住宅手当は減少傾向。従業員への支給額の相場と企業が廃止する理由
住宅手当は、企業が従業員に対して住宅にかかる費用の一部を補助する福利厚生制度です。住宅手当は企業にとって大きな負担になっていることから、見直しや廃止をする企業が増えてきています。
今回は、住宅手当の支給額の相場や、縮小・廃止する企業の理由などについて説明していきます。
目次[非表示]
- 1.住宅手当とは
- 1.1.住宅関連補助の代表的な例
- 2.住宅手当の相場
- 3.住宅手当を縮小・廃止する理由
- 3.1.同一労働同一賃金の考え方に則った処置
- 3.2.テレワークの普及
- 3.3.住宅手当を廃止する際に気をつけなくてはいけないこと
- 4.住宅手当のメリット
- 5.住宅手当の支給対象となる条件
- 5.1.正規雇用の従業員かどうか
- 5.2.扶養家族がいるか
- 5.3.賃貸か実家暮らしか
- 6.まとめ
住宅手当とは
住宅手当は、自社で働く従業員の住宅に関連する補助(手当)を支給する福利厚生制度です。数ある法定外福利厚生の種類のひとつで、実施は企業の任意となります。
従業員の持ち家ローンの補助や賃貸契約をしている住居費用(家賃)などを補助します。 法定外の福利厚生のため住宅手当を導入する際の規定や条件に法的制限はなく、企業が自由に設定することができます。
一律額で住宅手当を支給している企業もありますし、従業員の状況に応じて支給額を設定することも可能です。
住宅関連補助の代表的な例
企業が従業員に提供している住宅関連の補助には、いくつかの種類があります。ここでは、「住宅手当」「家賃補助」「社員寮・社宅」「引っ越し手当」について、一つひとつを説明していきます。
住宅手当
ここでいう住宅手当は、従業員に対して住宅ローンの一部費用を現金で補助することを指します。現金支給ですので、給与と同じく課税対象です。
雇用形態や扶養している家族の人数など、状況によって支給額を設定している企業が多いのですが、住宅ローンの支払額に応じて段階的に支給額を決めているところもあります。
家賃補助
家賃補助は賃貸アパートやマンションに住む従業員に対して、家賃の一部費用を補助するものです。これも従業員によって家賃が異なるため、支給対象者の範囲も含め、企業ごとに対応が異なります。
従業員と家主が直接契約をすることになるので、企業から従業員に対しては現金支給が一般的な方法となります(給与と同じく課税対象)。
社員寮・社宅
社員寮や社宅は、個人で直接不動産契約するよりも低価格の家賃で住まいを提供することができる住宅関連の補助です。 社員寮や社宅の運営に掛かる費用は、要件を満たせば福利厚生費としての計上(非課税)が可能です。
維持費や管理費が必要になり、社宅の稼働率が下がると価値が下がるというデメリットもありますが、企業資産としての扱いになるので、節税効果も期待できるでしょう。
また現在は、一般の不動産会社と賃貸契約を結び、自社不動産をもたずに借り上げる形で従業員に提供している企業が増えています。
■参考記事;借り上げ社宅のメリットとデメリット│家賃設定時のポイント
引っ越し手当
引っ越し手当に関して、以前は、従業員の転勤や赴任に対して費用の一部を補助する制度が一般的でした。近年は、オフィスの近くに引っ越す際の引っ越し費用に対して支給をしている企業が増えています。
住宅手当の相場
企業規模・年 |
住宅手当 など |
平成27年調査計 |
17,000円 |
1,000人以上 |
19,333円 |
300~999人 |
17,818円 |
100~299人 |
15,832円 |
30 ~ 99人 |
14,359円 |
住宅手当の支給金額を決めるにあたって、まずは相場を知る必要があります。 厚生労働省の「平成27年就労概況賃金制度」をみてみると、住宅手当の労働者1人あたりの平均支給額は17,000円です。
また、企業規模によって平均額が違います。1,000人以上の企業では19,333円に対し、30〜99人規模では14,359円です。企業規模が大きくなるほど、支給額も上昇する傾向になっています。 これらの支給額を基準に考えてみるとよいでしょう。
住宅関連費用が法定外福利厚生費に占める割合は47.8%
住宅手当は、企業の福利厚生に掛かる費用の中でも大きな割合を占める項目のひとつです。法定外福利厚生費の構成でみてみると、住宅関連の費用が47.8%(12,133円)を占めています*。 *出典:日本経済団体連合会 2018年度福利厚生費調査結果
住宅関連の費用だけで、法定外福利厚生費の約半数を占めています。それゆえに、企業が法定外福利厚生費を見直す時に真っ先に見直される項目となります。
