老後の資産形成を目的とした、自助努力による資産運用の重要性が高まっています。そのような中で注目されているのが個人型確定拠出型年金iDeCo(イデコ)です。今回は個人型確定拠出年金iDeCoについて、概要や加入するメリット・デメリット、事業主に求められる対応などを詳しく解説していきます。
確定拠出年金(401K)について、詳しくはこちら。
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個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)とは

個人型確定拠出年金、iDeCo(イデコ)という言葉を聞く機会が増えてきました。個人型確定拠出年金(以下、iDeCo)とは、個人が自助努力で資金を積み立て運用する、老後の資産形成を目的とした年金制度です。
これからiDeCoへの加入を検討している方や従業員がiDeCo加入を検討している事業主は、iDeCoの概要をよく理解する必要があります。
まずiDeCoとはどのような年金制度かを理解しましょう。
iDeCoは原則誰でも加入できる
iDeCoには細かい加入条件がなく、最低限の条件を満たせば誰でも加入できる私的な年金です。
最低限の条件は、
- 日本に住んでいること
- 20歳以上60歳未満であること
- 国民年金保険料を納めていること
以上の3つです。
iDeCo公式サイトでは、簡単な質問に答えるだけで加入資格を調べることができます。
iDeCoの掛金は月額5,000円から
iDeCoは毎月掛金を積み立てることで、資産をつくっていきます。積み立てる掛金は、月額5,000円から設定可能です。
掛金は変更することができ、職業別に定められた上限金額まで1,000円単位で上乗せすることができます。
iDeCoの職業別掛金上限金額
iDeCoの掛金の上限金額は、国民年金保険の加入状況(職業別)によって異なっています。企業勤めの会社員がiDeCoを利用する場合は、勤務先に企業年金等があるかなどによっても、限度額が変化するので注意が必要です。
以下の表に、掛金の限度額の違いをまとめています。
区分 | 月額 | 年額 |
第1号被保険者(自営業者など) | 68,000円 | 816,000円 |
第2号被保険者(会社員) |
|
|
第2号被保険者(公務員など) | 12,000円 | 144,000円 |
第3号被保険者(専業主婦・主夫など) | 23,000円 | 276,000円 |
出典:iDeCoの加入資格等|iDeCo公式サイト(PDF資料)
積み立てた掛金を運用商品で運用する
iDeCoで積み立てた掛金は、60歳以降に受け取ることになりますが、受け取れるお金はそれまでに積み立てた掛金だけではありません。掛金の運用によって得た利益(運用益)も受け取ることができます。
掛金は定期預金や投資信託、保険商品などの運用商品を選択・運用することによって、運用益を生むことが期待できます。
運用益は掛金に加算されるので、運用が上手くいけば掛金よりも多くの資産を受け取ることができるという仕組みです。逆に運用方法によっては、掛金よりも資産が少なくなるリスクもあります。
iDeCoの加入概況

出典:統計資料|企業年金連合会
掛金を積み立て運用することで資産形成ができるiDeCoですが、実際どのくらいの人が加入しているのでしょうか。
企業年金連合会の統計によると、2020年3月末時点で1,562,814人が加入しています。内訳は、第1号被保険者177,857人、第2号被保険者1,331,649人、第3号被保険者53,308人です。
1年前の2019年3月末時点で加入者合計1,210,037人であり、毎月加入者が増加しています。被保険者の区分ごとにも毎月増加しているので、日本全体でiDeCoの需要が高まってきています。
iDeCo(イデコ)の受け取り方

iDeCo(イデコ)の給付金受け取りは60歳以降と定められていますが、加入時期や加入者の事情によって受け取る時期や方法が異なるので注意が必要です。
まずは、一括受け取りと分割受け取りの違いです。
60歳以降に一括または分割で受け取ることができる
iDeCoで積み立てた資産は、60歳以降に一括または分割で受け取ることができます。一括で受け取る場合は、一時金として一括で受給します。分割で受け取りたい場合は、年金扱いとして5年以上20年以下の範囲で分割で支払われるという仕組みです。
一括と分割を組み合わせる方法もあります。一部を一時金として受け取り、残りを年金として分割で受け取っていくことも可能です。
受給できる年齢は、iDeCoの加入期間によって異なります。加入期間ごとの受給可能年齢は以下です。
iDeCo加入期間 | 受給可能年齢 |
10年以上 | 60歳 |
8年以上10年未満 | 61歳 |
6年以上8年未満 | 62歳 |
4年以上6年未満 | 63歳 |
2年以上4年未満 | 64歳 |
1ヶ月以上2年未満 | 65歳 |
【例外】60歳以前でも受け取れる場合がある
原則60歳までは資産を引き出せないiDeCoですが、加入者の事情によっては60歳未満の受け取りが認められることがあります。障害給付金・死亡一時金・脱退一時金という3つの給付方法を確認していきましょう。
障害給付金
iDeCo加入者が70歳に到達するまでに傷病などにより障害状態になってしまった場合、障害給付金として受給することができます。通常の受給と同じく、一括または分割、複合型から選び、受け取ることが可能です。
死亡一時金
iDeCo加入者が亡くなった場合、死亡一時金として遺族が受給できます。iDeCoを利用していた機関に加入者等死亡届や死亡診断書などを提出し、受理されると指定された受取人に支給されます。
脱退一時金
一定の要件を満たすことで、iDeCoを脱退し、脱退一時金として資産を引き出すことも可能です。
脱退一時金を請求するためには、以下5つの要件をすべて満たさなければなりません。
- 国民年金の第1号被保険者のうち、国民年金保険料の全額免除又は一部免除、もしくは納付猶予を受けている方
- 確定拠出年金の障害給付金の受給権者ではないこと
- 通算拠出期間が3年以下、又は個人別管理資産が25万円以下であること
- 最後に企業型確定拠出年金又は個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入者の資格を喪失した日から2年以内であること
- 企業型確定拠出年金の資格喪失時に脱退一時金を受給していないこと
iDeCo(イデコ)のメリット

