福利厚生施設とは?減少傾向にある福利厚生施設の問題点とメリット

福利厚生施設とは?減少傾向にある福利厚生施設の問題点とメリット

高度経済成長期やバブルの時代には、「ハコモノ」と呼ばれる福利厚生施設を数多くの企業が保有していました。代表的な福利厚生施設は、社宅や保養所、社員食堂やスポーツ施設などです。

バブル崩壊以降、福利厚生施設の数は減少してしまいました。しかし、近年では従業員満足度の向上やワーク・ライフ・バランスなどの考えが浸透しており、あらためて福利厚生施設が注目されつつあります。今回は、その福利厚生施設についての概要や導入するメリット、施設にかかる費用や問題点について解説していきます。

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福利厚生施設とは?

福利厚生施設の概要

福利厚生施設とは、従業員に対する福利厚生のために企業が用意をした施設のことです。そもそも福利厚生とは、給与以外の部分で従業員に報酬、サービスを提供することを指し、そういった役割を果たす施設は福利厚生施設と定義されます。企業が管理・運営している施設で、福利厚生施設かどうかを判断するには、この給与以外の報酬、サービス提供の役割を果たしているかが重要なポイントになります。

福利厚生施設が広まった背景

「ハコモノ」の福利厚生施設が一気に広まったのは、1980年代後半のバブル経済からといわれています。バブルの時代には、景気が良くなり資金に余裕のある企業が多く存在していました。資金に余裕が出てきた企業は、労働環境の改善の一環として豪華な社宅や保養施設などを相次いで建設しました。このバブルの時代の企業が行った設備投資などにより、「ハコモノ」の福利厚生施設が爆発的に増加したとされています。

バブル崩壊後は、経済的に厳しい状況に置かれた企業も多く、これまでのような豪華で規模の大きい福利厚生施設を作るという考えは少なくなっています。

持たざる福利厚生への転換

バブル崩壊以降は、施設の管理や維持にコストがかかるため、「ハコモノ」の福利厚生施設を保有しようという企業は減少傾向にあります。しかしながら、福利厚生の充実によって労働環境を改善することは、企業にとって不可欠なことです。現在では、「ハコモノ」の福利厚生施設とは違う形で福利厚生を充実する動きが主流です。

いわゆる「持たざる福利厚生」の充実です。例えば、従業員の自己啓発支援や仕事と家庭の両立支援などです。カタチのあるものを企業が持って福利厚生を充実させるのではなく、従業員自身の財産になるものやワーク・ライフ・バランスを実現する福利厚生を充実させることが、現在のトレンドとなっています。

そのような「持たざる福利厚生」がトレンドの中、あえて企業が「ハコモノ」の福利厚生施設を持って、わかりやすい形で福利厚生を充実させることは、バブルを知らない若者にとっては新鮮かつ魅力的にうつるかもしれません。

福利厚生施設、導入の割合

日本企業の福利厚生施設、導入割合

10年以上前の古いデータではありますが、2007年に厚生労働省が発表をしている福利厚生制度の種類別企業数割合を見てみます。この調査データによると、福利厚生施設に関連した制度は、以下のような割合で整備されています。

  • 「社員食堂」38.0% ※食事手当含む
  • 「社宅・独身寮」35.0%
  • 「余暇施設(運動施設、保養所)」28.6%
  • 「託児施設」0.6%

この調査は、2007年に日本全国から一定の方法で抽出した約5,300企業が対象になっており(有効回答数4,178)一概にこの割合が正しいとはいえませんが、ひとつの指標にはなるでしょう。

一番割合が多い施設は「社員食堂」の38.0%ですが、ここには食事手当も含まれているので社員食堂がある企業が38.0%というわけではありません。

福利厚生施設の中でも次に整備されているのが、「社宅・独身寮」です。企業規模(従業員数)が多くなればなるほど、割合が高くなっています。1,000人以上の企業規模になると82.0%の企業に「社宅・独身寮」があります。従業員を多くかかえる企業にとって「社宅・独身寮」は、利用する従業員も多くなかなか手放せない福利厚生施設といえます。

「社宅・独身寮」は、就職や転職で入社してくる従業員の受入口になります。通勤圏内に住んでいる人であれば引っ越しをする必要はありませんが、仕事のために遠方からきた人はそうはいきません。オフィス近くの賃貸物件を借りるにしても、慣れない土地での物件探しは困難ですし、敷金や礼金などがかなりの負担になります。そういった場合に企業が社宅や独身寮を持っていると、物件を探す手間は省け、初期費用から家賃までを比較的安くおさめることができるので、住居の問題を一時的に解決できます。

毎年全国各地、あるいは海外から多くの人材を採用している企業は、特に手放せない福利厚生施設といってもよいでしょう。

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福利厚生施設を導入するメリット

福利厚生施設を導入するメリット

「ハコモノ」の福利厚生施設を導入するメリットは、従業員満足度の向上につながることです。

福利厚生施設は、主に従業員の日々の健康で安定した生活を助け、ストレス解消や体の疲れを癒してもらうことを目的に作られます。目的に合った福利厚生施設を従業員が利用することで、業務の効率がアップしたり、コミュニケーションの活性化といった効果が期待できます。

社宅・独身寮や社員食堂といった、従業員の経済的支援になるような施設もあります。社宅・独身寮であれば、通常の賃貸物件と比較すると安い賃料で住むことができ、社員食堂では外食と比較するとリーズナブルな価格で食事をすることができます。

