
部下をうつ病にした責任とは?上司が知るべき原因と改善策
もし、部下がうつ病などのメンタルの不調に陥った場合、部下の管理をしていた上司にも責任が及ぶのでしょうか。
コンプライアンスの遵守がより重視されるようになり、上司がどこまで責任を負うものなのか気になっている人もいるかもしれません。
この記事では部下がメンタル不調になったとき、どのようなケースなら上司の責任が問われるのかを解説します。
加えて、部下たちのメンタルヘルスを守るためにできる具体的な方法を紹介します。
目次[非表示]
- 1.上司は部下がうつ病になった責任を取らされる?
- 2.うつ病になった部下の上司が問われる法的責任
- 3.上司の責任問題になる可能性がある行動の例
- 3.1.過度なプレッシャーをかける
- 3.2.乱暴なコミュニケーションをとっている
- 3.3.極端なマネジメントスタイルで部下を追い込んでいる
- 4.うつ病の発症を引き起こす可能性がある要因
- 4.1.業務に集中できない職場環境
- 4.2.メンタルヘルスをサポートする体制の欠如
- 5.部下のメンタルヘルスが不調に陥っているときに見られがちなこと
- 5.1.表情の変化
- 5.2.勤怠や服装の乱れ
- 5.3.仕事のパフォーマンスの変化
- 6.部下がメンタル不調かも?と思ったときにできること
- 6.1.人目につかないところで話を聞く
- 6.2.部下と一緒になって解決策を探る
- 6.3.自社で行っているメンタルヘルスサポートを紹介する
- 7.部下がメンタル不調を申し出たときにやめておくべきこと
- 8.部下のうつ病を防ぐために上司ができる具体的なアクション
- 8.1.積極的なコミュニケーションを促進する
- 8.2.チーム全体でメンタルヘルスケアを実施する
- 8.3.ハラスメントへの理解を深める
- 9.上司がうつ病の責任をとるかどうかはケースバイケース
上司は部下がうつ病になった責任を取らされる?
部下がメンタル不調やうつ病を理由に休職を申し出たとき、上司は責任を取ることになるのでしょうか。
結論、上司が責任を取るかどうかはケースバイケースです。
次の様に、いくつかの要素をもとに判断されます。
- 部下のうつ病がどのような原因で起こったのか
- 上司の対応は適切だったのかなど
上司が責任を負う可能性があるケース
部下がうつ病になった要因が上司にある場合、上司が責任を負う可能性は高くなります。
具体的には、次の場合、上司は然るべき対応をしていなかったと判断されます。
- 上司から部下へのハラスメントがあった
- 部下のメンタル不調を知っていながら放置していた
*ハラスメントはパワハラに限りません。
部下が次のハラスメントなどによって精神的な健康が損なわれたと主張する場合も、上司の責任となる可能性があります。
- セクハラ
- モラハラ
- マタハラ(マタニティハラスメント)
- アルハラ(アルコールハラスメント)
►ハラスメントに関しても、理解を深めて、部下をうつ病に追い込むことを防いでいきましょう。
上司が責任を負う可能性が低いケース
反対に、部下のうつ病が上司の行動によるものではない可能性が高い場合、上司が責任を負うことはほぼありません。
うつ病になる原因は複数あり、この原因が部下のプライベートや家庭によるものと判断されたときは上司の責任にはなりません。
また、企業が十分なメンタルヘルス対策を取っていた場合も、上司が責任をとるケースは少なくなります。
♦企業が定期的なメンタルヘルスチェックやカウンセリングをしていて、なおかつ部下がこうした制度を利用できる環境が整っていれば、上司や企業に責任があるとは見なされないためです。
加えて、上司が部下とのコミュニケーションを行い、然るべきサポートができているなら、責任を問われる可能性は低いでしょう。
うつ病の責任の最終的な判断はどのように行われるか
部下のうつ病の責任を上司がとるかとらないか、その判断がどのように行われるかを解説します。
結論、部下が企業や上司に対して訴えを起こしたかどうかで変わってきます。
もし訴えがあった場合、最終的な判断を下すのは裁判所です。
♦裁判では、事実関係が詳細に調査され、それに基づいて客観的に協議が行われます。
部下からの訴えがなかった場合は、社内協議で上司の責任問題が議論されます。
企業内での取り決めや規則に従って進められ、上司の責任問題や再発防止策が検討されます。
うつ病になった部下の上司が問われる法的責任
続いて、上司が問われる可能性がある法的責任について具体的な例を見ていきましょう。
上司が責任を問われる状況には、以下の二つのケースが考えられます。
- 使用者責任
- 安全配慮義務違反
使用者責任
従業員の行為や状況に対して雇用主が責任を負うことを、使用者責任といいます。
