
住宅手当の常識が変わる。相場・条件・制度設計のヒントまで徹底解説
近年、働き方やライフスタイルの多様化に伴い、企業の福利厚生制度にも大きな変化が起きています。
住宅手当もその一つであり、従来の常識にとらわれない柔軟な制度設計が注目されています。
複雑化する住環境や通勤事情を踏まえ、企業がどのように従業員の生活をサポートできるのかが重要な課題となっています。
本記事では、住宅手当の基本からそのメリット・トレンド、さらには他の住宅関連制度や新たな福利厚生ニーズまで、幅広く解説していきます。
働き手の多様なライフスタイルに対応する制度づくりを目指す際の参考になれば幸いです。
目次[非表示]
- 1.住宅手当とは何か?
- 1.1.支給方法(3パターン比較表)
- 1.2.課税・社会保険の基本ルール
- 2.住宅手当を導入するメリットとは?
- 2.1.企業にとってのメリット
- 2.2.従業員にとってのメリット
- 3.住宅手当の支給条件〈代表例付き〉
- 3.1.雇用形態(正規・非正規)
- 3.2.住居形態(賃貸・持ち家・実家)
- 3.3.扶養家族数
- 3.4.勤務地・転勤/単身赴任
- 3.5.勤続年数・試用期間
- 3.6.住宅手当・必要書類早見表
- 4.住宅手当がうまく活用されない3つの理由と対策
- 4.1.制度の周知不足
- 4.2.支給条件が複雑・不公平感がある
- 4.3.申請手続きが煩雑
- 5.他社はどうしてる?業界別・住宅手当制度の事例
- 6.住宅手当の支給額の相場と最新トレンド
- 7.なぜ住宅手当が縮小・廃止されるのか?
- 7.1.同一労働同一賃金の考え方に則った処置
- 7.2.テレワークの普及
- 7.3.住宅手当を廃止する際に気をつけなくてはいけないこと
- 8.住宅手当だけで足りる?──多様化する住まい・働き方ニーズとカフェテリアプラン
- 9.まとめ|住宅手当の今とこれから
住宅手当とは何か?
住宅手当は、従業員の住居費負担を会社が肩代わりすることで安心して働ける環境をつくり、採用競争力や定着率を高める法定外福利厚生です。
本節では①代表的な支給方法、②課税・社会保険の扱いを順に解説します。
支給方法(3パターン比較表)
住宅手当の支給方法は、企業の方針や従業員の居住実態に応じてさまざまです。
ここでは、企業でよく採用される代表的な3つの支給パターンを比較してご紹介します。
それぞれの方式には一長一短があり、対象とする従業員層(賃貸派か持ち家派か)や、企業側の事務リソース・管理体制によって最適な制度設計は異なります。
♦補足:社宅・借上社宅という選択肢も♦
なお、表には記載していませんが、住宅支援の代表的な方式として「社宅・借上社宅」も挙げられます。
これは会社が物件を契約し、従業員が家賃の一部(50%以上)を負担することで、所得税・社会保険料の課税対象外となる制度です。
►借り上げ社宅の詳細については次の記事も併せてご覧ください:社宅について徹底解説!企業の課題やよくあるトラブルの改善方法とは
課税・社会保険の基本ルール
住宅手当の支給方法によって、従業員・企業双方の税負担や社会保険料の扱いが大きく変わります。
制度設計の際は、その違いを正しく理解し、最適な支給形態を選ぶことが重要です。
-
現金で支給される住宅手当は、給与と同様に所得税・住民税の課税対象となり、標準報酬月額にも加算されます。
- 一方で、「借上社宅方式」を採用し、会社名義で契約した住宅を従業員に貸与しつつ、家賃の50%以上を従業員が負担すれば、所得税・社会保険料ともに非課税扱いとすることが可能です。
住宅手当を導入するメリットとは?
