フリーライダー社員の原因と対策。組織の生産性を落とすフリーライダー

フリーライダー社員の原因と対策。組織の生産性を落とすフリーライダー

「給料泥棒」という言葉を耳にしたことがありませんか。フリーライダー社員はまさに「給料泥棒」であり、労力を使わず報酬を得る存在です。フリーライダー社員を放置すると、組織に悪影響を及ぼします。本記事では、フリーライダー社員の特徴や対策方法、対応の必要性などを解説します。

フリーライダーとは

フリーライダーとは

フリーライダーとは経済学で使われる用語で、以下のような意味があります。

  • 活動に必要なコストを負担せず利益だけを受ける者
  • 不労所得者
  • 交通機関にただ乗りする者

対価を支払わず利益を得る “ただ乗りする人” がフリーライダーです。企業においては、対価が仕事の成果で利益が賃金とすると、仕事をあまりしていない(成果を出さない)にも関わらず、賃金を得る労働者のことを指します。

仕事をあまりしていないのにそれなりの賃金をもらっている労働者、他人の成果を自分の成果のように振る舞い評価されている労働者などは、「フリーライダー社員」といえるでしょう。

フリーライダー社員の特徴

フリーライダー社員の特徴

自社の従業員がフリーライダー化しないようにするためには、まずフリーライダーの特徴を知らなくてはいけません。特徴を理解しているとフリーライダー予備軍にいち早く気づくことができ、フリーライダーの自覚がない従業員に対してもアプローチできるようになります。

フリーライダー社員の5つの特徴を挙げます。

特徴1【怠惰】業務に時間がかかる(あえてかけている)

従業員それぞれスキルや意欲などが異なり、業務にかける時間にも差があります。ただ、やる気がなくて時間がかかっている、すぐに終わる仕事をあえて時間をかけているという傾向がみられると、フリーライダー社員の可能性が高いです。

フリーライダー社員は与えられた仕事だけで1日を終えたい、自分は最低限の仕事をこなし他の人に仕事をやってもらいたいといった怠惰な態度をみせます。より悪質なフリーライダー社員は、仕事にわざと時間をかけて残業し、残業手当を得ようと考えます。

特徴2【否定】批判的な意見が多く仕事に消極的

フリーライダー社員は、いかに仕事や責任から逃れるかを重視しているので、それらが自分に回ってくる場合に批判的な意見を述べる傾向があります。

建設的な批判であれば、従業員や組織のためになります。しかし、フリーライダー社員の批判はあくまで保身のためであり、部下や同僚の仕事批判や提案の否定は説得力のない意見になることがほとんどです。

特徴3【他責】仕事への責任感が薄い

自分に不利益が起こることを避けようとするため、仕事への責任感が薄いのが特徴です。責任から逃れようと重要な仕事を避けたり、失敗しても他のメンバーに責任を押し付けたりします。

また、与えられた仕事に対する責任感も薄く、しっかりやり遂げることなく、形だけで仕事を終えることもあります。

特徴4【横取】他人の成果を奪う

フリーライダー社員は、楽をして利益を得ようとする人です。自分の利益を多くするために、他人の成果をあたかも自分の手柄のように主張し、より利益を得ようと振る舞います。

特徴5【回避】他人に負担をかけて逃げる

フリーライダー社員は、面倒な仕事から逃れるために、周りのメンバーに振られる仕事が増える可能性があります。仕事を任せようとしても、理由をつけて回避するのが特徴です。

その結果、他のチームメンバーが残業を強いられたり、生産性が落ちたりするなど、周囲にも影響を与えてしまいます。

フリーライダー社員が生まれる原因

フリーライダー社員が生まれる原因

フリーライダー社員は、なぜ生まれてしまうのでしょうか。

その原因には、雇用形態や環境などがあります。フリーライダー社員が生まれる主な原因を3つ解説していきます。

原因1.あまり仕事をしなくても雇用を保護される労働環境

終身雇用と雇用保護規制によって正規雇用労働者が過保護に守られてきたことが、原因の一つです。

終身雇用が前提にある企業では、「タテの移動」がキャリア形成になります(社内昇進によるキャリア形成)。同一企業でタテに昇進し続ける「タテの移動」では、キャリア形成の責任は企業にあり、従業員の自発的なスキルアップは構造的に発生しません。

その組織の中でうまく立ち振る舞うことができれば、スキルアップ努力をせず成果を出していない従業員でも籍を置き続けられます。正規雇用であれば、よほどのことがない限り、解雇されることはありません。

