家族手当とは?時代の流れで意義が問われる家族手当の廃止理由

家族手当とは?時代の流れで意義が問われる家族手当の廃止理由

家族手当は、企業が独自で定める法定外福利厚生のひとつです。この家族手当を見直し、廃止する企業が増えています。

従業員の働き方が多様になっている昨今、福利厚生の充実度は働きやすい労働環境づくりや生産性の向上にもつながり、企業にとっても持続的な成長に欠かせない大切な要素です。その福利厚生のひとつである家族手当を見直し、廃止する理由はどこにあるのでしょうか。

今回は、家族手当が誕生した背景や現状の課題、起こり得る問題への対処を解説しつつ、家族手当に代わる新たな手当や制度についても紹介します。

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家族手当とは

家族手当とは家族手当とは、家族を扶養している従業員に賃金とは別に支給される手当のことです。企業が独自に定めている法定外福利厚生のため、支給条件や対象者、人数、支給額などの詳細が企業ごとに異なります。配偶者や子どもが主な対象で、企業によっては扶養手当と呼ぶところもあります。

導入をするか否かは企業の任意となりますが、日本企業の中には福利厚生として家族手当を設ける企業が存在します。

家族手当が浸透した背景

家族手当は日本企業で比較的浸透している手当ですが、どのような背景があったのでしょうか。

戦後の日本では、男性が働くことで家族を養っていくというスタイルが主流でした。その中で、企業が男性従業員を援助する目的で取り入れていた施策のひとつが家族手当です。

また、働く男性を支える配偶者に対する間接的な賃金という意味合いもあったと考えられます。多くの企業の雇用対象が正規雇用の男性だった時代には人材確保の一環として有効に機能していたため、日本企業で広がっていきました。

人事院が公表している令和2年職種別民間給与実態調査では、何らかの家族手当を導入している企業の割合は、75.9%に上ります(2020年時点)。従業員が500人以上の企業で、75.8%、50~100人の企業でも71.6%と大差のない導入割合です。なお、この家族手当の中には子どもに対してのみの手当を導入する企業も含まれています。

児童手当や子女教育手当との違い

家族手当と似ているものに、児童手当や子女教育手当があります。その違いについて解説します。

児童手当

児童手当は、中学校を卒業するまでの児童をもつ養育者に対して、国(自治体)が手当を支給する制度です。留学など特殊な条件を除いて、原則として、児童が国内に住んでいる場合に限り、支給の対象となります。

子女教育手当

子女教育手当は、子どもの教育費を支援することを目的とする手当(企業が独自で定める法定外福利厚生)です。法定外福利厚生のため、法的義務はありません。条件や支給期間、支給額などは企業で自由に策定することができます。配偶者手当の見直しにあたり、代替策として活用が考えられます。

家族手当が支給される条件

家族手当が支給される条件家族手当は法定外福利厚生のため、企業によって条件やルールなどは異なってきます。ここでは、一般的な家族手当の支給条件を紹介します。あくまで目安として参考にしてください。

家族手当の支給基準

一般的な家族手当の支給基準には、以下のようなものが挙げられます。

  • 家族を扶養している
  • 配偶者(子ども)がいる
  • 同居し、同一生計内での生活をしている
  • 配偶者の所得が103万円未満である
  • 社会保険の被扶養者の年間収入が130万円未満である

単一ではなく、基準を複数組み合わせているところもあります。条件を満たせば一律金額の家族手当を支給したり、子どもの人数に応じて手当の額が変動したりする企業もあります。

家族手当に該当する親族の範囲

家族手当という場合、扶養家族のいる従業員が対象になることが多いです。この「家族」の範囲も企業によって異なります。

配偶者(扶養している)がいることだけが要件になることもあります。一般的には子どもまで、人数に応じて支給されます。手厚い待遇の企業では、両親などと同居し扶養しているのであれば、年齢条件を設けて(例えば両親の年齢が満60歳以上)支給対象としている企業もあります。

夫婦ともに同じ企業で働く場合

夫婦ともに同じ企業で働いている場合、家族手当の対象条件や企業の定めるルールによって対応が異なってきます。ただ、両方に支給されることはありません。世帯主、もしくは収入が上のほうだけに支払われています。家族手当が、家族を養うことへの援助という特質をもっているためです。

配偶者と離婚した従業員への支給

従業員が離婚した場合は、家族手当の受給対象からは外れるという規則が一般的です。税法上の扶養家族がいるかどうかが一般的な基準となっているため、離婚すれば扶養ではなくなるからです。

離婚後は子どもの養育の問題もあります。同居して引き続き養育していけば支給される待遇になることは考えられます。別居となり養育費を支払う場合は、実情把握が難しくなるため対象から外れることが多いようです。いずれにしても、どこまで許容するかは企業がどう決めるか次第となります。

