
リテンションとは?広まった背景や取り組むメリット、具体的な施策
「社員がなかなか定着しない」「せっかく育った人材が辞めてしまう」――人事担当の中にはこうした悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
採用が難しくなっている今の時代、一度採用した社員に長く働いてもらうことは、どの企業にとっても重要な課題です。
そこで注目されているのが「リテンション」です。
今回は、リテンションの基本から具体的な取り組み方まで、わかりやすくご紹介していきます。
目次[非表示]
- 1.リテンションに関する基礎知識
- 1.1.リテンションとは
- 1.2.リテンションの目的
- 1.3.リテンションの強化が注目されている背景
- 2.リテンション施策の種類
- 3.リテンション施策のメリット・デメリット
- 3.1.リテンション施策のメリット
- 3.2.リテンション施策のデメリット
- 4.リテンションの具体的な施策
- 4.1.評価制度・給与制度の見直し
- 4.2.キャリア形成のサポート
- 4.3.スキルアップの支援
- 4.4.ワークライフバランスの充実
- 4.5.社内コミュニケーションの活性化
- 4.6.働きやすい職場環境作り
- 4.7.心理的安全性の確保
- 5.自社のリテンション施策を見直すためのチェックポイント
- 5.1.日々のコミュニケーションは十分か
- 5.2.勤怠データのチェックは行えているか
- 5.3.過去の離職者の傾向を分析しているか
- 5.4.サーベイや面談で社員の声を集めているか
- 6.リテンションを正しく理解して効果的な施策につなげよう
リテンションに関する基礎知識
近年、優秀な人材の確保や定着が、多くの企業で大きな課題となっています。
その中で注目されているのが「リテンション」という考え方です。
まずは、リテンションの基本的な意味や目的、そして注目される背景について解説します。
リテンションとは
リテンション(retention)は、直訳すると「保持」や「維持」を意味する言葉です。
一般的に「何かをとどめておくこと」を指しますが、使われる場面によって意味合いが異なります。
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人事の分野では「人材の確保」を意味し、企業が優秀な人材をつなぎとめるための取り組みを指します。
- 一方、マーケティングの分野では「既存顧客の確保」という意味で使われるケースが多く、顧客との関係維持や継続的な取引を促すことを指す場合が多いです。
この記事では「人事領域におけるリテンション」、つまり社員の離職防止や定着に焦点を当てて解説していきます。
リテンションの目的
リテンションの目的は、企業にとって欠かせない優秀な人材が会社を離れてしまうのを防ぐことです。
特にスキルや経験を積んだ人材の流出は、企業にとって大きな損失となります。
したがって、企業は社員に「この職場でずっと働きたい」と思ってもらえるように工夫していくことが大切です。
そのためにも、入社した人が安心して長く働けるような環境や仕組みを考えていく必要があります。
リテンションは、そうした取り組みを通して、会社がこれからも成長していくために欠かせない考え方です。
リテンションの強化が注目されている背景
人材の確保や定着が重視されるようになったのは、近年の社会や働き方の変化が大きく関係しています。
では、なぜリテンションがこれほど注目されるようになったのでしょうか。
その背景を見ていきましょう。
少子高齢化と労働人口の減少
日本では少子高齢化が進み、それに伴って労働人口も減少しています。
今後も働き手が減り続けることが予想されており、企業にとって必要な人材を採用・確保するのが難しくなってきました。
こうした中で、すでに働いている人材をいかに定着させ、長く活躍してもらうかが重要な課題となっています。
そのため、リテンションの強化が多くの企業で急務となっているのです。
働き方の多様化と転職市場の活性化
近年、働き方改革やリモートワークの普及によって、働き方が大きく変わりました。
従業員一人ひとりが「自分に合った働き方」を選ぶようになり、働く場所や時間にとらわれない働き方が一般的になりつつあります。
さらに、転職市場も活性化しており、転職することへのハードルが低くなりました。
こうした環境の変化により、従業員がより良い職場を求めて転職するケースも増えています。
リテンション施策の種類
リテンションを強化するためには、従業員が「この会社で働き続けたい」と思えるような工夫が必要です。
