
採用ブランディングとは?メリットやデメリット、進め方のポイント
厚生労働省の調査によると、令和7年1月の有効求人倍率は1.26倍※(出典)であり、依然として売り手市場の傾向が続いています。
膨大な企業情報の中から自社を選んでもらうには、採用ターゲットを明確に絞り、自社の魅力を確実に届ける必要があると言えるでしょう。
こうした事情からも、近年は採用ブランディングに力を入れる企業が多くなってきています。
この記事では、採用ブランディングの説明からそのメリット・デメリット、進め方のポイントをまとめました。
【出典】「一般職業紹介状況(令和7年1月分)について」
目次[非表示]
- 1.採用ブランディングの基礎知識
- 1.1.採用ブランディングとは
- 1.2.採用ブランディングの戦略と手法
- 1.3.採用ブランディングと採用広報との違い
- 2.採用ブランディング実施のメリット・デメリット
- 2.1.採用ブランディング実施のメリット
- 2.2.採用ブランディング実施のデメリット
- 2.3.リソース・コスト負担
- 3.採用ブランディングの進め方
- 4.採用ブランディングに活用できるチャネル詳細
- 5.採用ブランディングの成功事例
- 5.1.株式会社YOUTRUST
- 5.2.株式会社古屋旅館
- 5.3.株式会社セレモニー
- 6.採用ブランディングのポイント
- 6.1.誇張しない
- 6.2.定期的な振り返り・改善を行う
- 7.採用ブランディングを通して理想の人材と出会おう
採用ブランディングの基礎知識

ブランディングとは、自社のブランドに対する信頼や共通イメージを作り上げ、他社と区別してもらうための戦略です。
採用ブランディングも同様に、企業の魅力を求職者に伝えるための重要な手法です。
採用ブランディングとは
採用ブランディングとは、企業が自社の魅力を求職者に伝え、「この企業で働きたい」と思わせる取り組みです。
企業が継続経営や事業成長を実現するためには、優秀な人材の採用が欠かせません。
そのため、採用ブランディングを通して企業の魅力を求職者に伝えることを目指します。
採用ブランディングの戦略と手法
採用ブランディングの戦略は、自社を「ブランド化」することにあります。
他社にはない自社の強み求職者に訴求して採用力を強化するのが採用ブランディングの手法です。
具体的な方法としては、採用に特化したホームページやブログの運営、SNSや動画メディアの活用、イベントやミートアップ(※)の開催などがあります。
※ミートアップ:企業と求職者が直接交流する場を設け、企業の魅力をリアルに伝えるイベントのこと。企業の雰囲気や価値観を直接伝えることができる。比較的少人数で行われる。
採用ブランディングと採用広報との違い
採用広報は、企業が求める人材からの応募を促すために行う広報活動です。
採用広報は、企業の情報を発信することに重点を置いていますが、「自社のブランド化」までは含まれません。
一方、採用ブランディングは、採用広報から一歩進んで、企業のブランド力を高めることを目的としています。
企業の価値観や社風、働き方などに情報に一貫性を持たせて発信し、求職者の心に響くメッセージを届けることが重要になってきます。
採用ブランディング実施のメリット・デメリット
採用ブランディングには、企業の認知度向上や優秀な人材の獲得など多くのメリットがありますが、同時に全社的な取り組みが必要となるなどのデメリットも存在します。
ここでは、採用ブランディングを実施する際に理解しておくべきメリットとデメリットを詳しく解説します。
採用ブランディング実施のメリット
採用ブランディングを強化することで、単なる「認知獲得」ではなく、企業にフィットする人材との出会い、選考辞退の減少、採用コスト削減など、採用全体のパフォーマンス向上につながります。
以下では、その主なメリットを具体的に解説します。
企業の認知度と想起率の向上
採用ブランディングによって、自社の理念や働く魅力を継続的に発信することで、転職潜在層を含む幅広いターゲットに認知されやすくなります。