そのような生涯雇用が保障されている正規雇用労働者は、面倒な仕事や自分に責任がかかる仕事を周りのメンバーや非正規雇用労働者に押し付けて仕事を進めることができます。

終身雇用と雇用保護規制によって「仕事をあまりしなくても、雇用は保障されている」という勘違いを生む環境がフリーライダー社員を生みます。

原因2.余剰人員を抱えて仕事と人員のバランスが合わない組織

終身雇用とメンバーシップ型雇用により余剰人員を抱えている企業では、フリーライダー社員が生まれやすくなります。

仕事内容や勤務地などを限定せずに総合職人材として採用をするメンバーシップ型雇用は、労働者が割り当てられた業務や命令にフルコミットするかわりに継続雇用が保障されます。

もし市場環境が変化し、経営戦略や事業計画が変わったとしても、継続雇用を保障しているためメンバーシップ型雇用の人材の入れ替えは難しくなります。整理解雇はできるものの、条件が厳しいため、結果的に企業は異動や転勤によって余剰人員の解雇を回避します。

異動や転勤を命じても余剰人員という状況に変わりはなく、仕事を人任せにしようと思えばできてしまう環境です。余剰人員を抱えた組織では、意欲がなく、うまく立ち回ろうとする従業員がフリーライダー化する傾向があります。

原因3.個人の能力やスキルに寄らない評価制度

年功序列の評価制度もフリーライダー社員を生む原因の一つです。年功序列の評価制度では、個人の能力やスキルと評価は関係ありません。

職務を決めずに新卒一括採用をして、若いうちは賃金を低く設定しておき年齢とともに賃金を上昇させる年功評価は、終身雇用を前提とした企業にとっては都合のよい評価モデルでした。

しかしそのような評価制度では、本当の意味での個人の能力やスキルは問われません。年次が重要であって、仕事の成果や責任をもって仕事を遂行する能力は二の次になります。

年功序列の評価制度によって「評価されている」という錯覚に陥ると、意欲がなく能力のない従業員が【否定】【他責】【回避】といったフリーライダー社員の特徴をみせます。

勤続年数だけで評価されていた能力が開発されていない従業員が個人の能力が問われる局面を迎えると、過剰な自己防衛に走り、フリーライダー社員になりやすくなります。

失敗しない人事評価制度の作り方。よくある失敗例や運用に必要なポイント

フリーライダー社員が組織に与える悪影響

フリーライダー社員が組織に与える悪影響

フリーライダー社員が組織内に存在すると、本人が得をするだけでなく、組織全体に悪影響を与える可能性が高いです。

全体の雰囲気が悪くなる、業務効率が悪くなるといったことから、最悪の場合は企業の業績にまで波及していきます。フリーライダー社員が組織に与える悪影響の例は、以下の通りです。

周りのメンバーがフリーライダー化してしまう

周りのメンバーは、フリーライダー社員に対して、「自分は頑張っているのにあの人はラクしている」「あの仕事量で高い給料をもらっているのはおかしい」といったネガティブな感情を抱きやすいです。

「あれでもいいのだ」というふうにフリーライダー社員に影響されてしまうと、周りのメンバーまでフリーライダー化する可能性があります。

企業の不利益につながる

周りのメンバーがフリーライダー化したり、真面目に働いている従業員が不満をためたりすると、業務の効率ダウンやコミュニケーションの欠如など起こります。

多くの場合、フリーライダー社員の仕事の振り先や成果を奪うターゲットになるのは、真面目に働いている従業員です。真面目に働いている従業員に仕事が集中し成果を奪われた結果、モチベーションが落ち、優秀な従業員が離反するかもしれません。

業務の効率や質、生産性が低下することによって、企業の利益が落ち込むことも十分に考えられます。

従業員満足度が生産性を高める。職場の従業員満足度は下がってないか?

