社員食堂は必要か?変わる働き方、変わる福利厚生、変わる社員食堂の意義

社員食堂は必要か?変わる働き方、変わる福利厚生、変わる社員食堂の意義

働き方の変化とともに社員食堂の必要性が問われています。働く場所が固定されない働き方が増えてきている時代に、オフィスに固定される社員食堂は、柔軟性を欠いた福利厚生施設になってしまいます。今回は、社員食堂のメリットや今後の傾向・可能性などを解説していきます。

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社員食堂は、あまり使われていない

社員食堂は、あまり使われていない

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大によって、オフィスに出社することが減った(あるいはなくなった)ことで、社員食堂の閉鎖が増えています。しかし、それ以前から従業員があまり社員食堂を使っていなかったという事実もあります。

社員食堂を利用できる人の割合は2割程度

リクルートライフスタイル社の調査・研究機関「ホットペッパーグルメ外食総研」のアンケート結果(2018年)によると、社員食堂があると答えた人は22.7%でした(n=10,343)。そもそも、社員食堂がない環境の人が多数派です。

社員食堂があっても約半数は、ほとんど使わない

昼食における社員食堂の利用日数(社食がある人)

出典:リクルートライフスタイル 社食がある人の利用頻度は平均で週2.1日

社員食堂がある人に昼食での利用頻度を聞いたところ、ほとんど利用しない人が45.8%存在しています(n=2,344)。

週5日程度利用している人が27.0%で、ほとんど利用しない(45.8%)か頻繁に利用をする(27.0%)のか、どちらかに分かれています。

性年代別でみると、女性はどの世代も50%以上が「社食はあるが、ほとんど利用しない」で、逆に男性30-50代は週5日利用が30%以上と多く、利用頻度に男女差があります。

社員食堂を利用したいと思う理由

社員食堂を利用したい理由は、「安さ」「外出が面倒」「時間節約」の3つが上位を占めます。

社員食堂がある人、2,344人に社員食堂を利用したい理由を聞いたところ

1位 有料だが、安く食べられるから(47.2%)
2位 外部に出るのが面倒だから(26.7%)
3位 短時間で済ませられるから(23.1%) 複数回答

という結果でした。合理的な理由から社員食堂を利用していることがわかります。

社員食堂を利用したくないと思う理由

一方で、社員食堂があってもほとんど利用しない人が45.8%います。なぜ、社員食堂を利用したくないのかの理由は、「おいしくない」「高い」「種類が少ない」の3つが上位にきます。

社員食堂がある人に社員食堂を利用したくない理由を聞いたところ

1位 おいしくないから(22.1%)
2位 金額が高いから(16.6%)
3位 メニューの種類が少ないから(15.0%) 複数回答

という結果でした。

これが事実であれば、コンビニエンスストアやオフィス近くの飲食店に行ったほうが、満足感が得られます。そもそも安くて外出せずに昼食をすませることが魅力であった社員食堂でしたが、変化する時代の中で従業員の期待に応えられなくなってきているのかもしれません。

今では、社員食堂の競合にあたる飲食店、代替になるコンビニエンスストア、新規参入の法人向け給食サービスが、安くて種類豊富なおいしい食事を提供しています。

結果、45.8%の人が、社員食堂があってもほとんど利用しなくなってしまいました。

社員食堂は減少している

事業所給食の施設数の推移(衛生行政報告例)

出典:厚生労働省 令和元年度衛生行政報告例(PDF資料)

社員食堂は年々減少しています。衛生行政報告例によると、2019年度の事業所給食の施設数(社員食堂数)は5,433で前年度比マイナス62です。

2015年度は5,607あった事業所給食の施設数は、5年で174減少しました。

今後、縮小を考えている福利厚生制度

旬刊 福利厚生(労務研究所)が福利厚生担当者に聞いたアンケート結果(2020年)によると、今後縮小を考えている福利厚生の上位は、「独身寮・社宅」「持ち家支援」「食事支援」「余暇支援」でした(n=83)。

