
働き方改革とは?目的、課題、解決策をわかりやすく解説
働き方改革とは、2019年から順次関連した8つの法律が改定されて、より柔軟で、多様な働き方の実現が推進されたことを指しています。
たとえば、70年以上前の1947年に制定された労働基準法。働き方改革関連法により、この労働基準法をはじめとした労働関係の8つの法律が変わっています。
本記事では、働き方改革関連法を3つのポイントに分けて11の変更点と、その背景、目的企業が得られるメリット、事例までを網羅的に解説していきます。
努力義務のものもいくつかあるので、改めて確認して、現在でもできていないことは自社に取り入れて、よりよい制度改革をおこなっていきましょう。
目次[非表示]
- 1.はじめに: 働き方改革とは?
- 2.働き方改革と8つの労働関係法
- 2.1.労働基準法
- 2.2.労働契約法
- 2.3.労働時間等の設定の改善に関する特別措置法
- 2.4.労働安全衛生法
- 2.5.パートタイム・有期雇用労働法
- 2.6.労働者派遣法
- 2.7.雇用対策法
- 2.8.じん肺法
- 3.働き方改革関連法の導入に伴う11の変更点
- 3.1.時間外労働の上限規制の導入
- 3.2.「勤務間インターバル」制度の導入促進
- 3.3.年5日の年次有給休暇の取得
- 3.4.月60時間超の残業の割増賃金率引き上げ
- 3.5.労働時間の管理と改善策
- 3.6.「フレックスタイム制」の清算期間の延長
- 3.7.高度プロフェッショナル制度の導入
- 3.8.産業医・産業保健機能の強化
- 3.9.不合理な待遇差の禁止
- 3.10.労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
- 3.11.行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争手続(行政ADR)の規定の整備
- 4.働き方改革で実現したいこと
- 4.1.長時間労働の解消
- 4.2.正規・非正規の格差解消
- 4.3.高齢者の就労促進
- 5.働き方改革の必要性に迫られた日本の事情
- 6.企業が働き方改革を推進して得られるメリット
- 6.1.生産性が向上する
- 6.2.人材採用において社会的な評価を得られる
- 6.3.自分のライフスタイルに合わせた生活を送れる
- 7.働き方改革で企業の意識は大きく変化した
- 8.働き方改革の進めるポイント
- 8.1.社内の状況を調べる
- 8.2.働き方改革の方針を決める
- 8.3.必要に合わせて働き方改革関連法への対応を行う
- 8.4.業務規程を見直す
- 8.5.施策を社員に伝える
- 8.6.施策の評価と改善を続ける
- 9.働き方改革の課題
- 9.1.実際には休みが取りにくい現状
- 9.2.待遇改善の実現に向けた高いハードル
- 10.代表的な働き方改革の施策を紹介
- 10.1.テレワークの推進
- 10.2.労働時間法制の見直し
- 10.3.賃金・手当の見直し
- 10.4.兼業・副業の推進
- 10.5.労働者への周知とコミュニケーションの強化
- 10.6.有給取得を促進する福利厚生の充実
- 11.働き方改革 実践企業事例
- 11.1.大和ハウス工業
- 11.2.ベネッセコーポレーション
- 12.まとめ
はじめに: 働き方改革とは?