住宅手当は 「採用競争力」×「社員の可処分所得向上」 を同時に実現できる数少ない福利厚生です。
ここでは企業側と従業員側、それぞれの代表的メリットを整理します。
企業にとってのメリット
住宅手当の導入は、従業員の生活支援にとどまらず、企業の人材戦略にも多くの利点をもたらします。
主なメリットは以下の通りです。
-
採用力の強化
住宅費が高騰する都市部では、「住宅手当あり」と記載するだけでも求人の訴求力が向上し、他社との差別化につながります。 -
定着率の向上
職位やスキルに関係なく支給されるため、新入社員や住宅ローン返済中の社員にも公平な支援となり、安心感と離職防止に寄与します。 -
モチベーション・エンゲージメントの向上
住宅手当は生活の安定を支える施策として、精神的な余裕や会社への信頼感を醸成し、業務への集中や前向きな姿勢を促進します。 -
ブランディング・ESG対応への効果
従業員の生活に配慮する企業姿勢は、「人を大切にする会社」というブランドイメージにつながり、ESGや人的資本開示の文脈でも評価されやすくなります。
従業員にとってのメリット
住宅手当は、従業員の生活基盤を支える重要な福利厚生の一つであり、以下のような多面的なメリットがあります。
-
家計支出の安定
家賃負担が軽減されることで可処分所得が増え、家計の安定につながります。
-
キャリア形成への好影響
住宅手当の存在は転居を伴う異動や転勤への心理的ハードルを下げ、キャリアの選択肢を広げる要因にもなります。
実際にFinatextグループでは、住宅手当を導入後、転居を伴う入社が増え、採用活動にも好影響が見られたと報告されています。 -
ワークエンゲージメントの向上
生活への経済的支援は精神的な安心感をもたらし、業務への集中力や会社への信頼感につながります。
以上のように、住宅手当は従業員の生活安定、キャリア形成、エンゲージメント向上といった多方面でのメリットを提供し、企業にとっても人材戦略上の重要な施策となります。
参考資料:note「Finatextグループの働き方と、福利厚生「住宅手当」の利用実態について」
住宅手当の支給条件〈代表例付き〉
住宅手当の支給条件は法律で定められているものではなく、企業が独自に設計できます。
一般的には、「正社員かつ世帯主」「賃貸住宅に居住」「勤務地から50km圏内」などの条件を組み合わせ支給額を調整するケースが多く見られます。
以下で代表的な支給条件の例を紹介します。
自社の制度設計や見直しを行う際の参考にしてください。
雇用形態(正規・非正規)
住宅手当について、雇用形態(正規・非正規)だけを理由に支給・不支給を分けることは、「同一労働同一賃金」の原則(短時間・有期雇用労働法第8条)に抵触するおそれがあります。
もし待遇差を設ける場合は、以下の4要素をもとに実質的な相違があることを明確にし、就業規則などに根拠を記載することが必要です。
- 職務内容(業務の範囲・責任の程度)
- 人材活用の仕組み(転勤・昇格など配置変更の有無)
- 契約期間(長短)
- その他の事情(勤務地、勤務時間帯など)
例:転勤がある総合職には月1万円、地域限定契約社員には月5,000円支給する、など職務・配置の違いに応じた設計が可能です。
上記に該当する合理的な説明が難しい場合は、「雇用形態を問わず同額支給」する形がリスク回避策として有効です。
住居形態(賃貸・持ち家・実家)
住宅手当の支給は、従業員の住居形態によって支給可否や金額が大きく異なるため、賃貸・持ち家・実家(同居など)ごとに明確なルールを定めることが重要です。
以下に代表的な支給基準・必要書類・運用上の留意点をまとめます。
-
賃貸契約(単身・世帯主)
- 支給基準例:賃料の30%(上限3万円)、世帯主に限定
- 必要書類:賃貸借契約書の写し、家賃の領収書または振込明細
- 運用TIP:契約更新にあわせて年1回の再提出を義務化すると、誤支給や名義違いのリスクを抑制できます。
-
持ち家(住宅ローンあり)
- 支給基準例:ローン残高の0.5%(上限2万円)を月額補助
- 必要書類:住宅ローン返済予定表、登記事項証明書
- 留意点:ローン完済後も支給が続くことを防ぐため、完済予定月を人事システムに登録し、自動停止設定を行うのが望ましいです。
-
実家・同居・ルームシェア
- 原則:不支給
- 例外:従業員自身が契約者で、実際に家賃を負担している場合は賃貸基準を適用可
- 確認手段:住民票、家賃の振込明細、契約書の名義確認
- 公平性確保:家族間契約など曖昧なケースでは、支給率を50%に圧縮するなどのルール明文化が必要です。
扶養家族数
住宅手当を「基本額+扶養家族に応じた加算方式」で支給する企業は多く、家族構成に配慮した制度設計は、従業員の満足度や制度への納得感を高める効果があります。