iDeCo(イデコ)には、いくつかの加入メリットがあります。税制面や運用利益などのメリットを3つ紹介します。
メリット1.税制優遇を受けられる
iDeCoの掛金は全額所得控除されるので、所得税や住民税の軽減につながります。60歳以降の受け取り時にも税制優遇があり、一括受け取りは退職所得控除、分割受け取りは公的年金等控除の対象となります。
メリット2.運用次第では、より多くの資産を形成できる
iDeCoでは、掛金を運用することによって運用益を得られる場合があります。運用する商品にもよりますが、投資信託や保険商品などで利益が出れば、その分多くの資産を形成できます。
iDeCoで得た運用益は課税対象にならないのも大きなメリットです。通常の資産運用では運用益に対して約20%の税金が発生しますが、iDeCoであれば税金が一切かかりません。
メリット3.退職・転職に影響されず資産を形成し続けられる
企業年金や退職金と違って、iDeCoは自助努力で積み立てる私的な年金です。企業での勤続年数や退職・転職などに影響されず、継続して老後の資産形成ができます。
iDeCo(イデコ)のデメリット

iDeCo(イデコ)は税制優遇を受けながら資産運用ができる魅力的な制度ですが、デメリットも存在します。あらかじめデメリットを理解した上で、検討をすることが大切です。デメリットを4つ紹介します。
デメリット1.原則60歳まで引き出すことができない
iDeCoで積み立てた資産は、原則60歳まで引き出すことができません。「急な出費があるので、iDeCoから引き出そう」「積み立て途中だが、解約して現金化しよう」といった使い方はできないので、注意が必要です。
要件を満たせば脱退一時金を申請できたり、積み立てをストップしたりできますが、基本的には60歳まで積み立て続けなければなりません。
デメリット2.加入時期によっては60歳から受け取ることができない
iDeCoの給付金は、60歳になれば必ず受給できるとは限りません。先の加入期間ごとの受給可能年齢で触れているように、加入時期によっては受け取り開始が61~65歳になることもあります。
50歳以降に加入した方は、何歳に受け取ることができるかをあらかじめ把握しておきましょう。
デメリット3.運用次第では資産減少のリスクがある
運用する商品や運用配分は、加入者自身で選択します。加入者には運用選択の自由がありますが、運用責任も加入者にあります。運用の結果によっては、資産減少(元本割れ)を起こすリスクがあります。
デメリット4.加入や運用に手数料がかかる
iDeCoの積み立てに使用する口座は、金融機関で専用口座を開設する必要があります。開設手数料は2,829円で、維持手数料は金融機関によって毎月数百円かかります。
iDeCo(イデコ)に関わる事業主に求められる対応

iDeCo(イデコ)は、企業年金や企業型確定拠出年金などに加入している会社員でも加入することができます。そこで、事業主は従業員がスムーズにiDeCoを利用できるように整備をしなければなりません。
従業員のiDeCo加入に伴って事業主には、いくつかの対応が求められます。主な対応は、以下です。
事業所の登録
会社員がiDeCoを利用する場合、年に1回、勤務先に対して加入者の資格の有無の確認が行われます。そのため、加入者の情報から勤務先がわかるように、事業所の登録が必要です。
事業所の登録は、事業所において初めてのiDeCo加入者が出た際に行います。「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書 (K-101A)」に事業主と加入者(従業員)が必要事項を記入し提出することによって、国民年金基金連合会に事業所が登録されます。
加入時に必要な事務
iDeCoに加入する際、従業員は事業主に対して事業主証明書を提出します。事業主は、必要事項を記入し、従業員に渡さなければいけません。記入が遅れると、スムーズに加入できなくなるので、すばやい事務手続きが必要です。
従業員の希望に合わせて掛金の納付が必要になる
加入者である従業員は、個人で掛金を振り込むだけでなく、事業主振込を選択することができます。従業員が事業主振込を選んだ場合は、事業主が掛金を国民年金基金連合会に納付する必要があります。
希望に合わせて納付できる体制づくりや、責任をもって納付することが事業主に求められます。
企業型確定拠出年金(企業型DC)との併用
企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)を既に実施している事業主の場合、企業型DCに加えて個人型のiDeCoの加入を希望する従業員が出た際に、併用できるかどうかが問題になってきます。
結論、事業主が企業型DCとiDeCoの併用を認めることを規約に規定すれば、併用することが可能です。
さらに2022年10月からは、法改正により企業型DC加入者がiDeCoに加入しやすくなります。労使合意に基づく規約の定めや事業主掛金に上限引き下げがなくても、原則iDeCoに加入できるようになります。
ただ、従業員自身が企業型DCの掛金を追加できるマッチング拠出を採用している事業主では、iDeCoとの併用はできません。
事業主側でマッチング拠出を採用するのか、企業型DCとiDeCoの併用を推奨するのかを検討し、正確に従業員に周知する必要があります。
iDeCo(イデコ)の加入から運用までの流れ

