今回は、ユニークで独特な福利厚生制度をもつ10社の取り組みを紹介します。各社が自社のニーズや特徴をつかんで工夫を凝らし、従業員満足度から話題性までを獲得しています。どのような内容の制度が、どのような効果をもたらしているのでしょうか。どのような要素が従業員に響いているのかに注目しながら、チェックしてみてください。
自社独自のユニークな福利厚生を導入する企業が増えている

人手不足の中、採用での人材確保や既存従業員の定着という課題に対し、どの企業もさまざまな取り組みを進めています。その課題解決のための一策となるのが、福利厚生制度の充実です。
求職者が企業選択の際、福利厚生が基準のひとつになるという認識も浸透してきています。各社が福利厚生の整備に積極的になる中、他社と差別化を図ることも重要なポイントになってきます。ユニークで有効な制度や施策を打ち出し、話題性を高めることで知名度を向上させたり、企業のイメージアップにつなげたりする企業も増えてきています。
それぞれの企業の制度を見ていくと、充実した福利厚生を整備することは大企業の特権(基盤の大きさ)ではなくなっているようです。中小企業もベンチャーも、工夫を凝らして自社の従業員に喜ばれる制度を見つけ出しています。決して大規模な取り組み、大きな手当の支給だけが、従業員が満足する条件ではないということです。
福利厚生制度の充実は、人材確保や社会的評価への良い効果が期待できるものです。ユニークな制度を構築し導入している企業の意図や視点にも着目したいと思います。
各社の意図や視点をヒントにして、新たに自社に最適な制度を構築していくことも可能と考えます。
ユニークな福利厚生制度がある企業事例

では、ここからユニークな福利厚生制度がある企業を紹介します。制度の内容と、その制度によりどのような効果が得られたのかまでを、詳しくみていきます。
大和ハウス工業
「親孝行支援制度」
大和ハウス工業は、介護が必要な家族をもつ従業員のために、介護休業を無期限化しています。
介護が必要な家族と離れて勤務する従業員を支援するため「親孝行支援制度」を導入しました。全国展開をしている企業ですので転勤者も多く、そのような従業員の行き来の旅費負担が大きかったことがきっかけだったそうです。
年4回を限度に、距離に応じて帰省旅費の補助金が支払われます。例えば、東京~大阪間(約500km)では、1回につき25,000円が支給されます。
効果
介護が必要な親をもつ従業員の経済的負担を軽減するだけでなく、安心して働き続けられることのサポートになります。遠くにいる要介護の家族の状況を心配しながらの業務は、ストレスも大きいものです。経済的、精神的に負担が積み重なれば、やはり退職や転職という選択肢も浮かんでくるでしょう。
従業員が長期的にキャリアを形成しやすい環境を整備することで、従業員のやる気にもつながっています。確かに企業負担は大きいですが、大和ハウス工業は、この経費を投資と捉えているのだそうです。報酬やサービスより、従業員の長期キャリア形成を踏まえた、労使の絆の深まる制度といえるのではないでしょうか。
ZOZO
「ろくじろう」6時間労働制
ZOZOTOWNを運営しているZOZO。日本の一般的常識となっている8時間労働の縛りを撤廃し、1日の労働時間は6時間でもよいとする制度「ろくじろう」を導入しています。
規定に定める所定労働時間は8時間ですが、ろくじろうは朝9時から15時まで。給与は8時間働いた場合と変わりません。強制的なものではなく、目標業務をこなせていれば、6時間で退社してよいというものです。従業員の業務スタイルや状況など、入念なヒアリングを行い6時間が決定されました。
効果
同社は、基本給が全員一律です。6時間働いても、8時間働いても給与は変わらないため、早く終わるために自発的に仕事の進め方を工夫し、時間への意識を高める従業員が増えています。実際に、1人当たりの生産性が上がっており、全社員の平均労働時間も、1日9時間から7時間に減少しているそうです。
早く切り上げられることで、仕事後の自分の時間をどう使うか、ということを自発的に考えて実践できる環境があります。従業員のワーク・ライフ・バランスの向上にも役立っているようです。各々、家族と過ごす時間に充てたり、学習や習い事を始めたりと、好評の制度となっています。
サイボウズ
「新・働き方宣言制度」
サイボウズには元々、選択型人事制度(9種類)があり、従業員は自分の都合に合わせて、その9種類の中から自由に場所や勤務時間を選ぶことができていました。その柔軟性だけでもユニークですが、「新・働き方宣言制度」を導入してその括りを廃止しています。
従業員が自分で働き方を宣言し、チームメンバーにシェアできるようになったのです。働く曜日、時間帯、場所だけでなく、個人個人の日ごとの都合(予定)も公表できます。制限だけでなく、許容できる範囲も選択肢に加えることができるようになりました。
例えば、
- 出張や残業の可否の提示
- 通常17時退社の人が、水/木曜日は18時まで仕事ができることを宣言。
- 通常オフィス勤務の人が、月に2回は在宅勤務になることをアナウンス。
