派遣社員と福利厚生。労働者派遣法の改正によって変わる派遣社員の待遇
事業を成長させるための即戦力となる派遣社員の存在感が増してきています。
2020年4月に施行された改正労働者派遣法では派遣社員の待遇についての見直しが行われ、福利厚生の施設利用などは不合理な待遇差をなくすことが求められています。
これまで以上に求められる派遣社員の待遇改善ですが、どのように対応していくべきなのでしょうか。
■参考記事;2020年4月施行、労働者派遣法改正の概要。派遣労働者の同一労働同一賃金
目次[非表示]
- 1.派遣社員とは
- 1.1.派遣社員の雇用形態
- 1.2.派遣社員と正規雇用契約・有期雇用契約の従業員との違い
- 2.派遣社員の福利厚生
- 2.1.派遣元企業での福利厚生
- 2.2.派遣社員の問題点
- 2.3.2020年4月の労働者派遣法改定で福利厚生にも変化が
- 2.4.同一企業における不合理な待遇差は違反
- 3.派遣社員も同一の法定外福利厚生を利用できるメリット
- 3.1.法令遵守による社会的評価の低下防止
- 3.2.優秀な人材の確保
- 3.3.正規従業員との壁がなくなり業務が円滑になる
- 3.4.経営資源であるヒトを活かして業務向上
- 4.【派遣先企業向け】不合理な待遇差を解消する福利厚生運用のコツ
- 4.1.派遣元企業の福利厚生を把握
- 4.2.使えることをきちんと周知
- 5.同一労働同一賃金の考え方で派遣社員にも同一の福利厚生利用
派遣社員とは
そもそも派遣社員とは、どのような雇用形態を指すのかを確認します。
派遣社員の雇用形態
派遣社員と雇用契約を結び雇用主となるのは、派遣元企業です。即戦力の人材を外注したい企業は派遣元企業と契約し、派遣元企業の仲介で人材(派遣社員)を確保します。 したがって、派遣社員は受け入れ先である派遣先企業の従業員ではありません。派遣元企業の従業員です。
派遣社員と正規雇用契約・有期雇用契約の従業員との違い
正規従業員や有期雇用契約の従業員(以下、契約社員)は、企業と直接雇用契約を結びます。 一方、派遣社員は派遣元企業とは直接雇用契約を結びますが、派遣先企業とは直接雇用契約を結びません。派遣元企業を介した間接雇用となります。
派遣社員は、短期での雇用も可能です。即戦力人材を外注したい企業としては、必要なときに期間限定で必要なスキルをもつ人材を確保することができます。 正規従業員ではこのコントロールはできません。
派遣社員と契約社員との違い
契約社員は、正規従業員ではないという点では派遣社員と変わりません。しかし、契約社員は勤務先の企業と直接雇用契約を結んでいるため、労務管理などはすべて雇用している企業が行います。
一方、派遣社員の場合は、労務管理などは派遣先企業ではなく雇用主である派遣元企業が行います。
また、労働者サイドに立つと、企業と直接雇用契約を結ぶ契約社員は個人で契約更新または終了、転職などを行わなければなりません。 派遣社員の場合、派遣先企業との契約更新または終了については、派遣元企業が仲介をしてくれます。ひとつの派遣先企業が契約終了となっても、派遣元企業が次の派遣先を案内してくれます。
派遣社員の福利厚生
派遣社員は、労働者派遣法によってその権利を保護されています。2020年4月施行の改正労働者派遣法によって、派遣先に派遣される労働者の待遇は派遣先の通常の労働者と同程度にすることが求められるようになりました。
大前提として、派遣社員の同一労働同一賃金の実現があります。同一企業内において不合理な待遇差を解消し、派遣社員の待遇を確保することが義務付けられました。 これは福利厚生施設や制度においても同じです。改正された労働者派遣法について、詳しくはこちらをあわせてご覧ください。
■参考記事;2020年4月施行、労働者派遣法改正の概要。派遣労働者の同一労働同一賃金
派遣元企業での福利厚生
派遣社員の雇用主である派遣元企業では、派遣社員に対して法で定められた法定福利厚生を適用する必要があります。ですので、健康保険、社会保険の加入などは派遣元企業が負います。 一方、法律で義務付けられていない法定外福利厚生については、派遣元企業が実施する必要はありません。
派遣社員の問題点
派遣社員の雇用主は派遣元企業です。しかし、派遣社員の就業場所と指揮命令は受け入れ先である派遣先企業です。このように雇用している事業主と指揮命令の事業主が異なることが原因で、派遣社員の待遇改善はなかなか進みませんでした。
また、受け入れ先である派遣先企業は派遣社員を一時的な労働力の確保として活用するケースが多いため、派遣社員のキャリア形成や法定外福利厚生の利用は疎かにされがちでした。
2020年4月の労働者派遣法改定で福利厚生にも変化が
従来の労働者派遣法は、派遣社員の法定外福利厚生制度や施設の利用については「企業の配慮義務」と規定されており、待遇差がなくなるように企業が努力すべき内容としていました。実際に不合理な待遇差があった場合の罰則などについての言及はありませんでした。
しかし2020年4月の法改正では公平な待遇の確保についても明記され、不合理な待遇差は禁止となりました。 合理的な理由がないにもかかわらず派遣社員には派遣先企業での休憩室や更衣室、保養施設等の福利厚生施設の利用機会が与えられないといった不合理な待遇差は禁止されました。 同様に、福利厚生制度に関しても、原則同等の利用配慮が求められています。
