
有給消化とは?年5日取得の義務や退職時対応などの基礎知識
人事や総務の担当者として、従業員の有給消化について「法律で定められたルールを遵守するよう従業員に呼びかけたい」「取得率を上げて従業員に気持ちよく働いてほしい」と考える方は多いのではないでしょうか。
有給消化は、従業員のリフレッシュだけでなく、企業が法令遵守するという意味でも非常に重要です。
この記事では、有給消化に関する基本的な知識から、企業が負う義務、そしてよくある悩みの解決策までをわかりやすく解説します。
目次[非表示]
- 1.有給消化とは?
- 2.有給休暇が与えられる条件
- 2.1.フルタイムの従業員の場合
- 2.2.フルタイム以外の従業員の場合
- 3.有給消化における義務
- 3.1.会社側の義務
- 3.2.有給休暇の取得が義務化された背景
- 4.有給消化に関する基本的なルール
- 5.退職時に有給消化はできる?
- 6.有給消化においてよくある悩み
- 7.有給消化における悩みの解決策
- 7.1.計画的付与制度を導入する
- 7.2.半日単位での有給休暇制度を設ける
- 8.例外的に有給消化を買い取りが認められるケース
- 8.1.法律で定められた日数を上回る有給休暇
- 8.2.退職時に残っている有給休暇
- 8.3.時効になった有給休暇
- 9.有給消化の理解と促進で快適な職場を実現しよう
有給消化とは?
有給消化とは、従業員(労働者)が与えられた有給休暇を使うことです。
有給休暇は、労働基準法によって定められた条件を満たした従業員に対して、年に1度、付与されます。
有給休暇は、従業員の心身のリフレッシュを図ることを目的とする制度です。
原則として従業員は、自身の意思で有給休暇を使う日を決めることができ、企業はその申し出を拒否できません。
有給休暇が与えられる条件
有給休暇の付与条件は、勤務形態によって異なります。
「フルタイム従業員」か「パートタイム従業員やアルバイト従業員などのフルタイムではない従業員」かの2つのパターンがあります。
ここでは、2パターンの付与条件において解説します。
フルタイムの従業員の場合
フルタイムの従業員とは、「1週間の所定労働時間が30時間以上」「1週間の所定労働日数が5日以上」「1年間の所定労働日数が217日以上」の3つの要件のいずれかに該当する従業員を指します。
フルタイムの従業員には、雇い入れの日から6カ月経過し、その期間の全労働日数の8割以上出勤した場合に有給休暇が与えられます。
その後、勤続年数に応じて付与日数が増加していきます。
【与えられる有給休暇の日数】
雇い入れの日からの期間 | 付与される有給休暇の日数 |
6カ月 | 10日 |
1年6カ月 | 11日 |
2年6カ月 | 12日 |
3年6カ月 | 14日 |
4年6カ月 | 16日 |
5年6カ月 | 18日 |
6年6カ月以上 | 20日 |
フルタイム以外の従業員の場合
パートタイム従業員やアルバイト従業員など、フルタイムではない従業員にも有給休暇は与えられます。
ただし、フルタイム従業員よりも付与される日数は少なくなります。
非フルタイム従業員の場合、週所定労働日数や1年間の所定労働日数に応じて有給休暇の付与日数が決まります。
例えば、週4日勤務の場合、6カ月経過後に7日の有給休暇が付与されます。週3日以下の勤務でも、1年以上継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤していれば有給休暇が付与されます。
【出典】年次有給休暇とはどのような制度ですか。パートタイム労働者でも有給があると聞きましたが、本当ですか。(厚生労働省)
※より詳しく付与日について知りたい場合は次の記事をご覧ください「有給休暇の付与日数・取得ルールの基本と、制度改善に向けた実務対応策」
有給消化における義務
有給は従業員の権利なため、使わなくても問題ないように思われるかもしれませんが、従業員に有給消化をさせる義務が企業側に課せられています。
ここでは、有給消化に関して課せられている義務の内容と、なぜ義務化されたのかを解説していきます。
会社側の義務
2019年4月1日から働き方改革関連法が施行されました。
企業はこの法律に則って、1年に10日以上の有給休暇が付与される従業員に対して、1年間で5日の有給休暇を取得させる義務があります。
パートやアルバイトなどの従業員も同様で、1年に10日以上の有給休暇が付与されている場合も適用されます。
企業は、従業員から指定された時季に有給休暇を取得させる必要があります。
もし、企業が年5日の有給休暇を従業員に取得させなかった場合、労働基準法違反となり、30万円以下の罰金が科せられます。
この罰金は、対象となる従業員1人ごとに生じるため、複数の従業員に有給休暇を取得させなかった場合は、罰金の金額も多くなります。
※働き方改革について詳しく確認しておきたい方は次の記事も併せてご覧ください「働き方改革とは?目的、課題、解決策をわかりやすく解説」
有給休暇の取得が義務化された背景
有給休暇の取得が義務化された背景には、日本の有給休暇取得率の低さがありました。
これまで、従業員が同僚への気兼ねがあったり、有給消化を申し出ることにためらいを感じたりすることから、有給休暇する取得する従業員があまり多くなかったのです。