ただの「知っている」だけでなく、「自分に合いそう」と想起されるブランドを築くことができれば、採用活動の土台が大きく強化されます。
募母集団の質・量の最適化
求職者にとって企業理解が深まると、自社のカルチャーや価値観にマッチした人材からの応募が増加します。
同時に「なんとなく応募」を減らすセルフ・スクリーニング(自己選抜)の効果もあり、質の高い母集団形成が実現可能です。
実際に、採用ブランディングを行っている企業担当者の内、21.9%が応募者の質が向上、31.9%がエントリー数の増加を実感しているとアンケートに答えています。
参考:むすび株式会社「採用ブランディングの理論と実際の乖離に関する調査結果」
企業と求職者のミスマッチの減少
魅力的な採用ブランディングを確立することで、求職者は意向度が高い状態で応募しやすくなります。
面接官が自社の魅力を高いレベルで伝えることで意向度がさらに上昇しやすく、選考辞退率の減少や内定承諾率の向上が見込めます。
こちらも同じ調査内で、内定承諾率が向上したことを実感している方々が、19.4%いらっしゃいました。
参考:むすび株式会社「採用ブランディングの理論と実際の乖離に関する調査結果」
採用コストの削減
採用ブランディングを強化することで、求人広告や人材紹介サービスを利用しなくても自然に応募が集まりやすくなります。
さらに、選考の効率化により採用までのリードタイム(Time to Hire)も短縮されます。
こちらについても、同調査に於いて、採用ブランディングを実施している企業の選考担当者から、14.6%は「採用予算の抑制」を実感していらっしゃいます。
参考:むすび株式会社「採用ブランディングの理論と実際の乖離に関する調査結果」
従業員エンゲージメントの向上
採用ブランディングは、就職希望者・転職希望者だけでなく、既存社員にも協力を求めることが多い活動です。
採用ブランディングに関わる既存社員は、ブランディングの過程で自社の企業理念や魅力を再認識し、従業員エンゲージメントの向上につながります。
こちらに関しては、アンケート結果では無いですが、同調査内にて、先行調査(小林・江口・安藤・TOMH 研究会,2014)にて、ブランド浸透とワーク・エンゲージメントとの相関が報告されています。
参考:むすび株式会社「採用ブランディングの理論と実際の乖離に関する調査結果」
採用ブランディング実施のデメリット
一方で、採用ブランディングを行う上で考慮しないといけないデメリットもあります。
リソース・コスト負担
専用サイトや動画、SNS運用などを本格的に行う場合、初期で月100〜200時間・数百万円規模の投資が必要になることがあります。
対策としては、目的・KPIを先に定めて、段階的にスモールスタートさせることが該当します。
社内巻き込みの難度
採用ブランディングを成功させるためには、経営者や人事部以外の協力が必要です。
外部への情報発信だけでなく、社員の意識統一やエンゲージメント向上の施策が求められます。
外に向けて発信している内容と現場の実情にギャップがあると、採用ブランディングがうまく機能しないため、全社員での取り組みが重要になります。
対策として、トップダウンで、実施する意味を発信することと、有志メンバーを募るボトムアップを駆使することが大事です。
効果が出るまでに時間がかかる
採用ブランディングは、実施してすぐに効果が出る施策ではありません。
採用ブランドを確立してから浸透し、応募の増加につながるまでは時間がかかります。
一般的に、効果が出るまで数カ月から数年かかることもあるため、長期的な視点で取り組む必要があります。
対策として、短期KPI(PV・SNSエンゲージメント)と長期KPI(応募数・承諾率)を分けて管理することが大事です。
ブランドと実態のギャップリスク
魅力を過度に誇張しすぎると、「入社後、話が違う」となり、早期離職が増加して、逆に採用コストが増大してしまいます...
