育児・介護休業法は、子育て・介護などと仕事を無理なく両立できる環境を作るために欠かせない法律です。少子高齢化が進む中、育児・介護休業法を理解しておくことは非常に大切です。今回は、育児・介護休業法の概要や法改正のポイント、取得状況や取得しづらい原因などを解説します。
育児・介護休業法とは
育児・介護休業法は、育児や介護をしなければならない労働者が、円滑に仕事と両立できるよう配慮し、働き続けられるよう支援するための法律です。正式名称は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」です。
法律が制定された背景や制度内容を詳しく解説していきます。
育児・介護休業法が制定された背景
育児・介護休業法が制定された背景として、以下4つのトレンド・ポイントが挙げられます。
- 少子化対策
- 女性雇用の確保と活躍の場の拡大
- 高齢者増加に対する介護対策
- 企業の雇用継続・雇用の安定化
少子化の進行で、日本の人口減少に対する懸念は広がっています。国としては、育児休業によって育児支援を充実させることで、出産を前向きに考える夫婦が増えること(少子化対策)を期待しています。
また、女性労働者にとっては育児休業の制度が整備されることで、育児休業中のブランクを気にせず、キャリアを続けやすくなるでしょう。
さらに、高齢者の増加で介護問題は待ったなしの状況です。高齢化が進む日本では今後、高齢の親の介護に直面する労働者が増えていきます。介護をしながらでも働ける柔軟な制度を整えれば(介護対策)、労働者は仕事を続けられ、活躍できます。
そして、子育てや介護などをしながらでも働ける環境の実現は、企業にとって雇用維持策につながります。出産・育児による離職、介護による離職が減れば、雇用は安定します。
育児・介護休業法の制度内容
育児・介護休業法には、育児のための支援制度、介護のための支援制度、共通する支援制度が盛り込まれています。
- 育児のための支援制度
- 介護のための支援制度
- 共通する支援制度
産前産後休業、育児休業、子の看護休暇、転勤への配慮など
介護休業、介護休暇など
所定外・時間外労働の制限、深夜業務の制限、短時間勤務制度、男性労働者の育児制度活用など
労働者は、これらの制度の利用を希望し、事業主に申し出ることができます。法規上の範囲を満たす対応や処置を講じることは事業主の義務です。
制度利用を促進するため、育児・介護休業法の制度の利用を理由とした解雇、降格、減給、その他の労働者に不利益な取扱いをしてはならないと規定されています。
また、法規定を満たしていれば、事業主が社内体制や業務形態に合わせて、独自の休暇制度などを設けることも歓迎されています。
育児・介護休業取得の現状
それでは、育児・介護休業が現在どのくらい取得されているのかを確認します。
男性労働者の育児休業取得率

男性も女性同様、育児休業を取得する権利があるものの、実際にはあまり取得できていません。
厚生労働省の平成30年度雇用均等基本調査(速報版)によると、2018年度時点で育児休業を取得している割合は、女性82.2%に対して男性は6.16%になっており、男性はほとんど取得できていません*。依然として、育児の負担が女性に偏っている状況です。
* 2016年10月1日から2017年9月30日までの1年間に配偶者が出産した男性が対象で、2018年10月1日までに育児休業を開始した割合を示しています
しかしながら、男性の育児休業取得率は少しずつですが上昇し、企業によっては男性の育児休業の取得率が大幅に改善しているところもあります。
男性の育児休業取得率の推移
男性の育児休業取得率が低いのは事実ですが、前年比では上昇傾向です。平成30年度雇用均等基本調査(速報版)にある「育児休業取得率の推移(男性)」をみると、
- 2018年度:6.16%
- 2017年度:5.14%
- 2016年度:3.16%
- 2015年度:2.65%
数値としては低いものの、徐々に数値が上がっています。
この調査には、フリーランスなどの個人事業主は結果に含まれていません。そのため、実際に育児休業を取得している男性は、この結果よりも多いことが推測できます。
今後は、新たな施策や方針が男性の育休取得率向上にさらなる追い風となることが期待されています。
日本人と外国人男性の育児休業取得率の差
日本と海外を比較すると、どれくらい男性の育児休業取得率に差があるかみていきましょう。
10年以上前のデータですので少し古いですが、「諸外国における育児休業制度等の取得率」(厚生労働省)では、世界各国の育児休業制度等の男性の取得率が発表されています。
- 日本:1.6%(2007年データ)
- ノルウェー:89%
- スウェーデン:78%
- オランダ:18%
- ドイツ:18.5%
- イギリス:12%
諸外国に比べると、日本人男性の育児休業取得率は非常に低いです。
もちろん国によって制度の内容や期間、対象者の条件などは異なるため厳密な比較はできませんが、日本人男性は育児のために休業をしていません(育児よりも仕事を優先する傾向)。
このような現状をふまえて、男性の育休取得率を改善するための法改正が行われる可能性は大きいです。
介護休業取得の現状
少子高齢化が急速に進んでいる日本での介護休業の現状は、どのようになっているのでしょうか。介護休業取得率や介護離職の現状などをみていきましょう。
近年の介護休業取得率