働き方改革とは、労働環境を改善し、多様な働き方を実現するための一連の取り組みです。
労働慣行にとらわれがちな日本社会で、より柔軟で効率的な働き方を導入することを目指しています。
この動きに伴って、働き方改革関連法が2019年4月から順次に改定されていきました。
働き方改革関連法は、以前からあった次の8つの労働関係の法律に加えられた改正の総称です。
労働基準法
労働契約法
労働時間等の設定の改善に関する特別措置法
労働安全衛生法
パートタイム・有期雇用労働法
労働者派遣法
雇用対策法
じん肺法
まずは、これらの法律についてどのように変更があったのか詳細を見ていきます。
参考:厚生労働省「働き方改革関連法のあらまし」
働き方改革と8つの労働関係法
働き方改革を進めるうえ、複数の労働関係法が重要な役割を果たしています。特に重要な8つの労働関係法について詳しく解説します。
変更点の詳細については次の章で紹介しますが、ここでは、変更点の概要も併せてお伝えしていきます。
労働基準法
労働基準法は、労働者の権利を保護し、労働条件の最低基準を定めることを目的とした法律です。
具体的には、賃金、労働時間、休憩、休日、有給休暇などの基本的な労働条件を規定しています。労働者が安心して働ける環境を整えるための基盤となる法律です。
主な変更点としては、「時間外労働の上限規制」や「有給の取得義務」など働きすぎを防ぎ、ワークライフバランスと多様で柔軟な働き方を実現することを目的として変更が行われました。
参考:厚生労働省「働き方改革」
►残業規制の詳細については次の記事をご覧ください「働き方改革による残業規制の変更ポイントは?残業削減に役立つアイデアも紹介 」
労働契約法
労働契約法は、労働者と使用者の間の労働契約に関する基本的なルールを定めた法律です。
主に労働契約の成立、変更、終了に関する原則を明確にし、労働者の権利を保護することを目的としています。
有期労働契約が反復して更新され、通算期間が5年を超えた場合、無期労働契約に転換できる事など有期労働契約関連の変更が行われました。
参考:厚生労働省「労働契約法改正のポイント」
労働時間等の設定の改善に関する特別措置法
労働時間等の設定の改善に関する特別措置法は、労働者の健康を守り、労働環境の改善を図ることを目的としています。
この法律は、労働時間の短縮や労働条件の改善を促進するための指針を定め、事業主に対して労働時間等の設定の改善を促す役割があります。
主な変更点としては、勤務間のインターバル制度の導入力義務化があります。
参考:厚生労働省「働き方改革関連法のあらまし」
労働安全衛生法
労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境を形成することを目的とした法律です。
この法律は労働者が安心して働ける環境を提供し、労働災害を防止するために制定されました。
安全な職場を実現することで、労働者が心身共に健康で活動的に業務を遂行できるため、効率的で質の高い作業が可能となるのです。
産業医・産業保健機能の強化や長時間労働者に対する面接指導などの強化が変更点として挙げられます。
参考:厚生労働省「働き方改革関連法のあらまし」
パートタイム・有期雇用労働法
パートタイム・有期雇用労働法は、短時間労働者や有期雇用労働者の雇用管理の改善を目的とした法律です。
賃金や福利厚生において短時間労働者が不利な待遇を受けないよう、パートタイムで働く人々も、正社員と同じ職務を果たしている場合には、正当な賃金や福利厚生が与えられます。
このように、不合理な待遇差の禁止(同一労働同一賃金の徹底)、不利益取扱いの禁止などが実施されました。
参考:厚生労働省「働き方改革」
労働者派遣法
労働者派遣法は、派遣労働者の権利を保護し、労働者派遣事業を適正に運営することを目的として制定された法律です。
派遣労働者の就労形態において労働者の権利が十分に守られるように法的な枠組みが設けられています。
正社員と同じ仕事を行っている派遣労働者には正社員と同等の賃金や福利厚生を提供するなど、待遇の改善や、派遣労働者が同一の派遣先で働ける期間にも制限が設けられており、長期間の派遣を避けるための措置が取られています。
こちらは、パートタイム・有期雇用労働法と同様の変更が非正規社員を対象として行われています。
参考:厚生労働省「働き方改革」
雇用対策法
雇用対策法は、雇用機会の創出と雇用の安定を目的とした法律です。
労働市場の変動に迅速に対応し、労働者が安定して職に就けるよう様々な施策を提供することが目標にあります。