対策としては、離職率を定期モニタリングして、表現を調整する必要もあります。
SNS拡散・炎上リスク
発信が増えるほど、ネガティブコメントや円状のリスクも上がっていきます。
対策として、発信ポリシーを策定して、モニタリングと早期キャッチアップできるフローを整備することが大事になります。
採用ブランディングの進め方
ここからは、採用ブランディングを成功させるためのステップを5つに分けて詳しく解説します。
Step1.目的・KPIの整理から社内体制の確立
まずは自社のビジョンや事業戦略、事業計画と人材戦略を接続させて、採用ブランディングのゴール指標を設定します。
たとえば、応募数、応募者の質、承諾率、採用単価...など自社の課題に合わせて設定します。
併せて、プロジェクト(人事・現場・広報・経営)を立ち上げて、ガバナンス設計も漏れずに行います。
Step2.自社・競合分析から自社の価値の策定
SWOT分析(Strength:強み/Weakness:弱み/Opportunity:機会/Threat:脅威)などの外部・内部分析フレームワークを活用して、自社の立ち位置を明確にします。
たとえば、以下の視点から浮き彫りにさせます。
- S/W(内部):自社の採用実績、待遇、社内制度、社員の声など
- O/T(外部):求職者ニーズ、競合の動き、など
これらの結果を元に、自社の打ち出すべき、価値を策定していきます。
Step3.採用ターゲットのペルソナの明確化
効果的な採用ブランディングを行うためには、ターゲットとなる人材像を具体的に描くことが重要です。
ここでは、理想の候補者像をペルソナとして設定します。
年齢、経験、スキル、価値観などの要素を考慮し、できるだけ詳細に設定しましょう。
また、現在の優秀な社員の特徴を分析してから理想の人材像を導き出すのも効果的です。
Step4.コンテンツ設計とチャネル実装
ここまでで生み出した価値とペルソナに向けて、チャネル別キーメッセージとフォーマットを決めていきます。
採用情報をまとめたWebサイトやSNS/note、社員インタビュー動画、口コミ対策などが該当します。
また、炎上のきっかけになり得るような内容や表現が混じっていないか常に確認します。
もし炎上が起きてしまうと、採用ブランディングで高めたい企業イメージが悪化してしまうからです。
Step5.ローンチ・モニタリング・改善
各チャネルでの発信を開始したら、月次などで早期でKPI(PV・フォロワー)を確認して、四半期では採用KPI(応募の質・辞退率)をモニタリングします。
その後は、候補者アンケートなどを通じて、コンテンツを改善して、PDCAサイクルを回していきます。
その中で、リソースが不足していたり、効果が芳しくなかったりしたら、チャネルを削減・変更、ブランディングの中止も検討すべきです。
採用ブランディングに活用できるチャネル詳細
採用ブランディングを強化するには、適切なチャネルを選定し、それぞれに合ったコンテンツを発信することが重要です。
ここでは、主要なチャネルの特徴と活用ポイントを紹介します。
採用サイト・採用ブログ
採用サイトや採用ブログは、求職者が「企業の一次情報」を得る重要なチャネルとなります。
企業理念や事業内容、働く環境、キャリアパスなどを詳しく伝えることで、応募意欲を高めます。
掲載すべき主なコンテンツ
- 自社価値を軸として会社紹介
- 社員インタビュー
- 福利厚生・評価制度などの詳細情報
採用ブログでは、極力最新の情報を保ち、企業の"今"を伝えることが大事です。
また、各ページから応募エントリーできるように、導線を確保することも忘れずにしないといけません!
