです。
フルタイム勤務者と異なり、企業が時短勤務者の残業を原則として禁止している企業もあります。
多くの企業では、時短勤務者が残業を行う場合、事前申請や上司の許可が必要とされています。
これは、時短勤務の本来の目的である仕事と家庭の両立を損なわないようにするためです。
法定時間外労働の適用制限
法定労働時間である1日8時間・週40時間を超える労働は「法定時間外労働」となり、割増賃金が発生します。
時短勤務者にもこのルールは適用されますが、育児・介護を理由に時短勤務をしている労働者には、時間外労働の免除を申請する権利が法律で認められています。
反対に労働者からの免除申請がない場合、企業は時短勤務者にも時間外労働を命じることができます。
深夜残業の条件と制限
原則として、育児・介護を理由とした時短勤務者には、深夜労働(22時~翌5時)の免除が認められています。
これは、夜間の家族ケアが必要な労働者を保護するための措置です。
ただし、この免除も労働者からの申請が必要になります。
なお、時短勤務者が認めた場合は深夜残業をすることも可能です。
もし深夜残業を行う場合は、通常の残業代に加え25%の割増賃金が適用されます。
企業は、時短勤務者に深夜残業を命じる前に、他の方法で対応できないか検討する必要があります。
やむを得ず深夜残業を命じる場合は、労働者の同意を得るとともに、健康管理や安全面に十分な配慮を行うことが求められます。
時短勤務における残業時間と賃金の計算方法
時短勤務者の残業時間と賃金計算は、通常の勤務者とは異なる点があります。
ここでは、時短勤務者の給与計算方法や、法定内残業、法定外残業、深夜勤務における賃金計算の仕組みを詳しく解説します。
時短勤務者の給与計算方法
時短勤務者の給与計算について、給与の種類ごとに解説します。
基本給
時短勤務者の基本給は、通常「フルタイム勤務時の給与 × 労働時間割合」で計算されます。
例えば、フルタイムの勤務時間が8時間で月給30万円の場合、6時間勤務の時短勤務者の基本給は22万5,000円(30万× 6/8)となります。
賞与
賞与については企業の規定により異なりますが、多くの場合は労働時間割合で計算します。
計算例を挙げると、8時間勤務のフルタイム勤務者の賞与が100万円の場合、6時間勤務の時短勤務者は75万円(100万円 × 6/8)となります。
ただし、企業によっては賞与の減額なし、または勤務評価に応じた支給を行う場合もあります。
各種手当
役職手当や特別手当は、フルタイム勤務者と同様に支給されるケースもあります。
これは、時短勤務者の責任や役割が変わらない場合に適用されます。
法定内残業と法定外残業の計算方法
時短勤務者の残業時間の計算は、所定労働時間と法定労働時間の両方を考慮する必要があります。
所定労働時間を超えても、1日8時間・週40時間以内の労働は「法定内残業」として扱われ、通常賃金を支払います。
例えば、6時間勤務の時短勤務者が7時間働いた場合、1時間分は法定内残業となります。
1日8時間・週40時間を超えた場合は「法定外残業」となり、25%以上の割増賃金が適用されます。
例えば、6時間勤務の時短勤務者が9時間働いた場合、2時間分が法定内残業、1時間分が法定外残業となります。
深夜勤務・休日労働における割増賃金計算
深夜勤務(22時~翌5時)や休日労働の考え方も、通常の勤務形態と変わりません。
同じように、通常の賃金に割増を加算します。
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深夜勤務の割増賃金は、通常の25%以上です。
例えば、時給2,000円の労働者が深夜に2時間勤務して、割増賃金率が25%の場合、賃金は5,000円(2,000円 × 2時間 × 1.25)となります。 -
休日労働(法定休日の勤務)は、35%以上の割増賃金が適用されます。
つまり、時給2,000円の労働者が休日に4時間勤務して、割増賃金率が35%の場合、賃金は10,800円(2,000円 × 4時間 × 1.35)となります。 - 深夜の時間外労働や休日の深夜労働など、複数の割増要因が重なる場合は、それぞれの割増率を加算して計算します。
例えば、深夜の時間外労働の場合、割増率は50%以上(時間外25%以上+深夜25%以上)となります。
みなし残業代(固定残業代)の注意点と対策
みなし残業代(固定残業代)とは、一定時間分の残業代をあらかじめ基本給に上乗せして支給する制度です。
なお、実際の残業時間がみなし時間を超えた場合、企業は必ず超過分の残業代を追加で支払わなければなりません。
こうした決まりは、通常の勤務形態で働く人へのルールと変わりません。
時短勤務時に留意すべきポイントとその対応策
時短勤務を選択する労働者がいる会社や組織では、さまざまな課題に直面する可能性があります。
ここでは、時短勤務時に留意すべきポイントとその対応策について詳しく解説します。
離職リスクの発生
収入減少やキャリア停滞により、時短勤務者が転職を考える可能性があります。
この問題に対処するためには、企業側と労働者側の双方の努力が必要です。
企業は、時短勤務者のキャリアパスを明確にし、スキル開発の機会を提供することが求められます。