一般に、扶養家族が増えるほど住居費の負担が重くなるため、以下のような段階的な加算例がよく用いられます。
<一般的な加算例>
扶養人数 |
月額加算 |
参考比率 |
---|---|---|
0人 |
0円 |
基本額のみ |
1人 |
+5,000円 |
基本額×1.2 |
2人以上 |
+10,000円 |
基本額×1.5 |
※加算比率で設計しておくと、基本額改定時も自動反映しやすくなります。
このような制度を導入する場合、家族構成の正確な把握と定期的な確認が不可欠です。
以下のような運用ルールを整備しておくと、トラブルの防止につながります。
- 年1回、扶養控除申告書の写しや住民票の提出を義務付ける
- 就業規則に「扶養人数による加算条件」や「変更時の届出義務」を明記する
勤務地・転勤/単身赴任
企業の人事異動や転勤に対して、住宅手当を柔軟に加算する動きは広く浸透しています。
特に、転居を伴う異動や単身赴任は生活コストへの影響が大きく、居住負担に配慮した制度設計が求められます。
<支給加算の代表例>
- 本社から片道50km以上の勤務地に転勤した場合、住宅手当に1万円を上乗せ
- 家族の帯同が難しい単身赴任者には、家賃の全額を補助
- 勤務地エリアの家賃相場に応じて補助率を調整(例:上限5万円など)
こうした明確な支給基準を設けることで、転勤による不公平感を抑え、異動に対する心理的ハードルの軽減が期待できます。
特に単身赴任者は「自宅+赴任先」の二重生活に直面するため、その負担軽減は安心感の向上にもつながります。
制度導入時には、以下のような運用ルールを明文化しておくことが望まれます。
- 転勤距離や通勤時間など、支給基準となる条件の明示
- 家族帯同の可否や本人希望による異動かどうかに応じた補助の区分
- 勤務地の家賃相場に基づいた補助額の上限設定
勤続年数・試用期間
住宅手当の支給においては、試用期間中は対象外とし、本採用後に支給を開始するのが一般的です。
たとえば「入社月を含めた4か月目から基本額1万円を支給」といった設計が多く見られます。
さらに、勤続年数に応じた段階的な加算を取り入れることで、中長期的な定着を促すインセンティブとして機能させることが可能です。
<支給例:階段式加算モデル>
勤続年数 |
支給額(月額) |
---|---|
~3年未満 |
10,000円 |
3年以上 |
12,000円 |
5年以上 |
14,000円 |
このような設計は、社員の定着やロイヤルティ向上を促す制度的仕掛けとして有効です。
制度を安定運用するためには、次のような対策を講じておくことが推奨されます:
- 支給タイミングや金額を、就業規則の賃金規程別表に明記
- 勤続年数の判定や加算反映を人事・給与システムに自動化設定
- 試用期間明けの支給漏れや誤支給を防ぐチェック体制の整備
住宅手当・必要書類早見表
各住居形態ごとに提出が必要な書類を一覧にまとめました。
就業規則の別表や従業員向けFAQにご活用ください。
住宅手当がうまく活用されない3つの理由と対策
住宅手当が存在しても思うように活用されないのは、運用上のさまざまな問題が背景にあります。
ここでは代表的な5要因と、「KPI」「施策テンプレ」「推奨ツール」 をセットで提示します。
自社の運用フローに照らし合わせ、改善ロードマップを作成する際のチェックリストとしてご活用ください。
制度の周知不足
どれほど魅力的な制度でも、従業員に知られていなければ活用されず、制度の効果は発揮されません。
まずは、定期的な社内広報やオリエンテーションでの説明が基本です。
特に、申請条件・支給タイミング・必要書類をQ&A形式などで分かりやすくまとめて共有すれば、実務上の問い合わせも減らせます。
また、周知の効果を「見える化」する仕組みも重要であり、以下のようなKPIを設定すると、施策の改善に活用できます。
- 住宅手当FAQの閲覧数
- 住宅手当の月次申請件数(目標:前月比+10%)
このように、「制度を届ける・伝える・活用される」仕組みを整備することが、住宅手当を含む福利厚生制度の価値最大化の鍵となります。
支給条件が複雑・不公平感がある
住宅手当の支給条件が複雑すぎると、制度の内容が理解しにくくなり、不公平感や申請ハードルの高さを招く要因になります。
制度の公平性と分かりやすさを両立させるには、条件の整理・簡素化が不可欠です。
♦改善の方向性と具体策♦
-
支給判定を「扶養家族数 × 住居形態」の2軸に統一
→ 条件を明快にし、誰が対象かをすぐに判断できるようにする。※例外ルールは原則廃止 -
就業規則に「支給判定フローチャート」を掲載