上司は管轄組織の代表として部下の行動や健康状態について責任を負います。
上司が部下に過度なストレスやプレッシャーを与えて、うつ病を発症させるようなケースがあった場合、上司は使用者責任を問われることになります。
安全配慮義務違反
安全配慮義務とは、労働契約法第5条に定められている通り、雇用主が労働者の生命や身体の安全を確保し、健康を守るための措置を講じる義務を指します。
上司が部下の長時間労働や過重労働を放置し、それが原因で部下がうつ病を発症した場合、上司や企業はこの安全配慮義務を怠ったと見なされ、責任を問われる可能性があります。
具体的な法的根拠として、労働契約法第5条には以下のように規定されています。
労働契約法第5条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
また、労働基準法や労働安全衛生法にも、労働者の安全と健康を確保するための規定が設けられています。
これらの法律に違反した場合、企業は損害賠償責任を負うリスクがあります。
さらに、過去の判例においても、上司や企業の責任が認められたケースがあります。
例えば、長時間労働や過重な業務負荷が原因で従業員がうつ病を発症し、自殺に至った事案では、企業の安全配慮義務違反が認められ、多額の損害賠償が命じられた例があります。
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これらの法的規定や判例を踏まえ、上司や企業は部下の労働環境や健康状態に十分な配慮を行い、適切な労務管理を実施することが求められます。
上司の責任問題になる可能性がある行動の例
ここまで、部下がうつ病になった原因によっては上司が責任を負うこともある点を解説しました。
ここではより深掘りして、上司の責任問題になる可能性がある行動の例を紹介します。
過度なプレッシャーをかける
部下に対して過度なプレッシャーをかけることは、彼らのメンタルヘルスに大きな影響を与えます。
部下が心地よく働ける環境を整え、彼らの健康を守ることは上司として重要な役割の1つです。
過度なプレッシャーは部下のストレスを増大させ、結果としてうつ病のリスクを高めることがあります。
例えば次のような行動は、過度なプレッシャーをかけて、心身にストレスを与え、疲弊させる要因となります。
- 部下に長時間残業を強要
- 短期間での成果を強く要求
成果を求めるあまりに現実的でない目標設定
度重なる詰めの指摘
これらが、行われると、ストレスはさらに増幅します。
乱暴なコミュニケーションをとっている
乱暴なコミュニケーションは、部下のメンタルに悪影響を及ぼします。
乱暴な言葉遣いや怒号は、部下に対する心理的な負担を増大させ、精神的なダメージを与える可能性があります。
例えば次のようなものは、不適切なコミュニケーションの例です。
- 会議中に部下を大声で叱責
- 日々の会話で侮辱的な言葉を使用したりする行為
たとえ上司が業務の改善を促すつもりで言ったとしても、部下にとっては大きなストレスとなり得ます。
極端なマネジメントスタイルで部下を追い込んでいる
極端なマネジメントスタイルは、部下に精神的負担をかける可能性があります。
極端なマネジメントの一例として、全ての業務に細かく介入し、部下の自主性を完全に奪うようなマイクロマネジメントがあります。
部下が自分で考える機会を奪われ、常に監視されていると感じると、ストレスやプレッシャーが増し、精神的に追い詰められることになります。
そうした状態が続くことで、部下のメンタルヘルスは悪化し、うつ病を発症するリスクが高まるのです。
うつ病の発症を引き起こす可能性がある要因
うつ病の発症にはさまざまな要因が関与しています。
ここまで上司の行動を中心に解説してきましたが、その他の要因にも触れてみましょう。
業務に集中できない職場環境
業務に集中できない職場環境は、部下のストレスを増大させ、うつ病の発症リスクを高める可能性があります。
以下の様なパフォーマンスを妨げる要因が多い場合、部下は集中することができません。
- 職場周辺の騒音がひどい
- 作業場所が狭苦しい
こうした状況で業務を続けると、慢性的なストレスにさらされやすくなります。
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メンタルヘルスをサポートする体制の欠如
メンタルヘルスをサポートする体制が欠如していると、うつ病の発症リスクを高める要因となります。
部下が自分の心理的問題について誰にも相談できず、孤独感を強く抱くようになるためです。
メンタルヘルスケアの仕組みが不足している職場では、従業員が心理的支援を受けられない状況が続き、悩みや不安を独りで抱え込んでしまいがちです。