最も多い回答は「独身寮・社宅」の3.6%で、運営・維持に費用がかかる福利厚生施設は縮小の対象になっています。

「食事支援」には社員食堂以外の食事補助も含まれていますが、「独身寮・社宅」に次いで縮小の対象になっています(2.4%)。

コロナ禍で聞いたアンケートの結果ですので、すぐに見直されることはないでしょうが、1,2年後に働き方の変化が落ち着いたころには「食事支援(社員食堂)」が見直されている可能性は十分あります。

社員食堂の減少傾向はまだ続く

社員食堂の減少傾向はまだ続く

社員食堂の減少傾向は、これから先もしばらく続いていくことが予想されます。その要因は、以下の通りです。

要因1.リモートワークで需要が減少

新型コロナウイルス感染症の感染拡大を機に、在宅勤務などの出社を前提としない働き方が広く普及しました。この働き方は今後も定着し、固定のオフィスにとらわれない、自由な働き方が増えていきます。

オフィススペースの刷新・縮小・最適化も進んでいきます。そうなると、オフィスに固定されている社員食堂は減少していくと予想されます。

要因2.感染症対策の面で課題

社員食堂は、どうしてもある程度キャパシティの決まった空間に、一時的に大勢の人が密集してしまいます。どうしても三密を避けにくい施設です。

新型コロナウイルスに限らず、ウイルス感染症対策が十分でない既存スタイルの社員食堂は減少していくと予想されます。

要因3.コンビニエンスストアの利便性が進化

コンビニ各社の高品質化、出店競争は勢いを増しています。どのコンビニも、プライベートブランド(PB)の拡張、ナショナルブランド(NB)の高回転率と、安くておいしいものを豊富にとり揃える努力をしています。

社員食堂の代替になるコンビニの成長・成熟が、従業員の社員食堂離れを招き、社員食堂の減少要因になるでしょう。

要因4.新規参入サービスの成長

働く人にとって昼食の選択肢は、社食・コンビニだけではありません。

最近はオフィスや従業員の家庭に冷蔵・冷凍食品が配送されて、いつでも食べることができる給食サービスや、地域の飲食店が社食になる「びずめし」という新規サービスが誕生しています。

新規参入サービスはオフィスという固定された場所以外でも展開できているため、働き方の変化に柔軟に対応しています。

時代の変化や従業員のニーズに素早く対応できる新規参入サービスが社員食堂にとってかわれるほど成長すれば、社員食堂は不要になっていきます。

要因5.経営状態の悪化で廃止になることも

社員食堂は、こうした飲食に関する環境の変化から、運営がうまくいかなくなるところが出てきます。

また有事による経営の悪化で、固定費の整理・見直しが入ると、法定外福利厚生である食事補助(社員食堂含む)は、経費削減の対象となる可能性があります。

特に利用価値が低くなった福利厚生施設(社員食堂含む)は財務体質を健全化する上で、規模の縮小・閉鎖の検討対象になってしまいます。

社員食堂を導入するメリット

社員食堂を導入するメリット

こうした逆風の中であっても、社員食堂を導入するメリットはあります。ポイントは、健康経営とコミュニケーションです。

健康経営の側面での社員食堂メリット

社員食堂の献立を従業員の健康に配慮した献立にすることで、食を通じて従業員の健康維持・増進を支援できます。

塩分過多やハイカロリーになりがちなコンビニ弁当や外食は、どうしても栄養バランスがとりづらくなります。また、自分が好きなものを好きなだけ食べられる環境では食が偏り、自己管理は難しくなります。

例えば社員食堂で低カロリー・低糖質などのダイエット向けメニューや、食物繊維やビタミン類をバランスよく摂れるメニュー、減塩メニューなどを用意できれば、従業員の健康に資することができます。

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コミュニケーションの側面での社員食堂メリット

オフィスに集まって働くことが前提でなくなり、副業・兼業という働き方も広がってくると、集まって話し合い同期的に業務を進める機会は、確実に減少します。雑談は、さらに減少します。

