日清食品ホールディングスが目指す究極の健康経営。気づきもないうちに “しちゃってた” 予防とは

日清食品ホールディングスが目指す究極の健康経営。気づきもないうちに "しちゃってた" 予防とは

日清食品には、かねてから健康経営のベースとなる「美健賢食」(びけんけんしょく、「美しく健康な体は賢い食生活から」の意)という企業文化が根付いていました。その一方で、健康経営のための具体的な取り組みをはじめた当初はさまざまな困難があったようです。

それをどのようの乗り越えてきたのか、また今後グループ全体が目指す、意識変容すら必要のない未来型健康経営 “しちゃってた予防” とはどのような構想なのか、健康経営推進室室長の三浦康久氏にお話を伺いました。

3年連続でホワイト500に認定
2018年8月、日清食品ホールディングス株式会社は「日清食品グループ健康経営宣言」を策定し、健康経営推進に向けて取り組んできました。その結果、2019年から3年連続で「健康経営優良法人(ホワイト500)」に認定されています。

日清食品ホールディングスの健康経営

日清食品ホールディングスの健康経営

日清食品ホールディングスの企業理念

日清食品の健康経営は今にはじまったものではなく、根っこになる企業文化はずいぶん前からありました。

例えば、日清食品の創業者である安藤百福が残した企業理念のひとつに「美健賢食」があります。1980年ごろに日清食品において制定されたもので、お客様に対してだけでなく、社員も健康になるべきだという考え方にもとづいています。

さらに日清食品では30年以上前から、年に1度、管理職の年俸を査定する際にトップと面談する制度を採用してきました。その際、体重・体脂肪・体年齢などを測定し、「ダイエットしたら、年俸10万円プラス」と体調管理を推進するなど、トップ自ら社員の健康へのコミットメントが根付いていたように思います。

スマートワークの先にみえてきた健康経営

その後、働き方改革、ダイバーシティ、女性活躍への高まりがありスマートワークを実施、実労働時間を抜本的に見直すようにし、在宅勤務やフレックスタイム制を導入してきました。結果、グループ全体として働きやすさが向上し、社員の平均年間労働時間2,000時間を下回ることができました。

スマートワーク実施後、次に目指したのは生産性や働きがいの向上でした。この方向性を模索する中でたどり着いたのが健康経営というコンセプトであり、徐々にそちらに軸足を移してきたというわけです。

日清食品ホールディングスの具体的な取り組み

日清食品ホールディングスの具体的な取り組み

健康経営に軸足を移そうとしたときに、恥ずかしながら自分たちはほとんど健康経営ができていないことに気づかされました。

例えば、2019年時点で社員の健康診断結果は紙ベースで管理していたため、データを分析してPDCAサイクルを回すことができていませんでした。また、対象範囲も本社の社員のみとかなり限られており、工場や研究所、海外拠点などは各拠点での取り組みに任せている状況でした。

つまり、社員の健康情報がデータ化されていない、健康経営の対象範囲が狭いという2つの問題がありました。

健康経営を戦略的に推進するうえで解決したい3課題

2019年は、次の3つの課題に取り組む必要がありました。

    • 課題1.健康経営の社内認知向上(短期)

2019年当時、国内約2,300名の日清食品の社員の中で健康経営について知っているのは一割もいなかったと思われます。それだけ健康経営がごく狭い範囲でしか認知されていなかったため、健康経営とは何かに関して社内認知を得なければなりませんでした。

    • 課題2.明確なKPI(重要業績評価指標)の設定(中期)

当初は健康診断の結果があるから社員の健康情報の定量化は簡単なのでは、と思っていたのですが、「ストレス」「モチベーション」「生産性」などの目に見えないものに関してどのようにKPIを設定して “見える化” するのかは、想像以上に大変でした。

    • 課題3.経営への貢献(中長期)

健康経営というものが社員の健康にどうコミットし、結果的に企業利益の向上にどうつながるのかを経営層にきちんと説明するのに難しさを感じていました。

上記の課題に対して、日清食品ホールディングスがどのような取り組みを実施したのか紹介します。

取り組み1.健康経営の社内認知向上のために実施した取り組み

健康経営プロジェクトのスタート時は、対象を本社から全国に広げるために各支社に出張し、以下のようなことを行いました。

  • 様々なテーマで健康セミナーを実施
  • 毎年の「世界禁煙デー」に合わせてポスターで発信
  • 花粉症撲滅イベント「そろそろムズムズすると思ったら」の開催
  • インフルエンザ予防接種のグループ全体での実施案内
  • 保健指導/特定保健指導の実施範囲の拡大
  • 役員会を立ち会議スタイルを実施
  • プレゼンティーイズム* を測定