これは、上司がメンタルヘルスの重要性を理解しておらず、部下に対する適切な配慮を行っていない状況も該当します。
▼メンタルヘルスに有効な取り組みを次の記事に纏めていますので、こちらを参考にして、サポート体制を構築しましょう
部下のメンタルヘルスが不調に陥っているときに見られがちなこと
部下がメンタルヘルスの不調に陥っていると、普段とは異なる様子を見せることがあります。
部下を注意深く観察し、こうした初期のサインに気づくことも上司の役割の1つです。
ここからは部下がメンタル不調を抱えている場合に見られるサインの例を紹介します。
表情の変化
普段の表情に心の状態が反映されているときがあります。
例えば、
-
以前は笑顔で仕事仲間と談笑していた人が、無口になり、視線を合わせることが少なくなったとき
-
常に険しい表情を崩さなかったり、周囲の人に対して攻撃的な態度が増えてきたりしたとき
には、メンタルの不調が疑われるかもしれません。
笑顔が少なくなったり、無表情が増えていたりする場合、メンタルに何らかの負担がかかっている可能性があります。
またも、メンタルの不調が疑われます。
こうしたサインは、自分の身を守るための行動と言われています。
勤怠や服装の乱れ
勤怠や服装の乱れは、メンタルヘルスの不調を示すサインです。
メンタルが不調になると、集中力や自己管理能力が低下し、その結果として遅刻や早退、服装の乱れが生じやすくなります。
例えば、以前は時間通りに出勤していた社員が頻繁に遅刻や早退を繰り返すようになるのはメンタル不調によって普段通りの生活を送るのが難しくなっている兆候かもしれません。
また、以前と比べて職場に来る服装がだらしなく見えるときも、実はメンタルヘルスの問題を抱えている可能性があります。
ポイントは「以前の部下と比べてどうだったか」という点です。健康だったときを思い出しながら比較するようにしましょう。
仕事のパフォーマンスの変化
仕事のパフォーマンスの変化は、部下のメンタルヘルスが不調に陥っているサインの1つとして見逃せません。
メンタル不調は業務の効率や生産性に直接的な影響を与えるため、業務の質や速度が低下することがあります。
具体的な現象としては締め切りの遅れ、提出物のケアレスミスの増加です。
ほかにも以前は問題なくこなしていた仕事のはずが、時間がかかってスムーズにこなせなくなったときも、メンタル不調が起きているかもしれません。
仕事のパフォーマンスに著しい変化が見られたときには、メンタルヘルスの状態を疑うようにしましょう。
▼その他の不調をきたしそうなサインや不調をきたす人の特徴、企業が未然に防ぐための取り組みを次の記事で纏めています。
部下がメンタル不調かも?と思ったときにできること
仕事内容や職場の人間関係が理由で部下がメンタル不調を抱えている場合、部下は上司の助けを求めています。
ここでは、部下がメンタル不調かもしれないと感じたときに上司が取るべき具体的な行動について解説していきます。
人目につかないところで話を聞く
部下がメンタル不調を抱えている可能性があると感じた際には、なるべく人目につかないところで話を聞くようにしましょう。
公の場や他の人がいる前で話をすることは、部下にとってプレッシャーになります。
その結果、部下は言いたいことが言えず、心の内を十分に伝えられなくなるケースも少なくありません。
むしろ、かえってストレスを抱えることにもつながります。
そのため、できるだけ人目を避け、部下が緊張せずに話せる環境を用意しましょう。
また、人目につかない会議室などに部下を呼び出す際は、相談をしたいがために呼んでいることを強調するようにします。
上司からの呼び出しがあると、叱責されるのではないかとプレッシャーに感じる可能性があるからです。
部下と一緒になって解決策を探る
部下の問題解決には、共同作業が不可欠です。
部下と一緒になって解決策を探ることで、一方的に指示するのではなく、共に考えることになります。
これにより、問題解決の効果が上がりやすくなり、部下の自主性も高まるのです。
具体的な方法として、業務の負担を減らすためにタスクを整理し、優先順位をつけて一緒に進めていくことがあります。
こうしたプロセスを通じて部下は自らの役割をより明確に理解し、効率よく仕事を進めることができるようになります。
このような取り組みによって、部下は自分でコントロールできる範囲が増えたことを実感し、メンタルヘルスの改善にも貢献します。
自社で行っているメンタルヘルスサポートを紹介する
メンタルで悩んでいる部下は、自社が用意している具体的なサポートを知らない可能性があります。
状況によってはサポート制度を活用することを促すようにしましょう。