- 金曜日は習い事のため14時退社など。
サイボウズの福利厚生や社内制度のオリジナリティには、話題性があります。導入する制度のアップデートに積極的であることも有名です。そのアップデート頻度は、従業員の声に常に耳を傾けている証ではないでしょうか。
効果
選択型人事制度を取り入れたことで、離職率が激減したニュースは多くのメディアでも取り上げられました。「新・働き方宣言制度」で、従業員が納得のいく働き方を実現しつつ、ともに働くメンバーにも適切に伝わりやすくなります。メンバー同士、個人の働き方の理解や尊重にもつながり、チームワークの強化にも役立っているそうです。
在宅勤務やリモートワークが進む中、他社に先んじて、起こる課題に人事が従業員と一丸となって挑み、解決を図っている印象があります。「これからの働き方」「制度の在り方」を検討される際に、人事の皆様にも役立つヒントが得られる取り組みの多い企業です。
ツナグ・ソリューションズ
勉強休暇
アルバイト・パート専門の採用コンサルティング事業を行うツナグ・ソリューションズは、従業員の自己啓発学習に対する「勉強休暇」を設けています。インプットをより充実させてもらうことを目的としたものです。年1回、5日間を限度に連続休暇が取れる制度で、勉強資金援助として、最高10万円が支給されます。
申請者は、学習内容やその学習がどのように業務に役立つのかを資料にまとめ、本部長会でプレゼンテーションを行います。承認後、支援金と休暇が受理されるシステムです。各種講習会やセミナーをはじめ、クライアント先での職業体験など自由に企画できます。
休暇後は、学んだことを社内ブログでアウトプットして、知識をシェアすることが義務づけられています。
効果
この制度は、企業がすべてを準備し、知識やスキルの提供をする研修とは違い、目的も手順もすべて従業員が考えます。その中にプレゼンテーションと、何を得たかのアウトプットの機会があります。従業員の自主性、伝達力のアップにもつながっているようです。このように、休暇取得に条件が付けられても、多くの従業員が利用しています。
また、休暇が増えることで、自分の業務の引継ぎや共有も必要となります。従業員の計画性の向上や組織内の属人的業務を排除する狙いもあるようです。
チカラコーポレーション
失恋休暇
美容業界のチカラコーポレーションは「失恋休暇」を導入しています。従業員は失恋をしたら、癒す時間として休暇を取得することができます。申請方法はいたって簡単で、上司(店長)に口頭報告だけで、翌日から休めます。取得回数は無制限、許可日数は年齢ごとに設けられています。20代前半で1日、20代後半で2日、30代以上は3日だそうです。
既婚者が離婚した場合にも、利用できる制度となっています。
効果
ひと昔前であれば、まさかと思えるような制度ではないでしょうか。心的ダメージが大きい場合は、さらに日数の追加を認めることもあるとか。
美容業界はお客様に直接接する機会の多い職業です。プロフェッショナルな姿勢で頑張る従業員に対する、きめ細かな理解表現だと思います。従業員の心理やプライベートな生活を尊重するからこそ、思いつく制度です。
「失恋休暇」の導入決定や概要の発案者は、社長自身です。女性が多い職場ですので「恋愛に対しての理解を会社が示すためにこの制度を作った」とのことです。離職率が高い美容業界の中で、企業の想いは従業員にしっかり響いていることでしょう。
ヒトメディア
トレーナー指導の導入
学びのコンテンツ提供や学ぶ仕組みを提供しているヒトメディアでは、常時デスクに向かっている従業員のために、さまざまな健康づくりのサポートを行っています。
ストレッチ器具、スタンディングデスクを設置して、エンジニアやデザイナーにできるだけ「身体を動かす」機会を提供しています。自社にジムのようなトレーニングルームを設け、週に2回はトレーナーが来社して、従業員が無料指導を受けられるようになっています。
効果
ヒトメディアがこの取り組みで得ている効果は、求職者に対するアピール度の向上と人の定着です。人材不足が深刻化するIT業界は、転職しやすい分野でもあります。プログラマーやデザイナーによくある健康面の不安に対するダイレクトな訴求力があります。
パフォーマンスに対する関心も強い層でもあるので、的確でかつ習慣的なケアが提供されることに、魅力を感じる人は多いのではないでしょうか。
スタークス
ピアボーナス制度
Eコマース市場や物流業界の課題を解決するサービスを提供しているスタークスは、従業員がお互いに感謝やフィードバックし合い、その蓄積を成果として給与に反映させるピアボーナス制度を導入しています。成果に対する評価はもちろん、現場にしか見えない日頃の協力やサポートに対して感謝の気持ちをポイントにしてやり取りする制度です。
なお、この制度には専用システムが活用されており、フリーランスやアルバイトを含めた全社共有、そして給与反映が連携できるようになっています。
効果
社内の誰もが、全員の「何に対して」「どんな理由で」、評価や感謝のやりとりをしているのかがわかります。だんだんと周りの「良いところ」を探す習慣が身につき、社内コミュニケーションの活性化と良好化につながっているそうです。