→ 例:「Q1. 世帯主ですか? → Q2. 賃貸契約者ですか? → Q3. 扶養家族はいますか?」など、3ステップで支給可否が分かる形式。
このように、条件の明文化と判定フロー化を進めることで、従業員の理解度が高まり、不公平感や申請漏れを防止できます。
結果として、制度の利用率が向上し、企業としても狙った福利厚生効果を得やすくなります。
申請手続きが煩雑
住宅手当の申請において、書類提出や承認フローが煩雑すぎると、忙しい従業員にとって“役所的な面倒さ”を感じさせてしまい、制度の活用を妨げる要因となります。
その結果、本来支給対象であるはずの従業員が申請を諦めたり、申請ミスや書類不備が多発するケースも少なくありません。
♦改善の方向性と実践例♦
-
オンライン申請の導入
申請フローを電子化し、紙での提出を不要にする。 -
入力ステップの簡素化
必要最小限の項目に絞った住宅手当専用フォームを用意。
こうした改善により、従業員の心理的・時間的ハードルを大きく下げられ、制度の利用率向上と人事・労務部門の事務負担軽減の両面に効果が期待できます。
住宅手当を導入・見直しする際には、「使いやすい手続き設計」も制度の成果を左右する重要な要素として検討すべきです。
他社はどうしてる?業界別・住宅手当制度の事例
住宅手当の設計は、業界特性や従業員のワークスタイル(勤務地・テレワーク比率など)によって大きく異なります。
以下では、代表的な企業の制度例とともに、業界ごとの傾向を紹介します。
業界 / 社名 |
支給ロジック・対象条件 |
月額/負担割合 |
---|---|---|
電機メーカー |
賃貸者のみ支給。勤続年数により段階減額 |
40,000 円 (1-3 年目) |
IT企業 |
本社近隣に居住で3万円、勤続 5 年以上で一律5万円支給 |
30,000 円~50,000 円 |
ハウスメーカー |
持ち家支援あり。同社物件入居で毎月3万円の支給。 |
10,000円~30,000円 |
家具メーカー |
30歳以下で本人名義の住宅契約が条件 |
15,000円 |
-
外資系・IT/金融業界
社宅や引っ越し補助といった「イニシャルコスト支援」は充実している一方、毎月の住宅手当は廃止または縮小傾向。フレキシブルな働き方に対応した柔軟な制度に移行中。 -
住宅・建設・インフラ業界
→ 自社プロダクトとの親和性を活かし、持ち家支援(ローン利子補給)や家賃補助(50%支給)などが導入されており、“住宅との関係性が深い”従業員像を前提に設計されているケースが多いです。 -
テレワーク比率の高いIT企業
→ 通勤を前提としない働き方の広がりにより、住宅手当は最小限に。その代わりに在宅勤務手当(月3,000〜5,000円)を支給する企業が増えています。
他社事例を参考にする際は、単なる「支給額の比較」ではなく、「どんな働き方を支援したいか」「自社の組織戦略に合っているか」という視点で設計することがポイントです。
住宅手当は、“条件をつけた報酬戦略”としての活用が鍵になるでしょう。
住宅手当の支給額の相場と最新トレンド
住宅手当額を決める際は、まず公的相場を把握しましょう。
厚労省「就労条件総合調査」の最新公表年(平成27=2015年)によると、従業員1人あたりの平均支給額は 17,000円。
企業規模が大きいほど水準は高く、1,000人以上で 19,333円、30〜99人規模では 14,359円です(下表参照)。
なお同調査は2016年以降住宅手当を集計していないため、以降は 家賃指数や物価上昇率を掛け合わせて暫定更新する 方法が実務的になります。
法定外福利厚生費に占める住宅関連費用
経団連の最終調査(2018年度)によると、法定外福利厚生費の47.8%=月額12,133円/人 が住宅関連費用で占められています¹。
法定外費の約半分を握る項目ゆえ、コスト見直しの最優先とされやすいのが住宅手当・社宅施策です。
なお住宅関連費用は2000年以降減少トレンドが続いており(次節グラフ参照)、今後も削減圧力が高まると考えられます。
※ ¹ 日本経済団体連合会『2018年度福利厚生費調査結果』〈同調査は2019年度をもって公表終了〉
住宅関連費用の推移(2000〜2019)
2000年度に1人あたり月額15,000円台だった住宅関連費用は、2018年度には12,133円まで約19%減少しています(上図参照)。
現在は物価高騰の影響で家賃指数が上昇しており、「社宅縮小+住宅手当の据え置き」だけでは従業員負担が実質的に増加する懸念があります。
そのため、後ほど紹介するカフェテリアプランや在宅勤務手当との再配分を視野に入れた制度見直しが重要です。
なぜ住宅手当が縮小・廃止されるのか?
