女性の離職率は男性より高い!女性が働きにくい環境に潜むリスク
ひと昔前と比べて女性の社会進出は進んでいるものの、日本において女性の離職率は男性より高いという事実があります。
働き方改革を進める政府も女性の活躍を推進していますが、なぜ日本では女性が働き続けることが難しいのでしょうか。
女性が定着しない環境の特徴やリスクを知り、女性が働きやすい労働環境づくりを考えましょう。
目次[非表示]
- 1.女性の離職率が男性より高いのはなぜか
- 1.1.そもそも日本は男女間格差が大きい
- 1.2.男女別の離職率の差
- 1.3.男女の雇用形態の違い
- 1.4.結婚、出産・育児を機に離職する女性が多い
- 2.女性の離職率が高い環境には大きなリスクがある
- 2.1.女性の離職率が高くなる環境の特徴
- 2.2.女性の離職率の高さが招くリスク
- 3.女性が働きやすい環境を整えるには
- 3.1.事例1.サイバーエージェント
- 3.2.事例2.味の素
女性の離職率が男性より高いのはなぜか
政府が推進する働き方改革では、「女性活躍推進」が柱のひとつとなっています。これからの日本は少子高齢化が進み、労働力人口は減少の一途をたどります。その対策として女性の労働参加を推し進め、生産性向上につなげる狙いです。
2019年5月には女性活躍推進法等の一部が改正され、2019年6月に公布されました。
そもそも日本は男女間格差が大きい
しかしながら実態として、日本は世界的にみて、男女間の経済的参加度および機会に格差があります。
この格差の存在が、日本における女性の離職率を高めている原因のひとつでもあります。 世界153ヶ国を対象にした「世界ジェンダー・ギャップ報告書 2020」(WEF 世界経済フォーラム)によると、日本の経済的参加度および機会(Economic participation and opportunity)は115位で、男女間の差が大きいという結果が出ています。
そのうち労働力参加(Labour force participation rate)は79位、高官や管理職に占める女性比率(Legislators,senior officials and managers)は131位といずれも低い(つまり男女間格差が大きい)です。まずこの日本における男女間格差をなくさないかぎり、女性の労働参加や活躍は難しいです。
参照:Gender Gap Report 2020|World Economic ForumGlobal (PDF資料)
男女別の離職率の差
厚生労働省の調査によると、2018年の離職率は全体で14.6%でした。これを男女別に見ると、男性は12.5%、女性は17.1%と差があります。
年代別でみると、特に20代後半から40代にかけては女性の離職率が高くなり、男女間で差が開く傾向があります。
これは、20代後半から30代にかけて女性が結婚、出産・育児を理由に仕事から離れることが大きな原因と考えられます。
▼日本企業の離職率の平均については、次の記事をご参考にしてください。
男女の雇用形態の違い
男性より女性の離職率が高い要因としては、雇用形態の違いがあげられます。 女性は非正規雇用の割合が高く、女性の入職者全体に占めるパートタイム労働者の割合は年代とともに上昇します。
具体的には、25〜29歳は34.4%ですが、30〜34歳になると48.6%、35〜39歳には58.1%と、年齢が上がると非正規の雇用契約を選択する女性が増えていきます。一方で、男性の非正規雇用の割合は、50代前半までは年代が上がっても15%前後で推移しています。
非正規雇用は一時的な人的リソース不足を補うために雇われるケースも多いため、短期離職につながりやすい傾向があります。
参照:入職者に占めるパートタイム労働者の割合|厚生労働省(PDF資料)
結婚、出産・育児を機に離職する女性が多い
それでは、なぜ女性の離職率が高く、非正規の雇用契約を選択する傾向にあるのか。女性が離職や非正規雇用を選択する背景には、結婚、出産・育児などのライフイベントが多少なりとも影響してきます。
元々、正規雇用で勤めていたとしても、ライフイベントによる生活の変化によってフルタイムの正規雇用従業員として仕事を続けることが難しくなり、離職をしたり雇用形態を変えるケースは多いです。 内閣府男女共同参画局の資料によると、出産前有職者率72.2%のうち第1子の出産を機に離職する女性は約半数に上ります。
その理由としては、仕事と子育ての両立が難しいことや、職場のサポート体制が不十分なことなどが上位にきています。
参照:「第1子出産前後の女性の継続就業率」及び出産・育児と女性の就業状況について(平成30年11月)|内閣府男女共同参画局(PDF資料)
女性の離職率が高い環境には大きなリスクがある
女性の離職者が多いと、企業の成長に悪影響を及ぼす可能性があります。女性の離職率が高くなる環境の特徴と懸念されるリスクをみていきましょう。