* プレゼンティーイズム(presenteeism)とは、何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し、業務遂行能力や生産性が低下している状態(疾病就業)

今、当時を振り返ると、上記のような取り組みたいことの3分の1から4分の1くらいしかできていない状態だったと思います。ただ、取り組みは徐々に広がっていき、2021年春には「健康経営推進室」が立ち上がり、私は健康経営推進室室長に任命されました。

取り組み2.健康診断結果データ活用のための具体的な取り組み

Carely(ケアリー)」(iCAREが提供)というSaaSを健康経営のデータベースとして活用して、健康情報を集約するようにしました。

ようやく過去2~3年の健康診断結果を「Carely」に格納して、メタボやメタボ予備軍がどの部門・年齢層・性別で多いのかを把握し、働きかけるべき対象を特定できるようになりました。

取り組み3.健康経営の対象を広げるための取り組み

健康経営の対象範囲を広げるためのひとつのツールとして導入したのが、リロクラブの「健康セミナー動画」です。特にコロナ禍で拠点ごとに密になるような健康セミナーを実施できなくなりましたので、動画による情報提供が理にかなっていました。

それだけでなく、リーチ力もポイントでした。これまでは本社だけを健康経営の対象にしていたのが、海外支社の社員にも情報を届けられるようになり、健康リテラシーを向上するための機会を平等に提供できるようになったのです。

また、「健康セミナー動画」のメリットとしては領域ごとに情報がまとめられているため、こちらから対象を絞ってテーラーメイドに情報を提供できるのでは、と思っています。社員の健康活動の支援においては全社員に同じものを発信するよりも、困っていそうな社員をターゲットにしたほうが効果的です。

ただ、今のところ思うように実現できていない理由のひとつに、個人情報保護法対応があります。何をするにも相手の同意が必要になるため、社員も企業から支援を受けるのを躊躇してしまうことがあるようです。

現代において個人情報保護法対応は避けて通れない問題なので、近い将来、社員に対してよりフレキシブルな形で同意を得ることも考えています。これがうまく進めば、リロクラブの「健康セミナー動画」がさらに活きてくるのでは、と思っています。

日清食品ホールディングスの健康経営推進に向けた挑戦

日清食品ホールディングスの具体的な取り組み

健康経営がグループ全社に定着するためには、継続的に手を打ち続けなければならないと思っています。具体的には以下のような取り組みを行うことで、健康経営を推し進める挑戦をしています。

健康経営を推進する3つの取り組み

現在、健康経営をさらに推し進めるために、3つの取り組みを行なっています。

    • 社員の健康向上

2020年秋に社員のプレゼンティーズムを部門別・年代別に測定・分析し、相対的にスコアが低いグループを特定したうえで、着実にPDCAサイクルを回す工夫をしました。

また、2020年度健康診断結果にもとづくと在宅勤務者にコロナ太りの傾向が強く表れたため、運動系アプリ「Beatfit」を導入し、運動習慣に関する取り組み施策を実施しました。

さらに「痩せたいのに、口ばかり。揺れる贅肉にBeatfit!」といった挑発的なコピーを通知文書やイントラネットに出し、参加意欲の喚起を図りました。

    • コロナ禍でのストレス予防

村田製作所製「疲労ストレス計MF100」によって自律神経の元気さと自律神経のバランス(副交感・交感神経)を計測し、社員がテレワークうつ状態に陥っていないかを可視化する試みを行いました。

測定した結果、スコアが低めだった社員に対しては自律神経の整え方に関する書籍を配布したり、睡眠の質を向上させる改善プログラムを提供したり、”おしかけオンライン面接” を実施したりしました。

この取り組みは社員にも好評でしたし、メディアにも取り上げられ、広告価値換算で約31百万円の効果が得られました。

    • 健康基軸DXの推進

ヘルスケアテックが急激に拡大しているため、日清食品でもiCARE社の「Carely」やリロクラブの「健康セミナー動画」などのツールを導入しています。さらにコロナ禍も手伝って、これまで難しかった医師とのオンライン面談も一層推進しているところです。

拠点や社員の多さ、職種の違いを乗り越える工夫

現在では、拠点や規模が原因で社員の間に不公平感が生じている印象はありません。確かに施策の濃淡でいえば本社が厚めになるのは否めませんが、リロクラブの「健康セミナー動画」や健康診断に関しては海外拠点も含めてルール化して、一律に施策・利用できるように工夫してきました。

健康経営の推進による成果

健康経営の推進による成果

スマートワーク実施後、目指してきた社員の働きがいがすこしずつですが確実に向上してきていることを感じています。毎年の調査で働きがいのスコア(5点満点)が3.27(2018年)→3.34(2019年)→3.43(2020年度)と変化しているからです。