雇用対策法では、職業訓練の提供や雇用機会の均等化など、失業者への対策が定められており、職を失った人々が再び働くために必要なスキルを習得するプログラムや、失業中の生活を支えるための支援が行われています。
この変更は、具体的な施策としては、変更が加えられていませんでしたが、働き方改革全体の基本的な考え方や方向性を定め、国や事業主の果たすべき役割を明確化する、より上位の「骨組み」としての変更がなされました。
参考:弁護士法人ALG&Associates「働き方改革関連法案|第1の柱:働き方改革の総合的かつ継続的な推進(雇用対策法改正) 」
じん肺法
じん肺法は、特にじん肺病の予防と救済のために制定された法律です。
じん肺とは、主に鉱山や建設現場などで発生する粉じんを吸入することによって生じる職業病の1つで、慢性的な呼吸器障害を引き起こします。
じん肺法は、労働者の健康保護に加え、じん肺から労働者を保護し、じん肺の予防や健康管理を通じて、労働環境の改善を図ることを目的としています。
働き方改革関連法の導入に伴う11の変更点
これら8つの法改定を元に進められた働き方改革関連法ですが、次に、それぞれの主な変更点を紹介します。
時間外労働の上限規制の導入
目的:働き過ぎを防ぐ 施行:2019年4月1日(中小企業への適用は2020年4月1日)
上限規制の内容は以下のとおりです。
- 原則として時間外労働の条件は月45時間、年360時間
- 臨時的な特別な事情がなければ上限を超えてはならない
月45時間の残業は、1日あたり2時間程度の残業に相当します。
法改正をする前は法律による残業時間の上限が設けられていませんでしたが(※)、法律による上限が定められました。
※大臣告示による上限(行政指導)はありましたが、罰則等による強制力はありませんでした
また「臨時的な特別な事情」であり労使の合意がある場合でも(※)、残業時間は以下を超過することが認められていません。
※以前は特別な事情があり「特別条項」を結べば、年6ヶ月までは上限なしの残業が可能でした
- 年720時間以内
- 複数月の平均残業時間が80時間以内(休日労働含む)
- 月100時間未満(休日労働含む)
違反すると、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があるため注意しましょう。
►参考記事;36協定と残業、法定休日労働の深い関係。36協定違反となるケースや懲罰
►また、これらは、特定の業種に於いて2024年まで猶予が設けられて、それらを2024年問題と呼ばれておりました「【運送・物流業界必見】2024年問題とは?働き方改革での変化や対策を解説」
「勤務間インターバル」制度の導入促進
目的:働き過ぎを防ぐ 施行:2019年4月1日
使用者は労働者に対して、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定の休息時間(インターバル)を確保しなければなりません。
これは努力義務ですが、労働者に対して十分な生活時間や睡眠時間を確保することで、働き過ぎを防ぐ目的があります。
勤務間インターバル制度では、勤務間に9~11時間以上の休息を確保することが推奨されており、例えば夜遅くの23時まで働いた労働者に対しては、翌日の勤務を10時から開始するように指示し、体を休める時間を十分に確保させることが求められます。
年5日の年次有給休暇の取得
目的:年次有給休暇を取りやすくする 施行:2019年4月1日
使用者(企業)には「労働者に年5日の年次有給休暇を確実に取得させること」が義務づけられました。 この法改正は2019年4月から施行されています。
法改正以前は、年次有給休暇の消化義務はありませんでした。
今回の法改正では、法定の年次有給休暇が10日以上付与される労働者を対象に、労働者の希望を聴いた上で時季を指定し、年5日の年次有給休暇を取得させるよう明記しました。
参照:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説|厚生労働省(PDF資料)
►このあたりの有給休暇に関する基本的な運用については、次の記事もご参考にしてください。「有給休暇の付与日数・取得ルールの基本と、制度改善に向けた実務対応策 」
月60時間超の残業の割増賃金率引き上げ
目的:働き過ぎを防ぐ 施行:2023年4月1日(中小企業が対象)
月60時間を超える残業についての割増賃金率の引き上げは、過度な残業を抑制し、適切な労働時間管理を促進するために必要な施策です。
過労による健康被害の防止や、労働者の生活の質の向上を目指す目的があります。
月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率は2019年に引き上げられました。