直接集まって話さなくても、雑談がなくても業務は回りますが、組織内のコミュニケーションは希薄になります。

社員食堂では食事の中で従業員同士の会話が生まれ、業務外の人間関係が構築されていきます。過度な密状態は推奨されませんが、適度なコミュニケーションは必要です。

会議室やオフィススペース、オンラインとは違った環境の非公式なコミュニケーションから、新しい仕事のヒントが得られることもあります。

また、こうした非公式なコミュニケーションは人との距離を近づけるので、心の状態の安定につながることもあります。

これまでの社員食堂は、安い・時短・外出しなくてよいといった点が評価され、利用されてきました。しかし働き方が変わってしまった今、その評価基準が変わり「なぜ社員食堂が必要なのか」という存在意義が問われています。

そのような時は、社員食堂の二つの側面でのメリットを自社の課題に照らしあわせてみると、その存在意義がはっきりしてきます。

社員食堂を導入している企業の事例

社員食堂を導入している企業の事例

社員食堂といっても、企業が変われば、社員食堂の特色もさまざまです。企業色豊かな各社の社員食堂を紹介します。

従業員の健康に配慮した社員食堂

味の素

味の素グループの社員食堂では、産業医や保健師が在籍する健康推進センター監修の健康支援メニュー「ヘルシー500 GOLD」を提供しています。

ルネサス エレクトロニクス

ルネサス エレクトロニクスは、国産有機野菜をつかった素材の味が楽しめるメニューを食べることのできる「日本一野菜のおいしい社内カフェ」をテーマに掲げた「ヘルシー社食」を実現しています。

東洋インキSCホールディングス

東洋インキSCホールディングスの本社社員食堂「キッチンリオン」では、「健康な食事・食環境」認証制度の認証基準に基づく「スマートミール」をメニューとして提供しています。

コミュニケーションを活発にする社員食堂

ヤフー

ヤフーでは自社ビルの中の2フロアに社員食堂を設け、ひとつは社員専用、もうひとつは一般の人も利用できるようにしています。

一般の人も利用できる社員食堂とカフェは、「食事だけでなく、さまざまな情報が集まり、コミュニケーションが生まれる場所」と位置付けられています。

まちの社員食堂

「まちの社員食堂」は、まったく新しい社員食堂です。鎌倉に拠点をもつ企業・団体31社が手を取り合ってつくった、鎌倉で働く人限定の社員食堂です。鎌倉で働く人たちが集い、交流が生まれる社員食堂です。

スクウェア・エニックス

スクウェア・エニックスの社員食堂は、社内外の打ち合わせ、イベント、プロジェクトの打ち上げなど、アイデア次第でさまざまなコミュニケーションの場として利用されています。

社員食堂以外の食事補助の例

社員食堂以外の食事補助の例

社員食堂以外にも、食事補助となる施策はあります。最後に、その事例を紹介します。

オフィス常駐型サービス

オフィスに冷蔵庫(冷凍庫)や電子レンジを設置するだけで健康的な食事が届く、オフィス常駐型の配送サービスがあります。従業員の食事環境を整えたい、でも初期導入費用は抑えたい、という企業におすすめです。

OFFICE DE YASAI(オフィスでやさい)

office de yasai

出典:OFFICE DE YASAI(オフィスでやさい)

オフィスに冷蔵庫(冷凍庫)を設置するだけでいつでも健康的な食事ができるOFFICE DE YASAI。

オフィスやクリニック、教育機関など3,000拠点以上に導入されていて、取扱商品数も50種類以上と豊富です。配達員が商品の管理や集金 管理を行ってくれるため、余計な手間をかけずに導入が可能です。

プランは3つで、新鮮なサラダやフルーツと冷蔵お惣菜が届く「オフィスでやさい」と、無添加や国産にこだわった冷凍惣菜が届く「オフィスでごはん」、さらには従業員の自宅に、新鮮野菜やスムージーなどヘルシーメニューが届く「オフィスでやさい forリモート」。

予算と従業員のニーズに合わせて選択することができます。

オフィスおかん

置き型社食®︎サービス オフィスおかんは、電子レンジを用意するだけで美味しくて安心なお惣菜がオフィスに届くサービスです。従業員の自宅に届ける「オフィスおかん仕送り便」でテレワークや、育休や単身赴任中の従業員もサポートしています。