女性の離職率が高くなる環境の特徴
女性の離職率が高い環境の共通点として、主に4つの共通特徴があげられます。
残業が多く有給休暇がとりにくい環境
定常的に残業が多く、有給休暇が取得しにくい環境は女性の離職を招きやすいです。最近はワーク・ライフ・バランスを重視する人が増えています。その点は男女問わずですが、女性の場合は結婚、出産・育児によってその傾向がさらに強まります。
労働時間が長いことが当たり前の環境ですと、特に女性は働き続けるのが困難になってしまいます。結果として、結婚、出産・育児を機に仕事を辞めてしまいます。
■参考記事;【総務人事担当者必読】年次有給休暇の付与日数とは?年次有給休暇の基本
産前産後のサポート体制が整っていない環境
女性にとって、産休・育休や時短勤務など、産前産後のサポート体制が整っていない環境も定着しづらいです。妊娠中は体調が不安定になりやすいですし、産後は子供の急な体調不良で仕事を休まざるを得ないことも出てきます。
そのようなとき、サポート体制が整っていない環境ですと休みや働く時間を調整しづらく、周囲の理解も得にくいです。妊娠・出産・育児で肩身の狭い思いをしている人をほかの女性従業員が見ることで、自分も長く勤めるのは難しいと感じてしまい定着はしないでしょう。
■参考記事;育児・介護休業法とは?休業取得がしづらい背景と改善のための法改正
評価制度が不明瞭な環境
女性の離職者が多い企業のなかには、評価制度があいまいで、女性が正当に評価されにくい場合があります。同じかそれ以上に成果を上げているにもかかわらず、男性のほうが早く昇進する、結婚した途端に異動させられた、といった納得できない待遇格差は女性のモチベーションを低下させます。
「世界ジェンダー・ギャップ報告書 2020」によると、日本における男女間格差の中で「高官や管理職に占める女性比率(Legislators,senior officials and managers)」の男女間格差が大きい(153ヶ国中131位)原因のひとつは、このような日本社会の不公平な評価環境にあるのではないでしょうか。これでは優秀な女性は定着しません。
ハラスメントが黙認されている環境
当然のことですが、働く環境でパワハラやセクハラ、マタハラなどのハラスメント行為が黙認されていると、女性の離職者を増やします。
ハラスメントが横行している環境は管理職のモラルが低いことが多く、その影響で職場全体の雰囲気も悪くなりやすいです。 女性は男性にも増してコミュニケーションを大切にする傾向があります。ハラスメントが横行していることで職場の人間関係に問題がある環境では、女性は定着しにくいでしょう。
■参考記事;パワハラとは?パワハラ防止法の施行で知っておきたい定義と行為類型
女性の離職率の高さが招くリスク
女性が働きにくい環境には次のようなリスクがあります。
企業のイメージが悪くなるリスク
一般的に「女性が働きやすい企業=優良企業」というイメージがあります。ですので、女性が活躍していない、あるいは女性の離職率が高い企業は、企業イメージが悪くなる可能性があります。また、女性の離職が多いと(事実かどうかは別として)「コンプライアンス意識が低いのではないか」「人間関係が悪そう」といったマイナスイメージにつながりやすいです。
このようなマイナスイメージがクチコミで広がっていけば、企業に対する悪いイメージはどんどん悪くなる一方です。イメージは生活者の購買行動にも影響をしますので、マイナスイメージが事業活動のマイナスになる可能性もあります。
人材確保がさらに困難になるリスク
悪い企業イメージをもたれてしまうと、採用活動にも悪影響を及ぼします。従業員に占める女性比率が極端に低かったり、求人掲載が頻繁だったりすると、女性は「いわくつきの企業」だと考えて敬遠する可能性があります。
女性が働きづらい環境は、先にあげた共通特徴(長時間労働、休みがとりづらい、従業員サポートが整っていない、評価制度が不明瞭、ハラスメントが黙認)をもつ可能性が高いということです。そのような環境で女性は働こうと考えません。 優秀な女性人材が集まりにくくなれば、企業の成長や競争力を高めることは困難になるでしょう。
女性が働きやすい環境を整えるには
女性が安心して働くことができ、長期的な視点でキャリアを形成するには、企業側のサポートが欠かせません。女性の離職率が高い日本の現状を踏まえると、以下のような対策が選択肢として考えられます。
柔軟な働き方を提供する
- 長時間労働の是正/時短勤務制度の導入
- 有給休暇取得の励行(子の看護休暇など)
- テレワーク、在宅ワークの導入
無理解、ハラスメントを撲滅する
- マネジメント層の研修を実施
従業員支援制度を充実する
- 福利厚生の充実
■参考記事;福利厚生とは?人気の種類・導入方法やおすすめの代行サービスを解説!