定着のための努力が実り、たどりついた3年連続「ホワイト500」認定

健康経営に本格的に取り組む前の2018年度「健康経営優良法人」では、推定600位前後だったと思われますが、2019年度には推定250位、2020年度には推定50位前後まで右上がりで順位を上げました。

そして、2019~2021年は3年連続「ホワイト500*」に認定され、今は4年連続の「ホワイト500」を目指して結果待ちの状態です。
*「健康経営優良法人」大規模法人部門の上位法人

社員の間で健康経営が日清食品ホールディングスの文化として根付いてきたと感じていますし、年に1回実施する意識調査で全体の80%超「会社の健康支援サービスに満足している」との回答をしてもらえるようにまでになりました。

日清食品ホールディングスが目指す未来型健康経営 “しちゃってた予防”

日清食品ホールディングスが目指す未来型健康経営しちゃってた予防

今後、日清食品ホールディングスが目指す健康経営には、2つのステージがあると思っています。

最初のステージ:”おせっかいな予防”

ひとつは「健康セミナー動画」も活用し、テーラーメイド型の “おせっかいな予防” を進めていくというステージです。データベースで把握した各社員の健康状態に合わせて、必要なときに必要な情報を効果的に発信し、行動変容のきっかけをつくれればと考えています。

次なるステージ:”しちゃってた予防”

次に目指すべきステージは “しちゃってた予防” です。これは気づかされてからするのではなく、勝手にやっちゃってたという状態をつくりだすもので、行動経済学のナッジ理論を下敷きにしつつ、現在いろいろとプランを練っているところです。

例えば、月曜日の朝に一部の社員に1週間分の社食無料券が当たるようにします。ただ、その恩恵にあずかるためには1週間毎日1万歩以上歩かなければならないという条件付きにします。

そうすると人間には「損失回避」といういったん得たものを失いたくないという行動心理が働くため、自然と運動せざるを得ない状況に進んでいく、というもの等です。

今までの予防は “おせっかいな予防”、つまり自覚を経てから行動を変えてもらう予防施策でした。しかし、”しちゃってた予防” 施策の背後にあるのはどれも “しちゃってた”、つまり意識変容なき行動変容なのです。いきなり行動が変わっていたというのが “しちゃってた予防” のツボです。

日清食品が目指す行動変容すら必要のない世界

日清食品はさらなる高みを見据えています。現在、日清食品では完全栄養食事業を推進しています。これはカップヌードルではなく、とんかつ定食とか、カレーライスなのですが、コンセプトは「好きなものを好きなときに好きなだけ」というものです。

つまり、今までは好きなときに好きなだけ食べていたら間違いなく肥満になってしまうような食べ物も、日清食品がこれまで培ってきた加工技術をフル活用し、カロリー計算や栄養バランス調整を精緻に施すことで、あたかも好きなだけ食べても健康でいられるかのような食の創造を目指します。

これは、行動変容すらいらない世界になるということです。日清食品では2022年度以降、完全栄養食とリンクすることで健康経営の最終目標である経営への貢献につなげていきたいと考えています。

日清食品ホールディングスは健康経営推進で社員のWell-Beingの実現に取り組む

日清食品ホールディングスは健康経営推進で社員のWell-Beingの実現に取り組む

経済産業省によると、健康経営とは「社員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」であり、その目的は「社員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につなげる」ことです。

今や日本では健康経営が花盛りで、大企業であればほぼすべてが「ホワイト500」を目指してさまざまな健康経営活動を行っていると言っても過言ではありません。しかし、企業によってはデータ活用やツールの導入などの方法論に終始してしまっていたり、経営層と社員の意識に乖離がみられたりしているところも少なくありません。

その点、日清食品ホールディングスが目指している “しちゃってた予防” や完全栄養食事業などの活動は、経営への貢献という本来健康経営が目指すべきゴールをはっきり見定めたものでした。

真の健康経営を目指すには、なによりもすべての社員に健康経営が浸透し、一人ひとりの健康リテラシーを向上することが欠かせません。「健康セミナー動画」のような社員の健康活動支援は、社員の心身の健康保持・増進に役立ちます。

健康経営推進の先には社員のWell-Being(ウェルビーイング)* の実現があり、社員のWell-Beingの実現とともに企業利益の向上(業績向上や株価向上)があります。
* Well-Being(ウェルビーイング)とは、個人またはグループが身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること

日清食品ホールディングス健康経営推進室室長三浦氏のお話をお聞きし、「何のための健康経営なのか」という、健康経営の本質を見た気がしました。