育児や介護と仕事を両立させたい人にとって、フルタイム勤務という時間の制約は大きな課題です。個人的な事情でフルタイム勤務が困難になり、仕事を続けられなくなる人も多くいます。今回は、多様な働き方を推進するために知っておきたい短時間勤務について詳しく解説します。
多様な働き方を推進する短時間勤務

働き方改革の実現には、いくつかの課題があります。その中のひとつに働く時間や場所などの「制約の克服」があります。
今までの画一的な労働制度が時間や場所などの制約を生み出し、働きにくい環境を作り出しています。そのような働きにくい環境を変えていこうというのが、働き方改革です。
短時間勤務は、労働時間の制約を緩和させます。まずは、短時間勤務が求められる背景や育児・介護休業法で義務化されている所定労働時間の短縮等の措置内容を確認していきましょう。
短時間勤務はこれからの日本にフィットした働き方のひとつ
ひと昔前までの日本企業は、労働者全員が定時に出勤し定時に退勤するフルタイム勤務が当然でした。また、残業や休日出勤をいとわない長時間労働が当たり前でした。
しかし、近年は少子高齢化にともなう生産年齢人口(15~64歳)の減少が深刻なため、多様な働き方で多様な人材を受け入れ、労働参加率を向上させることが重視されるようになりました。
一日の労働時間を短縮する短時間勤務はフルタイム以外の働き方ができるため、多様な働き方を可能にします。
さまざまな事情でフルタイム勤務が困難であっても、短時間勤務ができる労働環境であれば、無理なく仕事を続けやすくなります。出産・育児離職や介護離職を減らすことが期待できる短時間勤務は、働き手の総数が減少している今の日本に不可欠です。
「短時間勤務制度」は育児・介護休業法で義務化

育児のための所定労働時間の短縮等の措置は、「短時間勤務制度」として育児・介護休業法によって事業主に義務づけられています。法律で定められた「短時間勤務制度」の内容や対象者は以下のとおりです。
一日の所定労働時間は原則6時間
「短時間勤務制度」では、3歳に満たない子を育てている育児中の労働者の一日の所定労働時間を原則6時間と定めています。
所定労働時間を6時間にするための措置としては、退勤時間を早める・出勤時間を遅らせるなどの勤務パターンがあります。どのような勤務パターンを採用するかは、企業の判断に任せられています。
「短時間勤務制度」の対象者と対象期間
「短時間勤務制度」は、育児のための短時間勤務です。ですので、利用できるのは3歳に満たない子を養育する労働者です。「短時間勤務制度」の対象者は、その要件も含めて次の5つの要件をすべて満たす必要があります。
- 3歳未満の子を養育している労働者であること
- 1日の所定労働時間が6時間以下でないこと
- 日々雇用される労働者でないこと
- 短時間勤務制度を利用する前から育児休業をしていないこと
- 労使協定によって適用除外とされていないこと
適用される期間は、養育している子が3歳に達するまで(3歳の誕生日の前日まで)で、男性・女性労働者にかかわらず利用可能です。
また、以下の3項目に該当する労働者は労使協定により「短時間勤務制度」の対象外となりうります。
- 現在雇用されている企業における雇用期間が1年未満
- 1週間の所定労働日数が2日以下
- 業務の内容や性質によって、「短時間勤務制度」の導入が困難と考えられる場合
なお、3歳から小学校就学前の子を養育している労働者に対しては、労働時間の短縮措置は努力義務としています。
介護中の労働者に対する所定労働時間の短縮等の措置
「短時間勤務制度」は育児のための短時間勤務ですが、介護のための短時間勤務措置もあります。
要介護状態の家族を2週間以上にわたって常時介護する必要のある労働者に対し、事業主は連続して3年以上*、以下の所定労働時間の短縮措置のいずれかを、認める必要があります。
*利用開始から3年以上の間で2回以上の利用を可能とする
- 所定労働時間の短縮(時短勤務)
- フレックスタイム
- 時差出勤
- 介護サービス費用の助成
なお、労使協定で以下に該当する労働者は所定労働時間の短縮措置を講じないと定められている場合は、対象外です。
- 勤務期間が1年未満
- 週の所定労働日数が2日以下