SNS(X、Instagram、TikTok、LinkedIn、Youtubeなど)
SNSは、認知拡大に適しているチャネルです。
テキスト、写真、動画といった多様な表現手段を活用して、感情に訴えることが可能です
プラットフォームごとの特徴
- X(旧Twitter):リアルタイムな情報発信
- Instagram:ビジュアル訴求での職場環境の共有
- TikTok/Youtube Shorts:短尺動画でトレンドコンテンツを活用が吉
- LinkedIn:中途採用向けに専門的な情報発信
チャネルごとにトーンや尺、投稿タイミングを最適化させることが重要です。
リアルイベント(セミナー、勉強会など)
リアルイベントは、信頼関係の構築や意向度の向上につながりやすい為、特に専門人材向けの採用に効果的です。
実施例
- 技術者向けの勉強会
- 既存社員との座談会
リアルイベントの様子を撮影し、他チャネルにも活用することで、相乗効果が期待できます。
口コミサイト
近年、候補者の多くが選考前に口コミサイトをチェックしており、企業の”見えない部分”を判断する重要なチャネルになっています。
口コミサイトは、「発信する場」ではなく「信頼を得る場」として活用しましょう。
口コミ投稿は、完全にコントロールできない為、定期的なモニタリングを行い、誠実な返信を心がけましょう。
決して感情的にならずに、「改善します」「制度見直します」など、変化に向き合う姿勢が共感を呼びます。
採用ブランディングの成功事例
各社の施策内容、活用チャネル、成果、成功要因をまとめます。
株式会社YOUTRUST
大型広告とオンライン特集を掛け合わせて、自社サービスの訴求と採用ブランディングを実施。
「#でっかく言っちゃえ」というキャンペーンを実施して、渋谷に大型広告を掲載、特設ページを開設、PRTIMESでのリリースなどを通じてアピール。
若手層への背中を押す発信を通じて、企業文化とサービスを同時にアピール。
引用元:PR TIMES MAGAZINE「採用ブランディングの成功事例15選と成功させるポイントを解説」
株式会社古屋旅館
自社のバリューを伝えるために、プレスリリースを通じた情報発信を積極的に実施。
特に、メディアに取り上げられるような取り組みを継続的に発信。
結果として、先進的な取り組みを広く知ってもらう機会を増やしています。
その先進的な取り組みとしては次のようなものがあります。
- DX化の推進と働き方改革:創業200年超の老舗旅館がDX化を推進するという「意外性」をフックに予約データ入力のオンラインなどを通じて、月間120時間削減
- 地域性・社会性のある取り組みの発信:熱海の温泉熱活用による10か年計画の目標達成(年間重油使用量ゼロ)など
他にも、社員寮の新設、社員や家族の宿泊無料にするファミリーエンゲージメントプログラムなどもあり、それらも発信しています。
結果として、離職率の低下や応募者数の増加に繋がりました。
引用元:PR TIMES MAGAZINE「採用ブランディングの成功事例15選と成功させるポイントを解説」、「熱海で200年超。メディアが注目する老舗旅館、17代目がはじめたPR |合資会社古屋旅館」
株式会社セレモニー
「愛は面倒だ。」という採用コンセプトで、感情に訴えるブランディングを展開。
採用サイトをこのコンセプトに沿ってリニューアルを実施、さらに、コンセプトムービーの作成や従業員インタビューも実施して、コンセプトを発信。
この施策による成果は公表されていませんが、動画やサイトを見るだけでも、このコンセプトが伝わり、この企業の魅力がぐっと上がり、候補者の方々は応募意欲が高まっていることでしょう。
さらに、1day仕事体験として、座談会、施設見学などのオフラインイベントも実施しています。
引用元:PR TIMES MAGAZINE「採用ブランディングの成功事例15選と成功させるポイントを解説」
採用ブランディングのポイント
採用ブランディングを成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。
これらのポイントを押さえることで、より魅力的かつ信用されやすいブランディングが実施できるでしょう。
誇張しない
採用ブランディングにおいては、良い面だけを強調するのではなく、企業の実情を正しく伝えることが重要です。
自社を良く見せるために誇張したり、美化しすぎたりすると、入社後のミスマッチが生じる原因になりかねません。
企業が元々持っている魅力や価値を正しく伝えた上で、求職者の共感を獲得することが大切です。
定期的な振り返り・改善を行う
採用ブランディングは、すぐに成果が出るものではありません。
長期的な視点でブランド価値を浸透させていくことが重要です。ただ闇雲に続けていくのではなく、定期的に効果検証を行いましょう。
また、採用ブランディングは、競合他社の動きや社会のトレンドに合わせて適切なポジショニングを取り続ける必要があります。
アンケートやインタビューを通じて採用ブランディングを分析すれば、振り返りや改善をしつつ戦略を見直すことが重要です。
採用ブランディングを通して理想の人材と出会おう
採用ブランディングは、単なる採用活動の一環ではなく、企業の持続的成長を支えてくれる戦略です。
この記事で解説したように、採用ブランディングには企業の認知度向上やミスマッチの減少、採用コストの削減など、多くのメリットがあります。
採用ブランディングで大事なのは「嘘をつかない」ということです。
自社が持つ魅力を誠実に伝え、求職者との信頼関係を構築こそが、長期的な成功につながるでしょう。