こうした従業員の日々の健康で安定した生活をサポートする福利厚生施設は、従業員の満足度を高めることにつながります。

福利厚生施設に該当する施設の例

福利厚生施設。例えばテニスコートやフットサル場などのスポーツ施設

代表的な福利厚生施設の例としては、社員食堂や保養施設、社宅や独身寮といった住宅関連の施設などです。

その他にも、

  • 仮眠室
  • 休憩室
  • 診療施設

といった社内にある施設も福利厚生施設といえるでしょう。

ただしこれらの施設は、業務の関係で利用される場合には福利厚生施設としてみなされません。業務に係る施設として取り扱われます。例えば業務時間が長く、仮眠をとることが1日の業務の中に組み込まれている場合、仮眠室は業務に係る施設になります。

従業員の福利厚生(給与以外での報酬、サービス提供)を主な目的として利用されていれば、福利厚生施設と認められます。

ですので、

  • 社内マッサージなどのリラクゼーション施設
  • テニスコートやフットサル場などのスポーツ施設
  • 社内託児施設

なども福利厚生施設に該当します。

福利厚生は誰にでも利用できるという要件を満たす必要があり、社内託児施設はその要件を満たしていないと思われがちです。例えば、社内に子持ちの女性従業員が1人しかいない場合は、その女性従業員しか社内託児施設を利用できないことになります。

しかし、仕事と子育ての両立支援をする福利厚生制度として、全従業員が分け隔てなく利用することができる前提であれば、現状では1人の従業員しか利用できなかったとしても福利厚生施設として認められるようです。

企業側の負担や問題点

福利厚生施設の問題点

「ハコモノ」の福利厚生施設は従業員やその家族の健康で安定したよりよい生活に貢献し、労働環境を改善できます。ただ、企業側にとっては負担や問題点があります。

まず施設を維持するためには、ある程度のコストがかかることです。社員食堂や社内の売店などは、定期的に材料や商品を仕入れる必要があり、特に食べ物などの期限があるものは必ずロス(廃棄)が出てきます。また社宅や独身寮などの住宅関連施設、保養施設やリラクゼーション施設なども管理や維持で固定費・人件費がかかります。

全ての福利厚生施設にいえることですが、誰も利用しないと固定費ばかりがかさみ、福利厚生施設を保有していることが経営にとってマイナスになります。そうならないために利用を促進するとなると、そのために人員を割くことになるので、さらにコストがかかります。

利用者数が少ない場合は施設の閉鎖の可能性もある

「ハコモノ」の福利厚生施設の維持や管理をするためには、必ず固定費・人件費がかかってくるものです。利用されない施設は、抱えていても企業の負担になるだけですので、いずれは閉鎖する可能性があります。

福利厚生施設を閉鎖しないためには、利用者が少ない原因を調査し改善を施す必要があります。具体的には、

  • 従業員のニーズを探る
  • 社内説明会などで従業員に周知する
  • 目的に応じて施設の改装をする

などです。

福利厚生施設の需要は、時代や従業員の層によって変わってきます。導入直後には頻繁に利用されていても、時代とともに従業員のニーズが変化し、利用されなくなることもあります。継続的に利用され続けるためには、従業員が求めていることに素早く対応するアンテナが必要になるでしょう。

また、元々の利用者数が少ない場合は、施設は求められていなかった可能性があります。バブルの時代に、利用のことや運用のことを考慮せずに建設した福利厚生施設は、負の遺産です。あまりに負担が大きいのであれば、思い切って売却や閉鎖するのも仕方のないことかもしれません。

福利厚生施設を導入するためのポイント

福利厚生施設を導入するためのポイント

福利厚生施設を導入して継続するには、導入後の運用までしっかりと整備する必要があります。最後に、継続的に従業員に利用してもらえる福利厚生施設のポイントを説明していきます。

導入方法

まず福利厚生施設を導入するにあたって、従業員のニーズを調査します。従業員が何を求めているのか、どのような施設があれば従業員やその家族のためになるのかが分かれば、必要な設備も自ずと見えてくるでしょう。

次に導入する施設の選定です。従業員のニーズに合ったものの中でも、資金や人員を考え導入可能なものを選びます。身の丈に合った福利厚生施設でないと、継続は難しくなります。小規模の施設であれば、既存のスペースを有効利用できる可能性があります。大型の施設であれば、社内に建設できるのか、どこか借りられる物件があるのかなどを検討します。

施設の用途に応じた、人員の確保も忘れないようにしましょう。例えば社員食堂ですと、1回で100食以上または1日で250食以上提供する場合には、栄養士を置かなければならないという規定があります。

施設運営を外部の業者に委託するのであれば簡単ですが、自社で運営人員を揃える場合は、事前に何が必要かを確認しておきましょう。導入前から社内に十分周知して、福利厚生設備の存在をアピールすることも大切です。

運用方法

福利厚生施設を運用しはじめたら、どれくらいの従業員が利用しているか調査をしましょう。利用率が低ければ、最悪の場合は福利厚生施設を閉鎖しなければならない可能性が出てくるからです。

利用率が高ければ、従業員のための福利厚生として貢献していると考えられるので問題はありません。しかし、あまり著しくなければ、利用率を向上するために施設の改善や、時には大掛かりな改修工事も必要になります。また、実際に利用している従業員の声を聞くなどして、施設の評価がどれくらいなのかを知っておくことも重要です。後々の改善にも役に立ちますので、是非とも実践してください。

新しく入社してくる従業員には、必ず周知することも大切です。施設の存在を知らない状態から知っているへ。知っている状態から利用したことがあるへ。利用したことがある状態から満足したへ。満足をするからまた利用する(継続利用)へ。利用される福利厚生施設は、従業員の満足度を高めることにつながります。「ハコモノ」の福利厚生施設は、うまく運用できれば従業員への有効な投資となるでしょう。