残業や深夜労働の制限について
小学校就学前の子を養育している労働者や、介護をしている労働者が残業の免除を申し出た場合、事業主は所定の時間を超えた残業をさせてはいけません。深夜労働(午後10時~午前5時)についても同様です。
また労働基準法で定められた法定労働時間を超える時間外労働に関しては、労働者から申し出があった場合、1ヶ月につき24時間・年間150時間を超える残業をさせてはいけません。
2021年1月の法改正で時間単位の休暇取得が可能に
2021年1月1日に施行される改正育児・介護休業法では、子の看護休暇や介護休暇を時間単位で取得できるようになります。
改正前は、子の看護休暇・介護休暇は半日単位の取得が可能で、1日の所定労働時間が4時間以下の人は対象外でした。今回の改正によって、育児・介護中のすべての労働者が希望する時間数(1時間の整数倍)で休暇を取得できます。
また、国が定める要件を満たした事業主には、両立支援等助成金が支給されます。
短時間勤務がもたらすのはメリットだけではない

短時間勤務にはさまざまなメリットがありますが、デメリットや注意点もあります。
短時間勤務のメリット・デメリット
メリットとデメリットを、事業主の視点からと労働者の視点からみていきます。
事業主視点
事業主にとっての最大のメリットは、出産・育児離職や介護離職を防ぎ、人材を継続的に確保できる点です。
自社で長年にわたって経験・スキルを培った人材が出産や育児、介護を理由に離職してしまうと、新たに人材を採用する活動、採用した人材を育成する時間とコストがかかります。
しかし、労働時間を短縮して仕事を続けやすい労働環境を整備すれば、出産や親の介護などのライフイベントの変化があっても仕事を続けてくれる可能性が高まります。
一方デメリットとしては、経験・スキルのある人材が時短勤務に入ると、管理者や他のメンバーの業務負担が増す場合があります。他のメンバーに業務を上乗せするだけでは不公平感が出てきてしまうため、部署やチーム全体の業務量と業務内容を見直したうえで、うまく分担するよう差配しなければなりません。
労働者視点
労働者にとってメリットは、仕事と家庭生活を両立し、ワーク・ライフ・バランスを実現しやすくなることです。所定の労働時間が短縮されることによって、育児や介護に費やせる時間が増え、心の余裕もできるでしょう。
また、出産を経ても仕事をあきらめる必要がなくなり、継続的なキャリア形成が可能になります。
一方デメリットとしては、フルタイム勤務ではなくなるため、給与や賞与が減額される可能性があります。
また、フルタイム勤務や残業をしないと難しい業務を担当しにくくなることもあります。このことが、やる気のある労働者にとっては仕事に対するモチベーションの維持が難しいというデメリットになりえます。
あらかじめ知っておきたい注意点
短時間勤務には注意点があります。特に所定労働時間の短縮等の措置適用によって、労働者に不利益がないように注意しなければなりません。
利用者への不利益取り扱いの禁止
短時間勤務を制度として導入する際、特に注意しなければならないのは利用者に対する不利益な取り扱いです。育児・介護休業法では、制度を利用する労働者に対し、以下のような不当な取り扱いを禁止しています。
- 解雇
- 契約更新をしない(雇い止め)
- 労働契約内容の変更を強要する(正規雇用を非正規雇用にするなど)
- 不利益な算定による減給
- 不利益な評価による人事査定
不当な待遇は労使間でトラブルに発展することがあります。あらかじめ就業規則を整備し、社内に方針を周知しておくことが大切です。
短時間勤務の適用が難しい場合は代替措置が必要
短時間勤務の適用が難しい労働者に対しては、以下のような代替措置を講じる必要があります。
- 育児休業制度に準ずる措置
- フレックスタイム制度
- 時差出勤制度(始業・就業時間の繰り上げ・繰り下げ)
- 事業所内保育施設の設置、またはこれに準ずる便宜の供与
育児短時間勤務の場合は、代替措置も子が3歳に達する日まで適します。
短時間勤務で多様な働き方を推進する企業事例

最後に、時短勤務をうまく取り入れて発展させることで、多様な働き方を推進している企業の事例を紹介します。
大成建設
大成建設では、勤務時間短縮措置を7・6・5・4時間の4パターン用意しています。
育児の場合は子が小学校3年生修了までの期間、介護の場合は要介護状態にある対象家族を介護する期間、何度でも利用することができます。また、勤務時間の繰り上げ・繰り下げとの併用が可能です。
高島屋
従業員の7割を女性が占める老舗百貨店の高島屋では、1991年から独自の育児勤務制度を導入しています。現在では子が小学校4年生に就学する年の3月31日まで利用でき、利用者のニーズに応じて8つの勤務パターンから選択できるようになっています。
これにより、1日の労働時間が5時間・6時間・6時間45分・7時間35分から選択できるほか、勤務パターンによっては事前申請をすることで制限内のフルタイム勤務も可能です。
常陽銀行
育児を理由に経験豊富な人材が離職するなど、人材確保に課題を抱えていた常陽銀行では、育児短時間勤務を利用している従業員に多様な働き方を提供しています。勤務パターンは3時間~7時間15分の間で15分単位で選択することができます。
また、資産運用などの渉外活動を担当している従業員を対象に、特定の時間帯について在宅勤務を認めています。
業務の性質上、在宅勤務の対象業務は顧客との面談記録や日報作成などに限定し、業務用のタブレットのログイン時間で労働時間を管理するなど運用面でもさまざまな工夫をしています。
まとめ

生産年齢人口減少の日本にとって、多様な働き方を推進して労働参加率を向上させることは不可欠。短時間勤務は、多様な働き方を推進する有効な施策。
育児のための「短時間勤務制度」は、育児・介護休業法で義務づけられている。原則、一日の所定労働時間は6時間。
「短時間勤務制度」の対象となる労働者は、5つの要件すべてに該当する労働者。
- 3歳未満の子供を養育している労働者であること
- 1日の所定労働時間が6時間以下でないこと
- 日々雇用される労働者でないこと
- 「短時間勤務制度」を利用する前から育児休業をしていないこと
- 労使協定によって適用除外とされていないこと
適用除外とされうる労働者
- 現在雇用されている企業における雇用期間が1年未満
- 1週間の所定労働日数が2日以下
- 業務の内容や性質によって、「短時間勤務制度」の導入が困難と考えられる場合
「短時間勤務制度」の注意点は、利用者への不利益取り扱いの禁止。具体的な禁止事項は
- 解雇
- 契約更新をしない(雇い止め)
- 労働契約内容の変更を強要する(正規雇用を非正規雇用にするなど)
- 不利益な算定による減給
- 不利益な評価による人事査定
「短時間勤務制度」の適用が難しい場合は代替措置が必要。具体的な代替措置は
- 育児休業制度に準ずる措置
- フレックスタイム制度
- 時差出勤制度(始業・就業時間の繰り上げ・繰り下げ)
- 事業所内保育施設の設置、またはこれに準ずる便宜の供与
2021年1月の改正法施行で時間単位の休暇取得が可能。
育児・介護中のすべての労働者が希望する時間数(1時間の整数倍)で休暇を取得できる。
また、国が定める要件を満たした事業主には、両立支援等助成金が支給される。
短時間勤務は労働時間の制約を緩和させ、一人でも多くの人材が出産・育児、介護を理由に離職することなく仕事を続けられます。自社に適したやり方で短時間勤務を整備・発展させ、無理なく仕事を続けられる環境を整えましょう。