日本企業の離職率の平均は?離職率を高める労働環境の特徴と離職理由
人手不足や人材流動化が高まっている昨今、離職率をむやみに高めないことは企業にとって最重要課題の一つです。今回は日本企業の離職率の平均を確認し、離職率を高める労働環境の特徴をもとに、離職理由を考えます。「なぜ、こんなに人が辞めるのだろう」このような悩みや疑問のヒントにお役立てください。
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目次[非表示]
- 1.離職率とは
- 2.離職率が注目される背景
- 2.1.従来の日本企業での働き方と世界の平均勤続年数
- 2.2.転職に対する見方の変化
- 2.3.今後は、人材の流動性がさらに高まってくる
- 3.離職率の平均
- 3.1.日本企業における離職率の平均
- 3.2.新卒採用の3年以内離職率
- 4.離職率の高い労働環境の特徴
- 4.1.特徴1.評価・待遇の不全
- 4.2.特徴2.コミュニケーションがとりにくい
- 4.3.特徴3.ハラスメントの横行
- 4.4.特徴4.不明瞭な業務内容
- 4.5.特徴5.教育やフォロー体制の不備
- 4.6.特徴6.休暇がとりにくい
- 4.7.特徴7.働き方の選択肢が少ない
- 5.離職理由
- 5.1.給与や評価への不満
- 5.2.上司との相性、職場の人間関係の問題
- 5.3.企業の将来に対する不安
- 5.4.新卒特有の離職理由
- 6.離職率をむやみに高めないために
離職率とは
離職率は、その企業でどれくらいの従業員が辞めているのかの割合を示すものであり、入社1年以内や3年以内などの短い期間のうちに退職した人の割合を指すことが一般的です。
環境の変化が激しく、経営戦略に必要な優秀な人材確保が難しくなる中、離職率を下げる重要性も高まっています。
離職率が高い=悪い企業、離職率が低い=良い企業とは限らない
離職率が高いことは良くないという認識がありますが、一概にそうではありません。離職率を上げる要因には、不可避なものや確率的な側面をもつ場合もあります。
確率的な側面
例えば、採用人数が非常に少ない企業であれば、1人の退職が離職率に大きな影響を及ぼします。10人の採用者のうちから1人退職すると離職率は10%ですが、2人のうちから1人退職すると50%と計算されてしまいます。
このように、母数である採用人数には企業ごとのばらつきがありますので、必ずしも離職率だけで対等に比較できるわけではありません。
離職率が低い「転職しづらいブラック企業」
離職率の低い企業の中には、従業員が転職活動をする余力もないほど仕事に忙殺されている、いわゆる長時間の労働搾取企業(ブラック企業)のような企業も少なからず存在しています。
もちろんこうした企業は、従業員満足度が高いことから離職率が低くなっているわけではありません。むしろ、従業員の満足度はとても低く、業績も上がりにくい構造が常態化しています。
離職率が高いことの影響
離職率が高いと、企業にさまざまな影響をもたらします。
- 組織力の低下
- 従業員の士気の低下
- 顧客や取引先からの信用低下
- 新卒や中途の採用が困難になる
- 採用コスト増大、育成コストの損失
といった悪い影響です。
離職率が注目される背景
離職率が注目される背景には、雇用環境の変化が関係しています。どのような背景があるのかを確認しましょう。
従来の日本企業での働き方と世界の平均勤続年数
従来の日本企業における人材の評価は、何かに熟練していること≒勤続年数の長さで決まる傾向がありました。
日本企業では年功序列の評価が広く採用され、正規雇用労働者としてひとつの企業で勤め上げることが、日本の労働者の一般的な(単線型の)キャリアパスとなっていました。
このため日本では、転職回数が多い人材は採用場面において不利になる傾向があります。日本企業の採用には、空きポジションに対して能力が見合う人材を採用するよりも、その企業で長く働いてくれそうな人材を優先して採用する前提があるからです。
一方、転職=キャリアアップと考えるアメリカでは、よほど問題がないかぎり、転職回数はポジティブに捉えられます。アメリカは平均勤続年数が4.2年ですので、仮に一生の労働年数を40年で計算すると約8回転職(9社経験)していることになります。
日本の平均勤続年数は12.1年でアメリカの2.9倍です。同じく一生の労働年数を40年で計算すると約2回転職(3社経験)していることになります。
日本よりも平均勤続年数が長い国はイタリアの12.2年のみで、世界的にみると平均勤続年数10年未満が多いです。
