
働き方改革とは?目的、課題、解決策をわかりやすく解説
働き方改革は、現代の労働環境を大きく変革する動きとして注目を集めています。
従来の労働制度が現代に合わないと感じる人が増えてきており、長時間労働や固定的な労働時間に縛られるという働き方が、現代の生活スタイルや価値観と合致しなくなってきました。
本記事では働き方改革の課題や推進するためのポイントについてわかりやすく解説していきます。
目次[非表示]
- 1.働き方改革の概要と広まった背景
- 2.働き方改革と8つの労働関係法
- 2.1.労働基準法
- 2.2.労働契約法
- 2.3.労働時間等の設定の改善に関する特別措置法
- 2.4.労働安全衛生法
- 2.5.パートタイム・有期雇用労働法
- 2.6.労働者派遣法
- 2.7.雇用対策法
- 2.8.じん肺法
- 3.働き方改革を実現するポイント
- 3.1.時間外労働の上限規制
- 3.2.勤務間インターバル制度
- 3.3.年5日の有給休暇取得義務
- 3.4.月60時間超の残業の割増賃金率引き上げ
- 3.5.労働時間の管理と改善策
- 3.6.在宅勤務やフレックスタイム制の活用
- 3.7.高度プロフェッショナル制度の設置
- 3.8.産業医や産業保健機能の強化
- 3.9.同一労働同一賃金の徹底
- 4.働き方改革の課題
- 4.1.実際には休みが取りにくい現状
- 4.2.待遇改善の実現に向けた高いハードル
- 5.働き方改革をさらに推進するために必要な取り組み
- 6.働き方改革の本質と今後の展望
働き方改革の概要と広まった背景
まずは、そもそも働き方改革がどのような取り組みなのかについてと、働き方改革の目的、そして広まった背景について説明します。
働き方改革とは?
働き方改革とは、労働環境を改善し、多様な働き方を実現するための一連の取り組みです。
労働慣行にとらわれがちな日本社会で、より柔軟で効率的な働き方を導入することを目指しています。
働き方改革は、労働者が安心して働ける環境を作り出すほか、企業にとっても人材を最大限に活用できるようにすることを目的としているのです。
働き方改革の目的
働き方改革の目的は大きく3つあります。
- 1つ目は、長時間労働の是正です。
かつての日本は、長時間労働が常態化している企業が多くあり、労働者が家庭や個人的な活動に十分な時間を割くことが難しくなっていました。
働き方改革ではこの課題を解決するため、労働時間の短縮や有給休暇の取得を促進し、労働者がより充実した生活を送れるようにすることを目指しています。
- 2つ目は、多様な働き方の実現です。
例えば、テレワークやフレックスタイム制、副業・兼業の促進など、個々のライフスタイルやニーズに応じた柔軟な働き方を可能にすることも重要となります。
- そして3つ目は、雇用形態に関係なく公正な待遇の実現です。
正規・非正規雇用の格差を是正し、全ての労働者が安心して働ける社会を構築することを目指しています。
働き方改革の背景
働き方改革が推進される背景には、少子高齢化の問題があります。
日本は少子高齢化に伴って労働人口が減少しつつあり、今まで以上に生産性の高い働き方が求められるようになりました。
少子高齢化による労働力不足を補うために、多様な労働形態や労働環境の改善が課題になっています。
多様な働き方が求められる中で、こうした現状を見直し、柔軟で効率的な働き方の普及が急務となっています。
働き方改革と8つの労働関係法
働き方改革を進めるうえ、複数の労働関係法が重要な役割を果たしています。
特に重要な8つの労働関係法について詳しく解説します。
労働基準法
労働基準法は、労働者の権利を保護し、労働条件の最低基準を定めることを目的とした法律です。
具体的には、賃金、労働時間、休憩、休日、有給休暇などの基本的な労働条件を規定しています。
労働者が安心して働ける環境を整えるための基盤となる法律です。
労働契約法
労働契約法は、労働者と使用者の間の労働契約に関する基本的なルールを定めた法律です。
主に労働契約の成立、変更、終了に関する原則を明確にし、労働者の権利を保護することを目的としています。
労働時間等の設定の改善に関する特別措置法
労働時間等の設定の改善に関する特別措置法は、労働者の健康を守り、労働環境の改善を図ることを目的としています。
この法律は、労働時間の短縮や労働条件の改善を促進するための指針を定め、事業主に対して労働時間等の設定の改善を促す役割があります。