また、成果が見えにくいエンジニアやデザイナー、バックオフィスのメンバーが周囲から感謝を受けとるができ、スポットが当てられます。自分の価値や貢献を再認識でき、モチベーションアップにもつながっています。給与明細に、まるごと記載される感謝のメッセージに、嬉しさもひとしおのはずです。
人事評価の公平性もより理想的になると考えます。やりとりが可視化できるため、人事側としては、マネジメント人材の見極めにも役立っているそうです。
レバレジーズ
無料朝ヨガレッスン
WEB事業や人材関連事業を行うレバレジーズは、始業時間前の1時間を使って、従業員に無料のヨガレッスンを提供しています。場所は社内の太陽の日差しが差し込むミーティングスペースを活用して、月2回の開催。参加は希望者のみとなっています。
導入当初はインストラクターを外注されていたのですが、現在はヨガインストラクターの資格をもつ社内メンバーが講師として活躍しているのだそうです。
効果
月に2回という負荷のない頻度も従業員に喜ばれる要因です。従業員同士の共通点を創出し、コミュニケーションも活性化しています。朝からリフレッシュした心と身体で仕事にとり掛かれる、仕事の効率があがったという声も増えているそうです。
従業員の趣味や特技を活かせる制度を取り入れれば、従業員に活躍の場を提供できることや、それによって福利厚生コストが下げられることの発見にもつながったそうです。
はてな
自転車通勤制度
インターネット関連事業を展開しているはてなでは、従業員の健康増進を目的として自転車通勤を推奨しています。自転車通勤をする従業員には、手当として月額2万円が支給されています。
オフィスの近くに駐輪場を用意、ミストサウナ付きのバスルームも完備して自転車での通勤のしやすさにも配慮しています。もちろん、万が一、事故が起きた場合の保険も会社が負担しています。
効果
まずは、従業員の毎日の健康づくりに貢献しています。あらためて自転車を購入する従業員も、仕事の日以外にサイクリングや買い物に自転車を活用するようになったそうです。
住宅賃貸も駅チカにこだわる必要がなくなり、安くて広いところに引っ越せたという声もあります。
駐輪場の用意は、はてなの自転車通勤の取り組みに共感した駐車場の所有者が、車の駐車場を自転車用に作り変えてくれたそうです。また、同社の営業担当も自転車で営業活動をしており、地域や取引先からの好印象につながっているようです。このように、社会からの注目度や評価も取り組み効果として現れています。
エンファクトリー
専業禁止制度
オンラインショッピング事業を中心に手がけるエンファクトリーは、従業員にパラレルワーク(複業)を推奨しています。従業員の「生きる選択肢の拡大」を支援するために「専業禁止」というインパクトのある言葉を用いて導入されています。絶対に禁止というわけではないそうです。
複業をオープンにして、半年に一度「en Terminal」という発表会で状況をシェアするようになっています。社内メンバー同士で、情報やアドバイスを交換できるようになっています。
効果
複業やパラレルワークが徐々に認識され始め、その効果を狙って複業解禁を宣言している企業も増えています。とはいえ、まだまだ浸透度も、企業側の許容度も低いです。
そんな中で「専業禁止」というインパクトのある制度で、エンファクトリーは企業のアピール性を高めています。
経営視点をもつ従業員が増え、主体的に働く人材の確保にもつながっているようです。「専業禁止」により残業時間が減ったという事実はあるものの、それ以上に人材の自立や育成に効果があるようです。何かを与えるという観点とは少し違った角度から、従業員のキャリア形成と人生を応援しているのです。
無理に制度を作るのは逆効果

10社のユニークな取り組みの内容を紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
導入に積極的になることは大切なことですが、無理に制度を設けることは問題です。無理をすれば、作りっぱなしになる可能性も高くなります。ニーズに合わない制度の導入は、従業員には「ムダ」としか映りません。そうなると「従業員に喜んでもらうため」の制度も、逆に「従業員からの不満や反感」につながるものとなってしまうでしょう。
制度の制定にあたり、世間の注目度や利用率の前に、やはり、予算範囲やかかる工数はしっかり確認をして検討するようにしましょう。そして何より、自社の従業員や、従業員が行っている業務を基準に検討していくことが大切です。そうすることによって、結果的に、効率的に確実に、従業員にメリットの行き届く福利厚生制度にブラッシュアップできるでしょう。
成功している各社の共通点を、導入時の条件として満たせるよう心掛けてみてください。共通点としては、以下のようなものが挙げられると思います。
- 従業員からの意見や希望と向き合っている
- 従業員の利用度が高く、社内制度として浸透している
- 事業や業務への副次的効果にもつながっている
「あったらいいな」で終わらせない。福利厚生の導入・充実