家族手当の支給額の相場

家族手当の支給額の相場家族手当を支給している企業の支給額ですが、法的な決まりはないため一律ではありません。個々の企業の条件設定によって、各従業員への支給額が異なりますが、相場の目安としては以下です。

  • 配偶者…月額10,000円~15,000円程度
  • 子ども…月額3,000円~5,000円程度

令和2年、厚生労働省が公表した調査結果によると、家族手当、扶養手当、育児支援手当を含め、従業員一人あたりの平均額は17,600円となっています。

家族手当で起こり得る問題点

家族手当で起こり得る問題点

家族手当の不正受給問題

家族手当は、従業員の申告によって受給と資格解除が行われます。ですので、要件を満たしていないにも関わらず、虚偽申告される可能性もあります。

また、扶養家族を条件にしている場合、配偶者や子どもに年収制限がかけられている場合があります。年収制限を超えれば、報告により支給対象から外す必要があるのですが、報告なしに受給し続ければ不正受給となります。

離婚についても、従業員から明確な報告がない場合、企業側が把握できなければ企業は手当を支給し続けることになります。配偶者と子どもの人数に応じて支給されていた場合には、多額の不正受給となる可能性があります。

家族手当の不正受給を防ぐ方法

家族手当の不正受給は、企業にとっては損失です。それだけでなく、労使の信頼関係も失われてしまう可能性があるので、事前に防止策をとっておくことが大切です。まずは、明確な規程と詳細のルールをきちんと策定しておく必要があります。規程の中には、以下の点についての詳細を含めておきます。

  • 家族手当の内容と待遇
  • 家族手当の支給条件
  • 家族手当の申告方法(必要な証明書類など)
  • 対象から外れるケースと報告の義務
  • 過払い発覚時は返金させること
  • 不正受給や違反があった場合の処分内容

現在は、マイナンバー(社会保障・税番号制度)があります。扶養者の収入などについて、企業側で確認がとりやすくなっていることも伝えておくと不正防止の一策となります。また、定期的に家族手当の申請内容に変更がないか確認しておきましょう。

従業員に家族手当の返還を求める場合

企業は家族手当に関して過払いや不正受給があった場合に、従業員に返還を求めることができます。不正受給が発覚した場合でも、状況に応じて慎重な対処が必要となります。従業員に対して返還請求ができるのは、以下のような条件が整っているときです。

前提条件

  • 返還ルールが家族手当規程に記載されている
  • 申告時に従業員が規程に同意している
  • 返還請求に対し従業員が同意している
  • 上記が証明できる資料や記録があること

返還請求ができる条件

  • 本来の支給額と実際に支給された額に差がある

対象

  • 過去10年間に対する過払い分が対象

返還は分割で給与から天引きする方法や現金での返金が挙げられます。返還手段などの内容についても規程に記載しておく必要があります。

返還請求の際には、本人の同意を得ないまま給与から天引きをすることは違反です。また、給与の4分の1を超えない額に留めなければならないとされています。

返還を求める場合の手続き

過払い分の家族手当の返還請求条件が揃っていることを前提に、返還を求める際の手続きを確認します。

事実確認

まずは事実確認です。以下について、申告書、資料、記録などをもとに事実を確認します。

  • 不正受給の有無
  • 不正受給の内容
  • 故意的なものか不慮の事態か
  • 不正受給の期間
  • 不正受給額

本人へのヒアリング

次に、本人に確認し説明を求めます。不正であることを認めた場合の態度の確認も大切になってきます。不正受給となることに納得しない従業員が出てくることもあります。その時に納得するに足りる資料や情報を準備しておき、きちんと説明することが大切です。

あいまいなままで返還請求や処分をしてしまうと訴訟問題に発展する恐れがあります。

返還請求への同意書

不正受給が認められた場合は、返還請求への同意書を作成します。返還手段についても規程に沿うとともに、従業員と相談の上、決定します。詳細の内容を同意書に含めておくことが大切です。

同意を得ることが企業として法律に違反しないための重要な義務です。のちのトラブルを防ぐためにも徹底しておきましょう。

返還措置の開始

最後に、同意内容に沿って返還処理を開始します。以上が返還を求める場合の手続きです。

家族手当のメリットとデメリット

家族手当のメリットとデメリット家族手当の従業員側からみたメリットとデメリットを挙げます。

家族手当のメリット

家族手当は賞与(ボーナス)のように業績によって支給額が上下することもなく、安定的にお金を受け取れるメリットがあります。子どもが生まれれば保育費や教育費など何かとお金がかかりますが、基本給にプラスされるので、従業員にとっては経済的に助かります。

家族手当のデメリット

家族手当は、扶養家族がいる従業員が対象ですので、扶養する人がいない従業員は受け取ることができません。労働の量や質とは関係のない部分で支給か無支給かが決まるため、不公平感を抱かせる一面もあります。