大和総研が2019年1月9日に発表した「介護離職の現状と課題」では、近年の介護休業取得率について調査結果を公開しています。
2017年10月時点での介護休業取得率は、全体で1.2%でした。介護休業制度以外の制度(例えば短時間勤務制度など)利用を含めても8.6%しかありません。
裏を返せば、介護をしている労働者の9割が制度を利用せずに介護をしており、介護休業の取得が推進されているとはいえません。
介護離職が深刻になっている

制度を利用せずに働きながら介護を続けるのは、簡単なことではありません。介護と仕事との両立が難しく、介護離職を選択する人が増えています。
2006年から2018年にかけて介護離職は着実に増加しており、2006年から約2倍という結果が出ています。
これまではパートタイム労働者の方が介護離職をするケースが多かったものの、近年は正規雇用の一般労働者が介護離職を選択するケースが増えているのも深刻です。
今後少子高齢化によって、介護を必要とする高齢者が増えていくことを考えると、生産年齢人口の減少と介護需要の増加の両面で、事業主は人的労働力の確保に悩まされます。
介護休業に関わる制度を整備し、気兼ねなく休業取得ができる労働環境づくりを急ぐ必要があります。
育児・介護休業が取得しづらい原因

育児・介護休業は、育児や介護のタイミングで取得されるべき制度です。しかし実際には取得しづらい状況があり、出産や育児を理由にした離職・介護離職といった問題はなくなりません。
ではなぜ育児・介護休業が取りづらいのか、どのような原因があるのでしょうか。
周囲に迷惑をかけられないという環境
ただでさえ人手が足りず、自分が抜けると他のメンバーに迷惑がかかる労働環境では、育児・介護休業が取りにくくなることがあります。抱えている仕事が大きく、責任感のある仕事であればあるほど休業取得を言い出しにくくなります。
周りのメンバーが同じ状況で休業を取得していない場合はなおさら、「自分だけ休みをもらってもいいのか」という気持ちになってしまいます。
職場に取得しにくい雰囲気がある
周囲に育児・介護休業に対する理解がなかったり、前例があまりなかったりする職場では、制度を利用しにくい雰囲気があります。
育児・介護休業に対する理解が浸透していないと、休業している間に代わりに仕事を担う人や上司から不満が出るかもしれません。
何とか休業を取得できたとしても復帰後にネガティブな印象をもたれ、コミュニケーションや待遇などがマイナスになる可能性もあります。事実はそうでなかったとしても、そのような雰囲気があると取得しづらいです。
仕事に復帰できるか不安
たとえ休業を取得できたとしても、これまで通り仕事に復帰できるのか不安になる人も多いです。
自分が抜けている間は、別のメンバーが業務を担当していたり、新しく人員補充をする可能性があります。そのため自分が仕事復帰したときに「職場に居場所があるのか」と不安になることもあります。
休業によるブランクがキャリアに影響を与えないかという不安もあります。こうした不安から、育児・介護休業の取得をためらうケースがあります。
収入が減少してしまう
休業取得をすると、収入が減少することに不安を感じるケースもあります。休業を取得しても育児や介護を含めた生活があるので、収入を極力減らしたくない気持ちは誰しもあります。
介護サービスの整備が不十分
仕事と介護の両立が難しい場合、要介護認定者を介護施設に入居させるのも方法のひとつです。そうすれば、休業する必要はありません。ただ、介護施設・居住系のサービスの整備が十分に進んでいない現状があります。
整備率は、特養・老健・介護療養型医療施設は16%、その他の養護老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などを含めても32%という状態です。
在宅ケアを支えるサービスも十分とはいえず、介護休業をとりにくいが介護を任せることもできないといった状態が生まれてしまっています。
育児・介護休業法改正のポイント