事実、2000年度以降は減少傾向が続いています。住宅関連の費用は、今後も減少が続くでしょう。
■参考記事;福利厚生のトレンド。福利厚生費からみる、最新のトレンド
住宅手当を縮小・廃止する理由
近年では、様々な理由から住宅手当の規模を縮小、あるいは手当そのものを廃止する企業が増えてきています。住宅手当の縮小・廃止の背景には、次のようなことがあります。
同一労働同一賃金の考え方に則った処置
働き方改革によって、同一労働同一賃金の実現が企業に求められています。 従来は「正社員には手当を付けるが、非正規雇用の従業員には手当を付けない」などの待遇差が存在しました。
しかし法改正により、特別の理由なく非正規従業員に手当を認めないということができなくなりました。 そのため、住宅手当を一律して廃止とし、手当分を給与に置き換えて支払うことに切り替える企業が増えました。
■参考記事;同一労働同一賃金の実現。2020年から本格的に見直される不合理な待遇差
住宅手当は、従業員が業務に対してどのような成果を出したかに関係なく支給される手当です。成果を出さない従業員にも一律で支払われる手当となるため、現代的な成果主義・ジョブ型雇用の構造にそぐわない手当です。 そのような理由から、住宅手当を縮小・廃止する企業が出てきました。
テレワークの普及
新型コロナウイルスの感染拡大によって、日本企業にもテレワークが浸透してきています。働き方の変化は、住む場所の意味も変えています。 出社を前提としない働き方では、オフィスの近くに住む理由はあまりありません。
また在宅勤務となると、住む場所がイコール働く場所にもなります。 そうなってくると、企業が福利厚生で従業員をサポートするために最優先で検討するのは、在宅勤務(テレワーク)手当の支給です。 在宅勤務手当は、ある意味で住宅関連の費用かもしれません。
しかし、単純な住宅ローンや家賃の補助・引っ越し手当ではなく、今後はより広い意味で「いつでもどこでも変わらず仕事ができる(住)環境整備への補助」に切り替える企業が増えてくるでしょう。
参考:“無制限リモートワーク”で新しい働き方へ|ヤフー 参考:在宅勤務を変革のドライバーとする働き方改革を推進|日立
住宅手当を廃止する際に気をつけなくてはいけないこと
住宅手当を廃止する際には、
- 従業員の不利益にならないよう配慮する
- 従業員の不利益になるかどうかとは別に、手当額の変更等として個々に労働契約を結びなおす
必要があります。
特に住宅手当を廃止するだけで代替案のない場合は、住宅手当の支給対象であった従業員の所得が減ることになります。住宅に関連する手当ではありますが、所得の一部であることは間違いありません。
住宅手当を廃止する場合は、実質的な賃金の切り下げとなってしまいますので、従業員が不利益を被らないように代替案を提示する必要があります。また、労働組合から同意を得る必要もあります。
住宅手当を廃止する際には、従業員への配慮と労働組合から同意を得られる納得感のある変更内容にするよう、気をつけなければなりません。
住宅手当のメリット
縮小・廃止傾向の住宅手当にもいくつかメリットがあります。住宅手当の導入を検討している企業、あるいは逆に廃止を検討している企業は、まず住宅手当のメリットをよく理解した上で検討しましょう。
企業側のメリット
住宅手当が企業にもたらすメリットは、
- 企業のイメージアップ
- 人材の定着
- 従業員のモチベーションアップ
などがあげられます。 求人の待遇欄などに「住宅手当有」とあると、その企業の福利厚生が充実しているようにみえます。
福利厚生の中でも住宅手当は一般的に認知度が高く、求職者にとっては企業のイメージがよくなり、就職先を選ぶ決め手になることもあるでしょう。
また、住宅手当の支給対象となる従業員は、条件さえ満たしていれば個人のスキルや業績に関係なく手当が支給されます。入社したばかりの従業員やローンを組んで持ち家を購入した従業員に喜ばれて、定着率を上げる要因の一つにもなり得ます。
住宅手当は、従業員のモチベーションアップや帰属意識の向上、人材の流出を防ぐことにつながります。
従業員側のメリット
住宅に関連する出費は、従業員にとって大きな負担です。その負担を少しでも軽減してくれる住宅手当の存在は、従業員としてもありがたいことです。 特に、若い従業員が実家から出てオフィスのあるエリア近郊で一人暮らしをはじめる際には、住宅手当があることで金銭面での不安が軽減されます。
住宅手当の支給対象となる条件
住宅手当の支給対象となる条件は、企業によって違います。住宅手当は法律で定められている制度ではないため、企業が対象条件を独自に定めることができるからです。
