よりよい労働環境をつくるために重要なのが、従業員のメンタルヘルスケアです。メンタルヘルスの不調によって起こりえる悪影響や、ケアを実施する際に押さえておきたいポイントをご紹介します。同時に、各企業が取り組んでいるメンタルヘルスケアの取り組み事例も2件ピックアップしました。自社で取り組む際の参考にしてください。
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メンタルヘルスとは?

メンタルヘルスは、精神や心の健康を意味する言葉として捉えるとよいでしょう。メンタルヘルスと聞くと、心の病気や不調などネガティブなイメージを抱いてしまう方もいるかもしれません。しかし、言葉そのものにネガティブなイメージはないのです。
気持ちが沈んだり塞ぎ込んだりしてしまうことは誰にでも起こる自然な反応ですが、この状態が長期間に及ぶことを「メンタルヘルス不調」と呼びます。
メンタルヘルス不調による従業員の休職・離職率を知っておこう

厚生労働省の調査によると、令和2年11月1日から令和3年10月31日までの1年間、メンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休職した従業員・または退職した従業員がいた事業所は全体の10.1%にのぼると報告されています。およそ10社に1社という割合です。
前年の令和2年時点の調査では9.2%だったため、わずかに増加はしています。しかし、メンタルヘルスの不調で休職または退職へ踏み切る従業員が一定数残っていることも読み取れます。従業員の心の健康を守り、よりよい職場環境をつくるためには、メンタルヘルスケアが不可欠だといえるでしょう。
メンタルヘルス不調の要因とは

メンタルヘルス不調の要因は、「外的要因」、「内的要因」の2つに大別されます。そこからさらに「職場要因」、「私的要因」に分けられます。それぞれの要因に合わせて、適切な対応を取ることがポイントとなるでしょう。
外的要因
引っ越しをはじめ、転勤や転職、結婚などによる急激な環境の変化が原因となってストレスを溜めてしまうケースです。環境の変化に適応できず心身に不調が出ることで、社会生活に支障をきたしてしまうことがあります。こうした症状は「適応障害」と呼ばれ、医療機関による速やかな診療・治療が必要です。なお、気候や騒音、ラッシュアワー時の通勤などの環境から受ける刺激によってストレスが蓄積され、メンタルヘルス不調につながるケースもみられます。
職場要因
職場の人間関係や、自身のスキルに見合わない量の業務などが要因となっているケースです。また、「クレーム対応が多い」、「責任が大きく常にプレッシャーを感じている」など、仕事の内容・質が原因となってストレスが蓄積されている場合も少なくありません。これらの要因は自身だけでコントロールすることが難しく、症状が重症化しやすい傾向にあります。業務量の調整や配置転換、産業医面談などの対応を通して、解消の糸口を探すことが求められます。
内的要因
個人が持つ悩みや不安感が要因となり、メンタルヘルス不調が発生します。ミスによって自信を失ったり、努力しても思うように成果を出せず達成感が得られなかったりといった経験が積み重なって、心身の不調が表れるのです。本人の思考の癖や考え方が要因となっている部分もあるため、必要に応じて医療機関や専門家(産業医・臨床心理士など)の助けを借り、悩みや不安の解消を目指すことが大切です。
私的要因
病気や離婚、親の介護や大切な家族との死別など、私生活で起きた出来事がトラウマとなり、メンタルヘルス不調を引き起こすケースです。本人は解消したいと思っていても、「誰に相談していいのかわからない」とさらに悩んでしまい、身動きがとれなくなっているケースも少なくありません。
メンタルヘルス不調によるリスク

従業員のメンタルヘルス不調は、本人だけの問題ではありません。放置すると、従業員のモチベーションの低下や生産性の低下など様々なリスクが発生します。メンタルヘルス不調になると、イライラや不安感、焦燥感が増幅したり、判断力や思考力、意欲などが低下したりします。こうした症状により、本人だけでなく組織としての生産性や業績などにも影響が出るでしょう。
リスク1.従業員の仕事に対するモチベーションの低下
メンタルヘルス不調では、イライラや不安感の増幅、人との関わりを避けるといった症状が表れます。物事への関心が薄れ、無気力な状態が続き、なかなか回復しません。これらの症状が引き金となり、仕事に対するモチベーションがなくなります。さらに意欲の低下が続くと、遅刻や欠勤が増えて勤怠にも影響が出ることがあります。
リスク2.重大なミス・トラブルの発生
注意力・決断力・集中力の低下、倦怠感や睡眠障害などの症状によって業務の正確性や安定性に悪影響が及び、取り返しのつかないミスやトラブルにつながるリスクも高まります。たとえば、メンタルヘルス不調によって運送会社の従業員が交通事故を起こし、個人や企業に損害を与えれば最終的な責任は企業が負うことになります。
リスク3.生産性や創造性の低下
集中力や記憶力、思考力などの低下によって、業務を効率的に行うことが困難になったり、インプット・アウトプットが上手くいかなくなったりして生産性が低下。新しいことに挑戦する意欲や好奇心も薄れるため、創造性やイノベーションを生み出すことも困難になります。メンタルヘルス不調は従業員だけの問題ではなく、組織全体の成長に関わる問題でもあるのです。
メンタルヘルスケアを行うメリット