労働安全衛生法
労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境を形成することを目的とした法律です。
この法律は労働者が安心して働ける環境を提供し、労働災害を防止するために制定されました。
安全な職場を実現することで、労働者が心身共に健康で活動的に業務を遂行できるため、効率的で質の高い作業が可能となるのです。
パートタイム・有期雇用労働法
パートタイム・有期雇用労働法は、短時間労働者や有期雇用労働者の雇用管理の改善を目的とした法律です。
賃金や福利厚生において短時間労働者が不利な待遇を受けないよう、パートタイムで働く人々も、正社員と同じ職務を果たしている場合には、正当な賃金や福利厚生が与えられます。
労働者派遣法
労働者派遣法は、派遣労働者の権利を保護し、労働者派遣事業を適正に運営することを目的として制定された法律です。
派遣労働者の就労形態において労働者の権利が十分に守られるように法的な枠組みが設けられています。
正社員と同じ仕事を行っている派遣労働者には正社員と同等の賃金や福利厚生を提供するなど、待遇の改善や、派遣労働者が同一の派遣先で働ける期間にも制限が設けられており、長期間の派遣を避けるための措置が取られています。
雇用対策法
雇用対策法は、雇用機会の創出と雇用の安定を目的とした法律です。
労働市場の変動に迅速に対応し、労働者が安定して職に就けるよう様々な施策を提供することが目標にあります。
雇用対策法では、職業訓練の提供や雇用機会の均等化など、失業者への対策が定められており、職を失った人々が再び働くために必要なスキルを習得するプログラムや、失業中の生活を支えるための支援が行われています。
じん肺法
じん肺法は、特にじん肺病の予防と救済のために制定された法律です。
じん肺とは、主に鉱山や建設現場などで発生する粉じんを吸入することによって生じる職業病の1つで、慢性的な呼吸器障害を引き起こします。
じん肺法は、労働者の健康保護に加え、じん肺から労働者を保護し、じん肺の予防や健康管理を通じて、労働環境の改善を図ることを目的としています。
働き方改革を実現するポイント
働き方改革を実現するために効果的な施策について解説します。
時間外労働の上限規制
時間外労働の上限規制は、働き方改革の1つの施策です。
時間外労働の上限を定めることで、過剰な残業を阻止し、労働者の健康を損なうリスクを減らします。
時間外労働の上限は、労働基準法に基づき原則として月45時間、年360時間と定められています。
※ただし、臨時的な業務の繁忙期などに対応するための「特別条項付き36協定」を締結すれば、一時的に年720時間以内、単月100時間未満、2~6か月の間、単月の平均を80時間以内まで延長することが可能です。(月45時間を超えることができるのは直近12か月のうち6回まで)
もしこの上限を超える勤務を指示した場合、企業には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
そのため、企業は法令を厳守し、長時間労働の抑制に努めることが求められているのです。
多くの企業では時間外労働の短縮を実現するために、フレックスタイム制の導入や業務効率化のためのシステム改善を積極的に進めています。
勤務間インターバル制度
勤務間インターバル制度は、労働者が1日の勤務終了後から翌日の始業までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を設けることを目的とした制度です。
勤務間インターバル制度は、労働者の生活時間や睡眠時間を確保し、健康的な働き方を促進するために導入されています。
勤務間インターバル制度では、勤務間に9~11時間以上の休息を確保することが推奨されており、例えば夜遅くの23時まで働いた労働者に対しては、翌日の勤務を10時から開始するように指示し、体を休める時間を十分に確保させることが求められます。
年5日の有給休暇取得義務
有給休暇取得義務は、全ての労働者に対して適用される権利です。
企業は年に10日以上の有給休暇が付与される労働者に、最低5日以上の有給休暇を確実に取得させることが法的に義務付けられています。
現状では、有給休暇の取得率が企業や業種によってばらつきがあるため、多くの企業がこの規定を遵守するための対応策を講じる必要があります。
計画的な有給休暇取得を推進するための取り組みや、取得しやすい職場環境の整備を進めることが必要です。