住宅手当は2000年代以降縮小が進み、次々に大手企業でも見直しが相次いでいます。
主な背景は①同一労同一賃金への対応、②テレワーク普及への移行の2点です。
同一労働同一賃金の考え方に則った処置
近年の働き方改革を背景に、企業には「同一労働同一賃金」の原則に基づいた制度設計が求められています。
特に、2020年4月施行のパートタイム・有期雇用労働法(通称:パート有期法)第8条では、「職務の内容」「職務の内容および配置の変更の範囲」が通常の労働者と同じである場合、待遇(基本給・手当・賞与など)に不合理な差を設けることは認められないと規定されています。
これにより、正社員と非正規社員の間で手当を区別する場合、合理的な理由が必要となり、手当の不支給や差別的扱いは違法とされる可能性があります。
手当の縮小・廃止と再構成の動き
この原則を受け、かつてのように「正社員のみに住宅手当を支給する」といった設計は、法令上のリスクと見なされるようになっています。
そのため、近年では以下のような制度再構成を進める企業が増加しています
- 住宅手当を廃止し、基本給に組み込む
- 手当を選択制ポイント制度に置き換え、全従業員に公平な支給枠を設定
実例:大手不動産企業の制度改定(2025年)
2025年、ある大手不動産企業では以下のような制度見直しを実施しました。
- 若手社員の基本給を約9%引き上げ
- 住宅手当・家族手当を段階的に廃止
- 全社員に対し、月5,000円分の選択制ポイントを支給
この改革により、「対象者だけが得をする」といった不公平感を解消しつつ、給与体系全体の底上げと納得感の向上を実現しています。
近年は、法令遵守・公平性・戦略的人事のバランスをとるためにも、住宅手当を単独で扱うのではなく、給与・ポイント制・選択型福利厚生の一部として再設計する流れが加速すると見られます。
■参考記事;同一労働同一賃金の実現。2020年から本格的に見直される不合理な待遇差
テレワークの普及
国土交通省の調査によると、令和5年度には雇用型テレワーカーのうち7割超が週1日以上テレワークを実施しています。
こうした働き方の変化により、従業員がオフィス近くに住む必要性は薄れつつあり、従来の「通勤距離に応じた住宅手当」等の在り方も見直しが迫られています。
現在は、「在宅勤務環境の整備を支援する手当」への移行が進んでいます。
実際、在宅勤務手当を導入する企業が増えており、月額3,000〜5,000円程度が一般的な相場です。
この手当は、在宅勤務に伴う光熱費や通信費の増加を補う目的で支給されます。
今後、住宅手当を再設計する企業にとっては、働き方や居住形態の多様化に対応した柔軟な制度設計が重要です。
たとえば、在宅勤務手当の導入に加え、借上社宅制度の活用など、従業員のニーズに合わせた支援策の検討が求められます。
参考資料:国土交通省「令和5年度テレワーク人口実態調査 」
住宅手当を廃止する際に気をつけなくてはいけないこと
住宅手当の廃止は、単なる制度変更ではなく、従業員の生活に直結する“実質的な賃金の変更"を伴います。
そのため、慎重なプロセスと丁寧な配慮が不可欠です。
手当廃止によって給与が減少する場合、「不利益変更」(労働条件の不利益な変更)と判断されるリスクがあります。
廃止時の基本フロー(5ステップ)
住宅手当を廃止する際は、以下の手順を踏むことで法的リスクを抑え、従業員の納得を得やすくなります。
- 事前通知:廃止の趣旨・理由・影響を全従業員に説明
- 意見聴取:労働者代表・労組からの意見を収集(義務ではないが推奨)
- 労使協定:可能であれば、代替制度を含む協定を締結