従業員のメンタルヘルスケアを行い、症状が悪化するのを防ぐことで、従業員も企業も恩恵を受けられます。職場の生産性改善をはじめとした、具体的なメリットを以下でご紹介します。
職場の生産性が改善される
メンタルヘルスケアを行うことで、その従業員が本来持っていた正常な思考力や判断力、創造性を取り戻すことの手助けとなります。そのためには、従業員の不満やストレスの原因を特定・分析し、職場環境を改善する必要があります。同時に、症状の緊急度によっては速やかに医療機関と提携し、療養に専念してもらえるような環境を整えることも重要です。職場環境が改善されれば全従業員にとって働きやすい職場になり、モチベーションもアップ。その結果、全体の生産性の向上が見込めるのです。
大きなミスや事故の予防になる
従業員の心・精神をケアすることで、大きなミスや事故を未然に防げます。逆にいえば、従業員のメンタルヘルス不調を放置することは大きなミス・事故の引き金になりかねません。社内外の関係者から損害賠償を請求されたり、民事訴訟を起こされたりする可能性もあるでしょう。従業員本人と企業イメージを守るためにも、メンタルヘルスケアは不可欠だといえます。
長期休職者や離職者の発生を抑止
メンタルヘルス不調による長期休職者・離職者が出るということは、組織の貴重な戦力が失われるということです。他メンバーへの業務の引き継ぎはもちろん、場合によっては新人社員を採用することになるでしょう。引き継ぎや新人教育にかかるコストを鑑みても、長期休職者・離職者の増加は防ぎたいものです。本人と本人のスキルを守る意味でも、メンタルヘルスケアは重要な取り組みだといえます。
採用活動や企業イメージへの影響
近年は「ブラック企業」、「ホワイト企業」という言葉が広く定着しています。人材は従業員の働きやすさや待遇の良さ、適切なメンタルヘルスケアの体制などの要素に着目し、企業の印象を見極めているのです。従業員のメンタルヘルスケアに注力することは、企業全体のイメージアップにもつながります。
「メンタルヘルスケアのために何か対策を講じたいが、どのような対策をとればよいのかわからない」とお悩みの方もいるのではないでしょうか。その際は、「ホワイト企業認定」を指標として対策を講じるのもよいでしょう。ホワイト企業認定とは、一般財団法人日本次世代企業普及機構(ホワイト財団)が主催する認定制度のこと。労働者がいきいきと働ける優良企業を認定する制度であり、レギュラーからプラチナまで計5つのランクが設けられています。認定審査は、以下の7つの認定指標をもとに行われます。
- ビジネスモデル/生産性
- ワークライフバランス
- 健康経営
- 人材育成/働きがい
- ダイバーシティ&インクルージョン
- リスクマネジメント
- 労働法令の遵守
各認定指標の必要点数(一定基準)を満たすことで、それに見合ったランクのホワイト企業認定を受けられます。メンタルヘルスケアは、ワークライフバランスや健康経営、リスクマネジメントなど様々な評価基準に大きく関わる重要な取り組みだといえるでしょう。メンタルヘルスケア対策の一環として、ホワイト企業認定取得を目指してみるのも手です。
リロクラブでは、ホワイト企業認定取得のサポートも行っております。福利厚生や健康経営、育児・介護両立支援など、7つの認定指標に沿った各種ソリューションを豊富に提供。幅広い視点から、ホワイト企業認定取得をサポートいたします。
メンタルヘルスケアを実施する際の課題

