2019年4月1日より順次施行されている働き方改革関連法。中小企業への適用猶予があった法改正も、2020年4月以降徐々に中小企業に対して適用されます。今回は、働き方改革関連法の中小企業への適用時期と中小企業が抱える問題、それと中小企業におすすめの働き方改革推進支援を紹介します。

働き方改革関連法の概要と中小企業の定義

働き方改革関連法の概要と中小企業の定義

働き方改革関連法により労働関係の8つの法律が変わっています。一部法改正の適用に関して、中小企業には猶予がありますが中小企業も例外なく法改正に対応しなければなりません。まずは、働き方改革関連法の概要と中小企業の定義を確認します。

働き方改革関連法の概要

働き方改革関連法は、以下3つの実現のための法改正の総称です。

  1. 長時間労働を是正し、年次有給休暇を取得しやすくする
  2. 多様で柔軟な働き方を可能にする
  3. 雇用形態に関わらない公正な待遇を確保する

これらを推し進めるため、8つの法律が改正されました。以下の8つです。

  1. 労働基準法
  2. 労働時間等設定改善法
  3. 労働安全衛生法
  4. じん肺法
  5. パートタイム労働法
  6. 労働者派遣法
  7. 労働契約法
  8. 雇用対策法

一部の法改正の適用は大企業からはじまり、2020年4月1日からは猶予があった中小企業にも適用がはじまります。

働き方改革関連法について詳しくは、こちらの「なぜ今、働き方改革なのか?働き方改革関連法が変える11のこと」もあわせてご覧ください。

それでは、そもそも中小企業の定義とはどのようなものなのでしょうか。

中小企業の定義

中小企業の定義は、「資本金・出資金」または「常時使用する労働者の数」によって以下のように区分されています。

業種資本金の額または出資の総額常時使用する労働者数
小売業5,000万円以下または50人以下
サービス業または100人以下
卸売業1億円以下
その他3億円以下または300人以下

上記要件に該当しない場合は、すべて大企業とみなされます。

中小企業への法改正適用はいつから?

働き方改革関連法で企業に対応が求められる法改正項目と、中小企業への適用時期を時系列でまとめました。速やかに対応しないと出遅れてしまいます。優先順位をつけながら着実に対応しましょう。

中小企業への適用時期(時系列)

2019年4月1日から適用

年5日の年次有給休暇の取得義務化(罰則あり)労働者(年10日以上の年次有給休暇が与えられる者)の希望を聴いたうえで使用者が時季を指定し、年5日の有休を与えなくてはならない
違反すると労働者1人につき1罪30万円以下の罰金が科される
「フレックスタイム制」の清算期間の延長労働時間の調整・清算が可能な期間の上限を、従来の1ヶ月から3ヶ月に延長
高度プロフェッショナル制度の導入高度な専門知識が必要な業務に従事する労働者については、労働時間・休日・深夜割増賃金などの労働基準法の規定適用を除外する
(労使同意や年間104日以上の休日確保措置などを前提とする)
勤務間インターバル制度の促進(努力義務)業務終了後、翌日出社するまでに一定時間以上の休息を確保する
労働時間の客観的な把握(義務化)すべての人の労働時間を客観的かつ適切に把握する(管理監督者も含む)
産業医・産業保健機能の強化事業者から産業医への情報提供や、産業医などによる健康相談が強化。また、労働者の健康管理の内容を衛生委員会に報告しなければならない

2020年4月1日から適用(大企業は適用済み)

時間外労働の上限規制の導入(罰則あり)残業時間の上限を原則、月45時間、年360時間とする。臨時的で特別な事情があり、労使が合意する場合でも以下を超えてはならない
・ 年720時間
・ 複数月の平均80時間(休日労働含む)
・ 月100時間未満(休日労働含む)
違反すると6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される

2021年4月1日から適用(大企業は2020年4月1日から適用)

雇用形態に関わらない公正な待遇の確保・ 不合理な待遇差の禁止:基本給や賞与などの待遇面で正規・非正規の不合理な格差を解消し、「均衡待遇」を確保しなければならない

・ 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化:待遇差の理由について説明を求められた場合、企業は説明しなければならない

・ 行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争手続き(行政ADR)の規定の整備

2023年4月1日から適用(大企業は適用済み)