例えば、オンライン研修や自己啓発に対する支援制度を充実させることで、時短勤務者も継続的にスキルアップできる環境を整えることができます。
また、将来のキャリアプランを定期的に話し合える場を設けるのも良いでしょう。
周囲への負担や不公平感の増加
他の従業員が時短勤務者の業務を補うことで、特定の従業員の負担が増加する場合があります。
その結果、チーム全体の生産性低下やモチベーション低下につながる可能性があります。
こうした問題を解決するためには、まず業務の棚卸しと再分配が必要です。
時短勤務者の業務内容を見直し、他の労働者に公平に分配することで、特定の人に負担が集中する事態を避けられます。
企業側は、時短勤務者を含めたチーム全体の業務効率化を進め、必要に応じて人員の補充や業務のアウトソーシングを検討することも大切です。
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生産性の低下
時短勤務によって働ける時間が減った結果、その労働者や組織全体の生産性が低下するリスクがあります。
不足した労働力を補うために新しい人材を採用する方法もありますが、採用コストもかかりますし、必要な人材がすぐに見つかるとは限りません。
したがって、組織は業務の効率化で生産性向上に努める必要があります。
業務プロセスを見直し、優先順位の明確化や不要な業務の削減が求められます。
キャリアパスの停滞
時短勤務者の昇進の機会が減ることで、考えていたキャリアが遅れる可能性があります。
この問題に対処するには、時短勤務者のキャリア開発を支援する仕組みづくりが必要です。
企業は、時短勤務者向けの特別なキャリアパスを設定したり、短時間でも参加可能な研修プログラムを提供したりするなど、継続的なスキルアップの支援が求められます。
コミュニケーション機会の減少
短時間勤務により会議に参加できず、時短勤務者の業務に支障が出るリスクも無視できません。
この課題に対しては、効果的なコミュニケーション戦略を立てることが重要です。
議事録や要点を簡潔にまとめて時短勤務者へ共有することで、会議に参加しなくても必要な情報を得られるようにすることが大切です。
重要な意思決定に関わる場合は、事前に意見を提出できる仕組みを作ることも有効でしょう。
また、定期的な1on1ミーティングを設定し、上司や同僚とのコミュニケーション量を維持することも大切です。
2025年育児・介護休業法改正が与える影響と企業の対応策
2025年の法改正により、育児・介護休業の取得条件や時短勤務の適用範囲が見直される予定です。
現行制度では、育児休業は原則として「1歳まで」(一定条件下で1歳6か月または2歳まで延長可)ですが、より柔軟な取得が可能になります。
また、時短勤務の適用対象が拡大し、育児や介護を理由とする労働時間の調整がしやすくなるでしょう。
今回の法改正に伴い、企業は新制度に適応するため、柔軟な働き方の整備や人事制度の見直しが求められます。
具体的には、以下のような対応が必要になると考えられます。
まず、男性の育児休業取得の推進に向けた企業の取り組みが強化される可能性があります。
育児休業給付金の拡充や休業取得率の向上を促す施策が求められるでしょう。
例えば、男性社員向けの育休取得推進セミナーの開催や、育休取得者の体験談共有など、社内の意識改革を促す施策が重要になります。
そして、時短勤務制度を利用しやすい職場環境の整備も重要です。
例えば、業務の効率化や労働生産性の向上を図るため、業務プロセスの見直しを行うことが考えられます。また、時短勤務者のキャリア形成支援や評価制度の見直しも必要になるでしょう。
企業は、こうした変更に対応するため、就業規則や社内規程の改定、人事システムの更新、管理職向けの研修実施など、さまざまな準備を進める必要があります。
また、労働者に対しても、新制度の周知や利用促進のための啓蒙活動を行うことが重要です。
法改正への対応は、単なる法令遵守にとどまらず、労働者のワークライフバランス向上や企業の競争力強化の機会でもあります。
先進的な取り組みを行う企業は、優秀な人材の確保や社員の定着率向上などのメリットを得られる可能性があります。
♦育児介護休業法の詳細については次の記事をご覧ください:育児・介護休業法とは?休業取得がしづらい背景と改善のための法改正
まとめと総括
時短勤務中でも残業は可能ですが、法律や企業のルールにより制限があります。
時短勤務者の残業については、所定労働時間や法定労働時間を考慮した適切な管理が必要です。
また、深夜勤務や休日労働に関しては、労働者の健康や家庭の事情への配慮が重要となります。
企業は時短勤務者の働きやすさを確保しつつ、業務の効率化を進めることが求められます。
キャリアパスの停滞や生産性の低下、コミュニケーション機会の減少など、時短勤務に伴う課題に対しては、適切な対策を講じる必要があります。
例えば、ICTツールの活用やキャリア支援制度の整備、効果的な情報共有の仕組みづくりなどが有効です。
時短勤務制度は、多様な働き方を実現し、労働者の仕事と生活の調和を図る上で重要な役割を果たします。
企業と労働者が協力してより良い制度運用を目指すことで、すべての労働者が能力を発揮できる職場環境の実現につながるでしょう。