iDeCo(イデコ)の概要やメリット・デメリットをおさえたところで、最後に加入から運用の流れを解説します。加入から運用までのステップは大きく4ステップです。
ステップ1.金融機関に資料を請求する
iDeCoに加入するためには、まず金融機関から必要書類を取り寄せます。金融機関によって取り扱っている運用商品や手数料に違いがあるので、複数の金融機関の資料を請求し、比較・検討します。
金融機関の窓口だけでなく、オンラインでも資料請求できるようになっています。
ステップ2.必要書類を送付し、口座を開設する
資料で制度や運用商品、手数料などを理解し、口座を開設する金融機関を選びます。利用する金融機関が決まったら、必要書類を作成・送付します。審査を経て、iDeCo専用口座が開設されます。
ステップ3.掛金をどのように運用するかを検討・決定する
取り扱っている運用商品に対して、どのように掛金を運用するかを選択します。はじめに決定した運用商品や配分は、あとから変更することもできます。
ステップ4.運用を開始し、運用方法を検討・改善する
運用商品・配分を決定し、掛金の引き落としがはじまると、運用が開始されます。運用ですので口座を放置するのではなく、定期的に残高や運用利益を確認し、資産を増やすために、最適な運用方法に改善していくことが大切です。
まとめ

老後の資産形成の手段として、注目されている個人型確定拠出型年金iDeCo(イデコ)。iDeCoの加入条件は3つ。
- 日本に住んでいること
- 20歳以上60歳未満であること
- 国民年金保険料を納めていること
iDeCoの掛金は月額5,000から設定可能。掛金の上限は、国民年金保険の加入状況(職業別)によって異なる。
- 第1号被保険者(自営業者など) 月額68,000円(年額816,000円)
- 第2号被保険者(会社員)
- 第2号被保険者(公務員など) 12,000円 (年額144,000円)
- 第3号被保険者(専業主婦・主夫など) 23,000円(年額276,000円)
企業年金等なし 月額23,000円(年額276,000円)
企業年金等なし、企業型DCに加入 月額20,000円(年額240,000円)
企業型DC以外の企業年金等に加入 月額12,000円(年額144,400円)
iDeCoの受け取り方は3種類。
- 一括(一時金)
- 分割(年金扱い)
- 一括と分割の組み合わせ
iDeCoは原則60歳まで資産を引き出せないが、例外で60歳未満でも引き出せる場合がある。
- 障害給付金
- 死亡一時金
- 脱退一時金
iDeCoのメリットは3つ。
- 税制優遇を受けられる
- 運用次第では、より多くの資産を形成できる
- 退職・転職に影響されず資産を形成し続けられる
デメリットは4つ。
- 原則60歳まで引き出すことができない
- 加入時期によっては、60歳から受け取ることができない
- 運用次第では、資産減少のリスクがある
- 加入や運用に手数料がかかる
事業主に求められる主な対応は3つ。
- 事業所の登録
- 加入時に必要な事務手続き
- 従業員の希望に合わせて掛金の納付(事業主振込)が必要になる
iDeCo加入から運用までのステップは大きく4ステップ。
- 金融機関に資料を請求する
- 必要書類を送付し、口座を開設する
- 掛金をどのように運用するかを検討・決定する
- 運用を開始し、運用方法を検討・改善する
国民全員が加入する国民年金は、現役世代が年金受給世代を支える賦課方式です。現役世代が減り年金受給世代が増えている、いわゆる少子高齢化が進んでいる日本において、この年金制度には限界があります。
国民年金の給付がなくなることはないとはいえ、遅かれ早かれ国民年金の制度見直しが入ることは間違いありません。国民年金だけに頼った老後計画は、長生きすればするほどリスクが高くなります。
自助努力・自己責任によって老後資金を確保する私的年金の重要性は、今後ますます高まっていきます。iDeCoは法改正により、見直し・対象枠の拡大・要件緩和されて加入者数を伸ばしています。
最低限の条件を満たせば、原則誰でも加入ができる私的年金iDeCo。検討するなら今です。