特に、中小企業では大企業に比べて有給休暇の取得率が低く、企業の規模によって取得状況に差があることも問題視されていました。
こうした状況を改善し、従業員の有給休暇の取得を促進するため、政府は2019年4月から企業に対して年5日の有給休暇取得を義務化しました。
これにより、従業員が積極的に有給休暇を取得しやすくなり、ワークライフバランスの改善が期待されています。
有給消化に関する基本的なルール
有給消化には、労働基準法により定められたいくつかの基本的なルールがあります。
これらのルールを理解し、有給消化に関して適切に対応することは、健全な労働環境づくりにつながります。
ここでは、有給消化に関するルールの内容を詳しく解説していきます。
5日間を除く有休を消化しないのは問題ない
従業員に取得を義務付けられている5日間以外の除く有給休暇については、使わなくても問題はありません。
しかし、企業側の意思によって、従業員に有給消化をさせなかった場合は違法となります。
例えば、「来週は忙しいから有給の取得は認めない」などと、企業が取得を制限することはできません。
これは、年次有給休暇をいつ取って、どのように利用するかは、労働者の自由と定められているためです。
従業員が希望する時季に与えなければならない
企業は、原則として従業員が「この日に有給を取得したい」と請求した有給休暇を拒否することはできません。
企業側が一方的に有給消化する日を決めたり、従業員に強制的に有給休暇を消化させたりすることは違法となります。
「明日は業務量が少ないので有給を使用し休んでください」などと指示することのないように気をつけましょう。
例外的に企業側が有給消化日を変更できるケースがある
原則として、企業側は従業員からの有給休暇の請求を拒否できませんが、例外的に申し出のあった日とは異なる日に有給休暇を消化するよう変更できるケースがあります。
この権利を「有給休暇の時季変更権」といいます。
時季変更権が認められるのは、従業員が請求した時季に有給休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られます。
例えば、その従業員ににしかできない仕事があって、有給取得希望日に業務を担当できる従業員が他におらず、休まれると事業に著しい支障が出る場合などが該当します。
しかし、単に「忙しいから」という理由だけでは時季変更権は認められません。
企業は代替日を提案するなど、従業員の希望を尊重する努力が求められます。
消化できない有給休暇は繰越になる
従業員がその年に取得できなかった有給休暇は、翌年度に繰り越すことができます。
ただし、繰り越しできる日数には上限があり、繰り越せるのは最大で20日間です。
有給休暇の権利は、付与された日から2年間が経つと時効により消滅します。
例えば、2024年4月1日に付与された有給休暇は、2026年3月31日までに消化しないと消滅してしまいます。
※より詳しく知りたい場合は次の記事もご覧ください「有給休暇の付与日数・取得ルールの基本と、制度改善に向けた実務対応策」
退職時に有給消化はできる?
もし従業員が退職するとき、取得している有給を消化することはできるのでしょうか。
結論から述べると、有給消化は、労働基準法で定められた従業員の権利であるため、退職時であっても有給消化は可能です。
従業員が自己都合で急に退職する場合でも、残っている有給休暇があれば取得することができます。
ただし、退職してから有休を使うことはできません。退職日までに消化できなかった有給休暇は消滅してしまいます。
有給消化においてよくある悩み
有給消化に関しては、企業側と従業員側がそれぞれ悩みを抱えているかもしれません。
双方の悩みを理解し、適切に対処することが、健全な労働環境づくりにつながります。
ここでは、企業側と従業員側の悩みについて詳しく見ていきましょう。
企業側の悩み
企業の有給取得率が低いことに悩む総務人事担当者は少なくありません。
その原因の一つとして、従業員の有給消化に対する意識の低さが挙げられます。
有給取得率が低い悩みを放置していると、労働基準法の遵守や従業員の心身の健康管理、さらには企業イメージに悪影響を与えるおそれがあります。
有給取得率の低さは、従業員の有給消化に対する意識の低さが原因の一つとなっています。
また、有給消化によって業務が滞ることを懸念し、企業側が積極的に取得を促しにくい状況もあるでしょう。
特に中小企業や人手不足の職場では、従業員の有給取得によって業務に支障が出ることを心配する傾向にあります。
従業員側の悩み
従業員側にも、有給消化に関する悩みは存在します。
特に多いのは、「仕事が忙しくて有給消化が難しい」という状況です。
人数の少ない部署や、特定の個人に業務が集中している場合、自分が休むことで他の従業員に負担がかかることを気にして、有給取得をためらうことがあります。
また、「有給を取りにくい雰囲気がある」と感じる従業員もいます。
有給を取りにくい雰囲気は、職場全体で有給消化を推奨する文化が根付いていない場合にありがちな悩みです。
休んだ人の業務をカバーする体制が整っていないことも、従業員が有給消化をためらう大きな原因でしょう。
これらの悩みは、企業の規模や業種、職場の雰囲気によって異なりますが、多くの職場で共通する課題となっています。