とはいえ、従業員の家族構成や居住形態、住宅関連の費用負担は多様です。一律の支給条件や曖昧な条件設定では、不公平な福利厚生制度になってしまいます。 最後に、一般的な住宅手当の支給条件について紹介します。
正規雇用の従業員かどうか
雇用形態(正規雇用か非正規雇用か)で支給の条件が変わる場合があります。 具体的には、正規雇用には転勤があり非正規雇用には転勤がないという、そもそもの勤務条件に大きな差がある場合などは、社内規定によって手当の有無が定められています。
ただし、同様の業務内容、勤務条件であるにもかかわらず、正規雇用の従業員にのみ住宅手当を支払うことは同一労働同一賃金の原則から外れてしまいます。 そのような不合理な待遇差は禁止されているので、同一労働の場合は雇用形態に関係なく住宅手当の支給対象とします。
扶養家族がいるか
扶養家族がいるがいないかで、住宅手当が変動する場合があります。一緒に住んでいる家族が多いほど広い間取りの住居が必要になり、家賃も高くなる可能性があるからです。
従業員の状況を鑑みて、より負担が大きいであろう従業員に住宅手当を増額するように条件を定めているというわけです。
父子家庭や母子家庭の場合
地方自治体によっては「ひとり親家庭の住宅手当」を支給する制度があります。 例えば、
- 千葉県浦安市:月額上限15,000円を支給するひとり親家庭住宅手当
- 埼玉県蕨市:家賃が30,000円以上の場合月額10,000円を支給するひとり親世帯民間賃貸住宅家賃助成制度
などです。 この制度は実施していない自治体も多いため、事前に確認しておきましょう。制度がない場合には、企業が別途住宅手当を支給するなどの柔軟な対応が必要です。
賃貸か実家暮らしか
賃貸か実家暮らしかで支給の条件が変わることが多いです。 賃貸に住んでいる場合、毎月家賃を支払います。
実家で親と同居している場合には、親に毎月一定額を払っていることはあっても、自身が家賃を支払うことはありません。 賃貸の場合は住宅手当の支給対象とし、実家暮らしの場合は住宅手当を支給しないケースが多いです。
ルームシェアや同棲など、第三者と居住している場合
第三者と居住している場合であっても、従業員が世帯主や賃貸の契約者であれば、住宅手当を支給する場合もあります。
しかし、実際にどれくらいの家賃を支払っているかは、住居人同士の取り決めによって決まっています。 公平性を保つ意味でも、どれくらいの金額を支払っているかの証拠を提出してもらった後に、住宅手当を支給する方法がよいでしょう。
実家暮らしなど持ち家の場合
実家暮らしの場合は、親などが家賃や住宅ローンを支払っていることが想定されるので、住宅手当を支給しないケースが多いです。
しかし、従業員名義で家を持ち(あるいは借り)家賃や住宅ローンを支払っている場合は支給の対象とすることもあります。その場合は、当人がいくら支払っているかの証拠を提出してもらうようにします。
上記のように、従業員の居住形態、住宅関連の費用負担の実態を正確に把握することは難しいです。また、事情は変化します。個人の事情を常に考慮して住宅手当の支給パターンを変える制度設計は、どこかで破綻します。
すべての従業員に公平に支給できない以上、不満を抱える従業員は必ず出てきます。思った以上の効果が得られない場合は住宅手当の廃止を検討して、より公平性の保てる別の制度を検討するのもよいでしょう。
まとめ
企業にとっては大きな負担になっていることから、減少傾向の住宅手当。 住宅関連補助の代表的な例は4つ。
- 住宅手当(住宅ローンの一部を現金で補助)
- 家賃補助
- 社員寮・社宅
- 引っ越し手当
住宅手当の相場。
- 住宅手当の労働者1人あたりの平均支給額は17,000円
住宅関連費用が法定外福利厚生費に占める割合。
- 住宅関連 47.8% 減少傾向
住宅手当の縮小・廃止の背景。
- 同一労働同一賃金の考え方に則った処置
- 成果主義の拡大
- テレワークの普及
住宅手当のメリットは、4つ。
- 企業のイメージアップ
- 人材の定着
- 従業員のモチベーションアップ
- 住宅に関連する費用負担の軽減(従業員側のメリット)
メリットもありますが、企業にとって大きな負担になっている住宅手当は減少傾向です。働き方改革や新型コロナウイルスの感染拡大によって変化した働き方は、手当のあり方も変えています。 福利厚生を充実させる目的は、企業と従業員のエンゲージメント向上にあります。
働き方や従業員のライフスタイルが時代とともに変わっているのであれば、福利厚生も変わっていくのが当然です。 住宅手当は新常態(ニューノーマル)時代を見据えて、さらに見直されていくことでしょう。既存の住宅手当を廃止する場合は、労働者にとって不利益となるような内容にならないように福利厚生制度全体を再構築していきましょう。