
文化・体育・レクリエーション活動で企業が変わる。今注目の福利厚生
企業のおこなう社内イベントや自己啓発活動の支援は、従業員の仕事の質を高める効果が見込めます。最近は企業の文化・体育・レクリエーションにかける費用が増えており、それらの活動を通じて得られる効果が見直されています。
今回は、2019年度福利厚生費調査結果(日本経済団体連合会)をもとに、文化・体育・レクリエーション活動の種類と目的を紹介していきます。
■参考記事;福利厚生とは?人気の種類・導入方法やおすすめの代行サービスを解説!
目次[非表示]
- 1.文化・体育・レクリエーション費用が増加傾向
- 1.1.施設・運営と活動への補助
- 1.2.活動への補助が64%を占める
- 2.文化・体育・レクリエーションへの投資の理由
- 3.文化・体育・レクリエーション費用は非課税にできる
- 3.1.条件その1.全従業員が対象である
- 3.2.条件その2.常識と考えられる費用を逸脱しない
- 3.3.条件その3.現金支給ではない
- 4.社内イベントに参加したくない従業員のためにどうするべきか
- 4.1.参加したくない人には理由がある
- 4.2.事前アンケートを実施
- 4.3.できるだけ早めに告知・準備をはじめる
- 4.4.参加の義務化は逆効果
- 5.まとめ
文化・体育・レクリエーション費用が増加傾向
文化・体育・レクリエーションにかける費用が2,000円台で推移しています。2019年度(2019年4月~2020年3月)は前年度比-55円でしたが、2,069円と2年連続で2,000円台でした。
法定外福利厚生費全体に占める文化・体育・レクリエーションにかける費用の割合は8.4%(2018年度)から8.6%(2019年度)と0.2ポイント上昇しています。
施設・運営と活動への補助
文化・体育・レクリエーションにかける費用は、大きく2つの項目に分けられます。施設・運営と活動への補助の2つです。 施設・運営には、自社の福利厚生施設管理維持費と外部委託契約費が含まれます。具体的には、以下のような費用です。
【施設・運営】
- 保養所などの自社保有施設費
- 体育館、グラウンド、テニスコート、図書館などの施設費用
- スポーツクラブなど各種施設の契約料 など
一方、活動への補助とは具体的に以下のような費用です。
【活動への補助】
- 社内運動会、社内親睦活動の開催費
- 全社総会などの行事の開催費
- 社内サークル、部活動補助
- 各種自己啓発活動補助 など
活動への補助が64%を占める
保養所運営などの費用である施設・運営項目は、前年度比20円減少の743円* でした。
社内イベント活動や自己啓発活動などの補助である活動への補助項目も、前年度比35円減少の1,326円* でしたが、文化・体育・レクリエーションにかける費用のうちの64%を占めています。 *従業員1人1ヶ月あたりの費用
企業が福利厚生施設である保養所や運動施設を所有するのではなく、社内イベント活動や自己啓発活動への投資にシフトしてきているという傾向がみえます。
■参考記事;福利厚生施設とは?減少傾向にある福利厚生施設の問題点とメリット
文化・体育・レクリエーションへの投資の理由
文化・体育・レクリエーションの活動への企業の関心の高さは数字にあらわれていますが、なぜそのような活動へ企業は投資をするのでしょうか。
それは、社内イベント活動や自己啓発活動の支援目的(そこから得られる効果)が現代の経営課題の解決につながっているからです。 それでは、どのような文化・体育・レクリエーション活動があるのか、またその活動の目的をみていきましょう。
文化・体育・レクリエーション活動の具体例
具体的な文化・体育・レクリエーション活動例をあげます。
- 社内運動会
- 社内サークル、部活動
- 社内親睦活動
- 社員旅行
- 合宿研修
- 全社総会
- 周年記念イベント
- ボランティア活動
- 自己啓発活動 など
■参考記事;社員旅行にメリットや効果はあるのか?社員旅行を実施する際のポイント
文化・体育・レクリエーション活動の目的
業務時間内外で、業務から離れた文化・体育・レクリエーション活動をおこなう目的は、主に4つです。期待できる効果とともに説明します。
目的その1.コミュニケーションの補完
日々の業務の中でもコミュニケーションをとることは十分にできます。しかし最近はITツールの発達により、相手のことをよく知ったコミュニケーションがとりづらくなっています。
メールやビジネスチャットで仕事を効率的に進めることができますが、相手の感情や特性、性格的なものはとらえきれません。 また、終身雇用が崩れて転職が当たり前になってくると、人の入れ替わりが多く発生します。人が入れ替われば前任者とは違った人格、スキル、経験値をもった人とコミュニケーションをとることになるので、しばらく戸惑うこともあります。
そのようなコミュニケーションのちょっとした不足を補完する目的で、文化・体育・レクリエーション活動を取り入れます。コミュニケーションの補完により、従業員同士の連携がよくなり、組織の生産性向上が期待できます。 また、コミュニケーションの補完によって人間関係を理由とした離職を低減させることも期待できます。
【具体的な活動】
- 社内運動会
- 社内サークル、部活動
- 社内親睦活動
- 社員旅行
- 合宿研修 など
目的その2.仕事に対するモチベーションの向上
組織で仕事をしていると、自らの業務が最終的にどのような成果となって事業に貢献できているのかが実感しづらくなります。