参照:データブック国際労働比較2019|独立行政法人 労働政策研究・研修機構(PDF資料)
転職に対する見方の変化
日本国内の市場が縮小している昨今、グローバル市場に目を向ける必要性が高まっています。日本国内の人材も減少し続けるため、人材獲得はグローバルで行われています。
優秀な外国人高度人材が日本企業に採用されたり、逆に優秀な日本人人材が外資企業に流出したりするのは珍しいことではありません。
社会の変化のスピードに対応し、また多様なニーズを把握しながら多様な顧客に対応するには、企業としての俊敏性と組織内の多様性が必要です。
ひとつの企業で勤め上げた均一的な価値観をもつ正規雇用労働者だけの集団では、多様性を包含できません。そのような集団は内部のすり合わせや調和を大事にするため、俊敏性にも欠けます。
俊敏性と多様性を組織に醸成するためには、柔軟で寛容な企業文化が必要です。複数の企業や業界を経験した転職組は、あらゆる専門知識や業界の常識にとらわれない外での経験をもっています。
以前に比べると終身雇用・年功序列の考え方ではなく、能力と外での経験をもっている転職組を好意的に迎え入れる日本企業が増えています。
こうした環境の変化が、転職に対する企業や労働者の価値観を変える要因となっています。
■参考記事;ダイバーシティ&インクルージョン。労働生産性を高める組織になるには
今後は、人材の流動性がさらに高まってくる
最近は、人材の流動性がさらに高まっています。社会環境の変化も重なり、転職することのハードルが低くなっています。 離職の理由にも変化がみられます。
従来は、「生活と仕事との両立が難しいため仕方なく離職する」というケースが多かったです。しかし、テクノロジーの進歩により多様で柔軟な働き方の選択肢が増えてきた現代社会では、こうした理由による離職は減少傾向にあります。
一方、給与、待遇、勤務時間、仕事内容、職場の人間関係など、労働者にとってより良い条件で働ける場所があれば、転職を検討する傾向が強まっています。
近年では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が主要因となる、オフィス集約型だけではない分散型ワークが広がりつつあります。
在宅勤務やサテライトオフィスでの仕事が可能な求人も出てきています。
長時間通勤を苦にしてきた人や仕事のためにプライベートをあきらめていた人が、我慢することなく、あきらめることなく仕事ができる社会になりつつあります。
意味もなく全員出社しなければならない同調圧力が行き過ぎた組織や、正規雇用として雇用を保障するかわりに雇用主側の命令にフルコミットさせる労働搾取型企業からの人材流出がはじまっています。
参考:Y・Z世代は知っている 未来の職場の条件|日本経済新聞
離職率の平均
では、近年の日本全体の平均離職率を確認しましょう。自社の数値と比較してみてください。
日本企業における離職率の平均
日本企業全体を対象とした離職率平均値の過去3年間の推移をみてみましょう。この離職率は、年度の開始時に従業員として勤務していた人が、年度内に同企業を退職している割合を指しています。
- 2018年 14.6%
- 2019年 15.6%
- 2020年 14.2%
このデータから、過去3年間ではおよそ15%程度の労働者が、何らかの理由で離職しているといえます。
新卒採用の3年以内離職率
新卒採用(大学卒)の従業員が3年以内に離職する割合は過去10年ほど横ばいで推移しており、おおよそ30%程度となっています。
- 2016年卒入社 32.0%
- 2017年卒入社 32.8%
- 2018年卒入社 31.2%
参照:学歴別就職後3年以内離職率の推移|厚生労働省(PDF資料)
離職率の高い労働環境の特徴
離職率の高い労働環境にはいくつかの特徴があります。このうちのどれか、もしくは複数が合わさり、離職の決定要因になっています。離職率を高める労働環境の主な特徴を7つ挙げます。
特徴1.評価・待遇の不全
評価制度のあり方は、従業員の定着、離反、モチベーションに深く関係しています。公平性を感じる評価制度による納得度の高い待遇が必要です。
評価に反映されない空回りの努力が続いたり、勤続年数が優先される年功評価であったりすると、優秀な若手や高度専門人材は評価・待遇に不満をもち、離職を考えるようになります。
■参考記事; 失敗しない人事評価制度の作り方。よくある失敗例や運用に必要なポイント
特徴2.コミュニケーションがとりにくい
組織内のコミュニケーション不全は、多くの企業で課題になっています。