この改正により、大企業だけでなく中小企業も月60時間を超える残業に対して50%以上の割増賃金を支払う義務が生じます。
労働時間の管理と改善策
目的:働き過ぎを防ぐ 施行:2019年4月1日
裁量労働制の適用者や管理監督者なども含め、全ての人の労働時間状況を客観的に把握するよう、法律で義務づけられました。
健全な労働環境を築くために欠かせない要素です。特に、日本の一部企業ではいわゆるブラック企業問題が深刻化しています。
違法な長時間労働やサービス残業の横行は、労働者の精神的・肉体的な負担を増大させるほか、過労死やメンタルヘルスの問題を引き起こす要因となります。
したがって、厳格な対策が求められています。
現在の労働時間の実態を把握した上で、不適切な労働時間が明らかになった場合には、速やかに是正措置を取りましょう。
また、定期的に労働時間の見直しを行い、改善策を適切に反映させる仕組みを整えることが求められます。
「フレックスタイム制」の清算期間の延長
目的:柔軟な働き方を可能にする 施行:2019年4月1日 「フレックスタイム制」の労働時間の調整可能期間(清算期間)が1ヶ月から3ヶ月になり、より使い勝手がよくなりました。
- 在宅勤務を実施すれば通勤にかかる時間やストレスを削減できます。
- フレックスタイム制は、労働者が自身のライフスタイルに合わせて勤務時間を調整できる制度です。
家庭の事情に合わせた時間の確保が可能になり、育児や介護と両立しやすくなるという利点があるのです。
在宅勤務やフレックスタイム制を取り入れる企業は増えており、労働者の満足度や定着率の向上、さらには業務効率の改善が報告されています。
例えば、フレックスタイム制を活用している企業では、業務のピークに合わせた労働時間の調整を可能にすることで、無駄な残業の削減につなげています。
高度プロフェッショナル制度の導入
目的:柔軟な働き方を可能にする 施行:2019年4月1日
高度の専門知識を要する業務で、職務の範囲が明確で、一定の年収要件を満たす労働者に関しては、労働基準法の規定に縛られない自由な働き方を認める制度です。
この制度の適用は、労使委員会の決議および労働者本人の同意が前提です。
自由な働き方を認めるとはいえ、事業主側には該当労働者が健康的に働くことができるよう、管理監督義務があります。
年間104日以上かつ4週4日以上の休日確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置が義務づけられています。
参照:高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説|厚生労働省(PDF資料)
産業医・産業保健機能の強化
目的:労働者の健康を守る 施行:2019年4月1日
産業医の活動環境と労働者に対する健康相談の体制整備に努めなければなりません。
また、労働者の健康情報の適正な取り扱いルールを推進して、労働者が安心して事業場における健康相談や健康診断を受けられるようにしなければなりません。
不合理な待遇差の禁止
目的:雇用形態に関わらない公正な待遇を確保する 施行:2020年4月1日(中小企業への適用は2021年4月1日)
雇用形態による不合理な待遇差を設けることが禁止されています。
同一企業内において、正社員と非正規社員の間で、基本給や賞与などあらゆる待遇について不合理な待遇差を設けることが禁止されました。
対象となる「待遇」は、賃金や労働時間といった狭義の労働条件だけでなく、災害補償、服務規律、教育訓練、福利厚生など、労働者に対する一切の待遇が含まれます。
参考:厚生労働省「働き方改革」
労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
目的:雇用形態に関わらない公正な待遇を確保する 施行:2020年4月1日(中小企業への適用は2021年4月1日)
パートタイム・有期雇用労働法の改正により、有期雇用労働者に対しても待遇内容や考慮事項に関する説明義務が定められています。
そのため、非正規社員は、正社員との待遇差の内容や理由などについて、事業主に対して説明を求めることができるようになりました。
待遇については、上述した不合理な待遇差で述べたものと同様となっています。
行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争手続(行政ADR)の規定の整備
目的:雇用形態に関わらない公正な待遇を確保する 施行:2020年4月1日(中小企業への適用は2021年4月1日)