月60時間超の残業の割増賃金率引き上げ残業時間が月60時間を超える場合の割増賃金率を現状の25%から50%に引き上げ

大企業よりも中小企業にこそ働き方改革は必要

中小企業にこそ働き方改革が必要な理由

働き方改革は中小企業にこそ必要です。なぜなら、国内雇用の約7割を担っているのが中小企業だからです。

しかし、中小企業の労働生産性は低く、「中小企業白書2018」によると時間あたりの労働生産性は全7業種において中小企業が大企業よりも低い水準です。

企業規模別の時間当たり労働生産性の水準
データ出典:経済産業省 企業活動基本調査、厚生労働省 賃金構造基本統計調査

国内雇用の約7割を占める中小企業の労働生産性の低さは国全体にも影響し、2018年のOECD加盟国における日本の労働生産性は21位となっています

OECD加盟諸国の労働生産性(2018年)

このように、日本は中小企業の働き方を見直し労働生産性を高めなければ、世界での競争力を失いかねません。

日本の労働生産性について詳しくは、こちらの「労働生産性を上げるには?国際比較からわかる日本の働き方の特徴」もあわせてご覧ください。

中小企業が抱える問題

中小企業には問題が山積みです。今後、少子高齢化によって日本国内の生産年齢(15~64歳)人口の総数は、確実に減ります。国立社会保障・人口問題研究所の人口推計によると、2015年には7,728万人だった生産年齢人口が50年後の2065年には3,199万人マイナスの4,529万人となります(2017年推計、出生中位推計)。

50年で3,199万人の生産年齢人口が減少するということは、単純計算すると1年で約64万人の生産年齢人口が日本からいなくなることになります。このことはすべての日本企業に共通した問題ですが、すでに人材の採用・定着・育成に課題がある中小企業にとっては大きな問題です。

日本の生産年齢人口の推計(2017年推計、中位仮定)

また最近は、人手不足が原因の倒産が右肩上がりで増えています。帝国データバンクの調査によると、従業員不足による収益悪化などが原因となった倒産(人手不足倒産)は、2019年1~12月に185件発生しています。前年2018年が153件でしたので32件増(20.9%増)です。

人手不足倒産の件数推移

生産年齢人口の総数が減り続けるということは、人手不足倒産の増加傾向は今後も続くと考えられます。特に人が集まりにくい中小企業にとって、人手不足が原因の倒産危機は大きな問題です。

中小企業が働き方改革を進めるコツ

中小企業に対する働き方改革推進支援のまとめ

働き方改革を推進したくても、なかなか踏み切れない中小企業も多いのではないでしょうか。そのような中小企業におすすめの働き方改革推進支援とコツを紹介します。

働き方・休み方改善ポータルサイトの活用

今すぐできることとして、厚生労働省の働き方・休み方改善ポータルサイトの活用があります。ポータルサイト内では、働き方・休み方指標による自社分析ができます。自社の現状課題が洗い出されるので手探りで働き方改革を進めるのではなく、分析をもとに検討しながら進めることができます。

診断結果に基づいて自社が優先すべき取り組みが提案されるため、「何からはじめればよいのか」というモヤモヤは解消できます。

他にも働き方改革に取り組んでいる企業事例、朝型勤務やフレックスタイム制の推進などに積極的な企業事例が紹介されています。自社の働き方改革を進めるヒントを得ることができます。

働き方改革推進支援センターの活用

働き方改革に取り組む中小企業支援を目的とした働き方改革推進支援センターに相談してみるのもよいでしょう。働き方改革推進支援センターでは労働時間制度に関する相談受付、賃金規定の見直し、利用できる国の助成金アドバイスなど、働き方改革に関連するさまざまな相談に対応しています

働き方改革推進支援センターは全国47都道府県に設置されており、来所による相談はもちろん、電話やメールでの相談の可能です。

キャリアアップ助成金の申請

雇用形態に関わらない公正な待遇確保の一環として、非正規雇用労働者の企業内キャリアップを促進する場合は、キャリアップ助成金制度を活用できます。

キャリアアップ助成金は非正規雇用労働者を企業内で正規雇用労働者等に転換したり、処遇改善の取り組みを実施した事業主に対して助成する制度です。キャリアアップ助成金には7つのコースがあります。以下です。

  1. 正社員化コース
  2. 賃金規定等改善コース
  3. 健康診断制度コース
  4. 賃金規定等共通化コース
  5. 諸手当制度共通化コース
  6. 選択的適用拡大導入時処遇改善コース
  7. 短時間労働者労働時間延長コース

助成金には支給要件があります。支給要件を満たさない場合は、助成金を受給することができません。キャリアアップ助成金について詳しくは、下記厚生労働省のホームページを確認してください。