専門のカウンセラーによる面談を受ければ、部下は職場でのストレスや個人的な問題を相談できる機会を得ることができます。
部下に対して必要なサポートをすぐに受けられる環境を提供することは、上司が担う役割の1つです。
部下がメンタル不調を申し出たときにやめておくべきこと
反対に、部下に行わないほうが良いアクションもあります。
例えば、次の4点のアクションは控えましょう。
- 極端な精神論で部下を鼓舞しようとするのはやめましょう。
- 上司「だけ」で解決しようとするのも推奨されません。
-
状況によっては産業医のような専門家に任せたほうが良いケースもあります。
- メンタルヘルスの不調はいくつかの要因が複雑に絡んでいて、対処が難しいものです。
- メンタル不調に対して無関心な対応も避けましょう。
- 部下が自分の状況を話そうとした場合に、話を聞かずに無視をすると、部下の心に深い傷を残す可能性があります。
部下のうつ病を防ぐために上司ができる具体的なアクション
部下のうつ病を防ぐためには、上司による積極的な介入とサポートが不可欠です。
ここでは、上司が実践できる具体的なアクションについて解説します。
積極的なコミュニケーションを促進する
積極的なコミュニケーションは、上司と部下の信頼関係を築くために不可欠です。
信頼関係が確立されている環境では、部下が安心して相談できるため、早期にメンタルヘルスの問題に気づきやすくなります。
例として、定期的に行う1on1ミーティングを紹介します。
1on1ミーティングでは、業務の進捗状況だけでなく、部下の感情やストレスについても尋ねるようにしましょう。
これにより、部下が抱える問題や不安を上司が早い段階で把握でき、適切なサポートを提供することができます。
上司は日常的に積極的にコミュニケーションを取り、部下のメンタルヘルスケアをサポートする役割を果たすようにします。
部下が自身の考えや感情を率直に話せる雰囲気を作ることで、職場全体のメンタルヘルスも向上していくでしょう。
▼コミュニケーション活性化の成功事例については、併せて次の記事もご覧ください。
チーム全体でメンタルヘルスケアを実施する
チーム全体でメンタルヘルスケアを行うことは、職場全体の雰囲気を改善するために重要です。
例えば、メンタルヘルスに関するワークショップを定期的に開催することが挙げられます。
チーム全体でストレス対策を学ぶ機会を設けることで、問題が顕在化する前にチーム全体が自発的に対処できるようになります。
上司は、こうしたチーム全体のメンタルヘルスケアを促進し、積極的に職場環境の改善に努めることが求められます。
職場全体でメンタルヘルスケアを行うことにより、誰もが安心して働ける環境が整います。
職場の健康づくりを目指すことで、チームのパフォーマンス向上や離職率の低下にもつながるでしょう。
▼メンタルヘルスに有効な取り組みは、次の記事でも紹介しています。
ハラスメントへの理解を深める
ハラスメントへの理解を深めることは、部下のメンタルヘルスを守るために重要な要素です。
職場でのハラスメントは、部下にとって強いストレスの源となり、うつ病リスクを高めることがあるためです。
ハラスメントへの理解を深めるには、ハラスメント研修が効果的です。
どのような状況で、どういった行為がハラスメントにあたるのかを理解すれば、ハラスメント発生を未然に防ぎやすくなり、従業員が安心して働ける環境を作ることができます。
ハラスメントは上司と部下の間だけで起こるとは限らず、同僚同士でも発生する可能性があります。
したがってチーム全体で理解を深めることが大事です。
ハラスメントの理解に加えて、自分の職場からハラスメントを排除するための努力を続けることも、上司に課せられた役割です。
部下の健康を守るだけでなく、職場全体の働きやすさを向上させるためにも、上司自らが主体になって動くことを心掛けましょう。
上司がうつ病の責任をとるかどうかはケースバイケース
上司が部下のうつ病に対して責任を取るかどうかは、その発生原因や状況によって異なります。
そのため、すべてのケースで上司が責任を負うというわけではありません。
一方で、部下のメンタル管理は上司が担うべき役割の1つです。
部下のメンタルヘルスに注意を払い、必要なサポートや相談体制を整えるようにしましょう。
部下の異変に気づいた際には迅速に対応し、部下の状態に応じてメンタルヘルスの専門家の協力も仰ぐことが賢明です。
部下が業務や職場環境によってうつ病を発症しないために上司は部下との透明性のあるコミュニケーションを心掛け、心理的安全性の確保に努めることが必要です。
加えて、企業全体でメンタルヘルスのサポート体制を強化し、チーム内でサポートの重要性を浸透させることも欠かせません。
ぜひ、上司が主体となって部下のメンタルヘルス管理に努めてみてください。