改正により、有期雇用労働者についても行政による履行確保措置の規定ができるようになりました。
事業主と労働者との間の紛争を、裁判をせずに解決する「裁判外紛争解決手続(行政ADR)」が整備されました。
行政ADRの対象となる事項が明確化され、特に「均衡待遇」(正社員との間の不合理な待遇差の解消)に関する紛争や、「待遇差の内容・理由に関する説明」に関する紛争も対象に含まれるようになりました。
■参考記事;同一労働同一賃金の実現。2020年から本格的に見直される不合理な待遇差
働き方改革で実現したいこと
ここまで、法改定の内容を中心に働き方改革の詳細をお伝えしてきました。
ここからは、働き方改革が行われた目的についてみていきます。
働き方改革全体としてはさまざまな取り組みがありますが、働き方改革によって実現したいことは以下の3つです。
- 働き手を増やす
- 出生率を上げる
- 労働生産性も上げる
これら3つを実現する為に、以下の目的が考えられ、施策に落とし込まれ、法律として改定されていきました。
長時間労働の解消
かつての日本は、長時間労働が常態化している企業が多くあり、労働者が家庭や個人的な活動に十分な時間を割くことが難しくなっていました。
働き方改革ではこの課題を解決するため、労働時間の短縮や有給休暇の取得を促進し、労働者がより充実した生活を送れるようにすることを目指しています。
さまざまなデータから見ても、日本人の労働時間の長さは、諸外国と比較して長いことがわかります。
「年次経済財政報告」によれば近年、一人あたりの平均労働時間は低下しており、正社員の労働時間は依然として長いままです。
ワーク・ライフ・バランスを保つためには、長時間労働の解消が欠かせません。
日本人の労働時間の長さにおける根拠については、「長時間労働の原因は何なのか?日本人の労働実態と問題点」でまとめています。
正規・非正規の格差解消
厚生労働省が発表した「令和2年賃金構造基本統計調査の概況」を見ると、非正規社員の賃金は、正規社員の70%程度となっています。
また、年齢別の賃金を比較すると、正規社員の場合は、年齢を重ねるごとに賃金も上がる一方で、非正規社員はほとんど変わりません。
正規社員は、スキルや経験の向上が賃金に反映されますが、非正規社員においてはさほど関係ないことがわかります。
年齢が低い非正規社員では、正規・非正規で賃金格差がなかったとしても、年齢を重ねるごとに差が開くため、暮らしにも影響を与え兼ねません。
また、同じ仕事内容でありながら、正規社員とかけ離れた賃金であれば、モチベーションも下がってしまうでしょう。
仮に正規・非正規の格差が解消されれば、モチベーションが上がるだけでなく生産性も上がります。
参照:令和2年賃金構造基本統計調査の概況|厚生労働省(PDF資料)
高齢者の就労促進
高齢化が進む昨今、働ける年代も昔とは変わってきました。内閣府が発表した「令和4年版高齢者白書」によると、労働力人口のうち、65歳以上の人の比率が上昇傾向にあります。
しかし、定年制を導入している企業が非常に多く、そのほとんどの定年年齢は60歳です。高齢者の就労促進をするためには、定年年齢を上げる取り組みが必要です。
また、高齢者が働きやすい環境を整える必要もあるでしょう。
働き方改革の必要性に迫られた日本の事情
国が働き方改革関連法によって大改正を行う背景には、大きく3つの危機があります。以下の3つです。
- 少子高齢化に伴う労働力不足の危機
- 長時間労働の常態化による労働参加率低下の危機
- 多様な働き方への対応の遅れに対する危機
少子高齢化に伴う労働力不足の危機
日本の人口は2008年をピークに減少の一途をたどっており、少子高齢化が止まりません。
それに伴い、労働の現役世代である生産年齢人口(15〜64歳)の割合も、1990年代後半を境に減少しています。つまり、労働力の総数が減少し続けています。
出典:国勢調査、国立社会保障・人口問題研究所 日本の将来推計人口(平成29年推計)
参照:日本の将来推計人口(平成29年推計)の概要|厚生労働省(PDF資料)
労働力が減少すると企業の生産性が低下し、GDPや税収も落ち込んでしまうため、国としては労働参加率を向上させる必要性に迫られています(女性、高齢者、障害者をはじめとする多様な人材の労働参加)。
長時間労働の常態化による労働参加率低下の危機
日本では長年にわたり長時間労働が常態化していました。
残業すること、休まないことが美徳とされていたため、結婚・出産や介護を機にそのような環境で働き続けることができなくなり、退職する人が続出しています。
このことが労働参加率の低下を招いた一因です。
また、長時間労働は重大な健康障害を引き起こす可能性があります。
