
意識改革が必要だと感じたら。VUCA時代を生き抜く意識改革のポイント
未来に焦点をあてた企業経営にとって、意識改革は必須です。VUCA(Volatility,Uncertainty,Complexity,Ambiguity)の時代、「このままではいけない」、「変化に対応しなければならない」という危機感から【 何か 】を変えなければならないとき、その【 何か 】に意識も含まれるでしょう。「意識を変える必要性は感じるが、いったい何をすれば…」と苦慮される部分かもしれません。
今回は、不確実で予測不能なVUCA時代を生き抜く企業における意識改革のポイントを解説します。
目次[非表示]
- 1.意識改革とは
- 1.1.意識改革の対象者とは
- 1.2.意識改革の対象意識とは
- 2.意識改革を推し進める企業の心得
- 2.1.意識改革の前に解決すべきことがないかを見極める
- 2.2.精神論で終わってはいけない
- 2.3.変えるために変えるべきものを考える
- 2.4.意識改革は必須である
- 3.意識改革が活きる場面、必要となる場面
- 3.1.組織文化の変革に活きる意識改革
- 3.2.企業理念やビジョンの浸透に活きる意識改革
- 3.3.管理職育成に活きる意識改革
- 3.4.従業員の成長に活きる意識改革
- 4.意識改革の問題点
- 4.1.問題点1.企業と従業員の認識の不一致
- 4.2.問題点2.真の問題に立ち向かわなければ無意味
- 4.3.問題点3.慣性による反抗や抵抗
- 4.4.問題点4.熱量の違い(当事者意識の欠如)
- 5.意識改革のポイント
- 5.1.組織一丸となって進める
- 5.2.目的や理由、行動を具体的かつ明確に
- 5.3.小さくはじめる
- 5.4.理解促進のための啓発活動
- 5.5.押し付けない働きかけの継続
- 6.意識改革のメリット
- 7.意識改革を進める際の流れ
- 7.1.現状把握
- 7.2.ビジョンとのギャップを把握
- 7.3.従業員に必要性を認識させる
- 7.4.リーダーが模範となって実践開始
- 7.5.モニタリングや働きかけを継続する
- 7.6.成果を共有し、さらに推進していく
- 7.7.意識を根付かせる
意識改革とは
意識改革とは、考え方や取り組みの姿勢などを従来のものから新しいものに変えることです。 この意識改革を企業経営の中で推進しようとするときに注意すべき点は、視点の偏りです。
視点の偏りとは例えば「従業員が企業理念やビジョンに従っていないことが問題」という視点や、「従業員を企業理念やビジョンに沿わせることが意識改革の課題」だという視点です。この視点は偏っており、間違っています。 意識改革の本質を理解するために、まずは意識改革の対象者、対象となる意識を確認します。
意識改革の対象者とは
意識改革の対象者は、経営者を含め、従業員全員です。そして、経営者が従業員に意識を変えさせるというベクトルは存在しません。
つまり、先の「従業員を企業理念やビジョンに沿わせることが意識改革の課題」という視点は成り立たないということです。
「前へならえ」の間違った視点で無理に変えさせようとすれば、従業員に否定感や反感が湧き、対立関係となって失敗します。意識改革は強制すればなされるものではなく、全員が対象で一人ひとりが自発的に自らの思考や行動を変えるということなのです。
意識改革の対象意識とは
意識改革の対象者は全員ですが、どのような意識をもつことが意識改革にとって重要なのでしょうか。 対象となるのは、従業員から自発的に湧いてくる以下のような意識です。
- 自ら課題を発見しようとする意識
- 発見した課題や問題に対し、自ら解決策を探る意識
- 課題や問題の解決に立ち向かう意識
- 自らの責任で達成や成功を求め続ける意識
- その工程で自己を成長させる意識
また自分ごとだけでなく、組織の一員としての以下のような意識も含まれます。
- 組織を盛り上げていく意識
- 皆で協力して仕事を成し遂げていく意識
- 組織を強く、成長させる意識
いずれにしても、それらの意識の源泉は、従業員の内側にあります。意識改革は外側からの働きかけだけで、実現できるものではありません。
意識改革を推し進める企業の心得
意識改革の必要に迫られたとき、経営者や人事担当者は何を心得ておくべきでしょうか。次に、意識改革を推し進める際の心得を確認していきます。
意識改革の前に解決すべきことがないかを見極める
意識改革の必要に迫られたとき、意識改革をおこなうことが目的になり推進を急ぐのではなく、他に必要な改善要素をないがしろにしていないかの見極めも重要と考えます。見逃しがちなので注意しておきましょう。 例えば、
- 人員数と業務量は適切か
- 企業・経営への信頼は築かれているか
- 納得度の高い人事評価や待遇がなされているか
- 物心両面で労働環境は整備されているか