法定福利厚生に関しては派遣元企業が実施していますので、派遣先企業が対応するのは独自に設けている法定外福利厚生ということになります。 例えば慶弔休暇や通勤手当を直接雇用している従業員に付与・支給している場合は、同一の付与・支給をする必要があるとされています。
同一企業における不合理な待遇差は違反
派遣先の企業内で派遣社員に対する不合理な待遇差がある場合は、労働者派遣法違反となります。ただし、罰則が生じるのは派遣元企業となる点に注意してください。
厳密には派遣先企業にも、勧告・公表の対象となる罰則があります。派遣される労働者が従事する業務ごとに比較対象労働者の情報を提供しない、虚偽の情報提供をした場合は、派遣先企業が勧告・公表の対象になります。
労働者派遣法に違反した場合、派遣元企業が許可の取り消し・業務停止命令・改善命令の対象になります。 派遣先企業は罰則対象にならないからといって、派遣先企業が福利厚生面などで派遣社員に対して不合理な待遇差を設けた場合、派遣元企業からの人材あっせんが見込めなくなるリスクもあります。
派遣元企業も派遣先企業も、法律を順守した企業運営を行っていくことが求められます。
派遣社員も同一の法定外福利厚生を利用できるメリット
派遣社員の受け入れ先企業が派遣社員も正規従業員と同一の法定外福利厚生(以下、福利厚生)を利用できるようにすることには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
法令遵守による社会的評価の低下防止
派遣先企業には、改正された労働者派遣法を守る義務があります。ただし、中にはこの法令に従わない、もしくは意図せず違反してしまう企業が出てくるかもしれません。 そうした中で、法を守り差別的な扱いをなくし不合理な待遇差を解消している派遣先企業は、社会的評価が低下することを防ぎます。
優秀な人材の確保
派遣社員は、スキルや適性を考慮されて企業に派遣されます。さらに一定期間、受け入れ先企業で実務経験を積んでいるとなると、企業にとっては貴重な人材です。 派遣社員は、契約期間が終了すれば派遣先の企業を移ることを希望できる立場です。より条件のよい派遣先企業の候補があれば移ることを考えるはずです。
派遣社員であっても、派遣先企業でその企業の福利厚生をその企業の正規従業員同様に利用できることは、派遣社員にとって契約更新を希望する一因にもなり得るでしょう。
正規従業員との壁がなくなり業務が円滑になる
派遣社員がともに働く正規従業員たちと同じ福利厚生が利用できることで、職場内での待遇差が縮まります。 同じように使える福利厚生があれば、共有できる話題や機会も増え、派遣社員の疎外感は薄れます。
同一企業内で雇用形態に関わらず公正な待遇が確保されていれば、同じ組織で働くメンバーの心理面にはよい影響が出ると考えます。 日常業務の協力姿勢やスムーズな連携につながっていきます。
経営資源であるヒトを活かして業務向上
福利厚生の種類によっては、従業員のモチベーション向上につながるものもあります。 企業としては正規雇用であろうが派遣社員であろうが、いかにして働きがいのある労働環境をつくり、人材の成長・業績の向上を達成するかが課題です。
同じ業務に携わっているメンバーであれば、派遣社員にもモチベーション向上につながる福利厚生の同一利用を認めることで、経営資源であるヒトを活かすことができます。
■参考記事;福利厚生とは?人気の種類・導入方法やおすすめの代行サービスを解説!
【派遣先企業向け】不合理な待遇差を解消する福利厚生運用のコツ
派遣社員の受け入れ先企業として、派遣社員も同一の利用ができる福利厚生をスムーズに運用していくためのコツを紹介します。
派遣元企業の福利厚生を把握
まずは、派遣元企業がどのような福利厚生制度を提供しているかを確認します。派遣元企業が雇用している従業員に提供している福利厚生制度は、基本的にはどの派遣先企業に行っても利用できます。 休暇制度のように受け入れ先の事情を考慮する必要があるものもありますが、派遣元企業の福利厚生制度は、把握しておく必要があります。
使えることをきちんと周知
派遣社員の受け入れ先企業として、派遣社員に対して契約期間が始まる時点で利用できる福利厚生を知らせておくことが大切です。 派遣社員は、派遣先の正規従業員と比較すると派遣先企業の労務・人事担当者などとの関わりは薄くなりがちです。 社内周知をそもそも目にしないことも多く、利用が可能な福利厚生制度の存在を知らないというケースもあります。 利用の条件が派遣社員としての自分にも当てはまるのかと疑問を抱かずに済むように、派遣社員についての制度適用の説明も加えておくべきでしょう。
同一労働同一賃金の考え方で派遣社員にも同一の福利厚生利用
2020年4月に労働者派遣法が改正されました。派遣社員の同一労働同一賃金を目指し、同一労働ならば同一賃金という原理原則に従って措置を講じなければなりません。
福利厚生は厳密には賃金ではありませんが、給料以外の報酬やサービスですので賃金同様に不合理な待遇差はなくしていかなければなりません。
派遣社員の雇用主は派遣元企業(派遣会社)ですが、就業場所は派遣先企業です。同一企業内で同一の業務内容ながら、派遣社員というだけで差別的な扱いや不合理な待遇差が存在していると、待遇に関して納得感が得られません。
派遣だからという理由だけで待遇を悪くすることは、法律違反です。派遣社員と正規従業員との間の不合理な待遇差を解消して、健全な労働環境をつくりましょう。