このような育児・介護休業が取得しづらい状況を少しでも改善するため、育児・介護休業法は常に見直されています。育児・介護休業法は、2017年(1月と10月)と2021年にそれぞれ改正が行われているので、どのように変わったのかをおさえておきましょう。
2017年1月改正のポイント
2017年1月改正では、介護休業を中心に改正が行われました。
これまでの育児・介護休業には、柔軟性に欠けている部分がありました。それが2017年1月の改正で、半日単位での取得、分割取得など柔軟性が増しました。具体的な変更内容は以下です。
- 介護休業の分割取得:93日の休業日を年間3回まで分割取得可能
- 介護休暇の取得単位を柔軟化:半日の休暇利用にも認められる
- 介護目的の短時間勤務制度等の措置:介護休業と短時間勤務制度を別扱いとし、利用開始から3年以内に2回以上利用が可能
- 介護休業給付の給付率の引上げ:給付金率を40%から67%に引き上げ
- 介護のための所定外労働の免除:残業などの所定外労働の免除が受けられる制度を新設
- 育児休業の取得要件を緩和:有期契約労働者の育児休業の取得要件を①過去1年以上の勤務②子どもが1歳6ヶ月になるまで雇用契約が切れないこと、に緩和。
- 子の看護休暇の取得単位を柔軟化:有給休暇とは別に半日単位でも取得が可能
2017年10月改正のポイント
2017年10月の改正では、育児休業が一部変更されました。育児休業期間の延長のほか、育児休業を広く活用してもらうために、周知や制度新設などを努力義務として盛り込んでいます。具体的な変更内容は以下です。
- 育児休業期間の延長:1歳6ヶ月で子どもの預け先を確保できない場合、追加申請で2歳になるまで期間を延長できる。育児休業給付の支給期間も延長される。
- 育児休業制度の周知:事業主に対して制度の周知を努力義務として追加
- 新しい育児休暇の設置を促進:男性労働者の育児参加の促進など、育児に関する目的で利用できる休暇制度の新設を努力義務として追加
2021年1月改正のポイント
2021年1月改正では、子の看護休暇や介護休暇をさらに柔軟に取得できるように育児・介護休業法施行規則等が改正されました。具体的な変更内容は以下です。
- 取得単位をさらに柔軟化:子の看護休暇や介護休暇が半日単位から時間単位で取得可能
- 対象範囲の拡大:すべての労働者が子の看護休暇や介護休暇を取得可能
育児・介護休業取得のメリット

育児・介護休業制度を整備し、取得率を向上することは、労働者にはもちろんのこと、事業主にも多くのメリットをもたらします。主なメリットは以下の4つです。
メリット1.労働者とその家族の信頼を得られる
家族を大切にする労働者にとって、子育てや家族の介護はとても重要なことです。気兼ねなく育児・介護休業を取得することができれば、労働者は安心して仕事にも育児・介護にも向き合うことができます。
労働者の家族にとっても育児・介護の負担が軽減(分担)できるのは嬉しいことです。子育て・介護と仕事の両立を支援することは、労使の信頼関係に結びつきます。
育児・介護のタイミングがまだな労働者であっても、いざというときに家庭を優先できる制度があることによって、事業主への信頼が高まり、安心して仕事に取り組めるでしょう。
メリット2.労働者のモチベーションが上がる
「育児・介護で休業したいのにできない」という状況は、労働者のモチベーションに悪い影響を与えます。子育てや介護と仕事の無理な両立によって心身が疲弊し、仕事に身が入らなくなることも考えられます。
育児・介護休業を取得できる環境であれば、育児・介護がひと段落し復帰するときに、モチベーション高く戻ってこられるはずです。
メリット3.イメージアップにつながる
育児・介護休業の制度整備・取得率向上は急務ですが、まだ完全に浸透しているとはいえません。そのような中でしっかり制度の整備・取得を勧奨する事業主は、社会から良いイメージをもたれます。
将来的な出産を考えている女性だけでなく、育児に参加したい男性など、様々な人材からの印象が良くなり、人材確保にもプラスに働きます。
メリット4.各種助成金制度を活用できる
育児・介護休業の取得を推進するために、国は事業主に対して各種助成金を用意しています。助成金を活用できれば、代替要員の採用・教育コストなどにあてられるでしょう。
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育児・介護休業取得に伴って出てくる課題