組織が大きくなればなるほど業務が細分化され、個々人の仕事の「先」がわかりづらくなり、仕事に対するモチベーションを維持することが困難になります。 また最近は世の中の動きがはやく、仕事をする上で新しい知識やスキルが求められます。
まわりの環境がまったく変わってしまい、昨年と同じことをやっていては時代に取り残されていくという状況も珍しくありません。常に学びが求められています。 そのような時代において、仕事に対する意欲を高める目的で、文化・体育・レクリエーション活動を取り入れます。
自己啓発や研修、また視座を高くもつという意味でボランティア活動を通じて、仕事に対するモチベーションを向上させることができます。 意識を高くもって業務に取り組むことができれば、生産性の向上と組織内でのリーダーシップの発揮が期待できます。
【具体的な活動】
- 社員旅行
- 合宿研修
- ボランティア活動
- 自己啓発活動 など
目的その3.他部署との交流
全従業員数10名程度であれば誰でもが従業員の顔と名前が一致し、業務でも全従業員とかかわることがあるかもしれません。
それが従業員数100名、1,000名…ともなると、さすがに全従業員とかかわることはなく、別部署の誰が何をやっているのかをすべて把握することは難しくなります。 同じ企業でありながら、完全に他部署とは縦割りで交流がないことも珍しくありません。
それでも目の前の業務に支障はないかもしれません。しかし、行き過ぎた部署の縦割りは組織のイノベーションを阻害します。
イノベーションにとって、異種の掛け合わせは重要です。最近ではイノベーションを目的とした異業種交流や協業が盛んです。にもかかわらず、同じ企業の中で異部門交流がないのは、機会損失になりかねません。
そのような同じ企業内の他部署交流不足を解消する目的で、文化・体育・レクリエーション活動を取り入れます。他部署との交流によって「そんな技術開発をしていたんだ」「こんな情報をもっていたんだ」「こんな人材がいたんだ」という発見につながり、そこからイノベーションが起こることが期待できます。
【具体的な活動】
- 社内運動会
- 社内サークル、部活動
- 社内親睦活動
- 社員旅行
- 全社総会
- 周年記念イベント など
目的その4.ビジョンや方針の共有
企業には必ず目指す姿であるビジョンや、その時々の方針が存在します。そうしたものは節目で全従業員にむけて発信されますが、従業員個々人に浸透しているかどうかは別です。 従業員は日々の業務の忙しさ、部署の目標達成に追われることでビジョンや方針を忘れます。
また世界情勢や市場の大きな変化から、方針が揺らぐことも考えられます。人材の流動性が高まることで、そもそもビジョンや方針を知らない人が増えることもあります。
つまり常に動いて変化することを前提に考えると、ビジョンや方針を共有して浸透させることは、思っている以上に難しいです。
そのような課題を考慮しつつ、ビジョンや方針を一人でも多くの従業員に共有し浸透させる目的で、文化・体育・レクリエーション活動を取り入れます。全社総会や周年記念イベントは、企業のビジョンや方針を共有する場として最適です。
ベストは従業員一人ひとりが日々の業務の中でビジョンや方針を意識して仕事に向き合うことですが、企業側で場を作ることも有効です。そのような場があることであらためて企業のビジョンや方針を確認し、業務への向き合いが前向きになれば、組織への帰属意識の強化が期待できます。
【具体的な活動】
- 社員旅行
- 全社総会
- 周年記念イベント など
大企業ほど重視する文化・体育・レクリエーション活動への補助
ちなみに企業規模が大きな企業ほど、文化・体育・レクリエーション活動への補助を増やしています。活動への補助は先述のとおり1,326円でしたが、企業規模別でみると5,000名以上の企業は1,513円と企業規模別で最多の投資額です。
中小規模の企業と比べて企業の体力(予算)があるということもあるでしょうが、規模が大きいほど従業員間のコミュニケーションや企業と従業員の一体感が課題であり、投資を増やしているともいえます。
文化・体育・レクリエーション費用は非課税にできる
文化・体育・レクリエーションに支出した費用は、福利厚生費として損金処理することができます。つまり非課税扱いにすることができます。
ただし、文化・体育・レクリエーション費用を福利厚生費として計上するためには、いくつかの条件がありますので注意が必要です。以下3つの条件は最低限満たす必要があります。
条件その1.全従業員が対象である
一部の従業員限定や役員限定にしてしまうと、福利厚生費ではなく「給与支給=課税対象」と判断されてしまいます。
条件その2.常識と考えられる費用を逸脱しない
例えば親睦会として1人あたり5万円もするような高級レストランで会合をおこなうことは、一般的な会合からかけ離れています。
従業員の交流を目的にした福利厚生とはいえ、常識と考えられる世間の平均的な金額を大きく逸脱している場合は、課税対象となる可能性があります。 一概に「○○円まで」という明確な金額指定はありませんが、常識的な範囲内での実施を心掛けていれば概ね問題ないでしょう。
条件その3.現金支給ではない
活動の中で賞金を出す(現金支給がある)場合は、いくらであっても課税対象です。現物支給についても高額なもの(数万円を超えるもの)については課税対象と判断されてしまう可能性があります。
■参考記事;福利厚生費とは?課税・非課税の基準と、節税に役立つ理由も紹介!