組織のコミュニケーション不全は、業務の進行を妨げ、質を低下させます。 徹底的に議論を尽くさない、あるいは安心して発言できない労働環境には、誤解・不信・不満・不安といったネガティブな要素が発生しています。こうしたネガティブ要素が引き金となって、離職を考える人が出てきます。
特徴3.ハラスメントの横行
悪質ないじめやハラスメントのある労働環境に居心地の良さはありません。直接の被害者でなかったとしても、その職場の雰囲気を察知して離職を考える人もいます。
その状況が自分に対するリスクだけでなく、企業にとってのリスクであることを知っているからです。
■参考記事;パワハラとは?パワハラ防止法の施行で知っておきたい定義と行為類型
特徴4.不明瞭な業務内容
業務内容が曖昧なまま働く労働環境は、日本企業の雇用慣習も影響しています。日本企業では、勤務地や職務を限定しないメンバーシップ型雇用が主流です。
職種別採用で必要な組織能力を確保するジョブ型雇用と異なり、メンバーシップ型雇用は「入社してから業務内容を決めていく」「会社主導の異動や配置(キャリアは会社主導)」という雇用の考え方のため、割り当てられる業務内容が不明瞭になりやすいです。
結果として、入社後に聞いていなかった配属、転勤になるなど認識の不一致が発覚して早期離職となるケースも少なくありません。
また、職務分掌が不明確なために他の雑務ばかりに時間を奪われて、自分の本来業務が遂行できない労働環境では、不満をもつようになります。
■参考記事;職務分掌とは?組織を円滑に動かす職務分掌規程の作成のポイント
特徴5.教育やフォロー体制の不備
教育体制の不備による離職も多いです。ここでいう教育とは、研修だけでなく、フォロー体制や現場で育成を担うメンバーの存在も含まれます。
教育体制に不安がある労働環境では、その企業での自分の将来(キャリア形成)に希望がもてなくなってしまいます。
その人の能力に問題がなかったとしても、上司のマネジメント能力のなさや周囲がフォローをしない環境に不安を感じて、離職を選択する人もいます。
■参考記事;従業員満足度が生産性を高める。職場の従業員満足度は下がってないか?
特徴6.休暇がとりにくい
所定の休日がとれないという企業は、労働基準法の改正もあり、減少しているかもしれません。 休暇取得の重要性への認識も高まっていることから、有給休暇の日数やその他の休暇制度の種類を充実させる企業も増えています。
休暇取得を積極的にすすめる企業がある一方で、休暇があっても取得できる状況や取得しやすい雰囲気がない労働環境に身を置いていると、離職を考えるようになります。
■参考記事; 【総務人事担当者必読】年次有給休暇の付与日数とは?年次有給休暇の基本
特徴7.働き方の選択肢が少ない
一人ひとりの労働者は、それぞれに仕事以外の事情を抱えています。
家族、子育て、介護、学び直しなど、折り合いをつけつつ働いています。 仕事を最優先としない傾向も高まっており、独自のワーク・ライフ・バランスを実現して豊かに生きたいと考える人が増えています。
このような考えをもつ人にとって場所と時間に縛られる選択肢が少ない労働環境は「働きにくさ」、QOL(Quality of Life:生活の質)を下げるように感じます。個人の多様な生き方と硬直化した働き方のギャップから、離職を選択する人もいます。
■参考記事;ワーク・ライフ・バランス推進のメリットや必要性を解説
離職理由
日々転職者と相対する転職コンサルタントを対象に、転職者が企業に伝える離職理由のホンネとタテマエを聞いたところ、転職・退職理由の”本音”としては以下のような項目が上位にあげられました。企業側にはあまり伝えられることがない”本音”=本当の退職理由を確認しましょう。
参照:転職コンサルに聞いた!求職者の「転職理由(退職理由)のホンネとタテマエ」|エン人事のミカタ by エン・ジャパン
給与や評価への不満
“本音” 報酬をあげたい(57%)、評価に納得できない(48%)
出典:エン 人事のミカタ
給与や評価に対する不満が、離職の理由です。成果を上げてもほとんど昇給しなかったり、ボーナスに反映されなかったりすると「ここにいても正当に評価してもらえない」と考えるようになってしまいます。
また、人事評価の基準が曖昧な場合もモチベーションに悪影響を及ぼします。 ただし、不満をぶつけたところで給与が上がり評価がいいほうに変わるわけではありません。
もし、不満を訴えることで給与や評価が即座に変わるようなことがあれば、そんなに曖昧な評価制度はありません。
企業側としても、一個人の不満のために給与体系や評価制度を変えることは、そうありません。
転職市場に出れば、今よりも高く評価をしてくれる企業があるかもしれませんので、離職者にとっては前向きな離職です。