これらは従業員の意識ではなく、労働環境の整備で変わることです。従業員目線に立てば、意識改革云々以前に、基本的に満たすべき要素を満していない状況を改善してほしいと願うのは当然のことです。 それが十分でないままに意識改革の取り組みを進めても、従業員はついてきてくれません。少なくとも、意識改革の推進が従業員の目には「強制的」に映ることは避けられません。
精神論で終わってはいけない
意識は物体がなく、数値化も難しいため、精神論で語られることが多いです。意識改革は、推進しても精神論で終始してしまいやすい特徴をもちます。まず、経営陣が明確なビジョンを示すことが大切です。そのビジョンを軸に、具体的な行動と成果に変換表現する(落とし込む)ことが、意識改革を推進する人の最初の役割です。
変えるために変えるべきものを考える
企業で意識改革を推進する人は、さまざまな取り組みを考えて実施します。その際に、相手(従業員)を変えるのではなく、相手が変わるには何を変えるのが有効かという視点をもつことをおすすめします。意識改革の成果に、大きな違いが出てくるでしょう。
意識改革は必須である
企業には、意識改革以外にも取り組むべきことは山ほどあります。しかし、ほぼすべての企業が、意識改革の必要性に迫られるという現実もあります。なぜなら、企業を取り巻く外部環境が目まぐるしく変化をし、企業内部に適応を迫るからです。意識改革がなければ、企業は変化に適応する能力をつちかうことができません。
昔からのやり方を続けていても、成長はおろか事業の維持継続が難しい不確実で予測不能な時代です。
外部環境はVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)で、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)に満ちています。すべての企業に、意識改革は必須です。
意識改革が活きる場面、必要となる場面
続いて、意識改革が組織運営のどのような場面に活きてくるのか、または、どのような場面で必要とされるかを考えていきます。 もちろん「意識」ですから、すべての場面にあてはまることは確かです。しかし、何でもかんでも、やみくもにやってみるわけにはいきません。
意識改革について自社に必要なことに絞り込んだ検討は必要です。多様にある活用場面を理解することで、自社にとって有効な取り組みも検討しやすくなります。
組織文化の変革に活きる意識改革
組織文化は、いち経営者がどれだけ理想を謳っても、その言葉だけで作り上げることはできません。個々の従業員の業務態度や成果、数々の行動実践で総合的に、かつ、歴史の中で作り上げられていくものです。
組織文化の変革には、数年単位の覚悟と継続的な意識改革が必要となります。理想とする文化があるとき、その文化を形成する要素が存在します。それを行動指針、クレドに落とし込むことで意識を根付かせて組織文化を変えていきます。
■参考記事;クレドとは。今の時代にクレドが求められる理由と導入のメリット
企業理念やビジョンの浸透に活きる意識改革
企業理念やビジョンを掲げるのは、経営者の役割です。理念は企業の存在意義や目的を表現したものであり、ビジョンは企業のあるべき姿、目指す姿です。ともにひとつの方向に向かい、企業理念をもとにビジョンが存在しています。
しかし、企業理念やビジョンは従業員の日常業務と距離ができやすいため、忘れられやすいです。
企業理念やビジョンの浸透が課題であれば、従業員にとってできるだけ身近なものとなる接点創出が必要です。例えば、評価基準が企業理念やビジョンと一体になっていると従業員の日常業務との距離は縮まります。顧客の課題を解決し顧客から信頼されるパートナーが企業の目指す姿であれば、それを実現できるか否かで評価をすることで企業理念やビジョンが浸透します。
従来型の売上額のみで評価していては、最悪の場合、課題を解決せずとも何でもいいから売った人が結局偉い(評価される)ということになります。それでは従業員の意識と行動は変わらず、企業理念やビジョンは浸透しません。
■参考記事;失敗しない人事評価制度の作り方。よくある失敗例や運用に必要なポイント
管理職育成に活きる意識改革
管理職は、企業と従業員の橋渡し役を担っています。また、組織を統率するマネージャーとしての心構えや務めもあります。この層の意識改革が、企業の明暗を分けるといっても過言ではないでしょう。 個々の従業員の可能性を引き出していけるかどうかも、管理職にかかっています。この層の可能性を最大化するときに、意識改革は活きてきます。
従業員の成長に活きる意識改革
従業員自身の成長に意識改革は活きてきます。
主体性や自律を促す
個々の従業員の能力については、すでに個人がもっている要素があります。しかし、今以上の成長は、業務経験によってもたらされるものです。個人の成長のためには「自ら考えて動く」意識と姿勢を欠かすことはできません。