社内イベントに参加したくない従業員のためにどうするべきか
企業、従業員の双方に目的や効果のある文化・体育・レクリエーション活動ですが、社内親睦会や社員旅行といった社内イベントに参加したくないと考える従業員も中にはいます。
しかもそうした従業員は、なかなか自分から意見を出してはくれません。
社内イベントに参加したくない従業員をどのようにフォローすべきかの正解はありません。以下のような配慮と丁寧な進行がひとつの対応策です。
参加したくない人には理由がある
社内イベントに参加をしたくない理由で最も多いのが「休日・定時後の労働時間外まで職場の人と顔を合わせたくない」というものです。確かにそれはあります。こうした場合に最も有効なのが、仕事の時間の一部を社内イベントのために割くことです。
可能であれば、休日ではなく業務日に社内イベントを実施するというのがよいでしょう。企業として、生産時間を割いてでも実施する意味のある活動なのだという姿勢を示すことができれば、従業員も割り切って参加できます。
従業員のワーク・ライフ・バランスの実現や残業時間の削減を打ち出しながら、休日や法定時間外の社内イベント参加を強要するようでは、従業員の納得感をえられません。
事前アンケートを実施
社内イベントを企画する際には、事前に社内アンケートを実施してみるとよいでしょう。社内イベントの内容によっては、参加したい従業員が少ない可能性もあります。
参加者が少なければ、本来の目的であるコミュニケーションの補完やビジョン・方針の共有などができません。どのような内容や条件であれば目的を果たすことができる社内イベントになるのかを、アンケート結果から模索していくこともできます。
できるだけ早めに告知・準備をはじめる
社内イベントの日程告知は、遅れれば遅れるほど反感を買いやすくなります。間際になれば既に予定を入れている従業員もおり、参加率が下がるか納得感のない参加者が増えるだけです。
余裕をもった日程設計をおこなうことで、参加への障壁を低くすることができます。一人でも多くの従業員に気持ちよく社内イベントに参加してもらうカギとなります。
参加の義務化は逆効果
絶対に参加させようと考えて、参加を強制することや参加しないと評価に響くなどといった不当な扱いが企業としてまかりとおれば、社内イベントへの参加率は上がるでしょう。 しかし、それでは社内イベントの実施がマイナス効果となり、モチベーションの低下や帰属意識の低下を招きます。自主的に従業員が参加したくなるような内容の充実、日程の調整をするようにしましょう。
まとめ
文化・体育・レクリエーションにかける福利厚生費用が増加傾向にある。 文化・体育・レクリエーションにかける費用は、大きく2つの項目に分けられる。
- 施設・運営
- 活動への補助
施設・運営への投資は減少傾向。一方、活動への補助への投資は増加傾向。 文化・体育・レクリエーション活動をおこなう目的は、主に4つ。
- コミュニケーションの補完
- 仕事に対するモチベーションの向上
- 他部署との交流
- ビジョンや方針の共有
文化・体育・レクリエーション活動によって期待できることは、以下。
- 組織の生産性向上
- 人間関係を理由とした離職の低減
- リーダーシップの発揮
- イノベーションの創出
- 組織への帰属意識の強化
文化・体育・レクリエーションにかける費用を、福利厚生費にできる条件3つ。
- 全従業員が対象
- 常識と考えられる費用を逸脱しない
- 現金支給ではない
文化・体育・レクリエーション活動は、現代の経営課題の解決につながります。しかし、企業側の一方的な強要は、問題を増やすだけです。企業側の自己満足ではなく、従業員にとってプラスになる投資が最終的に企業の生産性向上につながるような設計を心がければ、文化・体育・レクリエーション活動は大きな効果を発揮します。
参照:第64回 福利厚生費調査結果報告|一般社団法人 日本経済団体連合会(PDF資料)