支援ツールの活用

時間外労働をおこなうには36(サブロク)協定が必要です。36協定届作成支援ツールはこちら。

※36協定届の様式が新しくなりました

36協定について詳しくは、こちらの「36協定と残業、法定休日労働の深い関係。36協定違反となるケースや懲罰」もあわせてご覧ください。

労働者が常時10名以上の事業所の場合は、就業規則の作成・届出が必要です。就業規則作成支援ツールはこちら。

福利厚生の充実で労働環境を改善

中小企業なりの福利厚生の充実について詳しくは、こちらの「中小企業でも福利厚生を充実できる!導入におすすめの制度」もあわせてご覧ください。

中小企業の働き方改革取り組み事例

中小企業の働き方改革取り組み事例

最後に、いち早く働き方改革に取り組んでいる中小企業の事例を3社紹介します。

事例1.パワーネット

香川県で正社員紹介事業・派遣事業を展開するパワーネットでは、以下のような働き方改革によって生産性を高め、<売上高を2年で1.8倍伸ばしました。

  • 全業務をマニュアル化(随時更新)
  • 書類の置き方・引き出し内の配置を共通化
  • 1日のタイムマネジメントの徹底

業務マニュアルを作成し、書類を分類したうえで一人ひとりの机や引き出し、書庫の置き方・収納方法を統一することで、担当者が休んでもスムーズに引き継げるようにしました。

また、全従業員が毎朝その日の業務計画を書き出し、退社時間までのスケジュールを組み立てることで、仕事の優先順位づけや時間管理の意識を徹底させています。

事例2.オカモトヤ

創業100年を超えるオカモトヤ(東京都)は、オフィスデザインや内装工事などを手掛ける老舗企業です。「経営とは人づくり」という理念のもと、以下のような働き方改革を進めています。

  • ICカードを用いた勤怠管理システムを導入し、勤務時間を「見える化」
  • モバイル勤務環境を整備し、テレワークを導入
  • 座席を固定しないフリーアドレス制を導入
  • 5営業日連続の休暇取得を推奨

勤務時間の「見える化」により、2016年から2018年の3年間で平均残業時間を約30%削減しています。また、ITインフラを整備してテレワークを導入し、従業員の柔軟な働き方を推進すると共に業務効率化も進めています。

事例3.三和建設

三和建設(大阪府)は、従業員の充実感こそが顧客満足につながるという社長の考えに基づき、従業員が働きやすい環境整備に力を入れています。以下の働き方改革を進めたこともあり、人手不足が深刻な建設業界にあって、同社では安定的に人材を採用できています。

  • 長期治療のための特別休暇を拡大
  • 女性の雇用環境の改善(社内保育所の設置など)
  • 新入社員が定着しやすい環境整備(寮を新設・メンター社員の配置など)

病気療養が必要な従業員に対するサポートが手厚く、病気で長期間休まなければいけない場合、有給休暇が自動的に2ヶ月付与され、本人に働く意欲があれば延長も可能です。

また、現場に女性専用トイレを完備し、保育所も新設するなど女性従業員の働きやすさにも配慮しています。その結果、建設業界にしては珍しく、女性従業員比率は27%と高水準です。

厚生労働省の働き方改革特設サイトでは、上記事例の詳細やその他の事例が紹介されています。

まとめ

中小企業への法改正適用時期と支援のまとめ

日本国内雇用の約7割を占める中小企業の労働生産性が低いという事実がある。中小企業にこそ働き方改革が必要で、生産性を高めていかなければ日本経済は後退し続ける。

働き方改革関連法により、8つの労働関係の法律が改正された。

  1. 労働基準法
  2. 労働時間等設定改善法
  3. 労働安全衛生法
  4. じん肺法
  5. パートタイム労働法
  6. 労働者派遣法
  7. 労働契約法
  8. 雇用対策法

一部の法改正適用時期は、大企業と中小企業とで異なる。

    2019年4月1日から中小企業に適用された改正

  • 年5日の年次有給休暇の取得(義務化)
  • 「フレックスタイム制」の清算期間の延長
  • 高度プロフェッショナル制度の導入
  • 勤務間インターバル制度の促進(努力義務)
  • 労働時間の客観的な把握(義務化)
  • 産業医・産業保健機能の強化
    2020年4月1日から中小企業に適用される改正

  • 時間外労働の上限規制の導入(罰則あり)
    2021年4月1日から中小企業に適用される改正

  • 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
  • 不合理な待遇差の禁止
    労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
    行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争手続き(行政ADR)の規定の整備

    2023年4月1日から中小企業に適用される改正

  • 月60時間超の残業の割増賃金率引き上げ

中小企業のための働き方改革推進支援の活用。

中小企業にとっては「限られたリソースで、いかに効果的に働き方改革を推進して生産性を高められるか」がカギとなります。今回の内容を参考にしながら、生産性の高い職場づくりを進めてください。