具体的には、金銭面での報酬だけでなく、働きやすさや成長支援といった非金銭的な取り組みも大切になってきます。
金銭的報酬
金銭的報酬には、個人の能力や成果に応じた給与体系、インセンティブ制度、ストックオプション、および福利厚生などが含まれます。
企業が従業員に対して適切な金銭的報酬を提供することで、モチベーションの維持や離職防止につながります。
例えば、従業員の成果に応じて報酬を変動させることは、働く意欲を高める効果があるでしょう。
また、福利厚生の充実も、従業員の満足度を向上させ、企業への忠誠心を深める要因となります。
しかし、金銭的報酬には限界があるため、現代の価値観に合った非金銭的報酬と組み合わせることでより高い効果が期待できます。
非金銭的報酬
非金銭的報酬には、働きやすい環境作りやワークライフバランスの支援、スキル向上の支援、キャリア開発のサポートなどがあります。
例えば、フレックスタイム制度やリモートワークなど、柔軟な働き方を提供することは、従業員が仕事と私生活のバランスを保つ助けとなります。
また、従業員のキャリアを支援する研修や、専門的な資格取得のサポートも、長期的な定着に貢献するでしょう。
金銭的な報酬では得られない精神的満足感や自己成長の機会を提供することで、企業に対する帰属意識が強化されるため、リテンション効果が高まります。
リテンション施策のメリット・デメリット
リテンション施策には、従業員の定着を促進することで得られる多くのメリットがありますが、一方で注意すべきデメリットも存在します。
ここでは、リテンション施策を実施することで企業にもたらされる代表的なメリットとデメリットを、それぞれ詳しく見ていきます。
リテンション施策のメリット
従業員が長く働き続けられる職場をつくる「リテンション施策」には、さまざまなメリットがあります。
ここでは、代表的な4つのメリットを紹介します。
社内に知識やスキルが蓄積される
社員が長く働くと、仕事のコツや専門的なスキルが少しずつ社内に蓄積されていきます。
日々の業務を通じて、効率的な進め方やトラブルの対処法を学び、それを周りと共有することで、会社全体の知識も増えていきます。
経験を積んだ社員が後輩に教えたり、仕事の進め方を工夫したりするうちに、ノウハウがしっかり根付いていくのです。
そうやって積み上げたものが、業務の質を上げ、成果にもつながっていきます。
採用や育成コストを減らせる
社員の退職が減ることで、新たに人材を採用・育成するためのコストを抑えられます。
例えば、人材紹介会社への手数料や求人広告費、教育や研修にかかる時間・費用など、さまざまな負担が軽減されます。
これにより、浮いたコストやリソースを他の重要な業務に充てることができるため、企業にとって大きなメリットとなるでしょう。
顧客との関係が深まる
社員が長く担当を続けることで、顧客も安心して取引ができるようになります。
担当者が頻繁に変わると、顧客との信頼関係は築きにくくなりますが、定着率が高ければ、長期的な信頼関係が育まれ、顧客満足度の向上やリピートにもつながります。
組織の成長と安定につながる
社員の定着が続けば慢性的な人手不足に悩まされることもなくなり、長期的な事業戦略を実行しやすくなります。
また、ベテラン社員が若手の良いお手本となり、チーム全体の力を引き上げることにもつながるでしょう。
リテンション施策のデメリット
リテンション施策には多くのメリットがありますが、一方で注意すべき点やデメリットも存在します。
ここでは代表的なデメリットについて紹介します。
施策のコストや手間がかかる
リテンション施策を行うには、給与や福利厚生の見直し、働きやすい職場環境の整備、研修やキャリア支援の充実など、さまざまな取り組みが必要です。
そのため、短期的にはコストや時間、人的リソースがかかることがあります。
特に、中小企業ではリソースの確保が課題になる場合もあります。
成果が出るまでに時間がかかる
リテンション施策は、実施してすぐに効果が出るものではありません。
従業員の満足度や定着率が改善するまでには一定の時間がかかります。
その間に離職が続いてしまうケースもあり、成果が見えにくいと感じることもあります。
人材の流動性が下がる可能性がある
リテンション施策によって社員の離職を防ぐことができますが、その結果、人材の入れ替わりが少なくなり、組織の新陳代謝が低下する場合があります。
多様な人材が組織に循環することで生まれる新たな視点や活力が得にくくなる可能性も考えられます。
リテンションの具体的な施策
リテンションを強化するためには、社員が安心して長く働き続けられるよう、さまざまな取り組みが必要です。