過労死や長時間労働が原因の精神障害・自殺は大きな損失です。長時間労働が心筋梗塞リスクを高めるという研究結果もあります。
出典:Lui Y, et al. Occup Environ Med 2002
参考:長時間労働者の健康ガイド|労働安全衛生総合研究所(PDF資料)
慢性的な人手不足と長時間労働が引き起こす労働力の損失は生産性の向上を妨げ、日本経済にダメージを与え続けています。
■参考記事;長時間労働の原因は何なのか?日本人の労働実態と問題点
多様な働き方への対応の遅れに対する危機
時代とともに生活や働き方が変わっていきました。今では共働き世帯が1,508万世帯で、専業主婦世帯636万世帯を大きく上回っています。
結婚や子育てをしながら非正規雇用労働者として働き続ける女性が増えています。
また、今の時代は決まった時間に決まった場所に出社をして帰社をする働き方が成果に直結するわけではありません。
多様な働き方ができない画一的な働き方の強要は、労働参加率を低下させます。
多様で柔軟な働き方への対応の遅れにより、数多くの優秀な人材を活用できずに生産性を向上させることができていません。
■参考記事;女性の離職率は男性より高い!女性が働きにくい環境に潜むリスク
企業が働き方改革を推進して得られるメリット
続いては、働き方改革を推進するメリットを解説します。
働き方改革を実施することは非常に難しい作業です。
しかし、少しずつでも推進していくとさまざまなメリットが得られます。メリットを把握できていれば、働き方改革にかける労力も惜しみないものになるはずです。
主なメリットは以下の3つです。
- 生産性が向上する
- 人材採用において社会的な評価を得られる
- 自分のライフスタイルに合わせた生活を送れる
生産性が向上する
働き方改革が進むと、労働時間が短縮され従業員にゆとりが生まれます。
これまで睡眠時間を削っていた人は、ゆっくりと休める時間を得られ、また家族や友人と過ごす時間が増えます。
その結果、精神的・肉体的に健やかになり、勤務中は高い集中力を発揮できることで、生産性が向上します。
人材採用において社会的な評価を得られる
近年、人材不足はどこの企業においても深刻な課題です。
一方、求職者はワーク・ライフ・バランスが取りやすい企業を求めています。
働き方改革に積極的な企業は、社会的に見ても非常に評価が高く、求職者からも注目を集められます。
また、正規・非正規の格差や高齢者の雇用などを取り入れれば、幅広く優秀な人材の採用を期待できます。
自分のライフスタイルに合わせた生活を送れる
働き改革が進むと、ライフスタイルやキャリアビジョンを問わず働きやすくなります。
例えば、副業をしながら自分のスキルを活かすことができ、また自分にとって快適なワーク・ライフ・バランスを取ることで、充実した暮らしを送ることもできます。
►働き方改革を実現して、これらのメリットを得るための補助として、助成金などもありますので、併せて次の記事もご覧ください「働き方改革推進支援助成金|5つのコースや申請法、注意ポイントも 」
働き方改革で企業の意識は大きく変化した
帝国データバンクが2021年9月に実施した働き方改革の取り組みに関する企業の「意識調査」(有効回答企業数1万2,222社)によると、オンライン会議を導入している企業は49.4%でした。
実に半数近くが取り組みを行っている背景には、新型コロナウイルス感染症の拡大があります。
そのほか、「ペーパレス化の推進」や「インターネットによる受注・販売の強化」を考えている企業も、20%〜25%程度ありました。
なかなか働き方改革に着手できなかった企業も、新型コロナウイルス感染症をきっかけに、動き始めたことがわかります。
参照:働き方改革に対する企業の意識調査(2021年9月)|帝国データバンク
働き方改革の進めるポイント
働き方改革をスムーズに進めるためには、明確な工程を知る必要があります。
これは経営層だけではなく、社員全員が工程を理解した上で取り組まなければなりません。そのために、働き方改革を進める工程のポイントを解説します。
社内の状況を調べる
働き方改革を進めるにあたって大切なのが、社内の状況を調べることです。
社内の実態を見つめ直し、労働環境がどうなっているのかを知らなければなりません。状況がわかれば、生産性が上がらない理由が見えてくるはずです。
また、単純に状況を見るだけではなく、社員に対してアンケートやヒアリングを行い、現場の声を聞くことも大切です。
働き方改革の方針を決める
実態調査やヒアリング、アンケートによって現状の課題が見えてきたら、具体的に動くための方針を整理する必要があります。