この意識と姿勢に変われば、企業や仕事に対するエンゲージメントも高まるはずです。企業が従業員を管理しすぎると、従業員は受け身になり、考えて動かなくなります。業務遂行の縛りや制限を緩めて自由度を高めると、自ずと思考を働かせるようになります。 従業員を信頼した上での、適切な権限委譲や機会提供も有効です。
ワーク・ライフ・バランスの浸透
心身ともに健康を維持し、長期的に働ける意識をもつことも必要です。長時間労働をすれば成果を出せるという認識から、休暇や休息も仕事に活きるという意識に変わることも課題のひとつです。 ワーク・ライフ・バランスを浸透させる施策を与えて解決ではなく、従業員がその施策を活かすための働きかけが重要です。
最近は家庭と仕事の両立支援施策も活発ですが、利用する従業員だけでなく、その周囲の意識改革も必要となってきます。
■参考記事;ワーク・ライフ・バランス推進のメリットや必要性を解説
従業員の活躍の場の拡大
活躍の場を新たに提供する場合にも意識改革が必要です。たとえば、男性従業員で占めていたポジションに女性を新たに起用するとき、または、女性管理職の登用などもあてはまります。リーダー層の不足やその能力不足の懸念が高まっている昨今、将来の組織を担う若手のリーダー教育を課題とする企業も少なくありません。
そこで抜擢される従業員が、すでに高い意欲をもっているとは限りません。自信がなかったり、適切なマインドを確立できていなかったりするケースがほとんどです。その場合には、主体性をもって動き、リーダーシップを発揮する意識をもてるようにフォローする必要があります。 また、周囲の従業員に偏見や先入観があることも少なくありません。
むしろこのような周囲の後ろ向きな意識は人を委縮させます。失敗をしたとしても周囲が抜擢された従業員の失敗を糾弾するのではなく、失敗は誰にでもあるものだという寛容さが必要です。
意識改革の問題点
意識改革を推進するときに起こりやすい問題点を説明します。意識改革の難易度や成功の可否を左右していることがらです。意識改革が活きる場面、必要となる場面には必ずといっていいほど問題が待ち構えています。 ここでは、4つの問題点をあげます。
問題点1.企業と従業員の認識の不一致
「意識改革が必要」と感じているのが経営者や人事担当者だけ、ということがあります。「意識改革をする!」と声高になるだけでは、変化が起きることはありません。意識改革が起こらないことから、企業側が従業員にルール遵守を要求する場合もあります。
ルールを遵守の要求によってルールを守るようになることは、管理と服従であり意識改革とはいえません。この要求が掲げられる取り組みに対し、真面目に働く従業員は疑問や不快感を抱くでしょう。
問題点2.真の問題に立ち向かわなければ無意味
意識改革と銘打って、やみくもに改革内容が設定されることもあります。世の中で意識改革として取り組まれている内容を安易にピックアップするようなケースです。
自社がもつ真の問題に対処しなければ意味がありません。取り組みには常に従業員の労力と時間、そして費用がかかっていくはずです。真の問題を解決しない取り組みは何も変えないばかりでなく、損失につながるでしょう。
問題点3.慣性による反抗や抵抗
改革は変化です。何かが変わるとき、人には常に慣性の法則が働きます。習慣によって安定した今の状態を維持しようと、一定の抵抗が生まれます。
意識改革では、この安定を維持しようとする慣性がダイレクトに影響してきます。 慣性は、普遍の原理です。人は、仕事以外でも人生のあらゆる場面で変化や時間がかかることを回避しようとしています。「どうせやっても…」と、取り組む前から諦め感をもつ従業員も出てくることが予想されます。
問題点4.熱量の違い(当事者意識の欠如)
経営側や人事担当者がいくら頑張って取り組んでも、従業員が取り組みに対して冷めた対応をとってしまうことも多いです。 従業員は、それぞれの部門や部署に属し、自分の役割を果たすことに努めています。
自分のことで精一杯な従業員は、狭い視野の中で心の余裕をなくしているものです。そのような従業員は、企業をあげての取り組みに対しては、誰かがやってくれるものという他責の意識をもちがちです。
意識改革のポイント
意識改革は、一朝一夕で実現するものではありません。ポイントを押さえつつ、長期視点をもって地道に取り組む姿勢が必要です。それが、成果につながる唯一の方法と考えます。 では、意識改革を推進するときのポイントを確認していきましょう。先の4つの問題点の解決にもつながってきます。
組織一丸となって進める
意識改革の必要性を感じとり、発起して推し進めようとするのは経営者や人事担当者かもしれません。しかし、従業員の意識は、経営陣や人事担当者が動くことで変わるものではありません。さらには、従業員本人が自主的に変えようと決意してもサッと変えることは難しいです。 意識改革は、全員が一丸となって自分たちが取り組むという自主的な姿勢と実践の継続で変えていくしかないのです。ですから誰かがやるのではなく、組織全体が実践者になることが大切です。