メンタルヘルスケアを実施する際は、心の健康問題が持つ特性を把握することが重要です。同時に、人事・労務管理者との連携や従業員の私生活における問題との向き合い方なども知っておく必要があります。
心の健康問題における特性
心の健康(メンタルヘルス)については、客観的な測定方法が確立していないのが現状です。本人から心身の状況を聞き取る必要があり、本人の状態によってはその聞き取りすらままならないこともあります。くわえて、心の健康問題の原因や発生過程、症状の深刻度は個人差が大きく、原因追及や対策が困難なケースも少なくありません。
人事労務管理との関係
メンタルヘルスは、業務量や職場の組織風土、人事異動などによって大きな影響を受けます。したがって、メンタルヘルスケアは本人や上司だけでなく、人事担当者・労務担当者との連携が不可欠です。人事担当者・労務担当者を交えて、配置転換や業務量調整の方針を固めていきます。こうした連携が上手くいかないと、メンタルヘルスケアがスムーズに進まなくなる可能性も考えられます。
家庭・私生活などにおける職場以外の問題
「育児・介護によって心身が疲弊している」、「離婚や家族との死別がトラウマになっている」など、メンタルヘルスは家庭や私生活からも大きな影響を受けます。プライベートな要因であるだけに、本人が職場関係者への相談をためらってしまうケースも少なくありません。従業員のプライバシーに十分配慮したうえで、産業医や人事・労務担当者との連携をとり、メンタルヘルス不調へアプローチする必要があります。
企業のメンタルヘルスケアを実施する流れ

企業におけるメンタルヘルスケアの流れは、「不調を未然防止できる環境づくり」、「不調の早期発見」、「職場復帰支援」という3つのフェーズに大きく分かれています。それぞれのフェーズで取り組むべき内容を、以下でピックアップしました。
メンタルヘルス不調を出さない環境づくりを行う
メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的に、職場環境を整備するフェーズです。具体的なアクションとしては、業務量の見直しやストレスチェックの導入・実施などがあげられます。くわえて、ストレスマネジメント研修を実施し、従業員一人ひとりのメンタルヘルスケアに対する意識を高めることも大切です。
不調者を早期に発見し、適切な措置を行う
メンタルヘルス不調を早期発見し、適切な処置を行うフェーズです。従業員が気軽に相談できる社内窓口の設置、産業医との面談などが具体的なアクションとしてあげられます。メンタルヘルスケア専門の外部窓口を導入するのもよいでしょう。内外の手を借りながら、メンタルヘルス不調を早期発見できる体制をつくることが求められます。
休職者の職場復帰を支援する
メンタルヘルス不調により、長期休職した従業員の職場復帰を支援するフェーズです。復帰後に無理なく業務を遂行できるよう業務量を調節したり、ブランクによる焦りや不安を和らげるためのフォローを行ったりします。また、専門家の指導のもと職場復帰支援プログラムやトレーニングを導入することも大切です。人材の最終的な定着率を高めるためには、このフェーズでしっかりとしたフォローをすることが重要です。
企業の取り組み事例

ここでは、企業によるメンタルヘルスの取り組み事例をいくつかご紹介します。今回ご紹介するのは、某有名食品会社とプリンター・プロジェクターの販売会社の事例です。
健康経営に取り組む食品会社の事例
ある食品会社では、セルフケアの重要性にフォーカスした健康経営を推進しています。産業医面談の機会を定期的に設けているほか、休職した従業員のフォローアップ体制も整えているのが特徴です。独自の復職プログラム「メンタルヘルス回復プログラム」では、自身の性格や価値観、考え方を客観的に見直したうえで、段階に合わせた復職トレーニングを実施。再発の防止を目標に、従業員に寄り添っています。
従業員の相談・支援体制を整えているメーカーの事例
EPSONでは、産業医や看護職、臨床心理士が相談に応じてくれる「健康管理室」を設置しています。2004年からは、全従業員を対象とした職業性ストレス診断を実施。高ストレスと判断された従業員に対しては、産業医や産業カウンセラーによるフォローを行っています。長期の休職期間に入る従業員からは業務端末を引き取り、治療に専念するよう促しているのも特徴です。
メンタルヘルスケアによって生まれる価値

企業におけるメンタルヘルスケアは、従業員の健康を守るために導入しておきたい取り組みです。同時に、人材の定着率向上や企業のイメージアップを狙ううえでも重要だといえるでしょう。従業員のメンタルヘルスケアの一環として、福利厚生をより充実させ、ストレス発散をサポートするという方法もあります。
リロクラブが提供する「福利厚生倶楽部」は、福利厚生専門のアウトソーシングサービスです。資産形成をはじめ、育児・介護支援、自己研鑽のサポートやレジャーなど、多様なジャンルの福利厚生をまとめて導入できるのが魅力。働きやすい職場環境づくりの一環として、ぜひ導入をご検討ください。