課題が複数ある場合は、どこから取り組むべきか優先順位も決めましょう。 また、行動することによって得られるメリットも明確にしておかなければなりません。
方針が決まったら、わかりやすくまとめておきましょう。
必要に合わせて働き方改革関連法への対応を行う
働き方改革関連法が施行され、働き方のルールが変わりました。具体的に変わったポイントは、以下のとおりです。
- 労使協定(36協定)の改訂、締結し直し
- 就業規則の変更
- 労働契約書の見直し
これらの変更や見直しについて、企業側は対応していかなければなりません。
業務規程を見直す
働き方改革に関して自社における方針が定まったら、目標実現に向けて施策を考える必要があります。
例えば、遠方から通う社員が多く通勤だけで疲れているような状況であれば、オンライン業務への移行や家賃のサポートを行って、職場付近で暮らせるようにサポートするなどの対策が考えられます。
そのほか、不必要な会議が多いと感じているのであれば、社内SNSを導入し、タイムリーな情報共有ができるように業務環境を整える案も考えられます。
このように施策を考案するためには、まず業務規程を見直すことが大切です。施策が整ったら、業務規定を見直して社員に提示できるようにしましょう。
施策を社員に伝える
目標が決まり、施策の流れが定まったら、社員に対して周知する必要があります。
なぜ働き方改革をするのか、施策によって得られるメリットは何かを伝えなければなりません。
一人でも納得ができない社員がいると施策の実施に影響するため、丁寧にコミュニケーションを取り、説得や施策の見直しをしましょう。
施策の評価と改善を続ける
働き方改革は、施策を実行したから終わりというわけではありません。
施策によって得られた効果を検証する必要があります。 目標に達しなかったり、効果を感じられなかったりした場合は、なぜうまくいかなかったのかを分析した上で、別のやり方を考えましょう。
最初から全ての状況を改善するのは困難ですが、改善をし続けることで目標に近づきやすくなります。
働き方改革の課題
働き方改革は、労働者の生産性や生活の質を向上させることを目的としていますが、いくつかの課題が存在しています。
実際には休みが取りにくい現状
働き方改革が進行しているにもかかわらず、現状では労働者が休暇を取りにくいという問題が多くの企業で見受けられます。
特に業務量が多く、人手不足に悩む企業では、法律で定められた休暇を労働者が適切に取得できないケースがあるのです。
人手不足が課題となっている企業では、繁忙期における業務の増大により、労働者が休暇を申請しても上司から許可が下りない状況や、誰かが休暇を取得することで他の人にしわ寄せがくることもあるため、休みを取りづらさが課題になっています。
休みが取りにくい現状を改善するためには、働き方改革の一環として、労働者が自主的に休暇を取得できるようになるための環境づくりや意識改革が必要です。
待遇改善の実現に向けた高いハードル
待遇改善を実現するには、依然として高いハードルがあります。
経済的な理由や、長期間にわたる労働慣習の影響が大きいため、待遇改善が難航する企業が多いのです。
福利厚生の充実や新しい法規制への対応には、企業のコスト負担が必要となります。
資金に余裕がない場合には実際に踏み切ることが難しい状況も見受けられます。
代表的な働き方改革の施策を紹介
働き方改革の施策は、さまざまな手段があります。具体的な取り組み例を知ると、自社の課題と照らし合わせながら取り入れられるでしょう。
テレワークの推進
総務省では、時間や場所を問わず柔軟に仕事に取り組めるテレワークを推進しています。
新型コロナウイルス感染症によって、テレワークを導入した企業が増えてきましたが、準備が整っていないまま実施したケースも多く見受けられます。
その結果、コミュニケーションが取りづらくなったという問題が起こることがあります。
こうした問題を解決するためには、ITCツールの機能をよく理解してから活用する必要があります。
労働時間法制の見直し
働き方改革をするためには、労働時間の見直しが大切です。
厚生労働省では、法定労働時間を原則1日8時間、1週間40時間と定めています。 また、1日の労働時間が6時間を超える場合は45分、8時間であれば1時間以上の休憩が必要です。
休日に関しても、毎週1日もしくは4週間のうちに4日以上設けなければなりません。 法定労働時間を超える場合は、時間外労働協定の届け出が必要です。
ただし、届け出をした後も、法律で定められた限度内での労働のみが認められています。
賃金・手当の見直し
正規社員と非正規社員のモチベーションに差を生まないために、賃金や手当の見直しも大切です。