導入実績は3,000社。従業員3名から1,000名を超える企業まで、規模を問わず、さまざまな業界で導入されています。

福利厚生サービスの食事補助

福利厚生業務の代行サービスでも、ファミリーレストランやカフェで割引サービス、サイズアップ・トッピング無料などの補助が利用できます。

福利厚生代行サービスは、食事補助以外にもさまざまなサービスがパッケージになっているので、福利厚生の充実を検討している企業におすすめです。

福利厚生倶楽部

福利厚生倶楽部

リロクラブの「福利厚生倶楽部」は、導入社数12,000社を超える、業界No1のシェアを誇る福利厚生サービスです。豊富な福利厚生メニューを保有し、コストパフォーマンスの高い福利厚生サービスを提供しています。

ベネフィット・ステーション

ベネフィット・ワン「ベネフィット・ステーション」は、業界シェアトップクラスで140万を超える豊富な福利厚生メニューを保有しています。

チケットサービス

外での飲食代の支払いにチケットを使えるサービスです。

チケットレストラン

チケットレストラン

出典:チケットレストラン

従業員に「電子カード」もしくは「食事券」を配布し、全国で利用してもらうことができます。食事補助に使った飲食代を福利厚生費として計上処理するサポートも整っています。

飲食店の社食提供サービス

まちの飲食店を社員食堂として利用することができる、新しいサービスが出てきました。

オフィスに固定された社員食堂とは違い、オフィスエリア周辺にある飲食店はもちろん、従業員の居住エリアにある飲食店も参加店舗であれば “どこでも社食として利用できる” ので、新しい働き方にも対応できます。

びずめし

びずめし

出典:びずめし

「ごちめし」「さきめし」を運営するGigiが2021年にリリースした飲食店の社食提供サービス「びずめし」。「びずめし」参加飲食店であれば、リモートワークや在宅勤務であっても、行きつけの飲食店が社食として利用できます。

「びずめし」は従業員の食を支える福利厚生であると同時に、地域の飲食店を支援する地域貢献活動にもつながっています。新型コロナウイルス感染症の拡大によって大きな打撃を受けた飲食業界・地域経済を応援もできる、新しいカタチの社食サービスです。

参考:びずめし

社員食堂の可能性

社員食堂の可能性

「ハコモノ」と呼ばれる福利厚生施設は、新型コロナウイルス感染拡大前から減少傾向でした。それが今後加速することは、間違いありません。

変化が激しい時代の中で、何かを固定して所有・運営していくことは柔軟さ(Flexibility)や機敏さ(Agility)を欠き、時に経営の足かせになります。

これからは変化に対応できるように、極力所有せずに「分散」できないかと検討することがポイントです。

オフィス自体がなくなることはありませんが、一極集中で従業員を集めるだけのハコとしてのオフィスは縮小・売却されていくでしょう。今後は、在宅勤務やサテライトオフィス・シェアオフィスを掛け合わせて、働く場所を固定しない「分散」が進みます。

社員食堂も同じです。

働く場所の「分散」によって従業員の食自体がなくなることはありませんが、食べる場所は多様化してきます。そうなると、単に従業員を集めて食事を提供するだけの社員食堂は不要になってきます。

しかし「分散」によって個々の食事管理が甘くなり、カロリー・糖質・塩分の摂り過ぎ、偏った食生活が従業員の生活習慣病を引き起こすかもしれません。

また「分散」によってコミュニケーションが希薄になり、組織内の不協和、離職率の悪化、生産性の低下を招くかもしれません。

今後これらの問題を解決するソリューションがさまざま出てきますが、社員食堂という場で従業員の健康増進やコミュニケーションの活性化ができれば、社員食堂の価値も高まってきます。

社員食堂を単に安く早く食事を提供する場と考えるのではなく、新しい働き方によって生じる従業員のペインポイント(悩みの種)を解決する「課題解決型プラットフォーム」として見直すと、新たな価値が生まれる可能性があります。