目的や理由、行動を具体的かつ明確に
「意識改革をしましょう!」では、たとえ意識が高く協力的な従業員がいても、うまくいかないでしょう。改革につながる具体的な行動を提示することが大事です。その行動の目的、なぜそれが必要なのかの理由まで伝えましょう。明確であるほど、実践されやすいです。目的への理解度が高いほど、継続や成果が期待できます。
小さくはじめる
意識改革に必要なことは、従業員の継続的な実践です。大きなことを要求すると、負荷が大きくハードルが高くなります。その達成までの道のりも遠くなり、モチベーションも保ちにくくなります。意識改革は、小さなことを積み重ねることからはじめましょう。達成感の頻度を高め、前向きな意欲を醸成していくことが不可欠です。
理解促進のための啓発活動
意識改革が、「どういうものなのか」「何のために行うのか」実際に取り組む従業員が理解しておくことも大切と考えます。誤解している人は思っているより多いかもしれません。単なる企業からの命令、指示と捉えていては、求める成果に近づくことはできません。 理解が浅いと到達地点がずれてしまう可能性があります。根本的な理解を得るための、研修などの啓発活動も有効でしょう。
押し付けない働きかけの継続
企業側の宣言だけで、実行を従業員に委ねてしまってはいけません。だからといって、あれこれと押し付けては、意欲を低下させてしまいます。意識改革の継続的な実践に対し、見守る、評価する、改善を促すなどのフォローの継続が必要です。 やらせるという働きかけではなく、継続できる環境を整えて支援することが必須になってきます。企業の人事やマネージャーは、意識改革を継続する上でのブースターの役割を担います。
意識改革のメリット
意識改革がうまくいけば、企業にも従業員にもメリットをもたらします。意識改革には時間がかかりますが、自信とモチベーションを保って継続していくと次のようなメリットがあります。
企業側のメリット
- 従業員エンゲージメントの向上
- 業務効率や生産性の向上
- 雇用の安定化
企業にとっては、組織強化につながる点が最大のメリットです。組織が強くなるほど、競争力も業績も上向きになると考えます。
従業員のメリット
- ポジティブな姿勢で仕事と関われる
- 自己能力が上がり成長実感が得られる
従業員はビジネスパーソンとしての価値を上げ、それを各々が実感します。これは、属している企業だけに有効とは限りません。 従業員の能力が上がり、どこでも通用する人材を創出することは、もしかすると企業にとっては流出リスクになるという考え方もあるかもしれません。しかし、だからこそ、従業員にとっては魅力的なメリットとなります。そのメリットを得られる企業だからこそ魅力を感じ、信頼を寄せるのではないでしょうか。
意識改革を進める際の流れ
最後に、意識改革の進め方を説明します。基本的な流れとして参考にしてみてください。
現状把握
企業と従業員について、それぞれの現状を把握することからはじめます。自社に必要な意識改革の取り組みを発見するために、重要な準備段階です。ヒアリングや情報収集を行い、客観的に分析することがポイントです。
ビジョンとのギャップを把握
企業のあるべき姿(ビジョン)を明確にします。ビジョンと現状とのギャップを測り、ギャップを認識しましょう。そのギャップを埋めるための取り組み・行動を限りなく具体的に検討します。
従業員に必要性を認識させる
従業員への周知で重要なことは、何が課題であり、なぜそれが必要なのかを正しく伝えることです。そして何より、経営者が意識改革にコミットしなければ、従業員は納得しません。課題と必要性に照らした「必要とされる行動」を明確に提示し、従業員の理解と納得感を得ます。
リーダーが模範となって実践開始
リーダー(経営者、人事、管理職)が、率先して実践していくことが重要です。従業員は、その姿を見て納得して自らの行動に反映します。リーダーの影響力が強い組織であれば、フォロワーは自然に真似するようになるものです。
モニタリングや働きかけを継続する
従業員の行動に対し、モニタリングも不可欠です。声掛けなどで承認していくことで、継続を促進できます。定期的に評価の機会があると、さらに効果は高まるでしょう。
成果を共有し、さらに推進していく
成果は必ず共有し、どう変化しているのかを客観的に伝えます。全体で取り組んでいるという企業の意思表示にもなりますし、従業員が行動を継続するモチベーションも創出するはずです。
意識を根付かせる
行動を継続することで、意識を根付かせていきます。意識改革は、慣性で変わらない行動が無意識であったことに気付くことからはじまります。そして、変わることを意識して行動の改善を継続します。その行動改善が自然に定着していきます。最終的には、無意識でもその行動がなされるようになることが、意識改革の目指すゴールです。