♦有給休暇の詳細については次の記事をご覧ください:有給休暇の付与日数・取得ルールの基本と、制度改善に向けた実務対応策
月60時間超の残業の割増賃金率引き上げ
月60時間を超える残業についての割増賃金率の引き上げは、過度な残業を抑制し、適切な労働時間管理を促進するために必要な施策です。
過労による健康被害の防止や、労働者の生活の質の向上を目指す目的があります。
月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率は2019年に引き上げられました。
この改正により、大企業だけでなく中小企業も月60時間を超える残業に対して50%以上の割増賃金を支払う義務が生じます。
労働時間の管理と改善策
労働時間の適切な管理と改善は、健全な労働環境を築くために欠かせない要素です。
特に、日本の一部企業ではいわゆるブラック企業問題が深刻化しています。
違法な長時間労働やサービス残業の横行は、労働者の精神的・肉体的な負担を増大させるほか、過労死やメンタルヘルスの問題を引き起こす要因となります。
したがって、厳格な対策が求められています。
現在の労働時間の実態を把握した上で、不適切な労働時間が明らかになった場合には、速やかに是正措置を取りましょう。
また、定期的に労働時間の見直しを行い、改善策を適切に反映させる仕組みを整えることが求められます。
在宅勤務やフレックスタイム制の活用
新しい働き方として在宅勤務やフレックスタイム制が注目されており、多くの企業が柔軟な労働環境の整備を進めています。
- 在宅勤務を実施すれば通勤にかかる時間やストレスを削減できます。
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フレックスタイム制は、労働者が自身のライフスタイルに合わせて勤務時間を調整できる制度です。
家庭の事情に合わせた時間の確保が可能になり、育児や介護と両立しやすくなるという利点があるのです。
在宅勤務やフレックスタイム制を取り入れる企業は増えており、労働者の満足度や定着率の向上、さらには業務効率の改善が報告されています。
例えば、フレックスタイム制を活用している企業では、業務のピークに合わせた労働時間の調整を可能にすることで、無駄な残業の削減につなげています。
高度プロフェッショナル制度の設置
働き方改革の一環として、高いスキルを持てるよう育成する制度や高いスキルを活かしたキャリアパスを用意する企業も多くなってきました。
専門的なスキルを持つ労働者は、働き方の自由度を高め、自分の能力を最大限に発揮することができるようになります。
高度プロフェッショナル制度は高いスキルを持つ人材に対して、より柔軟な働き方を可能にするための施策です。
しかし、一方でデメリットも存在します。
高度プロフェッショナル制度には労働時間の規制がなく、過労のリスクが高まる可能性や、成果評価の公平性の問題、適用範囲についての議論が続いています。
♦高度プロフェッショナル制度については、詳細を次の記事からご確認ください:高度プロフェッショナル制度とは?労働時間に縛られない柔軟な働き方
産業医や産業保健機能の強化
産業医との連携や産業保健機能の強化は、労働者の健康を守ることにつながります。
特に現代の多様な働き方において、心身の健康を維持することはより一層重要です。
定期的な健康診断を行ったり、メンタルヘルスについて対策をとったりすることで労働者の体調不良やストレスの早期発見・対応が可能になり、長期的な病欠や離職を防げるでしょう。
また、産業医による職場巡視や健康相談を通じて、健康維持のためのサポートを直接提供することが求められます。
健康管理が正しく行われ、メンタルヘルスを良好に保つことで、職場のパフォーマンス向上につながるだけでなく、労働者一人ひとりの生活の質向上にも貢献します。
♦企業のメンタルヘルス対策についての詳細は次の記事をご覧ください:企業のメンタルヘルス対策|ストレスの原因や影響・事例3選も紹介
同一労働同一賃金の徹底
同一労働同一賃金の原則を徹底することは、労働者間の賃金格差是正や、全ての労働者に公平な労働環境の提供につながります。
企業内で同じ職務内容を担ったり責任範囲が同等であったりする場合、労働形態にかかわらず同一の賃金を支払うのが同一労働同一賃金の考えです。
具体的な取り組みとして、正社員と同じ業務を行う場合にはパートタイム労働者にも同じ賃金を支払うことや、契約社員に対して正社員と同様の評価基準を適用する企業が多いです。