ただ単に待遇を良くするだけでなく、キャリア支援や働きやすい環境づくりなど、総合的な対策が求められます。
ここでは、実際に企業で取り入れられている具体的なリテンション施策について紹介します。
評価制度・給与制度の見直し
社員が「正しく評価されていない」「給与が見合っていない」と感じると、モチベーションが下がり、離職につながることもあります。
そのため、評価の仕組みや給与体系を定期的に見直し、社員の成果や努力が反映される体制を整えることが重要です。
例えば、目標達成型評価(MBO)や360度評価など、自社に合う方法を導入するのも1つの方法です。
キャリア形成のサポート
社員が自分のキャリアを描けるよう支援することも重要になります。
異動や配置転換を行う際には、社員の希望や適性を踏まえることで、納得感のあるキャリアパスを実現できます。
また、幅広い業務を経験できるジョブローテーション制度を設けるのも有効です。
スキルアップの支援
仕事への意欲を高めるためには、社員が成長を実感できる環境が大切です。
専門スキルの習得を支援する研修や、キャリアに役立つセミナーの実施など、学びの機会を提供することで、社員の成長と企業の成長の両方につながります。
ワークライフバランスの充実
長く働き続けてもらうには、仕事と生活のバランスがとれた働き方が求められます。
フレックスタイム制やリモートワーク、育児・介護休暇など、多様な働き方を選べる制度を整えることで、社員一人ひとりの事情に寄り添えます。
また、制度を使いやすい雰囲気づくりも欠かせません。
社内コミュニケーションの活性化
風通しの良い職場は、社員同士が支え合える環境をつくります。
上司と部下の1on1ミーティングやメンター制度を導入することで、悩みや意見を共有しやすくなります。
また、部署を越えた交流を促すイベントや座席のフリーアドレス化も効果的です。
働きやすい職場環境作り
職場の整理整頓や清掃など、基本的な環境整備もリテンション対策の1つです。
気持ちよく働ける環境を保つことで、社員のストレスを減らし、生産性向上にもつながります。
特に「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ(5S活動)」を意識することが大切です。
心理的安全性の確保
社員が安心して意見を言える職場であることも、定着率を高める重要なポイントです。
例えば、上司や先輩が気軽に相談に乗る文化をつくる、新しいアイデアを自由に出せる場を設けるなど、心理的に安全な職場を目指しましょう。
►リテンションの施策の詳細や事例について、次の記事も併せてご覧ください:若手や優秀な人材を定着させる社内のリテンション施策とは?企業事例も紹介
自社のリテンション施策を見直すためのチェックポイント
社員の定着を図るには、早めに「離職リスクのサイン」をつかみ、適切な対策を取ることが欠かせません。
そこで、自社のリテンション対策が機能しているかどうかを確認するためのチェックポイントを紹介します。
日々のコミュニケーションは十分か
社員の小さな変化に気づけるよう、普段からコミュニケーションの機会を持てているでしょうか。
上司や同僚と定期的に話す場があるか、また、悩みや不満を打ち明けやすい環境になっているかを見直しましょう。
勤怠データのチェックは行えているか
遅刻や欠勤、長時間労働が目立つ社員はいないか、定期的に勤怠データを確認する仕組みがあるでしょうか。
勤怠の乱れは、心身の不調や仕事への意欲低下のサインかもしれません。気になるデータがあれば、個別のフォローが必要です。
過去の離職者の傾向を分析しているか
これまでに退職した社員の共通点を振り返り、同じような状況にある社員がいないかをチェックしていますか?
例えば、特定の部署や役職、業務内容に集中している場合は、構造的な課題が隠れている可能性があります。
サーベイや面談で社員の声を集めているか
定期的なサーベイ(パルスサーベイやストレスチェック)や1on1面談を通じて、社員の本音を聞く機会を持てているかも重要です。
社員の不満や不安を把握し、それに対する対策を講じることが、離職を防ぐポイントになります。
リテンションを正しく理解して効果的な施策につなげよう
今回はリテンションについて幅広く解説しました。
人材の確保が難しくなっている今だからこそ、社員が「ここで働き続けたい」と思える環境づくりが欠かせません。
リテンションに取り組むことで、離職を防ぐだけでなく、職場の雰囲気や生産性も良くなっていきます。
まずは、自社でできることから少しずつ取り組んでみましょう。