一度にすべてを実施することは難しいので、まずは現状の課題を把握するために働き方について社内アンケートやヒアリングを実施するのがおすすめです。意識改革からはじめる必要があれば、マネジメント層を中心に研修を実施し、仕事と家庭の両立について理解を深めてもらいましょう。
■参考記事;意識改革が必要だと感じたら。VUCA時代を生き抜く意識改革のポイント
最後に、実際に女性が働きやすい環境づくりに努力をしている企業の取り組み事例を紹介します。
事例1.サイバーエージェント
インターネット広告事業やAbemaTVなどを手がけるサイバーエージェントでは、「macalon」という独自の女性活躍促進制度を導入しています。 例えば、女性特有の体調不良や不妊治療で通院が必要なときに、月1回取得できる「エフ休(エフ=FemaleのF)」という特別休暇制度があります。 また、認可外保育園の保育料の一部を補助する制度や、育児と仕事を両立している従業員の経験談や最新情報をまとめた社内報「ママ報」など、多彩な取り組みで女性のキャリア形成をサポートしています。
参考:女性活躍促進制度 macalon|サイバーエージェント
事例2.味の素
大手食品メーカー味の素では、育児中の時短勤務や事業所内保育所「アジパンダ®KIDS」の設置など、小さな子供を育てながらキャリアを継続しやすい環境づくりに力を入れています。
また柔軟な働き方ができるように、時間単位の有休制度やテレワーク制度「どこでもオフィス」なども導入済みです。女性活躍だけではなく、ダイバーシティ推進という観点から働き方改革を進めています。 パートナーとともに仕事と家庭のマネジメントについて学ぶ「仕事と家庭の両立支援セミナー」では、家庭というチームでワーク・ライフ・バランスを考える機会となっています。
参考:企業主導型保育事業を活用した事業所内保育所「アジパンダ® KIDS」を開設|味の素グループ サステナビリティデータブック2019(事業活動の基盤)|味の素グループ(PDF資料)
その他、中小企業の取り組みについては下記の事例集を参考にしてください。
参考:厚生労働省:中小企業における女性活躍推進の取組のための好事例集・改善取組事例集(平成30年度)|一般財団法人女性労働協会(PDF資料)
ひと昔前は、女性は結婚を機に仕事を辞める「寿退社」が主流でしたが、現在は結婚や出産を経ても働き続けたいと考える女性が増えています。企業側も、そのような時代の流れや価値観の変化に則して労働環境を整備しないと、企業イメージの悪化や採用力の低下を招いてしまいます。
女性が働きやすい環境づくりを推進すれば、採用の競争力が高まり、優秀な女性人材確保が期待できます。また、社内に「こういう風にキャリアを重ねたい」と思える女性のロールモデルがいれば、若手の女性従業員のモチベーションがアップして、さらに定着しやすくなるはずです。
女性の離職率の高さは経営リスクにつながることを認識し、できる対策からはじめましょう。