有給消化を促進し、働きやすい環境を整備するためには、悩みに対する具体的な解決策が必要です。
有給消化における悩みの解決策
有給消化に関する悩みを解決するためには、企業と従業員が協力して取り組む必要があります。
ここでは、悩みの解決をするための制度導入などの策をご紹介します。
計画的付与制度を導入する
従業員の有給消化を促進し、企業側の悩みを解決する有効な策の一つが「計画的付与制度」の導入です。
計画的付与制度とは、従業員に付与される有給休暇のうち、5日を超える分について、企業が計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度です。
この制度を適用するためには、労使協定を結ぶ必要があります。労使協定とは、労働者と雇用主の間で書面によって交わす約束のことです。
厚生労働省のサイトで、有給休暇の計画的付与制度を導入している企業は、導入していない企業よりも有給休暇の平均取得率が8.6%(平成20年)高いと公表されています。
これは、計画的付与制度が前もって休暇取得日を割り振るため、従業員はためらいを感じることなく有給休暇を取得できることが要因と考えられます。
企業側も、事前に休暇日を把握できるため、業務の調整や人員配置を行いやすくなるメリットがあります。
※労使協定について確認しておきたいという方は次の記事もご覧ください「労使協定の種類と届出義務|知らなかったでは済まされない基礎知識と罰則」
半日単位での有給休暇制度を設ける
従業員が有給消化しにくいと感じる悩みを解消するために、「半日単位での有給休暇制度」を設けることも有効です。
通常の有給休暇は1日単位での取得が原則ですが、半日単位で取得できるようにすることで、午後に病院に行きたい場合や、午前中に私用を済ませたい場合など、柔軟な利用が可能になります。
半日単位で有給を消化する場合、2回の取得で1日分の有給消化となります。
休んだ人の業務をカバーする体制を整えるのが難しい場合でも、半日であれば比較的対応しやすく、業務への影響も抑えられるでしょう。
例外的に有給消化を買い取りが認められるケース
有給休暇の買い取りとは、従業員が有給休暇を消化せず、その代わりに企業から金銭を受け取ることを指します。
原則として、企業が有給休暇を買い取ることは認められていません。
しかし、例外として「法律で定められた日数を上回る有給休暇」「退職時に残っている有給休暇」「時効になった有給休暇」の3つの場合においては、有給休暇の買い取りが法的に問題ないとされています。
ここでは、有給買い取りのルールと注意点について詳しく解説します。
法律で定められた日数を上回る有給休暇
法的な有給の付与日数を上回る有給休暇については、企業が買い取ることが認められています。
例えば、法律で年20日が付与されるべき従業員に対し、企業が福利厚生として年25日の有給休暇を与えている場合、超過分の5日については買い取りの対象となります。
ここでいう超過分の有給とは、企業の福利厚生として付与されるバースデー休暇やリフレッシュ休暇などが該当します。
退職時に残っている有給休暇
退職日までに有給休暇を消化できずに残った場合、企業が買い取ることが可能です。
ただし、この買い取りは企業に義務付けられているわけではありません。
退職時の有給買い取りについては、多くの企業が実施していますが、その取り扱いは企業によって異なります。
退職時の有給買い取りを行う場合は、公平性を保つため、全従業員に対して同じ条件で実施することが重要です。
買い取りを行う場合は、トラブル防止のため事前に就業規則にその旨を規定しておくことが望ましいでしょう。
企業は、従業員が退職前に有給消化できるよう、計画的に業務を引き継ぐ体制を整えておきましょう。
時効になった有給休暇
有給休暇は、付与されてから2年が経過すると時効により消滅します。
この時効を迎えて消滅する有給休暇についても、企業が買い取ることが認められています。
この買い取り制度も、従業員の未消化有給に対する救済措置として行われます。
しかし、未消化分の有給買い取り制度を設けることで、従業員が「どうせ買い取ってもらえるから使わないでおこう」と有給消化を積極的に行わなくなる可能性もあります。
時効になった有給の買い取り制度は有給取得率の低下につながる可能性もあるため、導入には慎重な検討が必要です。
有給消化の理解と促進で快適な職場を実現しよう
今回は有給消化に関連するルールを解説しました。
企業は、有給消化に関する基本的な知識を正確に理解し、従業員がためらうことなく有給消化できるような職場環境にすることが大切です。
法令を遵守しつつ、従業員がリフレッシュできる機会を確保することで、従業員のエンゲージメントを高め、結果的に企業の健全な運営にもつながっていくでしょう。
有給消化を促すには、従業員側の意見も聞く必要があります。業務の状況や組織の体制を把握しないまま「有給を使ってください」と促しても、かえって反感を買う可能性があるからです。
有給消化は、法令を守るためだけでなく、従業員の働きやすさを支える重要な仕組みです。
企業側が制度を正しく理解し、業務の体制や職場の雰囲気にも配慮することで、自然と有給が取りやすくなります。従業員の声に耳を傾け、納得感のあるルールとサポートを整えることが、有給消化の促進と健全な職場づくりにつながります。
▼関連記事: