eラーニングに活用される「SCORM」とは|作成方法やツールも紹介
社員教育の一貫で、学習管理システム(LMS)導入を検討しているものの、SCORM(スコーム)についていまいちわからないと悩んでいる担当者も多いのではないでしょうか。
本記事では、SCORMの目的や仕組み、活用方法や作成ステップを解説します。SCORMを理解して、質のよいeランニングへの活用や、効率的な学習や改善を進めましょう。
目次[非表示]
- 1.SCORMとは
- 1.1.SCORMの4つの目的
- 1.2.SCORMの歴史
- 1.3.日本でのSCORM
- 2.SCORMを活用するeラーニングとは
- 2.1.eラーニングを活用するメリット
- 3.SCORMの2つの役割と仕組み
- 4.SCORMを利用する3つのメリット
- 4.1.LMSと教材の相互運用ができる
- 4.2.コスト削減ができる
- 4.3.学習効果を最大化できる
- 5.SCORMを利用するデメリット
- 6.SCORMにおける2つのバージョンの違い
- 7.SCORM教材の作成方法とは?
- 8.SCORM教材の作成3ステップ
- 8.1.ステップ1:目的を明確にする
- 8.2.ステップ2:目的に合わせた設計を行う
- 8.3.ステップ3:教材の評価と継続的な改善
- 9.SCORM教材の構成内容や設定ファイル
- 9.1.manifestファイル
- 9.2.教材HTMLファイル
- 9.3.JavaScriptファイル
- 10.SCORM対応教材を作成できるツール3選
- 10.1.iSpring Suite
- 10.2.Adobe Learning Manager
- 10.3.Moodle
- 11.SCORM対応教材を制作する際のポイント
- 11.1.わかりやすく使いやすい教材であること
- 11.2.修正しやすい教材であること
- 11.3.教材を定期的に更新すること
- 12.SCORM対応教材で従業員のスキルアップを目指そう
SCORMとは
SCORM(スコーム)とは Sharable Content Object Reference Model(共有可能なコンテンツオブジェクト参照モデル)の略称で、eラーニング(オンライン教材)における共通化のための国際規格のことです。
また、SCORMは学習管理システム(LMS)と教材を組み合わせるための仕様を定義しており、教材をSCORM型式にすれば、ほとんどの学習管理システムで教材をアップロードして活用できます。
SCORMの4つの目的
SCORMには、以下の4つの目的があります。
- 学習コンテンツの再利用性(reusability)
- アクセス可能性(accessibility)
- 耐用性(durability)
- 相互互換性(interoperability)
学習コンテンツ(教材)と、学習管理システム(LMS)を総合的に運用できるように策定されています。
SCORMの誕生前は、統一したLMS規格がなく、A社の教材をB社のLMSで使用することはできませんでした。
しかし、SCORMの誕生で教材とLMSとの通信が統一化され、両者の総合的な運用が可能になりました。 また、オンライン学習に適した学習コンテンツは、再利用が容易な点や、インターネット環境さえあれば学習できる手軽さもメリットです。
SCORMの歴史
SCORMは、2001年に米国のADL(Advanced Distributed Learning)という標準化推進団体により定義・公開されました。現在では、eラーニング共通化規格の世界標準となっています。
SCORMの登場以前は、AICC(航空産業CBT委員会)が策定した規格などが利用されていましたが、現在のeラーニングではSCORMを基本とした製品が一般的となっています。
日本でのSCORM
日本では、特定非営利活動法人であるデジタルラーニング・コンソーシアム(DLC)が中心となり、SCORMの標準化を推進し、SCORM技術者資格とよばれる専門家の認定や、講習会などのコミュニティ活動など、幅広い活動を行っています。
SCORMを活用するeラーニングとは
eラーニングとは、インターネットを利用して行う学習形態のことを指します。学習管理システム(LMS)と呼ばれる学習管理システムを導入して実施されることがほとんどです。 LMSをプラットフォームとしたeラーニングでは、学習者は自分の学習状況の把握を、管理者は学習者の管理・指導を簡単に行うことができます。
eラーニングを活用するメリット
eラーニングを活用するメリットは以下の3つです。
- オンライン学習のため場所や時間を問わず行える
- 反復学習で内容の定着を図れる
- 講師によるムラがなく均一した講習を実施できる
そもそもeラーニングはオンラインで実施する学習のため、インターネット環境があれば場所や時間を問わずに学習を実施できます。
また、何度でも反復して学習できるため、内容を繰り返し学ぶことで定着率の向上も見込めます。そして、学習コンテンツが均一のため講師によるムラがなく、学習内容を一定の水準で提供可能です。
SCORMの2つの役割と仕組み
本章では、SCORMの役割と仕組みを解説します。主な点は以下の2つです。
- LMSと教材間で学習履歴データをやりとりする
- 教材の構造に関する情報をLMSに渡す
それぞれ解説します。
LMSと教材間で学習履歴データをやりとりする
1つめは、学習管理システム(LMS)と教材間で、学習データのやりとりをする点です。
教材はSCORM APIアダプターを通して、LMS上のユーザIDや学習者の氏名を取得し、学習の進捗状況やテストの点数、合否、学習時間といった学習履歴データを作成します。教材コンテンツ側で生成されたこのデータは、SCORM APIアダプタを介してLMSに送られ、記録されます。
SCORMのAPIを介して情報をやり取りすることで、異なるLMSと教材との間で各種情報をやりとりできるようになり、教材は通信作法を一切気にすることなく、学習体験を提供可能です。
教材の構造に関する情報をLMSに渡す
2つめは、教材の構造情報を学習管理システム(LMS)に提供する点です。
これは、コンテンツアグリゲーションと呼ばれる仕組みで、コンテンツを流通させるために必要な情報を定義し、検索性や再利用性を高める役割があります。具体的には、教材のタイトルや関連キーワード、バージョンなどの情報を読み込み記録する役割です。
LMSはこのファイルの中身を解析しシステムに教材を登録することで、LMS側で目的に沿った教材を自動的に抽出できます。教材の構造に関する情報をLMSに渡すことで、LMS上での表示や学習順を決めることが可能です。
SCORMを利用する3つのメリット
本章では、SCORMを利用するメリットを紹介します。主なメリットは以下の3つです。
- LMSと教材の相互運用ができる
- コスト削減ができる
- 学習効果を最大化できる
それぞれ解説します。
LMSと教材の相互運用ができる
1つめは、学習管理システム(LMS)と相互で運用できる点です。 もともとLMSは、各社で独立したシステムで運用されていたため、別の教材やシステムを一括して活用することはできませんでした。
しかし、SCORMの導入で、独立したシステムを相互運用できるようになりました。バラバラだった教材やデータを総合的に活用できるのは大きなメリットといえるでしょう。
コスト削減ができる
2つめは、コストの削減ができる点です。 いままでのような単独したLMSでは、別の教材やシステムを使う場合、LMS自体の乗り換えが必要でした。LMSの乗り換えは、導入コストや運用コストが必須です。
しかし、SCORMを導入することで一括管理ができ、ほかの教材コンテンツにもアクセスが可能です。そのため、乗り換えに伴う不要なコストを削減できます。
学習効果を最大化できる
最後は、学習効果を最大限に発揮できる点です。SCORMに対応したLMSや、教材コンテンツであれば、学習者の進捗状況と結果を追跡できるため、オンライン学習の効果が大幅に向上するでしょう。
さまざまなデータを活用できる点ももちろんですが、場所や時間を問わずに学習できる点もメリットの1つです。
SCORMを利用するデメリット
本章では、SCORMのデメリットを紹介します。主なデメリットは以下の2つです。
- SCORMに準拠している教材が必要
- WebやITなど専門的な技術や知識が必要
それぞれ見ていきましょう。
SCORMに準拠している教材が必要
1つめは、SCORMに対応している教材でなければ、SCORMを活用できない点です。
SCORMは世界基準のため、幅広い学習コンテンツがSCORMに準拠しているものの、中にはSCORMに対応していない教材もあるため、導入する場合はかならずチェックしておきましょう。
WebやITなど専門的な技術や知識が必要
2つめは、SCORMに対応する学習コンテンツ制作には、専門的な知識が必要な点です。 自社にあったコンテンツを自作する場合、HTMLやCSS、JavaScriptなどを活用してコンテンツを作成しなければなりません。
また、作成した教材は、SCORMパッケージにまとめ、LMSに登録するまで自社で行わないといけないため、かなりの労力と知識が必要です。
SCORMにおける2つのバージョンの違い
SCORMには、以下の2つのバージョンがあります。
- SCORM 1.2
- SCORM 2004
「SCORM 1.2」はSCORMが登場した2001年に登場した初期バージョンです。 一方の「SCORM 2004」は、1.2から機能が多数追加され、1.2では不可能だった「学習の順序分け」や「データの共有」が可能です。
LMSやeラーニング教材を選ぶ際は、もっとも普及している、もしくは最新のバージョンに対応しているものを選びましょう。
SCORM教材の作成方法とは?
本章では、SCORMの学習コンテンツの作成方法を紹介します。 主な入手方法は以下のとおりです。
- 業者に発注する
- 自社で作成する
1つめは、業者に発注して作成する方法です。 難しいWebやIT知識は不要なため、どのような企業でも手軽に作成できます。 2つめは、自社で作成する方法です。
こちらは、専門的な知識を持った人材が揃っている場合、費用をかけずに自社にあったコンテンツを作成できます。 また、自社で作成しておけば、変更や修正なども自社内で完結できるメリットもあります。
SCORM教材の作成3ステップ
本章では、SCORM教材の作成を3つのステップに分けて紹介します。ステップは以下のとおりです。
- ステップ1:目的を明確にする
- ステップ2:目的に合わせた設計を行う
- ステップ3:教材の評価と継続的な改善
それぞれ解説します。
ステップ1:目的を明確にする
1つめは、学習コンテンツの作成目的を明確にしましょう。
学習した受講者がどのように成長するのか、どのような知識を得られるのか、スキルを向上できるのかなどを具体的に決めておきましょう。
学習する目的を設定した上で、目的を達成できるような教材を設計します。
ステップ2:目的に合わせた設計を行う
2つめは、目的に合わせた設計を行います。 ステップ1で決めた目的を達成できるように、設計を行いましょう。
教材作成は専門的な知識が必要ですが、音声や画像付き教材をブラウザから簡単に制作できるLMSもあるので、制作機能が搭載されているLMSかどうかを事前に確認しておくこともポイントです。
また、作成時には仕様書などを活用することで、改訂が必要になった際に前任者がいなくても改訂しやすく、複数人で教材制作をする際の指針としても活用できます。
ステップ3:教材の評価と継続的な改善
最後のステップは、教材のバージョンアップを怠らず継続的に改善を続ける点です。
eラーニング学習を導入・実装したあとは、学習教材に対する評価や改善点をアンケートなどで収集し、教材の改善を進めましょう。
冗長的な箇所を修正したり補足の教材を入れたり、説明の仕方を変えるなどの改善を行うことで、より良い教材として活用可能です。
SCORM教材の構成内容や設定ファイル
本章では、学習教材の構成内容や設定ファイルを紹介します。主なファイルは下記の3つです。
- manifestファイル
- 教材HTMLファイル
- JavaScriptファイル
それぞれ解説します。
manifestファイル
manifest(マニフェスト)ファイルは教材の構造に関する情報ファイルの1つです。 例えば、目次上の項目と実際の教材データの紐づけ(1章1節のファイル=0101.htmlなど)などもmanifestファイル内で記述します。
教材HTMLファイル
教材HTMLファイルは、教材の本体となるデータファイルです。 見た目や色などの見栄え、テキスト、動画や画像などをタグと呼ばれるものを付けて記述します。 自社で教材制作を行う際は、教材の単位(見出し、章、節など)は設計初期にしっかりと作り込んでおくことがポイントです。
JavaScriptファイル
最後は、JavaScriptファイルです。 学習教材側からLMSに渡す閲覧の情報や、合否の判定について設定したファイルで、JavaScript(スクリプト言語)を使って記述します。 ほかにも、動的なコンテンツやアニメーションなどの設定も可能です。
SCORM対応教材を作成できるツール3選
本章では、SCORM規格に対応した教材を作成できるツールを紹介します。 主な作成ツールは以下の3つです。
- iSpring Suite
- Adobe Learning Manager
- Moodle
それぞれ紹介します。
iSpring Suite
iSpring Suite(アイスプリング・スイート)は、米国のiSpring Solutions Inc.が開発したeラーニングコンテンツ作成ツールです。なじみ深いPowerPointを基礎に作成できるため、簡単、手軽に教材を作成できます。 以下は、iSpring Suiteのレビューです。 参照:iSpring Suiteのレビュー|Capterra
PowerPointの変換がしやすく使いやすいという評価があるものの、サポートや価格面に不安な声がありました。しかし、どのプランでもテクニカルサポート(日本語・英語対応)が標準サービスとして組み込まれています。 また、14日間の無料トライアル期間(クレジット情報不要)があるため、使い心地を試してみることがおすすめです。
Adobe Learning Manager
Adobe Learning Manager(アドビラーニングマネージャー)はAdobeが開発したLMSで、以前は「Adobe Captivate Prime」とも呼ばれていました。 学習コンテンツへのアクセスが容易で、MS TeamsやAdobe Connectと統合することでライブ授業も可能です。 下記で、Adobe Learning Managerのレビューを紹介します。 参照:Adobe Learning Managerのレビュー|Capterra
クリエイティブ活動に役立つ製品で有名なAdobeらしく、使いやすく豊富な機能が備わっていることが特徴です。しかし、オプションが多すぎて逆に使いづらいといった意見もありました。 Adobe Learning Managerは、30日間の無料体験もあります。
Moodle
Moodle(ムードル)は、世界の大学で最も使用されているLMSです。対面授業や実技授業、オンライン授業などに対応しており、学習のすべてを一元管理できます。また、無料で利用できる点もメリットの1つです。 以下で、Moodleのレビューを紹介します。 参照:Moodleのレビュー|Capterra
セキュリティー面や、受講者情報の記録システムなど使いやすい意見が多いですが、管理画面の使いにくさを指摘する声が多くありました。今後、バージョンアップで改善されることを期待しましょう。
SCORM対応教材を制作する際のポイント
本章では、自社でSCORMに対応した教材を作成する際のポイントを解説します。主なポイントは以下の3つです。
- わかりやすく使いやすい教材であること
- 修正しやすい教材であること
- 教材を定期的に更新すること
それぞれ解説します。
わかりやすく使いやすい教材であること
SCORM教材を作成する上で、最も重要なポイントはわかりやすく使いやすい教材であることです。具体的には、画像やイラスト、動画などを使い受講者が飽きずに理解を深められる仕組みや、文字の大きさやフォントを揃えて見やすく整えるなどが当てはまります。
わかりやすく使いやすい教材であればあるほど、受講者の理解向上や、学習へのモチベーションアップにつながるでしょう。
修正しやすい教材であること
2つめは、修正しやすい点を意識することです。 条例や法律の改訂や変更、企業ルールの変更などが起きた際に、すぐに最新情報に修正しなければなりません。修正しやすい教材にするためにも、仕様書や設計書の保管や、作成者や編集者の履歴を残すなど、制作情報を適切に管理しておきましょう。
教材を定期的に更新すること
最後は、教材を定期的にバージョンアップすることです。 受講者へアンケートを活用しフィードバックをもらうことで、制作側では気づかなかった意見をもらえるでしょう。
収集した改善点を修正し、受講者により沿った教材を制作できます。受講者のモチベーションや、正しい知識の習得のためにも教材のブラッシュアップを定期的に図りましょう。
SCORM対応教材で従業員のスキルアップを目指そう
SCORMは、オンライン学習の国際規格です。LMSとの統合で、さまざまなオンライン教材の活用や受講者の一元管理、教材の作成を行えます。
SCORMを活用し、従業員スキルを向上させることで、企業価値や利益率の向上が見込めます。ぜひ、本記事を参考にして、SCORM対応教材を活用しましょう。
ただし、オンライン学習教材を作成するためには、SCORM規格に適していることが必須です。そのためにも、正しくSCORMを理解することはもちろん、SCORMに遵守したLMSを導入しましょう。
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