女性の社会進出によって夫婦共働きのダブルインカム世帯が増えている時代でもありますので、家族手当そのものの意義も薄れはじめており、見直しや廃止を進める企業も増えています。

家族手当を見直す企業が増えている

家族手当を見直す企業が増えているかつての日本は専業主婦世帯が多かったのですが、1997年以降は専業主婦世帯よりも共働き世帯が多くなっています。今後もこの流れは続いていくと予測されています。

そうした背景から導入していた家族手当の見直しや廃止を検討する企業も少なくありません。なぜ、見直しや廃止を検討するのでしょうか。その要因について紹介します。

ライフスタイルの変化

家族手当の見直しや廃止が進む大きな理由が、ライフスタイルの変化です。ひと昔前は、男性が稼ぎに出て女性は家を守るのが当たり前でした。しかし、近年では、夫婦の共働きが定着し、1つの世帯に2つの収入源がある「ダブルインカム」が定着しています。共働き世帯数は1,240万世帯専業主婦世帯の571万世帯の2.17倍と大きく上回っています(2020年時点)。

家族手当は所得のない(あるいは少ない)配偶者を対象として支給している面もあるため、共働き世帯にはそもそも支給する意味がなくなり、家族手当の廃止や見直しが進んでいます。

配偶者特別控除の改正

配偶者特別控除の改正も見直しが進む要因です。所得税法が定める所得控除のひとつで、本人の所得や配偶者の収入を考慮して、所得から減額される制度のことです。以前はパート収入であれば、年収103万円を超えると、配偶者控除の適用外でしたが、改正によって年収の上限が引き上げられました。

配偶者特別控除の年収上限が引き上げられる(配偶者特別控除の拡大)ということは、配偶者控除や配偶者特別控除の適用を条件としていた企業にとって、家族手当の支給対象者が増加する結果となります。その増加負担を抑えるため、配偶者特別控除の改正に合わせて家族手当を見直すケースも増えています。

成果主義の主流化

成果主義が浸透してきていることも理由に挙げられます。家族手当は仕事の成果に関係なく、支給基準に該当していれば、誰でも受け取りが可能です。配偶者や子どもの有無と仕事の成果は、直接関係がありません。そのような状況の中、従業員の成果や能力と無関係な手当の支給は公平ではないと判断する経営者も増え、家族手当を廃止する要因ともなっています。

家族手当見直しを実施した例

家族手当見直しを実施した例

トヨタ自動車

日本の大手企業のトヨタ自動車では、配偶者手当を廃止し、代わりに、子どもに対する手当を開始しました。一般的に、配偶者手当は支給条件が配偶者控除と同格のことが多く、女性の働く動機を削ぐ要因となりやすいようです。家族手当の存在は、その広まった背景を考えると、やや現状にそぐわない部分あります。

昨今の女性の社会進出を促進する流れや、仕事と育児・介護の両立支援などを踏まえて見直していくという企業意識も拡大しています。

大王製紙

日本の総合製紙メーカーの大王製紙では現状を見直し、配偶者手当を廃止しました。その一方で、子女手当の増額や支給期間を延長する「子女教育手当」を新たに設けました。共働き世帯における仕事と子育ての両立を経済的に支援することを目的とした手当に見直し、従業員が長期的に働ける環境づくりに取り組んでいます。

家族手当に代わる新たな手当や制度

家族手当に代わる新たな手当や制度トヨタ自動車や大王製紙のように、家族手当に代わる新たな手当や制度を導入する企業も増えています。ここでは、新たな手当や制度を紹介します。

基礎能力手当

基礎能力手当とは、家族手当に存在する不公平をなくす全従業員を対象とした仕事の能力や実力を公平に評価する手当です。「PC・IT能力手当」「対人・態度能力手当」「英語力手当」など、企業によって様々な種類の手当を用意しています。

両立支援制度

少子高齢化が進む日本において、今後重視すべきは仕事と育児・介護の両立支援です。共働き世帯の割合が増えているということは、それだけ働きながら育児・介護をしている人が増えているということです。

少子高齢化により生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)が減少する中で、経済を持続的に成長させるためには労働参加率を上げる必要があります。働き続けたいにもかかわらず、育児や介護を理由に労働市場に参加できない(労働参加率を下げる)のは企業にとっても日本にとっても大きな損失です。

出産・育児を理由にした離職や介護離職を極力減らすため、企業には仕事と育児・介護の両立支援に関わる制度の整備が求められます。

自社の従業員にとって、今までの家族手当がフィットしているのかどうか。これからの雇用環境や社会の変化に対して、今までの家族手当が十分であるかどうかを検討した上で、家族手当の見直しや新たな手当の導入検討をおすすめします。