育児・介護休業取得のメリットはあるものの、事業主にとっては一時的に人員が減ることになります。休業を終えた労働者への対応も欠かせません。育児・介護休業取得により発生する課題には、以下3点があります。
課題1.人的労働力の減少
育児・介護に伴って人員が一時的に減ると、当然労働力は減少します。そのままの体制では、残ったメンバーの負担が増え、長時間労働を強いられたり、不満が溜まったりする可能性があります。
人的労働力の減少に合わせて、代替要員を確保したり、効率的な働き方・体制を整備したり、テクノロジー等の人的労働力以外の労働力の活用など、状況に合わせた対応が必要です。
課題2.価値観の違いによる組織内の不和
子育てや介護に関する価値観は、労働者全員が同じとは限りません。価値観の違いを放置したままですと、育児・介護休業を取得するメンバーに不満を感じる人が原因で、組織内に不和が生じることもあります。
育児・介護休業を理由に、上司や同僚から不利益な取り扱い(解雇・降格・減給など)やハラスメント(嫌がらせ)を受けることもあります。
これは企業文化や育児・介護休業が周知されていないことが原因です。各メンバーの理解を得て組織全体が円滑に動けるように、定期的に説明する場を設けるなど、企業文化の変革や育児・介護休業の周知に取り組む必要があります。
課題3.休業から復帰した労働者への対応
休業から復帰すると、休業前との労働環境の変化や本人のブランクなどは避けられません。
本人は慣れればまた普段通り働けると考えていても、事業主側はブランクがあるからすぐに仕事は与えられないといったように、認識のズレが生じる可能性があります。復帰後に十分なコミュニケーションがとれていないと、こうしたすれ違いが生まれやすいです。
復帰後どのように働きたいか、勤務時間・勤務場所は休業前と同じでよいかなど、擦り合わせを丁寧に行い、認識のズレを解消する必要があります。
こうした課題以外にも、個別の課題が出てきます。時代の変化とともに何か新しいことをはじめたり変えたりすれば、必ず課題が出てきます。
これからの経営には、課題があるから動かないのではなく、課題を解決しながら変わっていくことが求められます。
まとめ

子育て・介護などと仕事の両立支援策を実現するための育児・介護休業法。育児・介護休業法が制定された背景には、4つのトレンド・ポイントがある。
- 少子化対策
- 女性雇用の確保と活躍の場の拡大
- 高齢者増加に対する介護対策
- 企業の雇用継続・雇用の安定化
育児・介護休業法には3つの支援制度が盛り込まれている。
- 育児のための支援制度
- 介護のための支援制度
- 共通する支援制度
日本における育児・介護休業の取得率は低い。特に男性の育児休業取得率は、海外と比較すると非常に低い。育児・介護休業が取得しづらい原因は、5つ。
- 周囲に迷惑をかけられないという環境
- 職場に取得しにくい雰囲気がある
- 仕事に復帰できるか不安
- 収入が減少してしまう
- 介護サービスの整備が不十分
育児・介護休業の取得率改善のために、法改正が繰り返されている。
- 2017年1月改正
- 2017年10月改正
- 2021年1月改正
介護休業の分割取得
介護休暇の取得単位を柔軟化
介護目的の短時間勤務制度等の措置
介護休業給付の給付率の引上げ
介護のための所定外労働の免除
育児休業の取得要件を緩和
子の看護休暇の取得単位を柔軟化
育児休業期間の延長
育児休業制度の周知
新しい育児休暇の設置を促進
取得単位をさらに柔軟化
対象範囲の拡大
育児・介護休業取得の主なメリットは4つ。
- 労働者とその家族の信頼を得られる
- 労働者のモチベーションが上がる
- イメージアップにつながる
- 各種助成金制度を活用できる
育児・介護休業取得に伴って出てくる課題は3つ。
- 人的労働力の減少
- 価値観の違いによる組織内の不和
- 休業から復帰した労働者への対応
少子高齢化は、日本の大きなトレンドで今後も変わりません。そのようなトレンドにあって、将来的に育児と高齢者の介護は労働者にとって今よりもさらに大きな課題になってきます。
この課題に対して、本来であれば男女ともに取り組む必要があるにもかかわらず、今までの日本は子育てにせよ介護にせよ、女性に負担が偏っていました。
多くの場合、出産や育児、介護を理由に離職をするのは女性でした。家庭のことは女性がやるという日本のゆがんだ性別役割分業が、そのような現象を生んでいます。
今後の日本企業の課題は、男性の育児・介護等への参加促進です。国も、子育てがしやすい企業認定(くるみん認定及びプラチナくるみん認定)の男性の育児休業等取得に関する認定基準を引き上げています。
今後は、企業にも男性が育児・介護休業等を取得しづらい労働環境を改善することが求められてきます。特に男性労働者に焦点をあてて、育児・介護休業が取得しやすい労働環境の改善に努めていきましょう。