安全配慮義務とは?働きがいをもてる労働環境の整備でやるべきこと
安全配慮義務が十分に果たされている働きやすい職場とは、どのような環境でしょうか。
働き方改革や持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献する動きもあり、労働者の”働きがい”が注目されています。
今回は、安全配慮義務の概要とその必要性、使用者として安全配慮義務を果たすためにとるべき措置を紹介します。
目次[非表示]
- 1.安全配慮義務とは
- 1.1.安全配慮義務の明文化
- 1.2.安全配慮義務違反となる視点
- 1.3.安全配慮義務違反の罰則
- 2.安全配慮義務を果たすための措置
- 2.1.安全衛生管理体制を整える
- 2.2.安全衛生教育を実施する
- 2.3.【危険防止】安全装置を設置する
- 2.4.【健康配慮】健康診断を実施する
- 2.5.【健康配慮】メンタルヘルス対策を実施する
- 2.6.【職場環境配慮】人間関係の改善やハラスメントの撲滅
- 2.7.【過労死防止】労働時間の管理
- 3.海外勤務者に関する安全配慮義務
- 3.1.治安への配慮
- 3.2.海外赴任前の予防接種
- 3.3.健康や安全に関する研修
- 3.4.メンタルサポート
- 4.まとめ
安全配慮義務とは
安全配慮義務とは、従業員が安全で健康に働けるように配慮することです。 近年注目されている働きがいのある職場には、「働きやすさ」と「仕事のやりがい」の両方が備わっています。安全配慮義務は、この「働きやすさ」を実現するための最低限の配慮といえます。
安全配慮義務の明文化
安全配慮義務に関する内容は、労働契約法の第5条に定められています。
<労働契約法 第5条(労働者の安全への配慮) 条文> 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。 ・引用元:労働契約法
安全配慮義務の規定は、陸上自衛隊事件(最高裁小法廷判決昭和50年2月25日)や川義事件(最高裁小法廷判決昭和59年4月10日)の判例をきっかけにして考え方が確立し、明文化されました。
これらの判例は、労働者が職務中に死亡してしまった事件・事故に対するものであり、どのように労働者の安全を守るかを考える契機となりました。
安全配慮義務違反となる視点
使用者が安全配慮義務を怠ったことで労働者に損害が生じてしまった場合、安全配慮義務違反となります。
過去には安全配慮義務違反によって、損害賠償が発生している判例もあります。 安全配慮義務違反となる視点は、以下の2点です。
- 危険な事態や被害の可能性を事前に予見できたかどうか(予見可能性)
- 予見できた損害を回避できたかどうか(結果回避性)
また、「生命、身体等の安全を確保しつつ労働すること」(労働契約法 第5条)というと、工場や建設・工事現場などの危険作業や有害物質に対するものをイメージするかもしれません。
しかし実際は、危険作業や有害物質のことだけではありません。 厚生労働省の条文の文言にある「生命、身体等の安全」には、心(メンタル)の安全や健康も含まれると通達しています。
安全配慮義務違反の罰則
安全配慮義務違反には罰則が存在しません。ただし、安全配慮義務違反の結果として労働者が負傷したり、病気になったりした場合には、民法上の規定により損害賠償請求が発生する場合があります。
前出の陸上自衛隊事件では、陸上自衛隊が公務中に事故で亡くなったことに対する損害賠償責任が、雇用主である国にあると認められています。
安全配慮義務を果たすための措置
労働安全衛生法などの労働安全衛生関係法令では、使用者が安全配慮義務を果たすためにとるべき措置が規定されています。施策例を交えながら紹介します。
安全衛生管理体制を整える
事業場の規模に合わせて、安全衛生管理体制を整える必要があります。 職場で労働者の健康に悪影響が出ないよう、作業環境管理を行う衛生管理者や安全衛生推進者の設置は有効な対策です。 現場での作業管理を行う作業主任者、作業責任者も必要です。健康管理を行う産業医、産業保健指導担当者などの配置の有効性も高まっています。
安全衛生教育を実施する
新たに加わった労働者や配置換えをした労働者には、速やかに安全衛生に関する教育を行わなければなりません。労働者が従事する仕事に関する取り扱い事項を十分に伝達します。 実務の手順だけでなく、危険防止策や万が一事故が発生した際の対処法の教育も必要です。
【危険防止】安全装置を設置する
事故やケガの発生する可能性のある場所には、適切な安全装置を設置して危険を防止しなければなりません。 安全装置はハーネスのような機械的なものだけでなく、熱源に対して一定の距離を確保できるような囲いなど、安全確保に有効なものも含まれています。また、それらの整備や点検も必要です。
【健康配慮】健康診断を実施する
事業者は1年に1回、労働者に健康診断を受けさせる義務があります。深夜業務を含む有害業務に携わる労働者に対しては、配置転換時および半年に1回の健康診断が必要とされています。
■参考記事;健康診断の実施は企業の義務。対象者や検査項目など健康診断の基本を解説!
【健康配慮】メンタルヘルス対策を実施する
過度な労働や職場の人間関係でストレス過剰になる労働者が増えています。これを受け、2015年には心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)の実施が義務化されました。
労働者の心の健康対策は、現代企業の大きな課題のひとつであり、今後もその重要性は増していきます。 労働者のメンタルヘルス不調を予防する取り組みのひとつが、ワーク・ライフ・バランスの実現です。ワーク・ライフ・バランスの実現は、職業生活におけるストレスを軽減し、労働者の生活全体の質を向上させます。
■参考記事;ワーク・ライフ・バランス推進のメリットや必要性を解説
また、より直接的なメンタルヘルス対策の方法として、個々の労働者に対するメンタルヘルス教育や研修の実施、情報提供などがあります。いつでも相談できる社内カウンセラーを設置することも有効です。
■参考記事;メンタルヘルスに有効な取り組みとは?メリットと4つのケアを徹底解説!