近年は、同じ仕事内容であれば、同じ賃金を与えるという考え方に変えるケースが増えています。
いわゆる「同一労働同一賃金制度」といい、賃金の見直しをすることによって生産性が上がるだけでなく、自由に働き方を選択できる社会が実現可能です。
兼業・副業の推進
働き方改革によって、多様な働き方の実現も求められています。
例えば、兼業・副業を推進し、従業員が自主的にスキルアップを行うと、本業でも活かすことができるため企業にとってもメリットになるのです。
また、兼業や副業によって収入がアップすれば、精神的な余裕が生まれ、本業のモチベーションも上がりやすくなります。
►副業解禁の詳細については、次の記事も併せてご覧ください「働き方改革で副業が解禁?政府が促進する理由と企業が対応すべきこと 」
労働者への周知とコミュニケーションの強化
働き方改革推進の周知とコミュニケーション強化は、働き方改革を成功させる上で不可欠です。
新しい制度や変更点を効果的に伝えることで、労働者の理解を深め、信頼関係を築けます。
例えば、定期的な社内説明会の開催や、社内報を通じて労働者に新制度について情報を提供する機会を設けると良いでしょう。
また、社内SNSやチャットツールを活用すれば、双方向のコミュニケーションを促すことができます。
労働者とのコミュニケーションが取れるツールを活用することで、労働者からの質問や、フィードバックの提供も可能になります。
♦社内コミュニケーション活性化の事例については次の記事でご覧いただけます:社内コミュニケーション活性化の成功事例12選!効果的な導入方法もあわせて解説
有給取得を促進する福利厚生の充実
働き方改革の一環として有給休暇の取得が推奨されていますが、現実的には取得が進みにくいという課題があります。
企業は福利厚生を充実させることで、労働者が気軽に有給休暇を取得できる環境を整える必要があるでしょう。
例えば、有給休暇を取得した労働者に対し、旅行費用を一部補助する制度やなど特別な福利厚生を提供する方法があります。
また、上司が率先して有給休暇を取得することで、部下たちが有給を取得しやすい社風を醸成し、自分も休暇を取って問題ないという意識を持たせられるでしょう。
►さらなる詳細の具体例と事例について、次の記事も併せてご覧ください「働き方改革の具体例と事例16選|得られるメリットを解説 」
働き方改革 実践企業事例
最後に、働き方改革を実際に行っている企業の一例を紹介します。
大和ハウス工業
取り組み:働き過ぎを防ぐ、年次有給休暇を取りやすくする 建設大手の大和ハウスでは、2003年からいち早く長時間労働の是正に取り組んでいます。主な内容は以下のとおりです。
- 21時を過ぎると事務所が閉鎖される「ロックアウト制度」
- 時間外労働の社内基準に抵触する事業所に、是正指導やペナルティを設ける「ブラック事業所認定制度」
- 年次有給休暇取得を促進する「ホームホリデー制度」
このような取り組みにより、2016年の平均残業時間は10%削減(2014年比)、有給取得率は2.8倍(2006年比)と改善しました。
ベネッセコーポレーション
取り組み:働き過ぎを防ぐ、年次有給休暇を取りやすくする、柔軟な働き方を可能にする 教育支援事業を手掛けるベネッセコーポレーションでは、キーメッセージに「Value for Time」を掲げ、時間の価値を高める働き方改革を進めています。
- 事業部門ごとに月平均残業時間の目標を設定
- 事業部門ごとに「ノー残業デー」を設定
- 事業部門ごとに有給取得奨励日を設定
- 在宅勤務制度の導入
同社の取り組みは「事業部門の個別性」と「従業員の主体性」を尊重しているところが特徴です。
なお、在宅勤務制度は約120名が利用していますが、利用できるのは一定のグレード以上の従業員となっています。自分で仕事を調整するのが難しい新入社員などは対象外です。
そのほか、経団連の事例集には多彩な企業の働き方改革のノウハウが掲載されています。
ぜひ参考にしてください。
参照:働き方改革事例集|経団連(PDF資料)
まとめ
働き方改革は、その名の通り、労働環境を改善し効率的な働き方を実現するための取り組みです。
労働者が健康で幸福な生活を送ることを目標に、労働基準法をはじめとする多くの法律が改正・強化されてきました。
企業や労働者は、これらの改革を積極的に取り入れ、労働者にとって良い職場環境を整える努力をしていくことが求められます。
実際の職場でのフィードバックを活用し、さらなる改善を進めることで、持続可能な労働環境の実現を目指しましょう。
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