■参考記事; 失敗しない人事評価制度の作り方。よくある失敗例や運用に必要なポイント
上司との相性、職場の人間関係の問題
“本音” 上司と合わない(48%)、職場の人間関係が合わない(48%)
出典:エン 人事のミカタ
「気軽に相談しにくい」「社内のハラスメントが黙認されている」「同じ職場の人間が働かない、非協力的」など上司や職場の同僚との人間関係が悪いと、ストレスが溜まって労働意欲低下につながります。 このストレスの原因である職場の人間関係の悪化が、離職理由です。
しかし、上司や職場の人間との距離は配置転換によって変えることができます。ですので、本当にそれだけが離職の理由であれば、上司や人事に訴えてみる価値はあります。
にもかかわらず、この”本音”を聞き出せない状態をつくり出しているのは、企業側に問題があります。日頃のコミュニケーション不全問題です。
給与や評価の不満は、そう簡単に変わりません。
一方、人間関係の不満は配置・配属を変えれば変わります(別の問題が発生するかもしれませんが)。人間関係を理由に優秀な人材が辞めてしまうのは、止められたかもしれない離職ですので、非常にもったいない人材流出です。
企業の将来に対する不安
“本音” 会社の将来に不安を感じる(37%)
出典:エン 人事のミカタ
不安とはどことなく感じる恐怖ですので、漠然としています。ですので、具体的に何が不安なのかを明確にすることはできないのですが、企業の先行き不安が離職の理由です。
事業を取り巻く外部環境の変化スピードに不安を感じているのかもしれません。新しい価値を生み出すための企業の力不足に不安を感じているのかもしれません。
教育やフォロー体制がない、人が育たない労働環境に不安を感じているのかもしれません。
いずれにしても、未来永劫絶対安定の企業は存在しません。企業側としても、とにかく変化をする組織であり、人を育てる組織であり、産業の未来を描いている姿勢を伝えることしかできません。 それでも不安があるということで外に出ていくことは、その人の可能性や仕事の領域を広げるきっかけになるので、これは止めることはできない前向きな離職です。
新卒特有の離職理由
新卒入社の労働者に限定してみると、どのような理由で離職を決めているのでしょうか。
主なものとしては、以下のような離職理由が挙げられます。
- 仕事内容が合わない
- 人間関係が悪い
- 勤務時間・休日への不満
その他にも、収入面、ハラスメント、将来に不安を感じたなどがあります。「仕事内容があわない」以外は、先に挙げました離職理由と違いはありません。
参照:「とりあえず3年」は根拠なし?新卒3年以内で転職した理由ランキング|Biz Hits
離職率をむやみに高めないために
離職率が低いことはいいことですが、デジタル化やグローバル化等の環境変化への対応には、人の出入りは欠かせません。
新卒で採用され、均一的な価値観をもったまま、人の出入りがない集団では、企業としての俊敏性と組織内の多様性に欠けます。
新しい環境に対して新しい戦略を立て、新しい組織能力にフィットした人材を確保するためには、人の出入りが必要になってきます。
離職率を下げることを目的に経営を行った結果、不活性な余剰人員を増やしてしまい、本来の目的である営業活動の活性化や企業の持続可能性とは逆の方向に進んでしまっては、意味がありません。
重要なことは採用活動のPD「C」A
ただし、むやみに離職率を高めてしまう労働環境は改善しなければ、企業として本当に必要な優秀な人材まで流出してしまいます。
無駄に離職者を増やさないためにも、採用にPDCAの考え方を適用して事態の改善を図る必要があります。無駄に離職者を増やしている状況は、チェック(Check)ができていない証拠です。
P(Plan) = 採用計画を立て、
D(Do) = 採用活動をして、
C(Check) = 定着しているか退職したかを把握、それは何故かを点検し、
A(Action) = チェックを踏まえた労働条件、労働環境の改善と次の採用活動に向けた改善を行う
離職者を出してしまうことは、企業にとって失敗かもしれません。
大切なことは、この失敗から学び、気が付くことです。失敗をすることを恐れるよりも、真剣でないことを恐れたほうがいいです。
離職者を出したとしても社内の問題点を真剣に見直していけば、むやみに離職率を高めることはありません。 無駄に離職者を増やさないためにも、働きやすい労働環境をつくっていきましょう。
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