フリーライダー社員を生み出さないための対策方法

フリーライダー社員を生み出さないための対策方法

フリーライダー社員をフリーライダーから脱却させたり、フリーライダー社員を未然に防いだりするためには、放置せずに対策を講じる必要があります。

フリーライダー社員の対策方法として、4つの方法を挙げます。

対策1.誰が、何をしているかなど仕事を「見える化」する

フリーライダー社員を生み出さないためには、仕事をサボれない環境にするのが一番です。上司や周りのメンバーが何をしているかわからない状態では、バレないように仕事をサボり続ける環境ができてしまいます。

誰が何をしているのかを報告などで把握できる仕組みを作れば、仕事を「見える化」できます。報告内容と実際の様子が異なっていたり、他メンバーとの仕事量の差や成果の差が「見える化」できれば、フリーライダーにいち早く気づくことができます。

対策2.評価制度を見直す

「頑張っても自分の利益にならない」という風潮をなくすためには、評価制度の見直しが必要です。年功序列の評価制度は能力のある優秀な人材の離反を招くので、見直したほうがよいです。

また、成果だけでなく、仕事に取り組む姿勢や成果にいたるまでのプロセスも評価できるようにすると、前向きに働くきっかけになります。

できるかぎり公平な評価制度を確立することによって、仕事をあまりしていないフリーライダー社員は評価されず、真面目に働く従業員が評価されるようになり、フリーライダーの発生を抑えることになります。

対策3.自律的なキャリア形成を促す

メンバーシップ型雇用を見直し、ジョブ型雇用を検討する傾向が強まっています。原則人の出入りが少ないメンバーシップ型雇用では、従業員による自発的なリスキルやスキルアップが発生しないまま、フリーライダー化するリスクが高まります。

ジョブ型雇用にすればいいというわけではなく、キャリア形成は個人の責任であるという意識を芽生えさせることが重要です。

キャリア自律を促すことができれば、フリーライダーでラクをして賃金を得ようとは考えなくなります。個人でキャリアを決定する前提にあって、フリーライダーになることはすなわち労働市場で自分の価値を下げることにつながり、希望するキャリアを実現できなくなるからです。

キャリア自律を促すことは、フリーライダー対策に効果的です。

意識改革が必要だと感じたら。VUCA時代を生き抜く意識改革のポイント

対策4.採用方法を見直す

これだけ新卒一括採用・メンバーシップ型雇用・年功序列・終身雇用が定着した日本において、採用方法を見直すことは簡単ではありません。それぞれが密接に組み合わさって一つの強固な採用システムを作りあげているため、どこかを一部変えようとしても変わりません。

ただし、フリーライダー社員が生まれる原因で指摘した通り、新卒一括採用・メンバーシップ型雇用・年功序列・終身雇用がフリーライダー社員を生む一因になっています。

今後はさらに環境の変化が激しくなり、戦略のシフト・組織能力のシフトが求められます。そうなると人材の入れ替え(高い人材流動性)は必須です。

良し悪しは別として、組織能力のシフトのために(本業の赤字経営のために)早期・希望退職を募集する企業が増えています。2021年の上場企業の早期・希望退職者募集人数は1万人を超えています(6月3日時点)。2019年から3年連続で1万人を超えています。

この次に起こることは、必要な組織能力にフィットした高度専門人材の確保です。これからは職種別の中途採用比率を高めるなどして人材の流動性を高めていくと、フリーライダーの発生リスクを抑えて、必要な組織能力の確保というリターンを得ることができます。

ダイバーシティ&インクルージョン。労働生産性を高める組織になるには

今後はフリーライダー対策がより重要に

今後はフリーライダー対策がより重要に

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大もあり、リモートワークが普及しつつあります。リモート環境では、部下を直接マネジメントしにくくなっているのも事実です。

メンバーの仕事の様子が観察できないことから、適切な対策を講じないと、従業員がフリーライダー化するかもしれません。一か所のオフィスに集まることを前提としないリモートワークにあって、気を付けることは以下です。

明確な達成目標を設定する

従業員それぞれが仕事に前向きに取り組むためには、明確な達成目標(成果物)を設定することが大切です。目標(成果物)があることによって、ゴールまでの進捗や個人の成果を把握できます。

これまで達成目標(成果物)を共有する仕組みがなかった場合は、まず目標(成果物)の明文化に取り組みます。

職務内容や達成目標・成果物が不明確で曖昧なまま(ジョブディスクリプションが不在)、3~5年単位で形骸化したジョブローテーションを繰り返しているとフリーライダーが生まれやすくなります。

計画的なコミュニケーションが不可欠

オフィスワークでは、会話をしたいときにメンバーに声をかけることができました。オフィスワークでは直接顔を合わせて会話ができ、仕事の様子や心理状態も把握しやすいです。

一方リモートワークでは、仕事や心理が観察しにくいだけでなく、計画的にコミュニケーション機会を作らなければメンバーとコミュニケーションをとることができません。

オフィスワークよりも計画的なコミュニケーションを心がけ、マネジメントに力を入れる必要があります。