【職場環境配慮】人間関係の改善やハラスメントの撲滅
労働者の精神面の安全や健康を考えるとき、職場の人間関係にも配慮する必要があります。 テレワークの普及により、以前と比べてコミュニケーション不足が問題になっている職場もあります。職場での何気ないコミュニケーションの不足が、人間関係にとって悪影響を及ぼすことを考慮する必要があります。
何気ないコミュニケーションから同僚や部下の「いつもとの違い」に気付けたことも、物理的に離れることで気付きにくくなっています。いつでも相談対応できる体制づくりが求められています。 また、職場におけるハラスメント(嫌がらせ、いじめ)や差別は、職場環境を悪化させます。職場でのハラスメントや差別が労働者のメンタルヘルス不調の原因になることもあります。
ハラスメントや差別の言動が、加害者の故意ではないことも多いです。どのようなことがハラスメントや差別にあたるのかを、研修や教育を通じて労働者に認識させることも防止策となります。
ハラスメントを許さないという姿勢を使用者が発信することも大切です。
■参考記事;パワハラとは?パワハラ防止法の施行で知っておきたい定義と行為類型
【過労死防止】労働時間の管理
長時間労働の是正に対して、国の規制が年々厳しくなっています。まずは、労働時間の実態把握が欠かせません。 その上で、使用者として労働者の労働が法定労働時間を超えないような措置や対策を講じていく必要があります。
長時間労働が常態化している職場には、労働時間を「見える化」する、有給休暇の取得を推進する、管理監督者に対するマネジメント研修の実施など、長時間労働をなくしていく対策が必要です。
■参考記事;長時間労働の原因は何なのか?日本人の労働実態と問題点
海外勤務者に関する安全配慮義務
海外に労働者を送り出す際にも、使用者は労働者の安全と健康への配慮を徹底しなければなりません。日本とは異なる生活環境に身を置く労働者のためにとるべき措置は国内のそれとは大きく異なるものもあります。
治安への配慮
テロや暴動が起こる危険性のある地域で働く労働者には、ボディガードをつける、常に安全な車を手配するなどして、労働者に安心して業務に取り組める環境を提供することが理想です。
海外赴任前の予防接種
発展途上国やアフリカ諸国などでは、破傷風や黄熱病などの感染症に対する警戒が欠かせません。 使用者は、労働者に予防接種を受けさせる義務があります。また、医療アシスタンスサービスなどの充実した医療機関を選定するというのも一策です。
健康や安全に関する研修
実際に現地で生活をする労働者に対して、健康や安全に関する研修を行うことも大切です。 治安情報、ウイルス感染の可能性なども含め労働者に認識させておくことが重要になってきます。労働者への意識づけによって、より多くのリスクを回避できます。 生活環境が変わることへの不安、現地生活に入ってからのストレスをできるかぎり軽減するためにも研修・教育を徹底することをおすすめします。
メンタルサポート
生活環境や職場環境の違いに加えて、その上にのしかかる任務遂行のプレッシャーも発生します。海外勤務者でメンタルヘルス不調を訴える人は少なくありません。 赴任前からのサポートは当然ながら、赴任中のサポートも欠かせません。産業医などと連携して、電話、メールなどで相談できるプロセスを構築しておくことが求められます。
▼メンタルヘルスに関する事例については、次の記事をご参考にしてください。
まとめ
働きがいのある職場に必須の「働きやすさ」を実現する安全配慮義務。安全配慮義務の違反の判断は、以下の2点の有無が問われる。
- 危険な事態や被害の可能性を事前に予見できたかどうか(予見可能性)
- 予見できた損害を回避できたかどうか(結果回避性)
安全配慮義務を果たすための措置は、大きく6つ
- 安全衛生管理体制を整える
- 安全衛生教育を実施する
- 労働環境における危険防止
- 健康配慮 心身の健康保持・増進
- 職場環境配慮 人間関係の改善・ハラスメントの撲滅
- 過労死防止 労働時間の管理
海外勤務者に関する安全配慮義務は、国内のそれとは大きく異なる
- 治安への配慮
- 海外赴任前の予防接種
- 健康や安全に関する研修
- メンタルサポート
認知が高まってきている持続可能な開発目標(SDGs)に、SDG8.”働きがいも経済成長も”という開発目標があります。
働きがいがもてる社会の中で、経済成長を実現していこうという目標です。 変化の激しい世の中で、企業はその中長期的な変化を踏まえて、長期的に存続・成長するための戦略を策定・実行していかなければなりません。
労働者の働きがいは、企業の持続的な成長を下支えします。 この働きがいのベースにあるのが、働きやすい労働環境です。仕事にやりがいがあっても働きづらい労働環境では、働きがいがある状態とはいえません。
そして、この働きやすい労働環境を考える上で不可欠なのが、安全配慮義務です。 企業が長期的に存続・成長するためには、環境・社会に配慮した製品開発やダイバーシティの推進、コーポレートガバナンスの強化など多々ありますが、まずは安全配慮義務を今一度確認して、足元の労働環境の改善から考えてみてはどうでしょうか。