- 就業規則改定:支給要件や廃止内容を就業規則・賃金規程に反映
- 周知期間:改定後、1か月以上の周知期間を確保(労基法第90条)
代替案の提示は「納得感」の鍵
手当の廃止が一方的な削減と受け取られると、従業員の不信や反発を招きかねません。
そこで、補填策や代替制度の提案によって、納得感を得られる設計が重要です。
【代替案パターン】
単に手当を削るのではなく、時代や働き方に合った新たな支援制度へ再構成することが、企業の持続的な成長と従業員の満足度向上の両立につながります。
特に、おすすめなのは、従業員の多様なニーズに合わせながら、企業メッセージを示せるカフェテリアプランになります。
住宅手当だけで足りる?──多様化する住まい・働き方ニーズとカフェテリアプラン
上述してきているように、環境の変化により、従来型の住宅手当(=家賃補助)だけでは対応しきれない生活コストが増加しています。
従来の住宅手当でカバーしにくい新しい生活コスト
- 在宅勤務による通信費・光熱費の増加
- カフェやシェアオフィスなどのコワーキングスペース利用料
- 都市と地方を行き来する二拠点生活の交通費・宿泊費
これらの支出はライフスタイルによって大きく異なるため、一律の手当では不公平感や非効率が生じやすくなります。
解決策:柔軟性の高い「カフェテリアプラン」
こうした背景を受け、近年注目されているのがカフェテリアプラン(選択型福利厚生制度)です。
住宅手当などの固定支給を廃止し、あらかじめ定めた“ポイント”を従業員に付与。
従業員はこのポイントを使い、以下のような支援メニューから自分に合った内容を自由に選択できます。
♦選択可能なメニュー例♦
- 家賃補助/住宅ローン補助
- 在宅勤務手当(通信・光熱費の補填)
- 子育て・介護支援(保育料、ベビーシッター補助など)
- 自己啓発・学習費用
- 通勤・交通費(二拠点生活への対応含む)
これらの多様なニーズに対応できる制度設計は、従業員と企業の双方にメリットがあります。
- 従業員側:ライフスタイルやライフステージに合わせた福利厚生を自由に設計できる/公平性が高い
- 企業側:実際の利用実績に応じた支出となるため、ムダが出にくい/従業員満足度の向上によって定着率改善にも寄与
もはや「住宅手当=家賃補助」だけでは、多様化した従業員ニーズを十分にカバーできません。
カフェテリアプランは、従来型福利厚生を超えた“柔軟で自律的な制度”として、今後さらに重要性を増していくでしょう。
よりカフェテリアプランの詳細を知りたい方は次の記事を併せてご覧ください。
まとめ|住宅手当の今とこれから
住宅手当は、平均支給額 月17,000円(2015年最終値)で、法定外福利厚生費の約47.8%を占める重要な制度です。
一方で、同一労働同一賃金の原則やジョブ型評価の浸透、テレワークの定着といった環境変化により、支給の見直し・縮小・廃止が進んでいます。
現在の代表的な住宅支援には以下が挙げられます。
- 住宅手当(現金支給)
- 家賃補助制度
- 社宅・借上社宅の提供
- 引っ越し手当・住宅ローン利子補給
企業にとっては採用力の強化・定着率の向上・モチベーション維持といったメリットがあり、従業員にとっては家計の安定という実利がありますが、運用には相応のコストと制度設計の工夫が求められます。
今後は、在宅勤務手当の導入やカフェテリアプランへの振替など、柔軟な再設計が重要となるでしょう。
制度変更時は、労使協議の実施と1か月以上の周知期間の確保を行い、不利益変更と見なされないよう丁寧な対応が求められます。