♦同一労働同一賃金についての詳細は次の記事をご覧ください:同一労働同一賃金の実現。2020年から本格的に見直される不合理な待遇差
働き方改革の課題
働き方改革は、労働者の生産性や生活の質を向上させることを目的としていますが、いくつかの課題が存在しています。
実際には休みが取りにくい現状
働き方改革が進行しているにもかかわらず、現状では労働者が休暇を取りにくいという問題が多くの企業で見受けられます。
特に業務量が多く、人手不足に悩む企業では、法律で定められた休暇を労働者が適切に取得できないケースがあるのです。
人手不足が課題となっている企業では、繁忙期における業務の増大により、労働者が休暇を申請しても上司から許可が下りない状況や、誰かが休暇を取得することで他の人にしわ寄せがくることもあるため、休みを取りづらさが課題になっています。
休みが取りにくい現状を改善するためには、働き方改革の一環として、労働者が自主的に休暇を取得できるようになるための環境づくりや意識改革が必要です。
待遇改善の実現に向けた高いハードル
待遇改善を実現するには、依然として高いハードルがあります。
経済的な理由や、長期間にわたる労働慣習の影響が大きいため、待遇改善が難航する企業が多いのです。
福利厚生の充実や新しい法規制への対応には、企業のコスト負担が必要となります。
資金に余裕がない場合には実際に踏み切ることが難しい状況も見受けられます。
働き方改革をさらに推進するために必要な取り組み
働き方改革を成功させるためには、法改正や制度導入だけでなく、企業と労働者双方が協力して具体的な取り組みを推進することが求められます。
全労働者が平等に恩恵を受けられる制度の整備
全労働者が公平に恩恵を受けられる制度を整備することで、特定の労働者だけでなく、全労働者が平等に制度を享受できる環境を構築できます。
例えば、一部の労働者だけに在宅勤務やフレックスタイム制を許可するのではなく、全労働者に対して在宅勤務制度の利用が可能な環境を整備することが必要です。
労働者が平等に扱われる制度の整備をすることで、企業全体のパフォーマンス向上につながるでしょう。
♦リロクラブが提供する福利厚生倶楽部は全国各地の施設の割引が受けられるなど全労働者へ公正な福利厚生をお届けいたします。
労働者への周知とコミュニケーションの強化
働き方改革推進の周知とコミュニケーション強化は、働き方改革を成功させる上で不可欠です。
新しい制度や変更点を効果的に伝えることで、労働者の理解を深め、信頼関係を築けます。
例えば、定期的な社内説明会の開催や、社内報を通じて労働者に新制度について情報を提供する機会を設けると良いでしょう。
また、社内SNSやチャットツールを活用すれば、双方向のコミュニケーションを促すことができます。
労働者とのコミュニケーションが取れるツールを活用することで、労働者からの質問や、フィードバックの提供も可能になります。
♦社内コミュニケーション活性化の事例については次の記事でご覧いただけます:社内コミュニケーション活性化の成功事例12選!効果的な導入方法もあわせて解説
有給取得を促進する福利厚生の充実
働き方改革の一環として有給休暇の取得が推奨されていますが、現実的には取得が進みにくいという課題があります。
企業は福利厚生を充実させることで、労働者が気軽に有給休暇を取得できる環境を整える必要があるでしょう。
例えば、有給休暇を取得した労働者に対し、旅行費用を一部補助する制度やなど特別な福利厚生を提供する方法があります。
また、上司が率先して有給休暇を取得することで、部下たちが有給を取得しやすい社風を醸成し、自分も休暇を取って問題ないという意識を持たせられるでしょう。
♦この他にも必要な施策については、次の記事でご覧いただけます:有給休暇の付与日数・取得ルールの基本と、制度改善に向けた実務対応策
働き方改革の本質と今後の展望
働き方改革は、その名の通り、労働環境を改善し効率的な働き方を実現するための取り組みです。
労働者が健康で幸福な生活を送ることを目標に、労働基準法をはじめとする多くの法律が改正・強化されてきました。
企業や労働者は、これらの改革を積極的に取り入れ、労働者にとって良い職場環境を整える努力をしていくことが求められます。
実際の職場でのフィードバックを活用し、さらなる改善を進めることで、持続可能な労働環境の実現を目指しましょう。